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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第1章 ビギナーズ
19/90

第18話 再出発

少し間が開いてしまってすいません……。

少し長めです。今回で一応一区切りです。

 狩人の襲撃を受けた翌日、草太はハンモックからむくりと体を起こした。窓から見える太陽は既に高い位置に上っている。どうやらもう正午の様だ。

 外からは、働くエルフ達の声が聞こえてくる。

「寝すぎたな……」

 欠伸をしながら、草太は独りごちた。


 昨夜、草太と花奈は消火を済ませた後、リフィアの家に泊めてもらったのだ。幸いリフィアの家は無事だったので、疲れていた二人にはオアシスの様に感じられた。

「それにしても、まだ異世界に来てから三日しか経っていないってのが信じらんねえ……」

 異世界に来てから、濃い日々しか送っていない。あまりの密度に草太は呆れ果てた。


 花奈とリフィアが寝ていた筈の隣のハンモックを見るが、どちらももの抜けの空だった。

「二人はどこに居るんだろう」

 部屋から出て、廊下を見渡す。昨夜は真っ直ぐに寝室に連れてこられたので、この家の構造はよくわからない。

 なので草太はとりあえず隣の部屋の扉を開けた。


 ――そして、脱衣所で服を脱いだ下着姿のリフィアと目が合った。


 白い肌と滑らかな脚の曲線美が、陽光に照らされ草太の瞳を刺激する。

 濡れて頬に張り付いた黄金の髪が形容しがたい魅力を放つ。

 薄い布に隠された双丘は、控えめながらも美しい形で――


「すすすすすすすいませんっっっっ!!!」

 バァン! 慌てて草太は思いっきりドアを閉めた。

「わざとじゃないから! 誓ってわざとじゃないから!!」

「わ、わかってます。ソウタ殿がそんなことっ……」

 扉の向こうから、リフィアの慌てる声が聞こえて来た。


 そして。

「あ、草壁くん起きたんだね。おはよう」

 素晴らしいバッドタイミングで花奈が現れた。

「あ、お、おおうおはよう森園さん」

 どもりながら返事をする草太に、花奈は怪訝な顔を浮かべる。


「……? 草壁くんもお風呂に入りたいの? 今はリフィアが入ってるから、開けちゃ駄目だよ?」

「あああああああ開けてないよ!」

「……ノックって、知ってる?」

「…………ごめんなさい」

 下手な嘘も一瞬でばれ、草太はこれ以上なく縮こまった。



 一騒動の後、草太達はリフィア宅の居間にて食事を摂ることになった。ちなみにちゃんと謝罪は済ませた後だ。

「ソウタ殿とハナ殿は、これからスードの街に向かうのですよね」

 パンをちぎりながら、リフィアが尋ねる。

「うん、そろそろちゃんとした街に行きたいからね」

「色々慣れておきたいからな」

「そうですか……」

 二人の答えに、リフィアは少し寂しそうな表情を浮かべた。


「でも、リフーリの復興は手伝うぞ。人手が多い方が早く終わるだろ?」

「あ、そうだよ。私達にも協力させて?」

「で、ですがお二人のお手を煩わせるわけには……」

「良いって良いって、乗りかかった船だ。最後まで手を貸すよ」

「あ、ありがとうございます……」

 二人の善意に、リフィアはか細い声でされど笑顔で呟いた。




「この木材はあっちに持って行けば良いのか?」

「あ、はい! 燃えてしまった物は木炭にしますので、隅に寄せておいてください」

「リフィアー木を切って来たよー」

「あ、ありがとうございます!」

 食事を済ませた後、草太達は早速集落の復興活動に加わった。


 昨夜の戦いで命を落としたエルフの数は約四十名。これはリフーリの人口の三分の一に当たる。さらに、負傷者を除いて動けるのは数十名に満たないため、被害の大きさに対して充分な人員が割けない。

 だが、草太と花奈の加入で、その問題が解消された。


 草太は【ビルドアップ】で強化された腕力で重たい廃材を軽々と運び、花奈は様々な魔法を駆使して新たな木材を森から調達してくる。これによって、作業が一段とスムーズに進むことになった。

 エルフ達の使う精霊魔法は戦闘に特化していて、このような作業には向かないのだと言う。

「強力だけど、小回りは利かないんだな」

「そうですね、強力ではあるのですが」

 草太の感想にリフィアは苦笑いを返した。


 また、草太と花奈を見る目は大きく変わった。

 元々カイとリフィアが心を許していたことから、一部のエルフ達も悪い人達では無いのだろうと思っていたのだが、昨夜の戦闘で完全に信頼できる人物だという認識になったようだ。

 それでいて今も誰一人として話しかけられないのは、(誰かさんのせいで)一度は追い返してしまったという負い目があるからだろう。

 そんなわけで現在、草太と花奈は遠目からちらちらと見られているという状況だ。


「落ち着かねえ……」

「あ、あはは……」

 二人としては妙に落ち着かないのだが、向こうに悪気がないことはわかっているので特に何も言わない。


 ただ……。

「あ、木材が足りないな」

「あの、これ使いますか?」

「ファッ!? あ、は、はい! ありがとうございます!」

 花奈が話しかけると途端に挙動不審になったり。


「あ、あなたが行きなさいよ」

「えへへ、どうしようかな……」

「わ、私行ってみようかな……」

「…………あの、なんか用すか?」

「「「な、なんでもありませーん!」」」

 草太に近付いては遠ざかったり。


 そんな彼らの奇行には二人ともため息をつくしかなかったが。


 空が赤く染まるころ。集落のエルフ達と草太と花奈は広場に集まった。

 円形に並ぶ彼等の中央には深い穴が掘られ、エルフ達の遺体が積まれている。黒く焼け、誰が誰かもわからない亡骸の数々は、否応なく胸を締め付けてくる。

「……許せないね」

「……ああ」

 花奈が苦痛の表情で呟き、草太も静かな怒りを孕んだ声で頷いた。


 族長であるバーテインが前に出る。バーテインは一呼吸置いて、厳かに語り始めた。


「我らが同胞よ。汝らの死をここに悲しみ、ここに怒り、ここに嘆こう。そして同時に、森へ還る事をここに笑い、ここに喜び、ここに祝おう。森の民として、精霊の友として、命の狩人として、汝らの死を弔おう。今は永久に、安らかに……」

 エルフ達が目を瞑り黙祷を始める。二人もそれに倣い目を閉じた。

 風の音、木々の揺れる音、鳥のさえずり。大自然の豊かな音が耳に流れていった。


 しばらくして。

「眠り給え、誇るべき我らの同胞よ」

 バーテインが静かにそう言い終えて、数人のエルフ達が土で埋め始めた。亡骸が次第に土に覆われ見えなくなって行く。


 その光景を見て何人かのエルフが嗚咽を漏らし、顔を覆ってその場に座り込む。

 あの中に、大切な人が居たのだ。失いたくない命があったのだ。別たれてはいけない愛があったのだ。

 どうしようもなく、やるせない気持ちになる。彼等は何も悪くないのに、唐突に悲劇を与えられた。それはあまりにも残酷ではないのか。


「森園さん、俺達はあの二人の遺体を処理しよう」

「……そうだね」

 二人はその場からそっと離れ、広場の隅に向かった。そこには、村を襲ったヨセフとラクセンの死体が転がされていた。


 草太と花奈は、リフィアからこの二人の遺体の処理を頼まれていた。どうしても、自分たちで処理は出来そうに無いと言うリフィアを見て、二人は二つ返事で答えた。

 エルフ達のしきたりとして、エルフ以外の種族は火葬することになっているらしい。

 二人は少しの間呼吸を整えて、静かに呪文を紡ぎ始めた。

「「【呼ぶは炎・灼熱の燃焼・イグニッション】」」


 同時に魔法が唱えられ、二つの遺体が燃え上がる。煌々と輝く炎が、二人の顔を照らした。


「…………あいつらの目的が何かは知らない。……けど、絶対に止める。こんなことは二度と起こさせる訳にはいかない」

「――うん」

 強い決意を込めた草太の言葉に、花奈もまた力強く頷いた。



 結局この日も遅くなったので、草太と花奈は再びリフィアの家に泊めてもらうことにした。

 豪華な夕食を食べ、明日の準備を済ませた二人は、速やかに眠りについたのであった。



 夜もすっかり更けたころ、ふと草太は目が覚めた。

「なんだよ、まだ夜中じゃねえか……」

 草太は不満げに呟きもうひと眠りしようとしたが、どうにも目が冴えてしまって寝れそうにない。

「参ったな……ん?」

 頭を掻いて横を見ると、そこには花奈しか居なかった。


「リフィアはどうしたんだ?」

 怪訝に思いハンモックから降りて、そろりそろりと部屋を後にする。


 リフィアは思いの外直ぐに見つかった。

 居間に居たリフィアに声をかける。


「どうかしたのか?」

「そ、ソウタ殿? どうされたんですか?」

「いや、目が覚めちゃって。リフィアもそんな感じか?」

「ええ、はい、まあ……」

 草太の問いにリフィアは曖昧に笑った。


「あ、何か飲み物でも出しますね」

「いや、別に良いよ。……それ、なんなんだ?」

 草太はリフィアが握っている小さなペンダントを指した。リフィアは少し懐かしそうに微笑む。

「これは、母の形見なんです。二年前に亡くなってしまったのですが」

「……ごめん、嫌なこと聞いた」

 草太が頭を下げると、リフィアは首を振った。


「いえ、気にしないでください。……実は私は、ソウタ殿とハナ殿に会うまでは、人間たちを憎んでいたのです」

「それは、やっぱり……」

「はい。母が殺されたことが、辛くて、悔しくて……。バーテインといい勝負だったんですよ?」

「まあ確かに、初対面でいきなり矢を放ってきたくらいだしな」

「そ、その節はすいませんでした……」

 顔を赤らめて俯くリフィアに思わず笑みがこぼれる。


「いいっていいって。それにしては、結構早く打ち解けたよな」

「……心のどこかで、恨むのを止めたかったんだと思います。いくら人間を恨んでも、母は帰ってこないのだとわかっていたから……。二人は、私にそのきっかけをくれたのです」

「俺達は別に何もしてないけどな」

「そんなことはないですよ。私は……いつも、助けられてばかりです」


 悲しげな顔で、リフィアは黙り込んだ。気まずい静寂が室内を包む。


「……そう言えば、あの時はありがとな。リフィアが森園さんの側に向かってくれて良かったよ」

 話題を振るが、リフィアはどうしてか一層落ち込んでしまった。

「……いえ、私は何も……」

「いや、森園さんもリフィアがいてくれたから戦えた、って言ってたぞ」

「そう……なんですか?」

 草太のフォローに、リフィアがピクリと反応した。


「ああ。捕まったところを助けてもらったとか、リフィアが冷静でいてくれたから精神的にきつくてもやり遂げられたとか……とにかく、森園さんもリフィアに助けられたってわけだ。そこは胸を張って良いとおもうぞ」

「……そう、ですか……」

 嬉しそうに体をもじもじさせるリフィア。大分心が軽くなったようだ。


「……なあリフィア」

 それを見て、草太は思っていたことを尋ねることにした。

「はい、なんでしょう?」

「……お前、俺達の仲間になりたいんだろ」

「っ……」


 草太の言葉に、リフィアがはっと息をのんだ。少しして、苦笑いを浮かべる。

「やっぱり、わかりますか」

「ああ、まあな。見てればわかるよ」

「そうですか……でも、良いんです。私はお二人の足手纏いにしかなりませんから」

「そんなことないだろ。俺達だってリフィアに助けられて今も生きているんだ。足手纏いだなんて有り得ない」

「……でも、お二人はあんなにすごい力を持っていて、志も高くて……私なんかでは……」

「リフィア、お前は自分を卑下しすぎだ」

「っ……」

 自暴自棄になる彼女に、草太は静かに言葉をかけた。


「自分では気付いていないかもしれないけど、お前は俺達――特に森園さんにとって心の支えになってるんだ。俺達だって、リフィアやカイに助けられた。それに、お前の精霊魔法は強力だ。俺達に足りない所を補ってくれる」

「ソウタ殿……」

「それにな、何も旅は戦いだけじゃない。この広い世界には、俺達がまだ知らない、驚くような物がいっぱいある。――それを一緒に見に行こう、リフィア」

「っ……」


 草太がニカッと笑う。それはまるで無邪気な子供のようで、普段の冷静な彼とはかけ離れた物だった。

 自分の心が揺れるのを感じる。蓋をしていた夢が、ゆっくりとその蓋を持ち上げる。


「こんな私でも、良いんですか……?」

「当たり前だ」

「でも、私はお二人と比べたら全然弱くて……」

「助け合えば良いんじゃね―の? 森園さん曰く、『人数が多いほうが、生存確率が上がる』らしいぞ」

「……」


 どうしようもなく不安になる。二人の仲間になりたい。二人と肩を並べて戦いたい。けれど、二人は自分に愛想を尽かしてしまうかもしれない。

 ああ、不安だ。恐怖さえ感じる。

 自分に待ち受けるであろう未来を想像すると、怖くてたまらない。


 ――でも。それでも。そうだとしても。


「……私は、二人と一緒に旅をしたい……。私は――二人の仲間になりたいです!」


 ――もっと、この二人と一緒に居たいという気持ちの方が大きい。


 リフィアの告白に、草太は満足そうに頷いた。

「そうと決まれば旅の準備をしなくちゃな! 何か手伝おうか?」

「いえ、流石にこれは一人でやりますよ。ソウタ殿はもうお休みになってください」

「……そっか。んじゃあその代り、明日の朝ご飯は俺が作ってやるから、リフィアは遅めに起きていいぞ」

「え、良いのですか?」

「ああ。まあ簡単なものしか作れないけどな」

「そ、それではお願いします……お休みなさい」

「おう、お休み」


 そう言って、草太は居間から出て行った。

 残されたリフィアは幸せそうな笑顔を浮かべ、いそいそと身支度を始めるのであった……。


 翌朝。

「え! リフィア、一緒に来てくれるの!?」

 リフィアの仲間入り宣言に、花奈が目を丸くする。

「だ、だめでしょうか……」

「ううん、逆だよ! すごく嬉しい! こっちに来てから初めてのお友達だもん!」

「は、はあ……」

 興奮のあまり危ないことを口走る花奈に、リフィアがきょとんと首を傾げる。


 そんな様子を草太は微笑ましく眺める。

 落ち着いていて大人びている花奈だが、日本ではまだ十六歳の高校生だ。このような一面もあるのだろう。

「じゃあこれからもよろしくね、リフィア!」

「はい!」

 美少女二人が手を取り合って喜び合う。


「仲の良いようで結構。……ほら、朝食だぞ」

 そんな二人の前に、草太は次々と皿を並べていった。

 並べられた品々に、二人は目を見開いた。

「……こ、これをソウタ殿一人で作ったのですか?」

「ああ。まあ食べられるくらいの味だとは思うぞ」

 震え声でリフィアが尋ね、草太は何の気なしに答える。


 並べられたのは、カットされた新鮮な野菜を複数の調味料で味付けしたサラダ。鶏の卵で作ったオムレツ。そしてミネストローネのようなスープだ。

 おいしそうな匂いと色合いの料理が次々に空腹を刺激する。

「す、すごい……ソウタ殿は料理も上手なんですね!」

「ああまあ、作る機会が多かったからな。……ていうか、森園さんはどうして固まってるんだ?」

 草太は先ほどから動かない花奈に怪訝な顔を向けた。

 花奈はわなわなと小刻みに身体を震わせ、すっかり顔を青ざめさせている。


「……………………あ」

「あ?」

「…………圧倒的女子力……!!」

「はぁ?」

 いきなりの激昂に、草太は呆けた声を漏らした。


「なにこれずるいよ草壁くんこんなに女子力高かったの!? ていうかもはやこれは主婦の領域だよね! うわあ~~なんかショックだなぁ~~!!」

「いきなりどうしたんだ……ほら、覚める前に食べちゃおうぜ」

「食べせて頂きますよ! うわーん!」

「そ、ソウタ殿、ハナ殿はどうしてしまったんでしょう……」

 余りの変貌っぷりに、リフィアがびくびくしながら小声で囁く。


「俺に聞かないでくれ……」

 痛む頭を押さえて、草太は溜息をつくのであった。

「まあ森園さんは放っておいて、さっさと食べようか。冷めちゃうしな」

「あっ、食べる、私も食べるよー!」

 花奈は慌てて席に着いた。


「それじゃあ……頂きます」

 そして真剣な面持ちでスープを掬い、口に運ぶ。

「…………」

「どうだ? なんか味付けで変なところあるか?」

 そのまま黙り込む花奈に、草太は尋ねる。


「………………美味しいです」

 数秒後、花奈が消え入りそうな声で呟いた

「ならよかった。……で、なんでそんなこの世の終わりみたいな顔をしてるんだ?」

「……だって、草壁くんにこんな特技があるなんて……」

「あーまあ、確かに男で料理するのは珍しいか」

「うん……それに、なんというか草壁くんは『料理しないオーラ』出してる気がするし……」

「なんだそりゃ」

 草太が呆れて笑うと、花奈もそれにつられて笑った。


「リフィアはどうだ? 口に合えば良いんだけど」

「はい! とても美味しいです!」

「そっか、ならよかった」

 リフィアも美味しそうにしながら、満面の笑顔で答えた。草太は満足そうにうんうんと頷いて、自分も食事にありついた。

 三人は舌鼓を打ちながら、綺麗に草太の手料理を完食した。


 食事が終わり、草太達が最後の支度をしていると、不意に玄関の戸が叩かれた。

「なんだ?」

「ちょっと見てきますね」

 リフィアがとことこと玄関に向かう。

 そしてものの数秒後、ダッシュで戻ってきた。


「そ、ソウタ殿、ハナ殿! こ、こっちに来てください!」

「「??」」

 息を切らしながら言うリフィアに二人は首を傾げながらも、大人しくついて行くことにした。


 玄関に出ると、二人を待っていたのはリフーリのエルフ達であった。一番先頭にバーテインとカイが立っている。

「うお? どうしたんだ、これ」

 家の前に並ぶ彼等を見て、草太は思わず声を上げた。


 草太には答えず、バーテインが一歩前に進み出る。彼は大きく息を吸って――

 ガバッ! と頭を下げた。

「「え!?」」

 予想外の行動に、草太と花奈は揃って驚きの声を上げた。


「集落を救ってくれたこと、心より感謝する! そして、それまでの私の不遜な態度を謝りたい! すまなかった!」

「お、おお。いや、もういいからいいから、気にしてないから」

「そ、そうですよ? だから頭を上げてください?」

 エルフは大げさにお礼を言うことしかできんのか! と草太が内心でツッコんでいると、顔を上げたバーテインが、袋を差し出した。


「これは?」

「厄除けのまじないがかけられた腕輪が入っている。私達は人族のように貨幣を持っていないのでな。代わりにこれをもらってくれないか」

「まじか、ありがとう。……俺も、あの時は言い過ぎたよ、ごめんな」

「草壁くんって、ちゃんと謝れるんだ」

「森園さんが俺をどう思っているかよーくわかったよ」

 草太はバーテインから袋を受け取ると、隣で余計なことを言う花奈を睨んだ。


「お前達の旅の安寧を心から祈っている。……それと、同胞をよろしく頼む」

 草太と花奈の後ろにいるリフィアを見て、バーテインは全てを悟った様子で微笑んだ。

「ば、バーテイン、私は子供じゃないんですから、心配は要りませんよ!」

 リフィアは照れた様子で身を縮こまらせた。そんな彼女の愛らしい行動に、皆が微笑む。


「おう、任せろ。……カイも連れて行きたかったんだけど、駄目そうだな」

 草太が諦めたように後ろにいるカイを見やると、カイは静かに微笑んだ。

「はい、私はまだやることがありますので」

「やることって?」


「……エルフと人族の親睦を深めたいと思っています。まずは近くのドリの村、次にスードの街……少しずつ、溝を埋めていこうと思います。そして願わくば、フェリア王国全てのエルフと人が友好関係を築けるようにしたい……これが、私達の願いです」

 目を輝かせて夢を語るカイの姿に、草太は無性に嬉しくなった。


「ああ、ああ。出来るよ。エルフと人は分かり合える。俺達が仲良くなれたんだ。きっと、きっとできるよ」

 心の底からの激励を送る。カイも嬉しそうに微笑んだ。が、不意にその表情を曇らせる。

「ソウタ殿、ハナ殿、スードの街に行くのなら気を付けてください。そこには、あの狩人たちの本拠地があります」

「……ああ、そんな気はしてたよ。……心していかないとな」

「それと、最後に出てきたあの女にも気をつけろ。二年前にあったことがあるが、奴の戦闘能力は未知数だ」

 横からバーテインが口をはさむ。その表情は草太達の身を心から案じているようだ。

「ああ、気を付ける」

 草太も真剣な顔で頷き、そしてふっと頬を緩めた。


「ありがとな。やっぱり、エルフの誇りは素敵なものだと思う。……お前達を助けることができて、本当に良かった」

 草太の言葉に、エルフ達も皆笑顔を浮かべた。


 ちなみに、浮かれる少女達を花奈が睨みつけて怯えさせたことに草太は気付いていない。


「……それじゃ、そろそろ行くよ。遅くなると不味いしな」

「それでは荷物を持ってきますね」

「あ、私も」

 リフィアと花奈がいそいそと室内に戻っていく。

 それを好機とばかりに、エルフの少女達が草太に向かって群がった。


「うぇ!?」

「あ、あの、お怪我に気を付けてくださいね」

「あ、おお、ありがとう」

「あの、ソウタ様、握手をしてもらえますか!?」

「様!? ていうかなんで握手を!? ……まあいいけど」

 草太は驚きながらも差しのべられた手を握った。はうう……と少女が顔を赤らめる。


「あ、ずるい! 私もお願いします!」

「私も!」「私も!」

「うえええ……なんなんだこれ……」

 次々に迫ってくる美少女達に、草太は冷や汗をかく。


「あーーー! こらーーー! 離れてーーー!!」

 てんやわんやな事態は、花奈の怒声によって収められた。

 さささーっと草太の周りからエルフ達が離れていく。

 一人ぽかーんとしている草太に、般若の形相で花奈が詰め寄る。


「ほら、草壁くん、行くよ! 遅くなっちゃうから!」

「え、ああ、おう。いやでももうちょっとちゃんと挨拶を……」

「くさかべくん!!」

「はいぃ!!」

「お、お二人とも……」

 二人の様子に、リフィアが頭を抱える。

 エルフ達も二人の関係を悟り、同情の視線を花奈に送るのであった。


「ま、まあとにかくありがとな! 機会があればまた寄るから!」

「はい、ソウタ殿も気を付けてください……色々と」

「お前の旅は苦労に満ちた物になりそうだな……色々と」

「なんで俺憐れまれてんの!?」


 花奈に無理矢理手を引かれ、挨拶もそこそこに草太達三人はリフーリを後にした。



 リフーリを出てしばらく歩き、ようやく林道に出た。

「……ふう、この道も久しぶりに感じるな」

「随分と色々ありましたからね」

 一息つく草太に、リフィアが答える。

 そんな二人の後ろから、とぼとぼ恐る恐ると花奈がついてくる。


「……ったく、どうしたんだよ森園さん。怒ったり落ち込んだり……さっきから様子がおかしいぞ」

 草太の呆れ声に、花奈はビクッと体を竦ませた。


「あ、あの……怒ってない?」

「まあ驚いたけど、怒るってほどじゃないな」

「そ、そうですか……」

 草太の答えに、花奈はほっと息を吐いた。だが、その顔には依然、羞恥がはっきりと残っている。


 一体全体どうしてそんな表情を浮かべるのか。それは今の草太に理解できないものだ。

(戦局を見る目はあるのに、女性の機微には心底疎いのですね、ソウタ殿は……これはハナ殿も大変でしょう……)

 そんな二人のやりとりを見て、リフィアは内心花奈を憂いた。


「……でも本当に、なんでさっきはあんなに取り乱したんだ? 森園さんらしく無かったけど」

「うえぇ……もう忘れてくれると助かります……」

「なんだよ、それ?」

「あ、あの……ソウタ殿もそこら辺にしておいて、ハナ殿も反省しているようですし……」

「そうか? まあ確かに大した問題じゃないよな。……」

 リフィアの制止を受け入れた草太は、次に思案顔を浮かべた。


「どうかしましたか、ソウタ殿?」

「……いや、リフィアはこれからもずっとその呼び方なのか?」

「え?」

「俺達はもう仲間だろ? だからそんなかしこまった呼び方じゃなくて、呼び捨てでいいよ」

「……あっ、うんうん、そうだよ! それが良いと思うよ!」

 へこんでいた花奈も元気よく草太に同意する。


「あっ……で、では……ソウタ、ハナ、と……こう呼ばせて頂きます」

「おう、よろしく、リフィア」

「よろしくね!」

 か細いリフィアの声に、二人は笑って答えた。それを見て、リフィアもパァァと顔を輝かせる。


「でも、喋り方はそのまんまなんだな」

「あっ……はい。幼い頃からこの話し方なので……」

「いや、良いと思うぞ。そう言うキャラって事で」

「え?」

「いや、なんでもないです」

「……ソウタはたまにおかしなことを言いますね」

「気にしなくていいよリフィア。草壁くんの病気みたいなもんだから」

「病気とは失礼な」


 とりとめのない談笑。三人を和やかな空気が包む。

 ふと、リフィアはその中で花奈の表情に翳りがある事に気付いた。そして、直ぐにその答えに行き着く。


「……そう言えば、二人は互いの名前で呼ばないのですか? 仲間と言うのなら、それが自然だと思いますが」

「ふぇぇ!? り、リフィア何言ってるの!?」

 途端、花奈が顔を真っ赤にして取り乱す。

 が、これは友人へ向けたリフィアなりの励ましだ。このどうにも奥手な彼女がこのまま好意を示しても、草太には届かないだろう。


 彼女は余りにも遠慮がちすぎるのだ。ただでさえ難敵の草太とは相性が悪い。

 ならば、第三者が協力しなければ。


「……っああー。まあ、そうだな。リフィアの言う事は一理あるな。……じゃあ、花奈」

「っ!!」

 草太は頭を掻きながら、あっさりと花奈の名前を呼んだ。当の本人はボッと顔を真っ赤にして言葉を失っている。


「……ほら、ハナも」

 こっそりと、背後からリフィアが囁く。花奈は顔を赤らめながらも、こくりと頷いた。

「……あっ、ええっと……草太……くん」

「ん。まあ改めてよろしく、花奈」

「う、うん……えへへ~~」


(わ、わかりやすい……ソウタはどうして気付かないのでしょうか……)

 頰を緩める花奈と、それを見て何も反応を起こさない草太を見て、リフィアは内心ため息をついた。

(これはなかなか、大変な道のりになりそうです……)


「よし、じゃあそろそろ出発するか。目指すはこの森の先にある街、スード。そこで、当面の予定決めと『黒の巨人』に関する情報を集める」

「うん!」

「はい!」

 草太の言葉に、二人が力強く頷く。


「――よし、行こう!」


 こうして、ほんの少しだけ絆を深めて、三人は新たな土地に向けて足を踏み出した。

読んでくださりありがとうございます!

感想、誤字脱字報告お待ちしております!



いやぁ、まだ異世界に来てから3日しか経ってないんですよね…。おかしいな、体感的には1年以上過ぎた気がするぞ……はい、すいません。もっと頑張ります。

次の話から、いよいよ異世界で初めての街に突入します。

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