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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第1章 ビギナーズ
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第2話 自称女神

 薄桃色の空が眼前に広がる。やわらかく甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「んっ………ここは……?」

 草太は目を開くと、およそ現実的ではない空の色に思わず呟いた。むくりと体を起こし辺りを見渡すが、どこまで遠くを見てもなにもないし、誰もいない。

 

 ――否、草太のそばに、一人の少女が目を閉じて寝ていた。


「森園さんじゃないか……」

 草太はどこか呆然として呟いた。ここでようやく、先ほどまでの記憶を思い出す。

「そうか、たしか鉄骨がおちてきて……」

 鉄骨の衝撃を思い出し、草太はブルッと体を震わせた。


「てことはつまり、俺は死んだのか……?」

 浮かんできた推測にリアリティを感じられず、草太は「ばかじゃねーの」と独りごちて、再びごろんと寝転がった。


 と、そこで花奈が「うにゅ」と声を漏らした。なんとなく話し相手が欲しくなり、花奈を揺する。

「ん……? あ、れ、くさかべくん……?」


「おはよう森園さん。ごめん、ちょっと起きてくれない?」

 まどろむ花奈に草太が声をかけると、がばっと花奈が跳ね起きた。そのまま凄まじい素早さで、草太から距離をとり、顔を真っ赤にして叫んだ。


「くくくくくく草壁くんっ!? ななななんで!?」

「あ、悪い。いや、俺もよくわかってないんだ、この状況」

 草太の言葉に、花奈はきょろきょろと辺りを見渡した。

 しばらくして、頭が冷えたのかまだ少し赤い頰で草太に尋ねた。


「え、えっと、ここってどこなの?」

「俺もわからん。けど、十中八九俺たちは……」

 草太はそこまで言って、口をつぐんだ。死んだかもしれないということを花奈に告げれば、大きなショックを受けてしまうかもしれない。

 

 しかし花奈は、言い淀む草太にしっかりとした声で、自分に言い聞かせるように呟いた。

「そっか……私達、死んじゃったのか……」

「…………ごめん、森園さん。助けてあげられなくて……」


 苦しそうに謝罪する草太。その姿に花奈は慌てて手を振った。

「そ、そんなことないよ! 草壁くんは私を助けようとしてくれたんだもん、むしろありがとうだよ! それに、悪いのは工事現場の人たちでしょ? だから、草壁くんは悪くないよ!」

 

 必死に草太を励まそうとする花奈。この人当たりの良さが、彼女の人気の一つなのだろう。

「……ありがとう、森園さん」

 草太がお礼をいうと、花奈ははにかんで髪をいじいじした。

「そ、それでここはどこなのかな? 死んじゃったってことは、天国とか?」

「さあ、それはわからん。でも、もしかしたらだけど……」


 草太が長年のラノベ経験から得られたある推測を口にしようとしたその時。


「ようこそ、死後の世界へ」


 透き通った声が響いた。


「誰だっ!?」

 草太と花奈が辺りを見渡したが誰もいない。そんな二人の間に、突如光の柱が現れた。


 突然の急展開に、花奈が草太に近づく。

「く、草壁くん、あれなに!?」

「わからん!」

 わたわたする二人をよそに、光の柱はだんだんと細くなり、ついに跡形もなく消えた。

 

 そしてそこに立っていた人物に、二人は言葉を失った。


 黒髪のツインテールに猫を思わせる少しつり上がった大きな瞳。

 小柄な体は、肩や腕、腰回りや足元には銀色に輝く鎧を身につけているが、それ以外は白い肌を惜しげもなく見せつけている。


 少女はその美しく整った顔立ちに微笑を浮かべると、透明感のある声で草太と花奈の名を呼んだ。

「クサカベソウタと、モリゾノハナ……であっているかしら?」

 その確認に、二人は無言で頷いた。


 それを見て、少女は……………………、


「本当に、すいませんでしたぁっ!!!!!!」


 それはそれは見事な土下座を披露した。


 唖然とする二人。三人の間を重い沈黙が支配する。


 その沈黙を破ったのは、花奈だった。


「あ、あのー顔を上げてくれませんか? あと、どうして謝ってるのかを説明してくれると助かります」


 少女はばっと顔を上げると、少し気まずそうな表情を浮かべた。

「ごめんなさい、取り乱したわ……。まずは自己紹介をするわね。私の名前はアテナ。オリュンポス十二神の一人にして、知恵、戦い、学芸工芸を司る女神よ」

 しばしの沈黙。


「……ふざけてんの?」

「違うわよ! 本当に私は女神なのよ! あなた達もギリシャ神話は知っているでしょ!? そこに私のことが書いてあったでしょ!?」


 草太のつぶやきに、アテナと名乗った少女が慌てて抗議する。


「いや、ギリシャ神話は知っているしアテナっていう女神も知ってるけど、お前はなんか違うと思う」

「なんですって! クサカベソウタとか言ったかしら? あなた、女神である私の言葉を信じないってどーいうこと!?」

「いやもう自分で女神って言ってる時点でもうただの痛い子にしか見えない」

「このーっ! あんたふざけるんじゃないわよ! 問答無用で信じなさいよ!」


 初対面のはずなのに、いきなりケンカを始める草太とアテナ。その二人を交互にみて、花奈がおろおろする。

「横暴すぎること言ってんじゃねえ! 仮にお前が女神だとして、なんで土下座なんかしてんだよ!」

「そ、そうだったわ。そのことを説明しないといけないわね」


 草太の言葉に、アテナが我にかえる。同時に、申し訳なさそうに人差し指をもにょもにょさせた。

「その、ごめんなさい。あなた達が死んでしまったのは、私のせいなの……」

「「へ?」」

 

 突然の告白に、二人がぽかんと口を開いた。

「今日の昼ごろ、仕事のなかった私は日本に遊びに来ていたの。で、色々買いたいもの買ってから日頃の疲れを取ろうと思って、建設中のビルの上で休憩していたのよ」


「最後のところ以外ただのOLじゃねーか」

「違うの、神様も忙しいのよ! 日頃のデスマーチから来る疲れを癒したかったの! ……こほん、それで、なんとなーく下を眺めていたら、なんかイチャコラキャッキャウフフしてる高校生カップルがいたから、なんとなくイラついてきて……」

「えっと、それってもしかして……?」


 おずおずと確認する花奈に、アテナはピシッと言い放った。

「そう、あなた達よ」

「ちちちちちちちちち違いますよ!? 私と草壁くんはそんなんじゃありませんから!」

「そうそう、ただのクラスメートだよ」

「あら、そうなの? ふ〜ん」


 温度差のある否定の仕方に、アテナは一瞬にやっと笑ったが、すぐに元に戻す。

「で、まあなんとなくむかついちゃって、座ってる鉄柱の一本を殴りつけたら、当たりどころが悪くて……

一気に崩れちゃったのよ」


 一瞬の沈黙が訪れた。

「……なるほど把握。つまり俺と森園さんはお前を殴る権利があるわけだな」


 草太の過激発言に、アテナが慌てて首を振る。

「ごめんなさい! 謝るから殴らないで! そうそうあなたってなんかイケメンよね! ねえ知ってる? イケメンは暴力を振るっちゃダメなのよ?」


「見え透いたお世辞をありがとう。あと、そんな決まりはどこにもない」

 ジリジリと近づく草太の姿に、アテナがひぃっと声を漏らす。


「く、草壁くん、アテナさんも悪気があったわけじゃないんだし……ね?」

 そんな草太を花奈が苦笑を浮かべながらなだめた。

「森園さんはいいのかよ?」

「うん、ほら、アテナさん必死に謝ってくれたから……」

 花奈の慈愛に満ちた笑顔に、アテナが「おお……」と声を漏らす。


「なんと寛大な……素晴らしい方ね」

「い、いえそんなこと……」

 花奈が照れたように俯いた。それを見て草太がため息をつく。


「はあ……まあいいけど……、ところで俺たちは死んだわけだけど、これからどうなるんだ?」

 草太の問いに、アテナが思い出したように手をぽんと叩いた。


「そうだったわ、その説明をしないとね。実は、あなた達をこのまま天に召すわけにはいかないのよ」

「どうしてですか?」

「私のミスであなた達が死んでしまったとバレたら、お父さん達に何されるかわからないから……」


「完全にお前の都合かよ」

 草太の指摘にアテナはうぐっと声を詰まらせた。

「ま、まあそうとも言うわね……。と、とにかく、私が原因であなた達が死んだことが他の神に知られたらまずいのよ!」


「なら普通に生き返らせてくれよ」

「それもできないの。死んだ人をその世界でそのまま生き返らせたら、私がタルタロスにぶち込まれちゃうのよ」

「……………やっぱ一発殴っといた方がいい気がするんだけど」

「まあまあ……」


 イラつく草太を花奈が落ち着かせる。

「でも、そんなあなた達にはいい提案があるの! 多分ソウタなんかは喜んで食いつくような、とっておきの案が!」

「言ってみろよ」

草太が促すと、アテナは自信満々な表情で、高らかに宣言した。


「あなた達には、異世界転生をしてもらうわ!!」





読んでいただき、ありがとうございます!

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