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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
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第7話 そして事態は動き出す

遅くなりました、すみません。

「コロージョンワームが出現した!?」

 スードの街の冒険者ギルドで、受付の驚きの声が上がった。


 へとへとになりながらエステル鉱山から帰還した草太は、今日あったことをギルドの職員に報告していた。

 草太の報告に、受付の男性が冷や汗をかきながら質問する。


「そ、それは本当なのですか……?」

「はい、顔のない巨大なミミズのような蟲……話に聞いたコロージョンワームだと思います」

「で、ですが今の時期コロージョンワームは活動を抑えている筈ですが……だからこそ初心者にもお薦めしていたのです」

「なるほど、コロージョンワームは初心者では相手にできない様な魔物なんですか」


「それはもう……あの魔物がなんと呼ばれているかご存知無いですか?」

「えっと……はい」

「『初心者殺し』ですよ。冒険者になりたての者が出会ったらほとんどの場合殺されます」

「それはまた……」


 職員の説明に、草太は苦笑いを返した。

「あの、コロージョンワームが出現した時、何か変わったことはありませんでしたか?」

「え? えーっと、確かコロージョンワームが現れる直前に、何か強烈に甘い臭いが……」

「っ……! それは……」

 草太の言葉に、ギルド職員が顔を青ざめさせる。


「それは、恐らく『ヒーゲンの香』です。コロージョンワームをおびき寄せる犯罪道具です」

「……つまり、何者かがコロージョンワーム達を差し向けた……ってことですか?」

「はい、その可能性が高いです。……しかし、初心者狩りが起きているという話は聞いたことがありませんね……」


 ギルド職員は眉をひそめて、腕を組んで唸り出した。

「……あー、そう言えば、ピッポって言う冒険者に話は聞きましたか? 俺達はその人に鉱山での依頼をお薦めされたんです」

「……っ!?」


 何かヒントになりそうな事を草太が伝えると、ギルドの職員はサッと顔を青ざめさせた。

「ど、どうしたんですか?」

「……その、ピッポさんに話を聞くことはもう出来ません」

「え? どうしてですか?」

「……『青』の冒険者ピッポは、つい先程遺体で発見されたからです……」

「……は?」


 職員の言葉に、草太は呆然と立ち尽くした。

「……いや、それは無いでしょう。だって昼間に俺達と彼と話をしたんですよ? それなのに……」

「……ですから、その直後に亡くなられたのです。……順を追って説明しますね。」

 ギルドの職員は、そう前置いて話し出した。


「本日の正午に、ギルド近くの裏通りにある酒場が崩壊しました。その瓦礫の下からは二人の遺体が発見されました。一人は店主と思われる人物。首を鋭利な刃物で切られて死んでいました。……そして、二人目が冒険者のピッポです。彼の遺体から彼の『証』が発見されたのでまず間違いないでしょう。こちらは心臓を刃物で一突きでした」


 事務報告の様に淡々と職員が語る内容に、草太は呆然と目を丸くした。

「……犯人は、見つかってないんですか?」

「捜索中ですが、成果は上がっていませんね……『青』の冒険者を殺せる人物ですから、足取りも簡単には掴ませてくれないようです」

「そうですか……」


 ギルド職員との会話を終えて、草太は手頃な場所にある席に座った。

(……『黒の巨人』の連中がやったと見て間違いは無い。俺達を鉱山におびき出して、そこで殺そうとしていたんだ。ピッポはその説得役で、恐らく報酬を受け取る時とかにでも殺られたんだろう)

 テーブルに頬杖をついて、思考を巡らせる。


(……このままこの街に居たら、俺達を狙う奴らによって、関係の無い他の人達が被害に遭うかも知れない。……早めに離れた方がいいな)

 そして、そう結論付けた。


(一番近くにあるのは確か王都か。もう少し資金を稼いでから行きたかったけど、背に腹は代えられない。二人も説明すれば納得してくれると思うし……)


 草太がこれからの方針を立てていると。

「草太くん、お待たせ」

 花奈が向かいの席に座った。


 昨日と同じように、二人には先にお風呂に向かわせていたのだ。

 湯上がりで火照った体が、妙に艶かしい。

「ソウタの報告に、ギルドの職員はなんと?」

 花奈の隣に座ったリフィアが尋ねた。


 草太は職員から聞いたことを伝える。草太の話に、花奈とリフィアは次第に真剣な表情になった。

「いつの間にか、大変なことになっちゃってるんだね……」

「……」

 厳しい顔で二人が俯く。


「ああ。だから、俺達はすぐにでもこの街を出るべきだと思うんだ。このままだと、街の人達に迷惑がかかってしまう」

「……そうですね。私達が原因で無関係の人達が被害に遭うのは、良い気持ちがしません」

 草太の言葉に、リフィアが頷く。


「花奈も、それでいいか?」

「……うん、私もそうするべきだと思う。……でも……」

「どうした? 何か気になることでも有るのか?」

「……えっと……その、ここで私達がこの街を離れたら……『黒の巨人』の人達はまた色んな人達を襲うんじゃないかな」

「っ……そう、だな……」


 花奈の言葉に、草太は歪ませた。

 自分達の事を考えるばかりに忘れていた。

 敵は無差別に人を襲う集団なのだ。このまま放っておけば、結局はまた無関係の人達が襲われてしまう。


「……つまり、俺達があいつらを倒すしかない……」

 草太は苦しそうに呟いた。

 草太自身は良い。一度倒すと誓った相手だ。戦うことに今更怖気付いたりしない。


 だが、この二人はどうだろうか。もしかしたら、本当は戦いたくないのかもしれない。

 今日の戦いで花奈は心に傷を負った筈だ。今は無理をしてこんなことを言っているんじゃないんだろうか。

 草太はそんなことを思った。


 だが、草太の心とは裏腹に、花奈とリフィアが強く頷く。


「……ハナの言う通りです。誰かが彼らを止めなければならない」

「……草太くん、やろう」

 その瞳に恐怖はなく、戦うという強い意志が感じられた。


 彼女達も、とっくのとうに戦う覚悟を決めていたのだ。


「――ああ、そうだな。腐りきったことしやがる奴らを、このまま野放しにしておく訳にはいかない」

 花奈とリフィアの瞳を見て、草太も覚悟を決めた。

 戦う覚悟と、守る覚悟を。




 蝋燭に照らされた薄暗い部屋の中で、二人の男女が向かい合っている。

 『黒の巨人』の構成員であるカブールと、メアリだ。

 カブールはワイングラスを乱雑に手に持ちながら、忌々しそうに舌打ちした。


「……コロージョンワームを使っての抹殺に失敗したか……」

「彼らも存外やり手という事ですわね」

「貴様……悠長に構えているが、これで奴らがこの街から逃げたらどうする! 街中でことを起こしやがって……」

「それなら大丈夫ですわ」

 苛立つカブールに、メアリは不敵に笑った。「どういうことだ」と、カブールが尋ねる。


「彼らが(わたくし)達を野放しにする筈がありません。何故なら、彼らは間違いなく善人だからです」

「……」

「人々を苦しめる活動をする悪人を、放っておけるはずが無いのですよ」

「……お前がそう言うのなら、そうなのだろうな」

 カブールはため息をついて、ワイングラスをテーブルに置いた。


「こちらも打てる手は少なくなってきた。万全の体制で奴らを消してやろう。……ああそう言えば、もうピッポの奴を使うことも出来ないのか……勝手に殺しやがって」

 カブールは憂鬱そうに独りごちて、じろりとメアリを睨んだ。


「あら、貴方にはもう必要の無いものでしょう? 今の任務を終えれば、晴れてこの街から離れることが出来るのですし」

「それはそうだが……」

 カブールはこの街で活動を開始した頃から、ピッポと仕事仲間の様な関係を続けていた。


 カブールが部下達に集めさせた情報をピッポに売り、ピッポには冒険者ギルド内での重要人物のことなどの情報を買っていた。

 それに加え、ピッポには意図的に自分達の組織に関する情報を隠蔽するようにしてもらっていたのだ。


 使い勝手の良い駒を失ってしまったのは痛手だが、メアリの言う通り今の自分には些細なことかも知れない。

(あの剣士達を消せば、ようやくこの田舎からおさらばだ……そして、『聖地』に行くことが出来る……!)


 カブールは自身の地位に不満だった。実力はあるのに、どうして『聖地』から一番遠い大陸で動かなければならないのかと、常日頃から憤っていた。


 だが、それももうすぐで終わる。

 突如現れた強力な能力を持つ彼らが居れば……。


(それに、今ここにはこの女が居る。些か扱い辛いが、その力は強力だ)

「あら? 私の顔に何か付いていますか?」

 ニタニタと笑うカブールに、メアリが蠱惑的に微笑む。


「いいや、何も無いさ。……お前の働きには期待しているぞ」

 目の前にいる組織の幹部(・・・・・)を見て、カブールは卑しく笑うのであった。



「「「ただいまー」」」

「お帰りなさい……随分お疲れのようですね?」

 疲れ切った体で草太達が『やすらぎの宿』に入ると、受け付け台にいたエリザが出迎えた。


「うん、今日は色々とあったからね……」

「そうなのですか、お疲れ様です。夕食はもうすぐで出来ますよ。丁度今日は疲れによく効くと言われる水豚の煮物です。楽しみにしていてください」

「なるほど、それは楽しみですね」

 エリザが心なしか得意気に話す。恐らく、ロゼッタの得意料理なのだろう。


「……? どうしたんですか、私の顔を見て」

「いや、エリザも楽しみにしているみたいだから、よっぽど美味しいんだろうなぁって」

「…………はい、私も今日の夕飯は楽しみです」

 エリザが少し照れたように顔を赤くし、耳をちょこんと垂れた。



「お帰りなさい。夕飯できたわよ」

「うおお、美味そう……」

 食堂に入った草太達は、目の前に広がる料理の数々に目を輝かせた。


 鍋から豊満な香りを放つ水豚の煮物、新鮮な野菜のサラダ、そしてロゼッタ特製のパン。

 この宿に食べた中でもトップクラスに豪華な食事だ。


「凄いですね……今日は何かの記念日ですか?」

「そうね、今日はお祝いよ。貴方達のね」

「俺達の?」

「ええ。『緑』の冒険者になったのでしょう? しかも一日で! それはとても凄いことよ。だからこうしてお祝いするの」

「あ、ありがとうございます……」

 嬉々として話すロゼッタに、草太は若干戸惑いながらもお礼を言う。


「さあさあ、席につきましょう。お料理が冷めちゃうわ」

 草太達は互いに笑い合い、普段より豪華な食卓に腰を下ろすのであった。



「めちゃくちゃ美味かったな……」

 自室に戻りベッドに寝転がった草太は、感動したように呟いた。

 ジューシーで柔らかい水豚が口の中で儚く蕩けていくのは、至福の一時だった。


「レシピを知りたいな。あんなうまい料理を自分でも作ってみたい」

 善は急げと、草太はベッドから起き上がった。


「ん?」

 と、その拍子に窓の外に広がる裏庭に、人が立っていることに気付いた。

 丁度自分が探そうとしていた人物だったので、草太は裏庭に向かうことにした。


 星々が照らす小さな裏庭に、ロゼッタは一人立っていた。

 その姿は老いていながらも流麗で、まるで夜闇に咲く一輪の白薔薇のようだ。

 思わず見蕩れそうになり、草太は慌てて首を振る。


「ロゼッタさん」

「……あら、ソウタ君。私に何かご用?」

 ロゼッタは手に持っていた花から顔を上げ、声をかけた草太に微笑んだ。


「はい、そうなんです。今日食べた水豚の煮物の調理法が知りたくて……」

「あら、貴方って料理ができるの?」

「はいまあ一応……人並みには……」

「あらあらまあまあ」

 草太が答えると、何故かロゼッタは面白そうに笑った。


「?」

「うふふ、なんでもないわ。……それと、ごめんなさい。あの料理の調理法は教えられないのよ」

「それは、何か重大な理由が……?」

「んー、そうねぇ……『男を絶対に落とす』料理を男の子に教えられないのよねぇ」

「……へ?」

 ロゼッタの答えに、草太はぽかんと目を丸くした。そんな草太の様子に、ロゼッタはまた可笑しそうに笑う。


「まだまだそういうのには疎いのね」

「はぁ、いや、まあ……」

「大丈夫よ。あなたの周りには魅力的な女の子がいるんだもの。いつかきっと、わかる時が来るわ」


 ロゼッタの諭すような口調に、草太は苦笑して首を振る。


「まさか。あの二人は仲間ですよ。それ以上でもそれ以下でもないですから」

「うふふ、そういうことにしておきましょうか」

 悪戯っぽく笑うロゼッタに、草太はこのままではまずいと思い、強引に話を変えることにした


「あ、あの! ロゼッタさんは花とかが好きなんですか?」

 草太の突然の問に、ロゼッタは尚も面白そうにしながら答える。


「ええ。幼い頃から花や木々と触れ合ってきたから……この裏庭の植物もぜーんぶ私が育てているのよ」

 近くにあった花を愛でるロゼッタに、草太はなんとなく親近感を覚える。


「へぇ……良いですね、俺が昔住んでいた所にも、小さな庭がありました」

「ソウタ君、冒険者なのに料理や花に詳しいのね」

「はい、まあ……」

「……そこはあの人とは違うのね」

「へ?」

 最後の言葉を、草太は聞き取ることが出来なかった。


「なんでもないわ」

 ロゼッタはそう言って楽しそうに笑いながら、触れていた花から手を離した。


「ソウタ君達は明日も依頼を受けに行くの?」

「いえ、明日は街を散策しようかと。考えてみたらまだゆっくりと街を見ていませんでしたし」

(それに、今動いたらまた狙われるだろうし……)

 草太は内心そう思いながら答える。


「そう……そう言えば、最近なんだか物騒になってきたものねぇ……」

 ロゼッタが心配そうに呟き、その時、草太は自分の浅はかさを思い知った。


(馬鹿か俺は! 俺達がここに居たら、ロゼッタさんやエリザに被害が及ぶかもしれない!)

 敵は殆ど確実にこちらの動向を掴んでいる。ならば自分達が泊まっているこの宿が狙われる可能性は極めて高い。


(駄目だ、関係の無い人を巻き添えにするわけにはいかない……明日の朝、この宿を出よう)

「あの……ロゼッタさん」

 心の中でそう結論付け、草太は口を開いた。


 だが。

「ソウタ君。あなたの……いいえ、貴方達の戦いはきっととても辛いものだと思うわ」

「っ!?」

 ――この人は、俺達と『黒の巨人』について知っている……?

 草太が驚いている間に、ロゼッタは話を続ける。


「だから私達を巻き添えにしたくないと言う気持ちもわかるし、有難いのだけれど……戦いで疲れた体を癒すために、宿があるのよ?」

「でも……」

「私達の安全なら気にしなくていいわ。うちは強い傭兵を雇っているのよ。だから大丈夫。貴方は気兼ねなくこの宿を使ってちょうだい?」


 そう言うロゼッタの笑みは、かつて草太が育ての親に向けられたものと同じくらいに優しく、暖かかった。

 だから、思わず引いてしまいそうになる心を必死に踏み留めなければならなかった。


「……大丈夫、ですか? 敵はかなり強いんです……」

「ええ。傭兵さんもとても強いから大丈夫よ」

 草太の心配する言葉に、尚もロゼッタは余裕を持って答える。


 その裏には、草太に、草太達に負い目をおわせないと言う明確な意思が感じられた。


「……それじゃあ、今後もしばらくお世話になりますね」

 観念して、草太はそう言って笑った。

「ええ。あなたがここを旅立つ時まで」

 そして、ロゼッタも同じように笑い返すのであった。



「……それはそうと、ロゼッタさんは何者なんですか? なんというか、肝の座り具合が尋常じゃないですよね」

「うふふ、女のヒミツよ」


(敵わないなぁ……)

 不敵に大胆に。ロゼッタの底が見えない立ち振る舞いに、草太は小さくため息をついた。

読んでいただき、ありがとうございます!

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