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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
20/90

第1話 人と物と熱の集まる街

遅くなりました。すいません……。

長めです。

 日が傾き、空が茜色に染まる時刻。長い歩みの末、草太、花奈、リフィアはついに目的地に辿り着いた。


 まず目に飛び込んだのは、巨大な外壁であった。

 恐らく魔物からの攻撃を防ぐためのものであるのだろう。防壁の高さは五メートル程で、街をぐるりと囲んで堂々とそびえ立ち、物々しさを醸し出している。


 三人は初めて見る光景に一瞬呆然と固まっていた。が、すぐに我に返り灰色の壁に向かい歩き出した。

 三人を出迎えたのは、防壁を開けられて作られた巨大な門、そして二人の門番だった。


「止まれ! 見ない顔だが、旅人か?」

「はい、しばらくこの街に滞在しようと思うのですが……」

 槍を構え問い質してくる片方の男に、草太が答えた。すると、もう片方の門番がじろじろと吟味するように三人を見た。


「ふん……武器を持っていることから察するに、冒険者志望の輩だな。この辺りには強い魔物もいないし、初心者にはうってつけだからな」

「そう、そうなんですよ。俺達、冒険者になりに来たんです」


 意気込む草太の言葉にうんうんと納得したように頷いた門番は、次いで草太の後ろにいるボロい布を頭から被った人物――リフィアに声をかけた。


「その布きれを被った奴、一応顔を見せてもらおうか」

「……はい」

 そう言われてリフィアはそっと布を払った。


 見る者すべてを魅了するエルフの美貌と、その下にある無骨な首輪――『奴隷化の首輪』が露わになる。

「おいおい」

「まじかよ」

 彼女の素顔を見て、二人の門番は揃って驚きの声を上げた。


 それも当然のことだろう。何せリフィアはエルフなのだ。奴隷として手に入れるならば相当な大金が必要なる。ただの冒険者志望が連れ歩けるはずもないのだ。


「ひゅー。エルフの奴隷とはな。お前さんもしかして、どっかの貴族崩れかなんかかい? 若えのに大変だなあ」

 リフィアの美貌に口笛を吹いた門番が、草太に同情の視線を向けた。自分の中でこの奇妙な事態への回答を出したらしい。


「ああ、はい。まあそんなところです」

 草太は曖昧な笑顔で返す。


 もちろん、リフィアが草太の奴隷になる筈がない。

 リフィアが『奴隷化の首輪』をつけているのは、彼女自身がそうすることを提案したからだ。


 また、この『奴隷化の首輪』には危険な『爆裂石』は入っていない。


「あの、街に入っても問題ないですかね?」

「ああ、いいぞいいぞ。……色々あると思うが、頑張れよ少年」


 門番がしみじみとそう言い、ポンポンと草太の肩を叩いた。なかなか厄介な誤解を与えてしまったようだ。

 生暖かい視線に苦笑いを返しながら、草太達三人は初めての街――スードにその足を踏み入れた。



 『南の交易都市・スード』。それが草太達が目指してきた街の名前だ。


 南には多数の動物が生息する森。西には丈夫な木々が生える密林。東には鉱物資源の宝庫である鉱山。そして北には『王都』に続く交易路。

 これらがスードという街を『フェリア王国』有数の大都市に発展させた理由である。


 東西南のそれぞれから様々な物資が運ばれ、それらはスードを経由して北の王都へと送られる。

 そのため、この街で行商人が絶えることはなく、常に商人達の活気に満ち溢れている。

 温暖な気候もあって、王都の貴族達が別荘を構えることも多い。


 また、この街の周辺には強力な魔物があまりいないことから、冒険者達にとっての始まりの街としても有名である。


 様々な人や物が、様々な理由によってこの街にやってくる。故に、スードの人々は自分達が住む街を誇りを持ってこう呼ぶ。

 ――『人と物と熱の集まる街』と。



 雑多な喧騒と数々の馬車の音が、街に入った三人を出迎えた。

「うおお……すっげぇ……」

 眼前に飛び込んで来た光景と街を包む熱気に、草太は感動の声を上げた。


 往来を歩く人々。道の端で様々な露店を開く商人達。道の真ん中を慌ただしく走る荷馬車の群れ。

 ドリの村やリフーリには無かった騒がしさが、草太には新鮮だった。



「これは……確かにすごいですね。直ぐ近くにこんなに発展した街があるとは思っていませんでした……」

 リフィアも驚愕に目を丸くし、キョロキョロと周りを見渡す。


 生まれてからずっと森の中で過ごしてきた彼女には、さぞや新鮮なことだろう。


 完全におのぼりさんな二人だったが、後ろのもう一人が全く騒いでいないことに気付き、そちらに目を向けた。

「花奈? なんか調子悪いのか?」

「もしかして緊張しているのですか?」

 黙ったままの第三の仲間、花奈に声をかける。


 異世界で初めての街だというのに、花奈は先ほどから黙り込んだままなのだ。

 草太とリフィアの問いかけに、花奈はようやく顔を上げた。


「……あの、リフィアの顔を出すのってやっぱり駄目なのかな?」

 リフィアを労わるような花奈の顔に、リフィアは苦笑を浮かべた。


「良いんですよ、ハナ。エルフが堂々と街中を歩いていては騒ぎになってしまいます。この格好でも私は何も不自由は感じませんから、気にしないでください」

 街に入る前、リフィアは同じことを言って自らの顔を隠し、奴隷化の首輪をつけた。その時に一番反対していたのは花奈だった。


「でも……」

「ハナの気持ちは嬉しいです。ですが、やはりこれは必要なことなんですよ」

「う~~……草太君はこれでいいの!?」

「うぇ!?」

 急に矛先が自分に向けられ、草太は情けない声を上げる。


「……花奈には悪いけど、確かにここはリフィアの意見が正しい。それに奴隷じゃないエルフが歩いていたら、多分、格好の獲物になっちゃうだろうし。リフィアの身を守るためにも、身を隠すのは必要なことだよ」

「うう、でも、でも……」


「それに、この街にはカイを奴隷として使っていたやつらの親玉がいる筈だ。そいつの懐に入り込むんだから、なおさらリフィアの存在を隠さなきゃいけない。エルフを人として見ていないような奴らだからな」


「……うん、そうだよね。ごめん、考えが足りなかった」

「いえ、ハナの気持ちはとても嬉しいです。ありがとうございます」

「リフィア……」


 肩を落とす花奈を、リフィアが慰め、花奈も安心したように微笑む。二人の仲睦まじい様子を見ながら、草太草太は思案顔で何かを考えるのであった。


「……それで、この後はどうしますか? もう日も傾いてきましたし、どこか宿に泊まりましょうか」

「うん、それが良いな。結構長い距離を歩いたし、ギルドに行くのは急ぐほどのことでも無いし。とりあえず、夕飯を食ってどこかに泊まろう」

「さんせーい」


 予定の決まった三人は再び大通りを歩き出した。道の両側には露店が並んでいるが、彼等もまた今日の商売を終わらせようとしている。

 弛緩した空気が流れ、もうすぐ一日が終わることを実感する。


「……日本のお祭りみたいだね」

 草太の隣を歩く花奈が小さく呟いた。一瞬驚くも、草太は笑って返した。

「この街ではこれが日常みたいだけどな。……うん、でも確かにお祭り感はあるな。きっと、昼間はもっと凄いんだろうな」

「楽しみだね、草太くん」

「ああ。明日ギルドに行ったら、その後にこの街を思う存分観光しよう」

「うん!」

 草太の言葉に、花奈は楽しそうに頷いた。



 大通りをしばらく進むと、中央広場の様な場所に出た。中心には噴水が置かれ、その周囲で人々が各々で談笑している。

「うーん、どの道を行けばいいんだろう?」

「地図とか看板とかがあると楽なんだけどなあ」

 三人が困り果てて佇んでいると、不意に声がかけられた。


「もし、この街は初めてですかな?」

 声がした方を見ると、初老の男性がニコニコと立っていた。

 よく伸びた白髭を携えた老人は、目に皺を寄せて草太達を眺めている。

 いきなりのコンタクトに草太は多少身構えながら答える。


「ああ、はい。さっき到着したばかりで……夕飯を食べられる場所と宿屋を探しているんですが……」

「おお、それでしたら丁度いい。東の通りを少し歩くと、私の友人が営んでいる宿屋が有ります。居心地もよく、朝食と夕食も付いていますよ」

 老人がにこやかに、草太達から見て右方向にある通りを指す。どうやら本当に親切心で言ってくれている様だ。


「あ、ありがとうございます。でも、どうして見ず知らずの俺達に親切にしてくれるんですか?」

「ふぉっふぉっふぉ、老いぼれのお節介ですよ。未来ある若者が路頭に迷ってしまってはいけませんからな」

 老人はおかしそうに笑って伸ばしっぱなしの髭を撫でた。


「……ありがとうございます。その、おじいさんがおすすめする宿はなんていう名前なんですか?」

「『やすらぎの宿』という名前です」

「ああ……いい名前ですね。教えてくれてありがとうございます。行ってみます!」

 にこやかに手を振る老人と別れ、三人は東の大通りに入った。



 露店の立ち並ぶ南の通りとは違い、この通りは住宅街のようだ。立ち並ぶ家々から明かりが漏れ、時折談笑が聞こえてくる。

「南が商業区、東は居住区って感じか」

「はい。人の街では用途によって区画を分けると聞いています。スードの街もそのような形式をとっているのでしょう」

 草太の推測に、リフィアが頷く。


「北と西はどうなってるんだろうね」

「それも明日のお楽しみだな」


 花奈が好奇心で目を輝かせる。何もかもが未知のこの世界で、新しく何かを見つけることは一つの娯楽に違いない。

 草太もまた花奈と同じようにわくわくした表情を浮かべるのであった。


 石造りの建物を眺め、とりとめのないことを話しながらしばらく歩くと、リフィアが前方を指差した。

「あ、あれが『やすらぎの宿』じゃないですか?」


 リフィアが指す方に目を向けると、古びた看板が目に入った。掠れていて見えにくいが、何やら文字が書いてある。

「ん? ……おお、確かに『やすらぎの宿』って書いてあるな。しかし本当にリフィアは目がいいな」

「狩りで鍛えられていますから」

 素直に草太が褒めると、リフィアは嬉しそうにはにかんだ。


 『やすらぎの宿』は木造二階建ての建物だった。色の濃い木材で造られた小さな宿は、外灯にほのかに照らされ古臭くも奥ゆかしい雰囲気を纏っていた。

 木製の扉を押すと、中から暖色の光が溢れる。扉を開けた先にあったのは質素なカウンターだった。が、本来いるべきはずの受付人がいない。


「あれ? 誰もいないのか?」

「あっ、草太くん、これを鳴らすんじゃないかな?」

 そう言って花奈が手に取ったのは、台に置かれた小さなベルだった。こちらも年季が入っているのかところどころ塗装がはがれている。


「ああ、なるほどな。それを鳴らすと奥から人が出てくる仕組みか。それじゃあ花奈、鳴らしてみてくれ」

「はーい」

 花奈がベルを小さく振ると、チリンチリンと綺麗な音が響いた。


 ベルを鳴らして数分後。

「はーい」

 草太達から見て左のドアから、歳を取った女性が出てきた。

 灰色の髪を纏め、肩には模様の入った布を羽織っている。皺の刻まれた顔には、人の良さそうな笑みを浮かべていた。


「あらあら、お客さん? 珍しいこともあるのねえ」

 そんなことを女性はあっけらかんと言った。

「あ、あのー今晩ここに泊まりたいんですけど……」

 花奈がそう尋ねると、女性は不思議そうな顔をした。


「こんな寂れた宿より、もっと良い所があったでしょうに。今日はどこも満員だったのかしら」

「ああ、いえ、道すがら出会ったおじいさんにこの宿をおすすめされたので」

 花奈の言葉に女性は一瞬目を見開き、そして柔らかに微笑んだ。


「そう……あの人はまだそんなことを……」

「?」

「……わかりました。あの人の紹介なら、どうぞいくらでも泊まってください。私は女将のロゼッタと言います」

「あ、ええ、ありがとうございます。私は花奈と言います。こっちが草太くん、それとこの子がリフィアです」

 女性――ロゼッタの名乗りに返すように、花奈がそれぞれの名前を紹介する。


「こんな寂れた宿でごめんなさいねえ」

 ロゼッタが自嘲気味に笑い、それを見て花奈が慌てて首を振る。


「いえいえ、趣があって私は好きですよ」

「あらあら、嬉しいことを言ってくれるわね。……それじゃあ、部屋はどうしましょうか? やっぱり男の子と女の子で分けたほうがいいかしらね?」

「はい。それでお願いします」

「ふふ、初々しいわねぇ」

「そ、そう言う関係じゃありませんから!」

「うふふふふ」

 悪戯っぽく笑うロゼッタに花奈が焦った様子で手をばたばたさせる。


 後ろで二人の様子を眺めながら、草太とリフィアは小声で囁き合う。

「いい人そうだな」

「はい。人があまりいない様ですが、宿の造りも問題なさそうです。教えてくれた老人には感謝しないといけませんね」


「……そう言えば、あの人はなんでこの宿を教えてくれたんだろうな」

「さあ……ロゼッタさんと何か関係があるのでは無いでしょうか?」

「機会があったら聞いてみるか」


「二人ともー部屋取れたよー」

「ういー」

「ありがとうございます、ハナ」

 二つの部屋鍵を持って来る花奈を見て、二人は会話を打ち切った。


「それじゃあ、一回荷物を部屋に置いてこようか。ロゼッタさん、ここでは夕食を出してもらえるって聞いたんですが」

「ええ、勿論良いわよ。こんなおばあちゃんの手料理でよければいくらでも食べていってちょうだい」


 ロゼッタはにこにこと草太の問いに答える。なんというか、民家のおばあちゃんといった感じだ。


「喜んで食べさせてもらいます。あの、それと宿代はどれくらいになるんでしょうか?」

「朝夕食付きで一泊銀貨十枚ね。ウチは後払い制だから、最後にちゃんと払ってくれるならいつまでもいてくれて良いわよ」

「いや、そこまで居るつもりは無いですから……」

 どうにもロゼッタのあっけらかんとした喋り方に戸惑ってしまう草太であった。


 草太達の泊まる部屋は、『やすらぎの宿』の二階にある向かい合う角部屋だった。どうやら本当に客が居ないらしい。

「いやーここまで人がいないとびっくりだな」

「よく今まで経営してこれたよね……」

「お二人とも……」

 呆れて呟く草太と花奈をリフィアが苦笑してたしなめる。


「うんじゃ、武器とか置いてしばらく休んだら、下に降りる事にしようか。準備ができたら呼んでくれ」

「はーい」

「わかりました」

 草太の言葉に、女子二人が相槌を打つ。草太はそれを確認して、花奈の方を向いた。


「それと花奈。魔導書(グリモワール)を借りても良いか?」

「え? 別に良いけど……どうして?」

「いや、ちょっと新しい白魔法を探したくてな」

「わかった。どうせ魔導書(グリモワール)は草太くんの【ウェアハウス】にしまわれてるんだから、自由に使って良いよ」

「おう、ありがと。それじゃまた後でな」


 二人に手を振り、草太は自分の部屋に入った。

 中は六畳ほどのこぢんまりとした大きさだった。が、掃除が行き届いており居心地が良さそうな部屋だ。

 草太はリコシフォスの入った鞘を背中から下ろすと、シーツの整えられたベッドの上に座ってほうと息を吐いた。


「ようやく異世界で初めての街に到着か……」

 感慨深いものが草太の心を満たす。

 だが、決して安心できる状況ではない。


「ここは、カイを奴隷として使っていた『黒の巨人』の奴らがいる街だ。俺達は敵の懐に居るのと等しい」

 いつ名前も形もわからない敵が襲ってくるかわからない。故に、草太達は万全の体勢を整えなければいけない。


「そのためには……【ウェアハウス】」

 草太は自由に物の出し入れが出来る白魔法を唱えてその中から分厚い魔導書(グリモワール)を取り出した。


「俺は、俺に出来ることをやらなきゃな」

 魔導書を開いた草太は、早速お目当の白魔法を探すのであった。


 いくらか時間が過ぎた頃。

 コンコン。と部屋のドアがノックされた。

「草太くーん、ご飯食べに行こうよー」

「美味しそうな匂いがしてきましたよ」

 扉の向こうから、花奈とリフィアの呼ぶ声が聞こえて来た。


「っと……結構長い時間読んでたな。はーい、今いくー」

 返事をして草太は魔導書(グリモワール)を閉じ、そそくさと外に向かった。



 階下に降りると、クリーミーな香りが三人の鼻腔をくすぐった。予め教えられていた部屋に行くと、そこには様々な手料理が並べられていた。

 予想以上に豪勢な食事に、草太達は感嘆の声を上げる。


「うおお、すげぇ……」

「なんと素晴らしい……」

「これ、ロゼッタさんが一人で作ったんですか?」

 花奈が厨房から出てきたロゼッタに問うと、彼女は笑って首を振った。


「いいえ、この子に手伝ってもらったの」

 ロゼッタが後ろを向くと、彼女の背中からひょっこりと小柄な少女が顔を出した。

「「!?」」

「あの、その子は?」

「紹介が遅れてごめんなさいね。この子はエリザ。この宿の私以外の唯一の従業員よ」

「エリザです。よろしくお願いします」

 エリザと呼ばれた少女は、辛うじて聞き取れる声でぺこりとお辞儀した。


 だがしかし、草太と花奈は彼女に挨拶を返すことはできなかった。

「あの、その子……」

「ああ、見るのは初めてかしら? この子は『犬人族』と呼ばれる種族の子よ」

 不躾にもエリザを指差す花奈に、ロゼッタはさらっと答えた。


 そう、エリザの小さな頭には、ふさふさの耳が生えていたのだ。さらによく見ると小ぶりなお尻からは可愛らしい尻尾が伸びている。

 二人はそれを見て呆気にとられていたのだ。


「……あ、すいませんでした。ジロジロと見て……」

「……いえ、大丈夫、です。慣れていますので」

 我に帰った花奈がぺこりと頭を下げると、エリザはふるふると首を振った。


「びっくりしました、獣人にこんなに早く出会えるなんて」

「あらあら、獣人に会いたいなんて変わり者ねぇ」

「そうなんですか?」

 草太の言葉に、ロゼッタが頰に手を当てる。


「……はい、私は獣人ですが、初対面で獣人を恐れない人を見るのはこれで三度目です」

「……なんというか、人と他の種族って基本的に仲が悪いのか」

 耳を垂れて静かに話すエリザを見て、草太は呆れたように呟いた。


「……私は人を恨んだりはしていませんが、人を恨んでいる獣人は多いと思います」

「それは、やっぱり何か因縁があるのか?」

「はい、人は獣人を奴隷や衣服のために狩りますから」

「……ロクでもねえなぁ……」

 淡々と語るエリザの様子に、草太は思わず呟いた。


「……あなたは、あなた達二人は普通の人とは違うのですね。不思議な人達です」

「いやぁ、まあ……」

「ふふ、そうね。私もあなた達を泊めて良かったわ。……だから、貴女も野暮な布はとっていいのよ、エルフのお嬢さん」

「!」

 ロゼッタの唐突な言葉に、リフィアが息を飲んだ。


 草太と花奈も思わず呆気にとられた。

「……どうして」

 震える声で、リフィアが問う。

「歳をとるとね、色んなことで人となりがわかるのよ。それに、エルフの匂いはわかりやすいの」

「……ロゼッタさん、貴女は……」


「あらあら! 私は普通のおばあちゃんよ、警戒しないで」

 にこにことロゼッタが手を振る。だが、明らかに只者ではない雰囲気を纏っていた。


「……ロゼッタさん、嗜虐趣味はあなたの悪い癖です。お客様をからかうのはやめてください」

「あらあら、怒られちゃったわ。ごめんなさいね。ただ、この宿では貴女の美しい顔を隠して欲しくなかったの。恐れなくて良いわ。わたしは貴女を拒んだりしないから」


 エリザに咎められたロゼッタは、変わらない穏やかな笑みでリフィアを見つめた。


「……わかりました。お心遣い、感謝します」

 リフィアは暫くの間悩んだ様子だったが、やがて布を取り払った。


「あらあら、やっぱり可愛い顔ね。隠すのはもったいないわ」

 リフィアの顔を見て、ロゼッタはにこにこと笑い、そっとリフィアの髪を撫でるのであった。


「ロゼッタさん?」

「ふふ、私にも孫が居たらこのくらいの歳だったのかしら」

「ロゼッタさん、リフィアはこう見えて百歳超えてますよ」

「そ、ソウタ!」

「あら! 私よりも年上なのね! おばあちゃん変なお節介やいちゃったかしら!」

「いえいえ、気にしないでください!」

「でもソウタくん、淑女の年齢を不躾に言うものじゃないわよ? それでは一端の紳士になれはいわ」

「す、すいません……」

「あの、皆さん、そろそろお料理が冷めてしまいますので……」

「そうだね! 早くこの美味しそうな料理を食べちゃおうよ!」


 先程までの真面目な空気はとうに去り、『やすらぎの宿』の食卓は和やかな雰囲気に包まれるのであった。



 そして、翌日。

 草太達は準備を整え、やすらぎの宿の前に立っていた。

「朝ごはんも美味しかったね!」

「はい、ロゼッタさんの食事だけでも金貨一枚分の価値はあります」

「色々教わりたいもんだな」


 ロゼッタの料理はどれも素晴らしい出来だった。

 新鮮な食材を使った料理はどれも草太達の胃袋を刺激し、夢中にさせるほどであった。


「……それでは行きましょうか、ギルドの場所はロゼッタさんに聞いたことですし」

「そうだね、私達の新しい冒険の始まりだ!」

「あーその前に、ちょっと良いか」

 意気込む二人に、草太が待ったをかけた。


「どうしたの、草太くん?」

「いや、昨日色々と白魔法を調べてたんだよ。そしたら、良い魔法を見つけてさ。リフィア、ちょっとじっとしててくれ」

「あ、はい」

 草太は直立するリフィアを見つめ、呪文を一つ唱えた。


「【ミラージュ】」

 草太の呪文とともに、リフィアの顔周りがほのかに光を浴び始めた。

「そ、草太くん大丈夫なの!?」

「大丈夫だって」

 横で花奈が焦るが、草太は平然としている。

 やがて光が収まると、草太はうんうんと頷いた。


「よし、じゃあリフィア、布を取ってみてくれ」

「いえ、それは……」

「大丈夫だ。信じてみろって」

「……はい」

 一瞬躊躇ったリフィアだったが、自信に溢れる草太を見て意を決して布を取り払った。


「…………あれ?」

 現れたリフィアの素顔を見て、花奈は驚きの声を上げた。


「ハナ? どうしたのですか?」

「どうだ花奈。リフィアに変わった所はあるか?」

「う、うん。その、耳が短くなってる……」

「ええっ?! …………触っても、特に変わった様には見えませんが……」

 花奈の言葉に驚いたリフィアが、自分の耳をなぞる。


「ああ、そう見えてるだけだからな」

「どう言うこと?」


「俺が今かけた【ミラージュ】って魔法は、他人に幻影を見せる魔法なんだ。だから、実際にはリフィアの耳の長さは変わってないけど、普通の人と同じに見える様に魔法をかけたんだ」


「……それじゃあ、リフィアは顔を隠さなくても街を歩ける様になったんだね!」

「そう言うこと。だから『奴隷化の首輪』も外して良いぞ。今のリフィアは完全に人に見えるからな」


 草太がニッと笑う。

「……ありがとう、ございます……」

 そんな草太を見て、リフィアはほのかに顔を赤らめた。

 それを見た花奈が「ムムッ」と目を光らせ、リフィアの血の気がサッと引いた。


「よーし、それじゃあギルドに向かうか!」

 二人のそんなやりとりは露知らず、草太は満足した顔で歩き出すのだった。

読んでいただきありがとうございます!

感想、誤字脱字報告お待ちしております。


新天地、草太達の新しい物語の始まりです。

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