第15話 狩人と魔法使い
「【呼ぶは風・空舞いし槍・ウィンドランス】!」
花奈の詠唱とともに、幾多の風槍が射出される。
風の槍達は狙い違わず周囲に蔓延る岩の巨兵達へと突き刺さった。
脳天を貫かれた兵器は粉々になり地面に崩れ落ちる。
――しかし。
「……っ」
砕けたゴーレム達の後ろから新たなる巨兵が花奈に襲い掛かる。
「くっ! 【呼ぶは土・妨げる壁・アースウォール】!」
とっさに呪文で防ぐ。土の壁の向こうで、無数のこぶしが叩きつけられる音が響く。
先ほどから何度も同じことを繰り返している。
花奈が魔法で焼こうが貫こうが、次々と新しいゴーレムが現れるのだ。
「どうだ? こいつは魔道大国『マギアラ』特製の魔導兵だ。まだ闇市にも出回っていない代物だぜ」
ゴーレム達の壁の向こうから、ヨセフの軽薄な声が聞こえてくる。
マギアラも魔導兵も闇市も花奈には聞き覚えのない言葉だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
どうにかして、無限に湧き出すメカニズムを解明しなければ。
(なにか、秘密があるはず――)
ゴーレム達からの攻撃をさばきながら、花奈はゴーレムたちを観察する。
体格は約二メートル。フォルムは丸みを帯びていて、目を凝らすと魔法式のようなものが描かれている。
攻撃方法はどうやら殴ることだけのようだ。ビームや飛び道具が出てこないのは幸いなことだ。
「……【呼ぶは炎・赤き弾丸・ファイアボール】」
次に花奈は内部の構造を確認することにした。
ファイアボールが直撃したゴーレムが、見事に砕け散る。
その中身は、土色の物質だった。そこには表面と同じような魔法式が描かれている。
「あの魔法陣が、何か関係がある……? っ!」
じっくりと見ようとしたが、新たなゴーレムが再び花奈に襲い掛かる。
たまらず退避して、迫りくるゴーレム達を迎え撃つ。
しかし、これでは結局何も変わらない。現状を打破することはできないままだ。
――草壁くんなら、こんなこと簡単にできるのに!
花奈は自分の至らなさを嘆いた。いくら膨大な魔力があろうとも、それを効果的に使えなければ意味がない。
――私は、なんて無力なんだろう……!
自分への苛立ちと長い膠着状態で、花奈の精神は少しずつ、けれど確実に擦り減っていった。
それを、狩人が見逃すはずもなく。
「――っ!?」
がくんっ。と、突然花奈の全身から力が抜けた。
それと同時に、花奈はバーテインの話を思い出した。
――これは、ヨセフの毒!
「くっ……呼ぶは、ひか、り……」
「おーっと、そこまでだ」
「あぁっ!」
魔法で毒を取り除こうとした花奈を、ゴーレム達が抑え付ける。
地べたに組み伏せられた彼女を、いつの間にか現れたヨセフが見下ろす。
「へへっ、捕まえたぜぇ~。怖い怖い魔法使いさんよぉ」
「あっ……くぅ……」
「むだむだぁ。流石に生身の人間じゃあ、魔導兵に力で勝つことはできねーよ」
ゴーレムの下でもがく花奈を眺めながら、ヨセフは勝ち誇って嗤う。
「しっかし、見ていたけどなーんにも戦い方を知らないんだな。あんなとんでもない力を持っていながら、動きに関しては素人だ」
「……」
「守るとか救うとか言ってたけど、お前じゃあそれは無理だな。――お前は強くない」
「っ!」
自分の非力さと無謀さを目の前に突き付けられ、花奈は悔しさのあまり唇を噛む。
ヨセフの言葉は正しい。
まだこの世界に来て、この力を使い始めて二日しか経っていないのだ。それなのに正しい使い方を知らないまま、正しい在り方も知らないまま、強大な力があればなんとかなると思っていた。
なんと愚かなことだろう。
ほんの少し前まで、自分はただの学生だったというのに。
「……だが、お前が力を持っているのも事実だ。……だから、利用する価値がある」
「なに……を……」
急にヨセフの声音が変わり花奈は思わず身を竦ませた。
「予定変更だ。殺すつもりだったが、お前のそのばかみてーな魔力は俺たちの目的のために必要だ。だから、お前はこのままカブール様のもとに連れて行く」
「うそっ……」
思わぬ言葉に、花奈は低く呻いた。
そんなことになったら、草太やリフィアと離れ離れになってしまう。
――それは嫌だ。それは、それだけは嫌だ。
「やめ、て……」
か細い声で、懇願する。
しかしその声、その思いが届くはずもない。
「無理だね。こちらも後がない身なんでな」
淡々とヨセフは答える。その表情は先ほどと同じ軽薄なものだったが、有無を言わさぬ迫力があった。
「いや、だ……いやだ……!」
「わがままな魔法使いだな。……ったく、そろそろ黙ってもらおうか!」
「っっ――!」
ヨセフが自らの足を振り上げる。
直後に来る衝撃のために、花奈はぎゅっと目を瞑った。
……
…………
……………
しかし、いつまでたっても花奈は痛みを感じなかった。
「……?」
不思議に思い目を開くと、何故かヨセフは花奈ではなく全くの反対――後ろを向いていた。
同じ方向に目を向けた花奈の目に映ったのは、弓を構えたエルフの少女――リフィアだった。
「離れなさい、外道。ハナ殿には触れさせません」
「おーおー勇ましいなあ。さすがエルフって奴は誇り高い」
リフィアの忠告に、ヨセフは見下したような笑みを返す。
「にげ……て……」
それは、花奈が呻くと同時だった。
リフィアが、花奈を見て優しく微笑んだのだ。
安心して下さい、とリフィアの声が聞こえたような気がした。
「そんじゃま、魔法使いちゃんのついでにエルフも一匹ぐらい持って帰ってやるかな!」
ヨセフが懐から輝く宝石を取り出した。
握られた宝石は淡い赤色の光りを放つ。
途端、複数のゴーレムがリフィアに襲いかかった。
「【雷閃弓】!」
目にもとまらぬ弓の連射で、リフィアは次々とゴーレムたちの頭を打ちぬいていく。ゴーレム達を射抜いた矢は、威力を落とすことなくヨセフに向かう。
「おっと」
ヨセフは難なくそれを避け、放たれた矢は彼の後ろへと飛んで行った。
「流石にあなたまでは落とせませんでしたか」
そう言いながら、リフィアは砕けたゴーレムを踏みつぶした。
砕け散ったゴーレムの上に立つその姿は、まさに熟練の狩人そのもの。
そんな彼女を見て、ヨセフが口笛を鳴らす。
「ヒュ~。なかなかやるじゃねえか。雑魚だと思って侮っていたな」
「……」
ヨセフの軽い物言いにリフィアは答えることなく弓を構え続ける。
「そんなつまらねえ顔すんなよ、楽しくねえなあ」
「……勝負に楽しいもつまらないもありません」
そう言って、リフィアは矢を放った。
「っとお」
「っ!」
しかしヨセフは難なくその矢を避ける。その様子に、リフィアはほんの少しだけ目を見開いた。
「……どうしてって顔だな」
「……」
無言を貫くリフィアに、ヨセフは構わず語り始めた。
「俺は別に格闘術が得意なわけじゃない。普段は物陰から人を殺すようなこっすい戦い方しかできねえ。けどな、お前らを相手にすることに関してだけは別だ」
「どういう……ことです」
リフィアの問いに、ヨセフはにぃっと口角を吊り上げた。
「俺は、生まれた時からお前らを狩るための訓練を受けているのさ」
「……なに……を」
その言葉に、リフィアは顔を青ざめさせ、声を震わせた。
そんな彼女の様子を見て、ヨセフは更に楽しそうに語る。
「俺の家の専売特許が、エルフ狩りってだけだがな。お前も知っているだろ? エルフ達は奴隷としてとても人気ってことぐらい」
「……」
「そんな家の跡取りになっちゃったもんだからさあ大変だ。毎日が訓練の連続。エルフの生態、エルフに有効な毒の作り方、エルフの行動規則、エルフの戦い方、エルフの性格……ま、本当に色んなことを学ばされた訳だ。実戦形式でな」
「っ!」
最後の言葉に、リフィアは息をのんだ。
それは。その言葉が意味するのは――
「ああそうさ! 俺は何千ものエルフを殺し、そうして誰よりもエルフを殺すのが上手くなった! 誇りを守ろうとして無残に死んでいくあいつらの顔を見るのは、何回やっても飽きねえ! 最高の娯楽だ! あーはっはっはっはぁ!」
「…………きさまああああああ!!!!!」
眦を吊り上げ、リフィアは弓を放つ――
「そして、お前らが一番怒る方法も知っている」
その直前で、リフィアの後ろからゴーレムが現れた。
「なっ!」
あっという間に捕えられ、その拍子に弓も落としてしまった。
「残念だったな、森の狩人。お前は結局、人を狩ることはできない」
「ぐっ……」
「エルフじゃあ人様に勝てないってことだ! 大人しく俺達のために奴隷になっていれば良いんだよ!」
「ちがう……私達は、エルフは……」
「何も違わないさ! お前らは無力だ! いつまでも人のいないところに引きこもって、ただ静かに暮らすだけ。それを誇りだ何だで無理やり肯定して、臆病な自分たちを隠しているだけだ!」
「エルフは、そんな……」
「怒りで周りが見えなくなる! 他人の声が聞こえなくなる! 人を悪だと決めつける! どうしようもないほどの劣等種だよなぁ!」
「あ、あああ……」
ヨセフが嗤い、リフィアが呻く。それは、この世界の縮図でもあった。
エルフは狩られる対象。何百年も紡がれてきた負の歴史。
そのことが、リフィアはただ悔しかった。
――私達は、いつまでも人に襲われることに怯えなければいけないのか。人の悪意に従って生きるしかないのか。エルフと人は分かり合えないのだろうか。
ぐるぐると、悲しい思考が渦巻く。
目の前で笑うヨセフに反論したくてもできない自分が嫌になる。草太にあんなことを言っておいて、無残に負ける自分が嫌になる。
――私達は、本当に劣等種なのだろうか
「――それは違います」
絶望に俯くリフィアの耳に、澄んだ声が届いた。
「――あぁん?」
「リフィアは――エルフは奴隷になるべき劣等種なんかじゃない。だって、リフィア達は私達と同じように笑えるんですから」
「……てめぇ、どうしてあの拘束が解けた」
「リフィアの【雷閃弓】のおかげです」
「はぁ?」
「リフィアの撃った矢が、私を抑えつけていたゴーレムを倒してくれました。そして時間を稼いでくれたおかげで、自分に解毒の魔法をかけることもできました」
「……そうかい。それで? どうするつもりだ? お前はまだ俺に勝てると思っているのか?」
ヨセフは嘲笑する。先程まで無様に組み伏せられていた少女に何が出来るのかと。
けれど。
「――はい」
答える彼女の声は、瞳は、そんな嘲りをものともしない、毅然としたものであった。
「――はっ。ならやってみろよ。強さを示してみろ。このエルフを、この集落を救いたいって言うのならなぁ!」
ヨセフは、目の前にいる少女、花奈に向かって叫んだ。
「――【ウィンドランス】」
「なにっ!?」
そんなヨセフに、ノーモーションで魔法が放たれた。
咄嗟に躱したが、ヨセフは目を見開いて花奈を凝視する。
「魔法の詠唱破棄……だと……てめぇ、そんな芸当ができたのか」
詠唱破棄。それは、魔法に長く通じ、魔法を真に理解した者だけが成し遂げられる高等技術だ。
この詠唱破棄を行うには、自らの魔法に研鑽を重ね、長年の努力をしなければならない。
それだと言うのに。
「いえ、たった今やってみました。だって、いちいち詠唱していたら間に合わないですから」
「なっ……くそ、本当に大した化け物だよな……」
花奈の発言にヨセフは絶句する。が、やがてやるせない笑みを浮かべる。
「本当に、末恐ろしい魔法使いだ……だからこそ、ここでなんとかしておかなきゃなぁ!」
ヨセフが手に持つ宝石を掲げる。四方八方からゴーレム達が花奈に襲いかかる。
「【エアパレス】」
対して花奈は今度も無詠唱で風の結界を張り、魔導兵達の攻撃を弾く。
そして、彼女は新たなる呪文を紡ぐ。
「【呼ぶは水・自由奪う氷鎖・アイスバインド】」
花奈の詠唱が終わると、ゴーレム達が足元から凍りついていく。
「ちぃっ」
ヨセフはその光景を見て舌打ちをこぼした。
初級水系補助魔法【アイスバインド】。攻撃性は低いが、相手の全身を冷やし、動きを鈍くして拘束する魔法だ。
「まだ他の魔法が使えたのか……しかも、初級の魔法とは言え十数体のゴーレムを一度に封じ、俺自身も拘束しようとするとは……おまけに」
「……」
「囚われたエルフも助けちゃうときた」
凍らされたゴーレムから解放されたリフィアが、再びヨセフに弓を向ける。
しかし、それでもヨセフは余裕な態度を崩さない。
事実、花奈の狙いはヨセフが新たに取り出した何かの魔法道具で防がれた。リフィアは必中の距離で弓を構えているのにも関わらず、ヨセフに矢を当てられる気がしなかった。
自信に満ちた声で彼は語る。
「……だが、それでどうなる? 気づいてると思うが、この魔導兵達の能力は無限増殖だ。この魔法石を壊さない限り、お前達は死ぬまでこの土塊達の相手をすることになるぞ」
ヨセフはそう言いながら、魔法石を懐にしまった。
自分を倒さなくてはこの石を壊せない。自分に辿り着くためには、ゴーレム達をかいくぐらなければならない。
そうやって、二人を試す様に。
「私はもう、この魔導兵達の秘密に気付いています」
しかし、花奈は決然と言い放った。
「なにぃ?」
「この魔導兵達の能力は無限増殖じゃなくて無限再生。何度壊されても時間が経てば復活する仕組みです」
「何を根拠に……」
「抑えられている間、リフィアを捕まえた魔導兵が彼女の足下の欠片から復活するのを見ました」
「っ!」
花奈の言葉に、ヨセフが顔をしかめる。
「さっきまでの戦いで、魔導兵達が際限なく攻撃してきたのは、再生するところを見せない様にするため」
花奈の言葉に、ヨセフは何も答えない。
それは、無言の肯定であった。
「きっとあなたはこのまま消耗戦に持ち込みたかったのかもしれませんが、そうはさせません」
「……本性を暴いたところでどうなる? 無限に再生するこいつらを、どうやって止めるって言うんだ?」
「止めるだけなら、私にだってできます。だって、まだその戦い方しか知らないから」
「なにぃ……?」
花奈の言葉に、ヨセフはさらに顔をしかめる。
一方花奈は表情を変えず、ヨセフの後ろで弓を構えるリフィアに言う。
「リフィア、一旦上空に離れて。そして、そこから私を援護して」
「……はい! 【風舞脚】」
リフィアは即座に花奈の指示に従った。
今この瞬間、確かに二人の心は通じ合っていた。
「……なにをする気だ?」
「見ていればわかります。あなたも、早めに離れたほうがいいですよ」
静かに語る花奈を、ヨセフは鼻で笑い一蹴する。
「笑わせるな。あんなに何度も大規模な魔法を使ったんだ。お前にはもうほとんど魔力なんて残って――」
「【魔力即時回復】」
ヨセフの言葉を遮って、花奈は一つの呪文を唱える。
花奈の体から膨大な量の魔力が溢れ出し、その奔流がヨセフの体を叩く。
「な、にぃ……!」
それは、彼女しか持たない、唯一にして絶対の魔法。
「魔力を回復する【唯一魔法】だと……! てめぇ、そんな力まで持ってるって言うのか!」
「【呼ぶは水――】」
花奈の足元から冷えきった空気が漂い始める。
それを見たヨセフが宝石を掲げる。
「【遍くを凍て・万物を封じる牢獄――】」
花奈は精神を集中させ、呪文を綴る。
ゴーレム達が彼女へと向かう。
「【万象に静謐を・咎人に永久を与えよ】」
花奈に向かったゴーレム達は、その一歩手前で、上空からのリフィアの矢によって一体残らず砕かれる。
「ちいっ!」
全てを悟って、ヨセフは花奈から距離をとる。
そして、今、魔法は完成した。
「【イモータル・クリスタルプリズン】!」
キィィィィンと、夜空に澄み切った音が響き渡った。
花奈の周囲に、白い霧が漂う。
花奈を取り囲もうとしていたゴーレム達は一体の例外もなく、全てが完全に凍らされていた。
命のない巨兵たちが閉じ込められた氷の彫像は、この世のものとは思えないほど不気味で、そして言い表せぬ美しさに満ちていた。
最上級水系攻撃魔法【イモータル・クリスタルプリズン】。超広範囲を一瞬で凍結させる凄まじい威力の魔法だ。
ドリの村で草太と一緒に一晩中グリモワールを眺めていた時、花奈はたまたま見つけたこの魔法を、すぐに覚えようと決めていた。
――理由は、単に草太が「かっこいいな、これ」と言ったからだ。
いかにも花奈らしい、不純で純粋な動機だが、この状況においてこの魔法は最適解だった。
「嘘だろ……自力で魔力を回復した後に、最上級の魔法を使うなんて……どんだけ馬鹿げた力だ……!」
呆然とヨセフが声を漏らした。花奈はニッコリと微笑む。
「これならもう再生できませんよね。だって、壊してませんから」
「くっ……」
その微笑みはヨセフにとって、美しくも悪魔の様な微笑だった。
「【アイスバインド】」
そして、唖然とするヨセフに、花奈は無詠唱で束縛を掛けた。
両手両足を縛られ、ヨセフはその場に崩れ落ちる。
リフィアが降りてきて、心配そうに花奈に駆け寄った。
「ハナ殿、無事ですか!?」
「リフィア、大丈夫だよ。そっちは?」
「は、はい。全く問題ありません……しかし、凄まじい魔法でしたね……」
「えへへ……魔法だけは、草壁くんにも負けない自信があるんだ」
花奈は照れ笑いしてヨセフを見た。
「あなたはこのままここでじっとしていてください。…それで、全てが終わったら、ちゃんとエルフの皆に謝ってください」
「……ハッ、お前は人族だろ? なんでエルフなんかに加担するんだか。仲良くなるなんて、到底無理な話だぞ」
「……わかりません」
「は?」
花奈の答えに、ヨセフは口を開けた。
「私には、人族とエルフの確執なんてわかりません。そんなことは関係ないんです」
「……頭がいかれてるとしか思えねぇな……」
「私は自分の気持ちに正直に生きるって決めたんです。――いつ死ぬのか、わからないですから」
「……なるほどな。未熟者らしい、正しい考えだ。……ったく、これだから嫌になるぜ」
花奈の答えに、ヨセフは一瞬目を見開き、やがて諦めたような、満足したような笑顔で言葉を漏らす。
「近い未来、世界にその名を轟かせるであろうお前に、最後の忠告だ。人を拘束する時は、口も使えない様にしろ」
「……え?」
「でないと、こうなる」
その言葉と共に、ヨセフはガリっと奥歯を噛んだ。
「黒の巨人に、栄光あ……れ…………」
そして、どさりと倒れた。
呆然とする花奈をよそに、リフィアがヨセフに駆け寄った。だが、すぐに首を振る。
「……駄目です、死んでいます。……証拠隠滅用の毒でしょう」
「そ、そんな……」
「……ハナ殿が落ち込むことはありませんよ。この男は襲撃者です。生きていても……我々が後で処刑していたことでしょう」
「で、でも……」
花奈は、さっきまでの落ち着きが嘘の様に目を泳がせる。
誰かが死ぬところを見るのは、初めてだったのだ。
「……今はこの男よりもソウタ殿です。行きましょう」
「う、うん……」
リフィアは動揺する花奈の肩に手を置いて、優しく語りかけるのだった。
読んでくださりありがとうございます!
感想、誤字脱字報告お待ちしております。




