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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
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第13話 焦燥

 森へと駆けていく草太を見送り、花奈とリフィアはカブールとミレーラと対峙した。


「ハナ、私が二人を攪乱します。その間に魔法で仕留めてください」

「……わかった」

 リフィアと花奈が小声で作戦を立てる。そんな二人の様子を見て、カブールが「ハッ」と鼻で笑った。


「お前らの企みなんて、お見通しなんだよ。――来い、『炎狼』!」

「『炎狼』!? ハナ、防御を!」

「【サイクロンパレス】!」

 リフィアの咄嗟の指示で、花奈が暴風の壁を全方位に展開する。


 直後、四方八方を数多の獣が襲った。

「な、何これ!?」

 壁にぶつかった獣を見て、花奈は驚きの声を上げた。


 (たてがみ)が赤々と燃え上がる体長一メートルもある巨大な狼だ。暴風の壁に阻まれても、獰猛な牙を剥いて二人に襲い掛かる。


「炎狼……その名の通り炎を操る狼です。素早さもありかなり危険な魔物です」

「魔物を操るってことは、あの人は魔物使いってこと?」

「それで間違い無いでしょう」

 暴風の向こうでこちらに唸る炎狼を見ながら、花奈とリフィアが言葉を交わす。


 だが、悠長に会話を続けられる時間はすぐに無くなった。

「くそっ! 『炎狼』まで現れやがった! オディロン、ユリアーネ、戦闘態勢だ! 訳が分からんが、一先ず状況を打開する!」


 花奈達が出てこないことに気付いた炎狼達が、ダニエルを始め他の冒険者達に目標を変えたのだ。


 炎狼は本来単体で『赤』の冒険者がなんとか討伐出来るレベル。そんな魔物に囲まれては――。


(――全滅は免れない!)

「ハナ、【サイクロンパレス】を解いてください! 上から狙撃します! 貴女は後方に下がって、隙を見て魔法をお願いします!」

「わ、わかった」

 リフィアの指示で、花奈が【エアパレス】を解除した。


 リフィアが素早い動きで近くの木に登っていく。

「仲間のために自分の安全を捨てるか。流石だな……ミレーラ、あの人擬きを相手しろ。やり方は好きにしていい」

「はい、カブール様」

 カブールの指示を聞き、ミレーラが大きく屈伸し……。


「ふっ!」

 大きく跳躍した。

「なっ!?」

 三メートル程の大ジャンプを敢行したミレーラが、矢を構えたリフィアの前に現れる。


「せあぁ!」

 リフィアと同じ枝に着地したミレーラは、そのまま素早い動きで連続の蹴りを放った。

「くっ!」

 大きく後ろに跳び、なんとか攻撃を躱す。


 だが、跳んだ先は――。


「リフィア!」

 降り立つ場所のない上空。身動きの取れない空中に身を投げた形だ。

「――悪手」

 ミレーラがリフィアを追って枝から跳躍する。


「それはどうでしょうか」

 だが、リフィアは冷静だった。


「【風舞脚】!」

「っ!」

 エルフの唯一魔法である【精霊魔法】を唱え、落下していたリフィアの体が止まる。


 そしてそのまま上空に上り、ミレーラの頭上を取った。

「これで身動きは取れませんね! 【烈風弓】!」

 ミレーラの頭上から矢の雨が降り注ぐ。


 回避不能の攻撃。リフィアは獲物を仕留めたことを確信した。

「――ふっ!」

 だが、ミレーラは空中で体をよじり、さらには自分の手足でリフィアの矢を叩き落とした。


「なっ!?」

 ほとんどの矢を躱され、与えられたのは掠り傷のみ。

「一筋縄ではいかない……と言うことですか」

 地面に降り、再びミレーラと向き合ったリフィアは、目の前の獣人の不気味な底知れなさにそう呟いた。


「なるほど、あのエルフも中々やるようだな」

 リフィアとミレーラの攻防を横目に眺めながら、カブールは愉快そうに呟いた。

「……まああの二人は放っておいて、俺は俺の役目を果たすか」

 そうして視線を戻し、目の前の炎狼達と戦っている冒険者達を見遣る。


「【ウィンドランス】!」

 そこには、ダニエル達に囲まれて炎狼達に魔法を放つ花奈の姿があった。

 その表情は気丈で、彼女の可憐さの奥にある確固たる強さを見せつけている。


「くっくっく……良いな。実に良い。お前の力は実に良い……その血なら、黒の巨人もさぞやお喜びになるだろうよ!」

 カブールは口角を釣り上げて、花奈に向かって突進した。


「――【サイクロンウォール】!」

 こちらに向かってくるカブールを視界に捉えた花奈は、暴風の壁を展開し防御態勢を取った。


「【クリスタルランス】」

 それを見たカブールは即座に氷槍の魔法を唱え、【サイクロンウォール】にぶつけた。


 三本の槍は暴風の壁に当たると、粉々に砕け散った。

 だが、同時に花奈の魔法も霧散する。


「そんなっ……!」

 自分の魔法が破られた事がなかった花奈は、驚愕に目を見開く。


「魔法の相性も知らねぇのか! つくづくおかしな奴だな!」

 花奈に肉薄して、カブールはにぃっと笑う。


 そしてそのまま、『ルージェン』を花奈の腹に突き立てた。


 ガギィッ!

 紫紺の短刀と、手盾がぶつかる。

「ハナ、下がって!」

「コニーさん……」

 盾を構えたコニーが、花奈の前に出てカブールの攻撃を受け止めたのだ。


「ちぃっ! 邪魔くせぇ!」

「抵抗を止めて、大人しく捕まれ!」

「うるせぇ! 正義の味方ぶってんじゃねえぞ雑魚冒険者がぁ!!」

 怒号と共に、カブールが手盾に体当たりをかました。


「なにっ!」

 思わぬ攻撃に、コニーがバランスを崩す。

「死ねぇ!」

「【――ライトニングランス】!」

 カブールがコニーに短剣を刺す直前に、カブールの横から雷槍が放たれる。


「ちぃ……くそが、雑魚が張り切るんじゃねぇよ」

 間一髪で【ライトニングランス】を躱したカブールは、後ろに大きく跳んで距離をとった。

 そして、【ライトニングランス】を撃った人物――ケニーを睨み付けて悪態をつく。


「ハナ、彼はの目的は君の様だけど、何か心当たりはあるかい?」

「……以前、あの人の部下と戦ったことがあります。その仕返しかもしれません」

「そうか……」

 花奈の説明を聞いたコニーは、しかし納得することは出来なかった。


(彼のハナへの執着はかなりの物だ。もっと大きな目的があるのではないか……?)

 部下がやられた腹いせに、『アインズ』として今まで築いてきた地位を捨てるのは愚行と言わざるを得ない。

 これほどの大事を起こしてまで花奈を狙う理由がある筈なのだ。


 だが、悠長に考えている時間はあまり無い。

「おい、そろそろこっちも手伝ってくれ! このままじゃ埒が明かねえ!」


 背後から、ダニエルの怒鳴り声が聞こえた。

 ダニエル、オディロン、ユリアーネの三人は背中合わせになりながら炎狼達を相手にしていた。

 長年培ってきた連携でなんとか凌げているが、三人とも疲弊しきった顔を浮かべている。


「今行きます! せぁああああああああ!」

 思考を中断し、コニーはダニエル達に近付く炎狼の一体に向かって盾で体当たりした。

「グギャァ!」

 直撃した炎狼は悲鳴を上げて吹き飛び、地面に転がって動かなくなった。


「ケニー、ハナと一緒に後方からカブールへ牽制を入れてくれ!」

「……うん!」

 ケニーに指示を出し、コニーはダニエル達の前に立ち盾を構えた。


「三人とも、後少しです! 守りは僕に任せてください!」

「おう、頼むぜ!」

 ダニエルの激励を背負って、コニーは炎狼達に向けて盾を構えた。



(ちっ……下級冒険者だと侮っていたが、どいつもこいつもしぶといじゃねえか。俺の操れる全ての『炎狼』をもってしても倒しきることができないとはな)

 奮闘する冒険者達を離れた場所で眺めながら、カブールは内心で舌打ちする。


 自身も戦いに参加したいのだが、花奈ともう一人の冒険者がこちらに注意を向けているため不可能だ。

 奇襲が上手くいっただけに、この膠着状態は歯痒いものだ。


 自分の後方では、エルフとミレーラが互角の戦いを繰り広げている。

 『兎人族』であるミレーラの動きにエルフはついてこれないだろうと思っていたが、精霊魔法を上手く使われているようだ。また、木の多い戦場はエルフの十八番だ。


「あいつにもエルフ狩りをさせておくべきだったか」

 カブールの護衛として、ミレーラには『狩人』としての仕事をさせてこなかった。それがここで裏目に出てしまった。


(後悔していても始まらねえ。メアリが負けることはないだろうから、ソウタの方は心配しないでいい。……なら、こっちをなんとかしないとな)

 思考を巡らせた後、カブールはルージェンを構え、不敵な笑みを浮かべた。


(ルージェンを構えた! そろそろ攻撃に参加するのかな)

 花奈も同時に魔法を撃てる準備をする。目の前の炎狼も、奥のリフィア達も、そしてカブールも、全てに気を配らなければいけない。

 花奈のキャパシティが限界に近くなっていく。


(草太くんがいてくれたら……)

 メアリと共に森の奥へ入っていった草太がいないことに、花奈は顔を顰めた。

 それと同時に、一抹の不安を覚える。


(草太くんは、大丈夫だろうか)

 草太が自分のいない所で戦うのはこれが初めてでは無い。だというのに、この胸騒ぎはなんなのだろう。


(草太くん……)

 胸騒ぎに花奈は顔を曇らせる。

 花奈のその表情の変化を、カブールは見逃さなかった。


(やはりまだ子供。仲間と離れ離れになっただけであんなに不安そうにしやがる。……わかりやすすぎだ!)

 カブールはほくそ笑みながら、ミレーラに視線を飛ばした。

 リフィアと戦っているミレーラと目が合う。


(エルフの女と一緒に、森の奥に行け)

(……了解)

 素早くアイコンタクトを交わし、カブールはミレーラに指示を出した。


「ふっ!」

「ぐぅっ……!」

 カブールの無言の指示に頷いたミレーラは、リフィアの鳩尾に鋭い蹴りを入れた。

 咄嗟に両腕でガードしたリフィアは、呻きながら大きく後退する。

 ミレーラ相手に凌げているが、リフィアの本来の戦いは遠方からの狙撃。慣れない近接戦に戸惑いと焦りが大きくなっていく。


 そこへの強烈な一撃に、リフィアの思考はより保守的な方向に傾いてしまった。考えられる選択肢が減っていき、選び取れる戦法を失っていく。


(視界が開けた場所では、相手に分がある!)

 故に、リフィアは自分が有利に戦える場所を選んだ。側で戦う花奈を忘れ、『自分が勝つこと』へと意識が向いてしまった。


「……っ! こっちです!」

 木の間を縫うように、リフィアが駆け出す。

 追って来れば森の中で攪乱してから狙撃、留まったとしてもこの木の多さなら距離が保てる。

 そう思っての作戦だった。


「……」

 ミレーラが一瞬カブールを見た。追っていいか尋ねるためだろう。

(乗ってこい!)

 リフィアの祈りが通じたのか、カブールは無言で頷いた。


 それを見て、ミレーラがリフィアの方に向かって走り出す。

(――よし!)

 それを確認し、リフィアも木々を伝って森の奥へと潜っていく。


 こうして、リフィアまでもが花奈の視界から消えてしまった。



(リフィア!?)

 花奈が気付いた時には、リフィアの姿はとうに無くなっていた。

 ダニエル達他の冒険者がいるとはいえ、一人になるのはこれが初めてだ。

 ただでさえ、花奈の精神は脆い。魔法で一方的に攻撃できる時は問題ないが、いつかのコロージョンワームの時のように逆境に陥ると途端に崩れてしまう。


 急激な事態の変化についていけず、支えてくれていた草太とリフィアも居なくなってしまった。

 この状況は、花奈にとって最悪だと言える。

(草太くん……リフィア……!)

 迷子の子供の様に、花奈は草太とリフィアの名前を叫んだ。


 そして、花奈の状態をカブールは見逃さなかった。


(そうだ、焦れ。お前らがいつも三人で行動していたのは知っている。いつも隣に居た奴らが急に居なくなるのは不安だろう。焦れ、焦れ、焦れ! 正常な判断を失え! お前を丸裸にしてやるぜ!)


 カブールは醜悪な笑顔を浮かべ、花奈と他の冒険者達を眺めた。


 丁度良いところに、彼等が全ての炎狼達を倒しそうなところだ。

(良い頃合いだ。……ここで、大きなゆさぶりをかける!)



「でぇりゃっ!」

「グラァウ!」

「……っと、おし!」

「なんとか凌ぎきったな。……よくもまあ炎狼の群れ相手に耐えられたものだ」

「ケニーとハナの援護が大きかったのよ。ありがとうね、二人とも」

「はい!」

「はい……」


 ダニエルが最後の炎狼の頭蓋を叩き、波状攻撃をなんとか乗り切った。冒険者達が一様に息を吐く。

 だが、花奈は依然として不安な気持ちを抱いていた。

(二人とも……大丈夫、かな……)

 自分無事であるとはいえ、二人も同様だとは限らない。そんな楽観的になれるほど花奈は図太くない。


 だが、カブールが花奈の弱気な思考に更につけ込んでくる。

「そう言えば、ソウタが相手をしているメアリって女はな、うちの組織の中でもかなりの手練だ。あの女に狙われたら命は無いってよく言われているほどにな」

「――っ」

「それに、ミレーラは近接格闘の達人である『兎人族』の末裔だ。エルフの女には厳しいんじゃねぇか?」

「……うそ……」

「ソウタとエルフは大丈夫かねぇ? 今頃、どっかで野垂れ死にしてるかもよ」


 卑しく底意地の悪い笑みを浮かべる敵の大将。彼の言葉は、花奈の心を打ち砕くのに十分すぎるほどの力を持っていた。


 花奈の脳裏に、森の奥底で血塗れになった草太とリフィアの亡骸が映し出される。

(草太くん……リフィア……!)


「てんめぇいい加減にしろよ。さっきから小細工ばかりしやがって。……そろそろ引導を渡してやるよ!」

 額に青筋を浮かべたダニエルが、自身の鉄槌を握りしめてカブールに近付こうと身を乗り出した。


 だが。

「――ま、待って!」

 ダニエルの背中に、鋭く、そして焦燥に満ちた声が届いた。


「……ハナ?」

「…………だ、ダニエルさん……皆さんにお願いが、あります……草太くんとリフィアの所に……行ってください……二人を……二人を、助けてあげてください……」

 花奈の顔は今にも泣きそうで、宝物を失った子供の様であった。

 花奈の表情にダニエルは一瞬言葉を詰まらせるも、ぶるぶると首を振って声を荒らげる。


「――馬鹿野郎! あいつの言葉を信じるってのか!? ンなもん方便に決まってんだろうが! 戦力を分散させて有利な状況にするための、奴の作戦だ! 惑わされるな! 俺達はまず、あいつを倒すべきなんだ!!」

「――それでもっ!!」

「っ!」


 花奈が泣きそうな顔のまま大声を出す。だが、その声には妙な迫力があった。

 ダニエルに賛同気味だった冒険者達も、息を呑んで花奈を注視する。


「……それでも、それでも私は……二人が居なくなったら……独りになったら……」

 体が震える。情けなく、みっともない。けれど、自分の惨めさなどどうでもいい。

 だって――。


「…………怖い」


 大切な――大好きな草太を失うことが、異世界で初めてのリフィアを失うことが、一番怖いから。

 自分が死ぬことよりも、二人が死んで独りで取り残される方がよっぽど怖いのだから。


「お願いします……彼の狙いは私です。私が彼をここで止めます。……だから、ダニエルさん達は二人の所に行ってください……お願いします……!」

 花奈が深々と頭を下げる。彼女のその行動そのダニエル達は戸惑いながらお互いの顔を見合った。


 そして、彼らを眺めながらカブールはにやにやと笑う。

(いいぞ……思い通りに話が進んでいく。俺の計画に狂いは無かった!)


 彼の心は、自画自賛と勝利への確信に満ちていた。


 今回の輸送護衛の詳細とその護衛依頼を草太達に頼む事をペリオスから事前に聞かされた時、カブールは護衛用の冒険者は自分に選ばせて欲しいとペリオスに頼んだ。


 冒険者兼情報屋のピッポを金で雇っていたお陰で、カブールはスードの街の冒険者達について良く知っていた。

 だからこそ、今回のカブールの作戦で最もこちらに都合がよく動いてくれる冒険者を選んだのである。


 それが、ダニエル達とコニー・ケニーの兄妹であった。


(ダニエル達は初心者冒険者によく手助けをし、ギルド職員からの信頼も厚い。コニー達は社交的で冒険者同士のいざこざの仲裁をよく担っている……奴らもまた、『善』の側の人間だ。ハナという弱い存在に対して、味方にならずにはいられない!)


 カブールの未来予想は、やがて現実となった。

 重い溜息をついた後、ダニエルが口を開く。

「……わかった。ハナの言う通りにしよう」

「ダニエル!?」

「オディロンとユリアーネは俺と一緒にソウタの所に、コニーとケニーはリフィアの方に行ってくれ」

「本気なの!? そりゃ、あの二人は心配だけど……」

「ここは、カブールを先に倒すべきだろう!」

 ユリアーネとオディロンが、戸惑いながらも抗議する。


「そんなことはわかってる! でもな……ハナ(こいつ)のこんな状態、見てらんねぇんだよ」

「それは……そうだけど……」

「……僕も、ダニエルさんに賛成します」

 渋るユリアーネの背後から、コニーが口を開いた。


「コニー!? あんたまで……」

「このままではハナは使い物になりません。彼女の不安を取り除くためには、僕達が行くしかないです。それに、あの男……カブールは見た所戦闘能力は高くありません。本調子のハナの魔法なら、一人でも大丈夫でしょう」


 冷静なコニーの言葉に、ユリアーネはもどかしそうに唸った。その後、ガッと花奈の肩を掴む。

「~~~~っ!! ハナ!!」

「は、はい!」

「これが終わったら、色々言いたいことあるんだからね! 負けないでよ! 私達も、絶対に負けないから!」

「――はい!」


 ユリアーネの気迫に、花奈も全力で答えた。

 それを見たユリアーネは満足そうに頷いて、ダニエル達共に草太が向かった方に走って行った。


「ハナ、気を付けてくださいね」

「はい! ケニーさん達も、気を付けて!」

 コニーとケニーも花奈を残してダニエル達とは反対の方角――リフィアの消えて行った方角に向かった。


 そして、花奈は一人になった。


 けれど、今はもう不安を感じていない。

 むしろ、色々と吹っ切れた気分だ。

(大丈夫。皆がいるんだったら大丈夫。草太くんとリフィアは大丈夫。……だったら私は、私にできることをやろう!)


 決意の光を瞳に宿し、花奈は今も余裕の笑みを浮かべるカブールを見据えた。




 そこは、森の奥。開拓されずに放置されてきた森林は、不規則に木々が乱立し、光を殆ど通さず薄暗い。

 そこで対峙するのは、黄金の剣を握る男と、漆黒の大斧を構える女だ。


 草太とメアリである。

「こんな森の奥まで来るなんて、ソウタも大胆ですね」

「……は? お前を皆から引き離すためだ。大胆もクソもあるかよ」

「つれませんねぇ……ですが、それでこそ貴方という人物は魅力的ですね。自分より、他人の幸福を優先してしまう……その不可解な生き方がとても素敵だと思います」

「そんな大袈裟な話じゃない。不器用なだけだ」

 興奮した様に頬を赤らめるメアリに、草太はすげなく言葉を返す。


「そうですか。……私と一緒ですね」

「は?」

「私も不器用ですので、上手く喋れないのですよ。……ですから」


 メアリはそこで言葉を切り、自分の握る大斧を握りなおした。


 途端。


「っ!?」

 草太の体が強張った。

 剣を持つ手が震え、膝が笑う。額に大粒の汗をかき、瞳の焦点が定まらなくなる。


 明確な恐怖と、本能的な危機感。草太の精神が、この二つに支配される。


 それは、余りにも大きな『殺気』であった。

 目の前のメアリから、どす黒く濃密な悦びに満ちた殺意が草太に向けられる。


(……やばい)

 頭の片隅で、本能が警鐘を鳴らす。

(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!!)

 『死』を予感させてしまうほどの圧倒的な殺気。逃げなければ、免れることはできない。

 ――それでも、動けない。

 草太の心は、既に負けていたから。



「ですから――殺し合いでしか、貴方を理解できないのです」


 静かにそう言って。

 ドッ!!

 凄まじい音とともに、メアリが踏み込む。

 次の瞬間、メアリは草太に肉薄していた。



「あああああああああああああああああああああああああ――!!!!」

 恐怖をごまかすように、泣き叫ぶように。

 草太は悲鳴のような叫びを上げた。


 森の奥底で、二つの武器が凄まじい音と共にぶつかり合った。

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