第2話 冒険者ギルド
説明回……のようなもの
南の大通りから何本も伸びる中ぐらいの通り。その一つの通りは『冒険者通り』と呼ばれている。
理由は明白。ここにはこの街にいる全ての冒険者達が必ず来る場所があるからだ。
それは、そう――
「これが、冒険者ギルド……!」
――冒険者のための仕事斡旋所、『ギルド』である。
人類にとって危険な魔物が蔓延るこの世界で、冒険者という腕っ節が強いフリーランスの職業は重宝される。
草むしりからドラゴン退治まで、街の人々からの冒険者への需要が尽きることはない。
だが、どういう訳か冒険者の大半が一癖も二癖もあるような人達ばかりで、それ故に依頼主と冒険者とで摩擦が起きることが多い。
そんな強力かつ問題児な彼等を抑えるための組織がギルドだ。
冒険者はギルドに仕事を紹介してもらい、ギルドは冒険者の稼ぎの一部を徴収する。
この様な協力関係を築くことで、冒険者達の暴走を防ぐ様にしているのだ。
それ故に、冒険者として生きていくのならばギルドに籍を置くのは必要不可欠なことなのである。
「しかしまあ、大層な外見をしているなあ」
目の前に構える煉瓦造りの建物を見上げ、草太は感心して呟いた。
三階建てほどの高さのギルド舎は、無骨な造りゆえの異様な緊張感と迫力を纏っている。
「『ギルドは冒険者達のいざこざに耐えるために頑丈に作られている』ってロゼッタさんが言ってたけど……」
「これはちょっとした要塞なのでは……」
花奈とリフィアも、建物を見上げながら感心したように呟いた。
異様な雰囲気を放つギルドに、草太は一瞬気圧されそうになった。が、すぐにその気持ちを振り払い、笑う。
「……まあでも、これから身を投じる世界の門みたいな所だ。ここで尻込みしてたら始まらねえよな」
「……そうだね、行こうか!」
「はい!」
草太の言葉に花奈とリフィアも頷き、三人はギルドの中へと入った。
まず三人を出迎えたのは、喧噪であった。
「がはははは! ほら見ろよ! 猛毒を持つ紅頭茸だ!」
「おう、酒のつまみにしてやるか!」
「死んだら骨は拾ってやるよ!」
「ばーか! 俺が茸に殺されるわけねえだろ!」
酒場のような室内で、不穏で乱雑な言葉が飛び交う。
次いで、草太達は室内に充満する臭いに気が付いた。
「うわっ、酒くさ……」
草太が顔をしかめる。確かに、ギルド内はひどい酒の臭いで満ちていた。
酒場のようなではなく、ここは本当に酒場だったのだ。
「これはひどいね……」
「荒くれ者が多い冒険者とは言え、これほどとは……」
花奈とリフィアも顔をしかめる。
と、入り口近くにいた冒険者達が二人に気が付いた。
「おお? おお! なんだあ随分可愛い嬢ちゃんたちだなあ! おい、ちょっとこっちで俺達の相手してくれよ!」
酒気を帯びた赤い顔の冒険者が二人を手招きする。だが、当然というか花奈とリフィアは渋い顔で無視を決め込んだ。
「あ? おい、無視すんなよ。こっち来いよ」
「いえ、結構です。私達はやることがありますので」
「……あぁ?」
毅然とした態度で断る花奈に、冒険者が声を低くする。
「ハナ、相手をする必要はありません。ああいう手合いは相手にするだけ無駄です」
「おい、そっちの女も随分生意気だな。……いいぜ、冒険者ってものを体に教えてやろうか」
いよいよ本格的に怒り出した冒険者達がぞろぞろと立ち上がる。
「やめないか、みっともない」
だが、そんな彼らを芯の通った声が諌めた。
「げっ、アーシェ……」
「『炎者』の……」
「『赤』の冒険者……」
その声を聴いた冒険者達が振り向き、そこに立っている人物を見て一様に顔をしかめた。
白髪に優雅な微笑みを携えた青年だ。しかし、丁寧な立ち振る舞いからは優美さと同時に言い知れない圧力が感じられる。
「これから共に協力しあうことになる仲間に、そのような態度をとるのは、先人の行動として褒められたものではないな」
アーシェと呼ばれた青年は緋色の瞳を細め、冒険者達を見据えた。
「……ちっ! アーシェに免じて、今回は見逃してやらぁ!」
「あーあ、酔いが覚めちまった」
冒険者達は捨てゼリフを吐いて、その場を去っていった。
彼等を見送ったアーシェは、今度は花奈達へと振り返った。
「君達も君達だよ。無益な争いは起こさないようにしたまえ。ここにいる奴等は女の子だからといって容赦しないからね」
そう喋る彼の瞳は、咎める様でもあり、二人を気遣うようでもあった。
「す、すみません……」
「お心遣い、ありがとうございます」
アーシェの態度に、さすがの花奈とリフィアも素直に頭を下げた。
それを見たアーシェは満足そうに頷き。
「……けど、今回は君が一番悪いね」
そして、一層険しい顔で花奈達の後ろに立つ人物――草太を睨みつけた。
花奈とリフィアがお互いに顔を見合わせる。当の草太は無言でアーシェに視線を向けた。
「……」
「君はこの二人の仲間だろう? 男なら女性を守るのが当然じゃないか?」
「……別に、この二人なら大丈夫だろうと思っただけさ」
犯罪者を尋問するかのような口調に、思わず草太もぶっきらぼうに返した。
「それでもだよ。君はそれでも剣士なのかい?」
「なんで初対面の奴にそこまで言われなきゃいけないのか知らないけど――お前の生き方を俺に押し付けるなよ。……今回の事には感謝してる。けど、それでこの話は終わりだ。じゃあな」
そう言い捨てて、草太はアーシェに背を向けた。
「あっ、まってよ草太くん!」
慌てて花奈とリフィアが草太の後を追う。
去って行く三人を眺めながら、アーシェは小さくため息をついたのだった。
「草太くん、どうしたの? らしくないというか、草太くんならもっと口論になると思ったけど」
「花奈は俺をなんだと思ってるんだ……別に、ああいう奴とはどうにも馬が合わないんだよ。――ああいう、女子を絶対守るーマンとはな」
「そうなのですか。紳士的な人だと思いましたが」
「ああ、良い奴だとは思うよ。ただ、なんとなく俺が苦手ってだけだ」
草太は苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「そんな事より、いい加減にギルドの受付に行こうか。変なことで時間を食っちゃったしな」
「うん、そうだね。……でも、どこにあるのかな?」
「……あ、あそこではないですか?」
リフィアが室内の奥の方を指さした。その先には、酒場の喧しさからは一転した静かな受付が見える。どうやら、この建物には酒場とギルドの受付が入っているらしい。
「お、確かにあれっぽいな。よし、さっさと行くか」
草太達はそそくさと受付に向かうのであった。
「こんにちは! 冒険者の仕事斡旋所、『冒険者ギルド』にようこそ! 本日はどのようなご用件ですか?」
受付に着くと、質素な制服に身を包んだ女性が声をかけて来た。はつらつとした元気な人だ。
「えっと、冒険者になりたいんですけど……」
花奈が答えると、受付の女性はうんうんと頷いた。
「なるほど、新人さんですね! では、冒険者とはどういう職業かという説明をしてもよろしいですか?」
「お願いします」
花奈が頷くと女性はごそごそと何かを取り出した。
それは、プラスチックの様に透明な三枚のカードだった。
「こちらが冒険者の身分証明書、『冒険者の証』です。冒険者の方々は簡単に、証と呼んでいますね。この『冒険者の証』は、自分がギルドの元に居るということを証明する、唯一にして絶対の手段です。絶対に無くさないでください」
女性はそう言って、三人に『冒険者の証』を渡した。
「ん? あの、これはなんですか?」
証の左下に描かれた黒点に気付き、草太は受付に尋ねた。
「そちらは、冒険者の位を示すものです。黒が新人、緑から黄色までが初級、赤から青までが中級、そして銀が上級、金が超上級となります」
「なるほど、俺達は冒険者になったばかりだから黒なんですね」
「その通りです」
草太の確認に、受付嬢は頷いた。
(さっきのアーシェとか言う奴は、『赤』の冒険者と呼ばれていたな……ということは、あいつの実力は結構上の方になるってことか)
そんなことを考え、草太はもう一つ質問をした。
「――いま、『金』の冒険者はどれくらいいるんですか?」
草太の問いに受付の女性は一瞬驚きに目を丸くし、すぐに笑顔になった。
「――はい、現在ギルドに登録されている『金』の冒険者は、全世界で十一名となっております」
「……なるほど。ありがとうございます」
草太はお礼を言って、受け付けに背を向けた。
(――十一人。上には上がいる。生き抜くためには、もっと強くなる必要があるな)
その眼は、どこまでもまっすぐで遥か未来を見据えていた。
「あっ、ギルドへの登録料、一人銀貨十枚払ってくださいねー」
――困った顔の受け付けに、引き止められるまでは。
受付で銀貨を三十枚払い、三人はギルドの隅に置かれた木製のテーブルに腰かけた。
「なにはともあれ、これで晴れて冒険者になれたわけだな」
「早速今日から依頼を受ける?」
「うーん……そうだな、簡単そうな物から受けようか。けど、今日は他にもやりたいことがあるんだ」
「やりたいこととは?」
首を傾げるリフィアに、草太は不敵に笑った。
「情報収集だよ」
草太と花奈はこの世界に来てからまだ日が浅い。仲間になったリフィアもずっと森の中で暮らしていたため、世界に関する知識はあまりないようだ。
言ってしまえば、草太達はあまりにも無知なのである。今はまだ何とかなっているが、このままではまともに生活できるかどうかも怪しい。
「そんなわけで、キット大先生にお越しいただきました」
「にゃ! オイラに何でも聞くがいいにゃ!」
草太が隣に座るキットを指すと、小柄なケットシーは得意げに胸を張った。
つい先ほど、ギルドの裏手で草太が召喚してきたのだ。恐らく、この中で一番世界に関して詳しいのはキットだろう。
「んで、これがギルドの職員に借りた地図だな。まずは地理を勉強しよう」
そう言って、草太はテーブルに二枚の長方形の紙を広げた。一つには国名や都市名の書かれた円形に近い大陸。そしてもう一つには三つの巨大な大陸と、広大な海が描かれている。
「これは……?」
「こっちが俺達が今いる『サラス大陸』の地図。そんでこっちがこの世界全体の地図だな」
「なるほど……」
「それじゃあキット先生、俺達が今いるところの詳しい説明とかをお願いします」
草太が地図を差し出すと、キットはドヤ顔で「任されたにゃ!」と答えた。次いで一枚目、サラス大陸の地図上にある南西の大国を指す。
「まずオイラ達が今いるスードの街があるのが、この『フェリア王国』だにゃ。サラス大陸にある三つの国の中で一番大きな国で、軍事力も世界有数の国にゃ」
「へー、今私達が居る国ってそんなに大きな国だったんだね」
キットの説明に、花奈が意外そうに呟いた。
「ハナが意外に思うのは、フェリア王国の南部がまだ開拓が進んでいないからだにゃ。北や西……それに王都に行けばフェリア王国の発展具合を実感出来るにゃ」
「なるほどなあ……で、そのフェリア王国の上にある小さめの国はなんなんだ?」
今度は草太が地図を指さしながらキットに尋ねる。
「それは『ノルデーン王国』だにゃ。フェリア王国とは長い間友好関係を結んでいるにゃ。ここは竜王の住まう国として有名なんだにゃ」
「……竜王?」
「そうにゃ。この世界に存在する最強の生物、竜王。その内の一体がこの国に住んでいるという話だにゃ」
「そ、それって大丈夫なの? 人が襲われたりしないの?」
キットの説明に花奈が慌てて割り込む。つい先日竜の亜種と戦った身としては穏やかな気分ではないだろう。
「問題ないにゃ。長い時を生きて来た竜王は野生の本能を知恵によって抑え込んでいて、基本的に人間を襲わないにゃ。むしろ人々に守り神として崇められているにゃ」
「へえええ……そんなこともあるんだ……」
「世界は広いですね……」
キットの説明に、花奈とリフィアは感心したように呟いた。
「では、最後のこの東にある国はなんと言うのですか?」
「『オスクル王国』だにゃ。このサラス大陸の貿易の窓口で、ここで獲れる魚介類は絶品だにゃ」
「成程、海辺の国か。楽しそうだな」
「海……話に聞くだけで一度も見たことは無かったので、いつか見てみたいものですね」
リフィアが心なしか目を輝かせて言った。
「……サラス大陸にある国については大体把握した。それじゃあ次は別の大陸の話をしてもらっていいか?」
「お安い御用だにゃ」
キットはポンと胸を叩き、もう一枚の地図を手に取った。
隅に『スペルクフ世界地図』と記されたその地図は、主に三つの巨大な大陸と、いくつかの島々が描かれていた。
「……ん?」
と、草太はその地図にある違和感を感じて、キットにそれを尋ねた。
「なあキット。どうしてこの地図は波線で囲まれているんだ?」
そう、草太の言う通り世界地図は直線ではなく波線で囲まれていた。日本の学校で習った地図とは違う形に、草太は違和感を覚えたのだ。
「あ、本当だね。ここから先は未開拓域とかそういう感じなの?」
花奈もそれに気付いて、草太と共に首を傾げた。
だが、キット、それにリフィアの反応は、二人の予想を大きく超えた物だった。
「お二人とも……何を言っているんですか?」
「この線の意味を知らないのかにゃ?」
エルフとケットシーは唖然と、まるで有り得ないというような目で草太と花奈を見ていた。
「え、え? どうしたんだよ?」
「……いえ、お二人はどこか浮世離れしている所があると思っていましたが、ここまでとは思いませんでした……キット」
戸惑う草太を見て、リフィアが放心した様子でキットを見た。
「……まあ、ご主人達は訳ありのようだしにゃ。わかったにゃ、おいらが教えてやるにゃ。……この線の向こうには、何も無いにゃ」
「何も無いって……」
花奈が驚愕に声を震わせた。
「いや、何も無いって言うのは語弊があったにゃ。正確には、『滝』があるにゃ」
「滝……?」
「はい、この世界の最端、東西南北から落ちる巨大な滝。その名を――『果ての瀑布』と言います」
「……待て、ちょっと待ってくれ。情報が多すぎて……」
草太が眉間を抑えて呻いた。世界から流れる巨大な滝、轟音を立てながら水の流れ落ちる様を想像して、そんな荒唐無稽な光景に頭が痛くなってくる。
「それってつまり、この世界は滝の上にあるって言うのか……? だって、そんなはずが……」
「ソウタがどうしてそんなに驚くのかはわかりませんが、これはこの世界の常識ですよ? エルフの私でさえ知っていることです」
「……いや、そうか、そういうものなんだな。……わかった。初めて聞いて驚いただけだ。花奈も大丈夫か?」
「…………え、あ、う、うん、まあ……」
「「?」」
挙動不審になる二人を見て、リフィアとキットは更に首を傾げた。
「じゃ、じゃあ次の質問だけど……この『果ての瀑布』の下はどうなっているんだ?」
「それはわかっていないにゃ。なにせ霧が濃すぎて何も見えないからにゃ」
「じゃあ、滝の向こう……その果ての先も……?」
「なーんにも見えないにゃ」
草太の問いにキットが首を振る。
「……はああああああああああ~~~~~~~~すっげえなあほんとに……」
草太は感動したように、大きく息を吐いた。
世界の創りから根本的に違う。正に異世界だ。草太は改めて自分が今どこに居るのかを実感した。
「……それじゃあ、この世界はどうして落ちないの?」
と、花奈が小さく質問した。
「……私が聞いたおとぎ話だと、この世界の下には神々が住んでいて、彼等の規格外の魔法で世界を支えているという話ですね。もちろん、本当にそうであるかはわかりませんが」
「神々ねえ……」
リフィアの話で、草太は自分達を転生させた例の女神を思い出して苦笑を浮かべた。
「……なるほどな、ありがとう二人とも。知らないことばかりだったから新鮮だった」
「うん……ちょっと、ていうかかなり驚いたけど、知ることが出来て良かった」
「それは良かったです。二人を常識知らずの変人で居させるわけにはいきませんから」
「リフィアの言う通りだにゃ。ご主人達はちょっとやばい人達だにゃ」
「「辛辣だなぁ……」」
ズケズケと言ってくるエルフとケットシーに、二人は同時に肩を縮こまらせた。
「……じゃあ気を取り直して、残り二つの大陸について教えてくれるか、キット?」
「わかったにゃ。それじゃあ、この真ん中の大陸を説明するにゃ」
キットはそう答えて真ん中の大陸を指した。
大きさはサラス大陸よりも若干大きめで、ユーラシア大陸のような幅広の形をしている。
「これは『クリシュ大陸』だにゃ。世界で一番大きい大陸だにゃ」
「なるほどなあ。他には何か特徴はあるのか?」
「そうだにゃぁ……ここは、冒険者の聖地とも言われているにゃ」
「冒険者の聖地?」
キットの言葉に花奈が首を傾げた。
「そうだにゃ。この大陸の中央にある国――『都市国家アンスロコーラ』は世界最大の『迷宮』を持っているんだにゃ」
「ラビリンス? それってもしかして、魔物がうようよいてとんでもないお宝がざっくざっくな場所のことか?」
「酷く欲望に満ちた表現だけど、それだにゃ。経験を積んだ冒険者はこの迷宮に挑戦するんだにゃ。そしてそこで金銀財宝希少鉱石、更には神代武器に至るまでのとんでもないお宝を手に入れようとするのにゃ」
「おお、おお! すっげえ夢の広がる話だな! ロマンがある!」
いかにもファンタジーな単語に、草太は目を輝かせた。
「ろまん……?」
草太がうっかりこぼした単語に、リフィアが訝しげな表情を浮かべた。横では花奈が咎めるように目を細めた。草太もそれに気付き冷や汗を浮かべる。
「あ、いや……」
「ソウタ、ろまんとはなんなのですか?」
無邪気に聞いてくるリフィアに、草太は勘弁してくれと心の中で叫びながら、口を開いた。
「あーっと……心が躍るような、夢と希望が満ちた未来……そんな感じの言葉だよ」
「……なるほど、確かに迷宮には夢と希望が満ちていますね。『ろまん』……いい言葉ですね」
「だろだろ? あー楽しみになってきた」
「勿論迷宮には沢山の危険が潜んでいるけどにゃ」
「わかってるよ!」
笑いあう二人に、キットが横からツッコミを入れた。
「色々な場所があるんだね……そうだ、キット。『マギアラ』っていう国はどこにあるの?」
「『マギアラ』かにゃ? それなら丁度この三つ目の大陸にあるにゃ」
突然の花奈の問いにキットは首を傾げながら、一番東にある大陸を示した。
「この大陸は『ヴィーシュ大陸』。……率直に言って、一番安全じゃない大陸だにゃ」
「安全じゃない? それまたなんで?」
「この大陸はしょっちゅう国同士のいざこざが起きているんだにゃ。国の数が他の大陸より多いってこともあるだろうけど、ちょっと異状にゃ」
中東みたいなものかな、と草太は心の中で呟いた。
「そして、ハナの言う『マギアラ』はその国の中でも特にやばい国だにゃ」
「……魔導兵器、だよね」
花奈の言葉にキットは目を見張り、草太とリフィアは首を傾げた。
「なあ、その魔導兵器ってなんなんだ?」
「……『マギアラ』は世界一の魔法国家なんだにゃ。あの国には強力な魔法使いだけではなく、賢者達の叡智によって造り上げられた魔法道具が大量にあるんにゃ。そしてその技術は戦争のためにもよく使われるにゃ。それが、ハナの言った魔導兵器だにゃ」
「なるほど……でも、なんで花奈はそんなこと知ってるんだ?」
「私と戦ったヨセフが、マギアラで作られた魔導兵っていうのを使ってきて……それで、『黒の巨人』とマギアラは何か関係があるんじゃないかって」
「……確かに、それは聞き捨てならないことだな。『黒の巨人』の本拠地は魔法大国マギアラと見るべきか」
「ですが、それだと『黒の巨人』の勢力の大きさはかなりのものですね……ヴィーシュ大陸から一番遠いサラス大陸にまで及んでいるのですから……」
「ああ、俺達は想像以上に大きな奴等と敵対しているのかも知れない……」
草太のその言葉に、彼等の周りを重い沈黙が包んだ。
得体の知れない巨大な何かと相対した自分を幻視して、言い知れぬ恐怖を抱く。
「――大丈夫だよ、私達なら」
しかし、花奈の明るい声が、そんな雰囲気を吹き飛ばした。
「花奈……」
「私達は強いから、負けないよ! それに、もっともっと強くなれるよ! だから、不安になることは何も無いと思うよ」
「――そうですね。ハナの言う通りです。悲嘆に暮れている場合ではありませんね」
「……ああ、ああ。……そうだな、こんなことで怖気づく場合じゃないな」
重い空気が消え、三人はそれぞれ笑顔を浮かべた。
「なんだかわからないけど、おいらはご主人達を全力で支えるにゃ!」
キットが気合の入った顔つきで、ふんすと意気込む。その姿で、彼らの不安は完全に取り払われた。
「ああ、期待してるぞ。……じゃあ、今の俺達にできることをやろう。まずは、ギルドに届いている依頼をこなそう。それで、冒険者としての地位を上げるんだ」
「うん!」「はい!」
三人はそう意気込んで立ち上がり、意気揚々とギルドの受付に向かうのであった。
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