第13話 夜の攻防
1年過ぎぶりの更新。
待っていてくださった方々、申し訳ありませんでした。
リフーリは、突然の事態に混乱の渦にのまれていた。
「はやく! 弓と矢をありったけ持ってこい! 水系統の精霊と相性がいいものは率先してレッドワイバーンの撃退に当たれ!」
「レッドワイバーンはまだ攻撃はしてきていない! だが油断するな!」
「バーテインはどうした!? いったいどこにいるんだ!?」
「他に魔物がいないか確認を取れ!」
エルフたちの間で、数多の声が錯綜する。皆、話にしか聞いたことのないワイバーンの姿に、パニックになっているのだ。
そんなエルフ達を、ワイバーンは悠然と見下ろしている。
だが、その黄色い双眸はここにいるエルフを一人も逃がす気はないようだ。
そしてエルフの一人が、ついにレッドワイバーンへ弓を向けた。
「落としてやる! 【零氷弓】!」
氷を纏った矢がかなりの速度でレッドワイバーンへと向かう。
――しかし。
「何!?」
レッドワイバーンは完全に矢を見切り、その巨体を少しずらすだけで回避した。
「見えているのか……!?」
「馬鹿な……」
エルフ達にさらなる焦りと驚愕が生まれる。ただ呆然と頭上の巨大な脅威を口を開けて見ることしかできない。
「な、ならばもっと近づいてから――!」
そう言って、他のエルフが足に風の精霊の加護を受け、空へ浮かび上がりレッドワイバーンへと向かう。
「ゴアアアアアアアアアア」
「!?」
しかし、そのエルフへ向けて、ワイバーンがその顎を開く。
そこは、煌々と赤く燃えていた。
――ドラゴン種最大の攻撃、ブレス。
「くっ!」
咄嗟にエルフは身を捻り、なんとかワイバーンのブレスを交わした。
絶大の威力を誇る龍のブレスは、そのまま森へと向かい、木々を燃え上がらせる。
「なんという……化け物……!」
絶望の表情で、地上のエルフがぽつりと呟いた。
その陰で、また一人、エルフが狩人の餌食となる。
「六匹め~。いい調子じゃないですかぁ、ラクセンの兄貴~」
「ああ、そうだな。だが、まだまだ足りない。さっさと次に行くぞ」
「了解了解」
女エルフに毒針を刺したヨセフがニヤニヤといやらしく笑い、先にスタスタと歩き始めたラクセンの後を追う。
ラクセンはそんなヨセフを少し呆れた目で一瞥した。
「お前は、どうして任務となるとそんな軽い感じになるんだ? そのおちゃらけた雰囲気はあまり好きではないな」
「へへへ、そんなこと言わないでくださいよラクセンの兄貴。こっちの方が調子が出るんですって。カブール様の前ではさすがにかしこまりますけどねぇ」
ヨセフはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。そんな彼にイラっと来たラクセンは、うんざりとした口調で言った。
「カブール様には、お前の猫かぶりは気づかれているみたいだがな」
「え!? それは嘘でしょう!? うまくやってきていたのに!」
効果は覿面だった。ヨセフが目に見えて慌て出し、隠密行動中だというのに大きめの声を出す。
その様子に満足したラクセンは、「嘘だ」と一言言って、再び物陰に潜む。
「ラクセンの兄貴も人が悪いですよ」
「いいからさっさと隠れろ。また一匹来そうだぞ」
ヨセフが不満げにぼやくが、ラクセンは視線を前方に向けたままヨセフを物陰に引っ張った。
「おまえの力がないと、簡単にはエルフを捕まえられないからな。この時ぐらいは仕事に徹しろ」
「はいはい、わかりましたよぉ〜」
いまいち締まらない返事をするヨセフに目を眇めた後、ラクセンは新しく二人の前を走り抜けようとするエルフを見据えて、チチッと舌を鳴らす。
すると暗闇の中から小さな生き物達が何匹も現れ、前方のエルフに掴みかかった。
「なっ!? なんだこいつらは!? だ、だれか――ッ!」
エルフがいきなりの来襲に驚きの声を上げる。慌てて振り落とそうとするが、既にがっしりと腕や足をつかまれ抵抗できない。
助けを呼ぼうにも、その口は複数の手の平によって完全に塞がれてしまった。
今エルフを襲っているのは、群猿と言う魔物だ。その名の通り群れで行動し、素早い動きで旅人を翻弄し荷物を奪う。
基本的に人を襲っても本人を攻撃する事はなく、危険度はそれほと高くない。
だが、今回の様に明らかに人を襲うために調教されていると、あっという間に主導権を握られてしまう。
さらに言えば、エルフは基本的に弓と精霊魔法で戦うため、近接戦闘は得意ではない。
焦り戸惑いながらも、なんとか猿達を引き剥がそうともがくエルフ。だが、彼の動きは突然止まった。
彼の動きを止めたのは、バーテインもくらった、ヨセフ特製の麻痺毒が塗られた吹き矢だ。即効性にすぐれ、助けを呼べなくするために舌まで麻痺させるいやらしい効果を持つ。
ラクセンの魔物で翻弄し、疲弊させ、ヨセフの毒で動きを完全に止める。これが、二人の「狩り」のやり方だ。
「……よし、七匹目だな。もうほとんどのエルフ達は中央の広場に集まっているだろうし、俺達も向かうぞ」
「りょうかいでーす」
ヨセフの気の抜けた返事に、ラクセンは吐き出そうとしたため息を必死に抑えた。
草太達がリフーリの中央広場に辿り着いた時、そこは悲惨とは言わずとも地獄絵図に近い状態であった。
地面には、血の流れ出る腕や足を抑えて横たわるエルフ達。
そしてそんな彼らの姿に戦う気力を失い、わなわなと震えながら立ち尽くす他のエルフの住人達。その中には泣き叫ぶ子供までいる。
そしてそんな彼らを悠々と見下ろしながら、上空に居座る紅色の巨体。
「ひどい……」
そんな惨状を目にし、リフィアが呻いた。カイとバーテインは声も出せずにただ立ち尽くすのみだ。
「……とりあえず、怪我をしている人達と、戦えないエルフ達を安全な場所に避難させよう。俺と森園さんで周囲を警戒してるから、その間にカイとリフィアは避難誘導、バーテインは戦えるエルフ達を集めて事情を説明してくれ」
「「はい!」」
「……わかっている」
打てば響くような返事をする二人とは対照的に、バーテインは不満そうに頷いた。憎んでいた人族に命令されるのが複雑なのだろう。
そこに何かを言ってはまた面倒な事になりそうなので、草太は何も言わなかった。
代わりに、大急ぎで地面に召喚用の魔法陣を描く。
「森園さん、しっかりと見張っていてくれ」
「うん、わかった」
花奈がはっきりと返事をする。これなら安心して背中を任せられそうだと、草太は安心した。
「【出でよキット・我が魔力を糧に・ここに顕現せよ・コールメイト】」
「んにゃ! ……これはまたなんだか大変なことになってるにゃ。ご主人、何をすればいいのかにゃ?」
草太の詠唱が終わるとともに、魔法陣が光り輝き、一匹のケットシーが顕現した。
知能の高いキットは、ぐるりと辺りを見渡して大体どのような状況なのか理解したらしい。
「ああ、お前にはあのレッドワイバーンを操っている奴らを見つけてほしい。見つけたらすぐに俺に知らせてくれ。無理はするな」
草太がレッドワイバーンを指さすと、キットは顔をしかめながらも頷いた。
「レッドワイバーンとはまた厄介な魔物だにゃ……。わかったにゃ! すぐに見つけてやるにゃ!」
キットはドン、と胸を叩くと、とてとてと暗闇の中へ走り去った。
「……さて、こっからどうするかなぁ」
頭上のレッドワイバーンは、攻撃する意志がないのか、空中に留まるのみだ。しかし、こちらからの攻撃も当てることは出来ないだろう。草太は、ここに来るまでに、エルフ達の矢が一本もレッドワイバーンに当たらなかったのを見ていた。
(魔法なら……いや、精霊の力を受けたエルフの矢が当たらないなら、魔法も避けられるか……まずはあいつを地面に落とさないとダメだな)
草太は冷静になるように務め、思考を巡らせる。下手な行動を取れば、自分の命が終わりを迎えてしまう。
そして、花奈やリフィア達エルフも無事では済まない。そうならないために、最善の、安全な戦い方をしなければならない。
「……バーテイン! 戦える奴はどれくらい残ってるんだ?」
「……30人ほどだ」
「30人……なら、ぎりぎりで囲めるか……? バーテイン! ほかのエルフ達に、レッドワイバーンを中心に円形になるように伝えてくれ! それと、すぐに攻撃もできるようにしておいてくれ!」
「…………お前の作戦で倒せるんだろうな?」
バーテインは草太に問う。焦燥と疑いが混じった瞳が、草太を試すかのようにまっすぐと向けられていた。
草太はそれを弾くように、あるいは飲み込むかのように不敵な笑顔を作った。
「お前達が死ぬ気で頑張れば倒せるよ。急いでくれ」
草太の答えにバーテインは「チッ」と舌打ちしながらも素早く指示を出し始めた。
草太達がレッドワイバーンに対抗するために行動を起こし始めた頃。狩人の2人は物陰から様子を伺っていた。
「あっ! ラクセンの兄貴、あいつらですよ! カイの『奴隷化の首輪』を解除しやがったのは!」
「わかっている。そう大きな声を出すな」
草太と花奈の姿を見つけたラクセンが咄嗟に声を上げ、それをヨセフが諌めた。
「だってあいつらこそが諸悪の根源じゃないですか! あいつらがいなければ今更こんなめんどくさい事しなくて済んだのに!」
「お前の気持ちは確かにわかるが、今は落ち着け。俺達は隠れてるんだぞ、見つかったらどうする気だ」
「ぐぬぬ……」
いかんせん緊張感のない様子のヨセフに、ラクセンは今日何度目かわからないため息をついた。
「それでどうします? このまま隠れていて様子を見ますか?」
「それがいい。あの2人の力は未知数だ。何が起きるかわからないこの状況で、迂闊に動くのは不味い。……それに、俺達にはもうあとがない。ここは、慎重に行くべきだろう?」
「ですねー……けど、このまま隠れていてもしょうがなく無いですか? 今はあいつらがレッドワイバーンに集中しているからいいですけど、何もしないままだといずれすぐ見つかっちゃいますよ」
「わかっている。まあそう慌てるな。俺達にはアレもある」
「……ま、そうっすよねー」
ラクセンの言葉に、ヨセフはニヤリと不気味に微笑んだ。
そんな2人を、物陰から見つめる小さな影があった。
(やばいにゃ……絶対にあいつらが今回の犯人だにゃ……)
震えながら、キットは注意深くラクセンとヨセフの様子を見ていた。
草太に探索を命じられたキットは、思っていたよりも早く2人を見つけた。見つけてしまった。
戦う力のないキットは、まだ心の準備ができていない状態だった。
しかし、ここで何もしないのは召喚獣としてのプライドが廃る。
(震えている場合じゃないにゃ……ご主人に早く知らせないとにゃ……)
キットは、震える足を1歩ずつ後退させ……。
パキッ。
物の見事に、足元の小枝を踏んでしまった。
「にゃっ!?」
「誰だ!?」
「群猿、行け!」
音に気付いた2人が、素早い反応を見せる。
キットの周りを群猿が囲み、一瞬で小柄なケットシーの四肢を拘束した。
「なんですか? このネコの魔物」
「さあな。もしかしたらあの人間のどちらかが俺と同じ魔物使いなのかもしれない」
群猿に抑えられたキットを眺めながら、ヨセフとラクセンはそんなことを話し始めた。
「にゃ! は、離すにゃー!」
自身が全く警戒されていないことに気付き、キットが声を上げる。
「……ほう。人語を話す魔物とはな。知能はかなり高い様だ」
「ほえー。喋れる魔物なんているんですねー」
「それぐらい知っておけ」
「だって俺は魔物使いじゃありませんし」
が、キットの反抗も彼等の話の種にしかならない。
(オイラはやっぱり無力だにゃ……!)
彼は顔を顰め、自らの非力さを呪った。
その頃、夜空に悠々と浮かぶ赤い龍を落とすため、エルフ達が動き始めていた。
「レッドワイバーンを中心に円形になってくれ! 時間が無いから素早くな!」
草太の指示の元、渋々と言った様子でエルフ達が移動する。
「森園さんは、最速の魔法を放てるように準備しておいてくれ!」
「うん、わかった!」
「カイとリフィアも他のエルフ達と一緒に行動してくれ」
「「はい!」」
緊張で早くなる鼓動を抑えて、素早く指示を飛ばす。
(絶対に成功させなきゃいけない……でも、もし……失敗したら……)
エルフ達や、花奈の命が自分の肩にのしかかるのを、はっきりと感じ
る。
それ故に、どうしても嫌な未来像が浮かんでしまう。
(駄目だ、俺がしっかりしないと……)
呼吸が浅くなり、視界が暗くなっていく。必死に平静を保とうとして、更にパニックになってしまう。
(くそっ、くそっ! 落ち着け! 落ち着け!)
「草壁くん!」
混乱状態の草太の耳に、花奈の力強い声が届いた。
花奈が、「大丈夫」と頷く。
炎に照らされる彼女の足は震えていて、彼女だってこの状況に怯えているのが分かる。
それでも、花奈は草太を落ち着かせるために、声をかけたのだ。声をかけてくれたのだ。
(……助けられてばっかりだな)
少し自嘲して、草太はレッドワイバーンを見据える。
「さっさと落としてやるからな。待ってろよ」
彼の表情に、もう緊張は無かった。
「皆、位置についたな! それじゃあ、俺が合図したら一斉にレッドワイバーンに向けて矢を打ってくれ!」
「そんな単純な方法で、奴を落とせるのか!?」
一人のエルフが草太に向かって声をあげる。
「あいつの図体なら、大量の矢を全てかわし切ることは出来ないはずだ。万が一炎で迎撃してきたら、俺が壁を作ってお前達を守る!」
「お前を……人族を信用しろと言うのか!?」
他のエルフが悲鳴をあげる。
仇敵に命を預けろと言うのだから、その反応は最もだ。
――しかし今この場で、そのわだかまりは邪魔にしかならない。
「……お前達が、俺達を信用できないってのはわかる。……でも、信じて欲しい。俺は、こんなピンチの時にお前らを騙すようなことはしない。…………一緒に、あいつを倒そう」
「……っ!」
その瞳、その口調に草太が嘘を言ってないと感じ、エルフ達が息を飲む。
「……今は、いがみ合っている場合ではない。……人族、お前の指示に従おう」
そんな中、エルフの長が重々しく口を開いた。
バーテインは眉間に皺を寄せながら、淡々と矢を放つための準備を進めている。
「バ、バーテイン……」
「お前達も早く態勢を整えろ。間に合わなくなる」
バーテインの有無を言わさぬ圧力に、他のエルフ達は何も言えなくなった。
その様子を見て、草太はほっと息を吐いた。
(なんだかんだ言って、バーテインの影響力は大きいんだな)
出会ってから良いとこ無しだったが、バーテインにも長に選ばれるだけの理由や実力があるのだろう。
リフーリのエルフ達にとって、バーテインは精神的支柱なのだ。
そんな彼の言葉なら、エルフ達も従ってくれる。
そして、人間を嫌っていたバーテインが少しだけでも草太を信じようとしてくれていることは、とても重大なことだ。
(……いつか、エルフと人が分かり合える時が来ると良いな)
着々と準備を進めるエルフ達を見て、草太はそんなことを思った。
「……よし、じゃあ始めよう。……ワイバーン狩りをな!」
全員の準備が整ったのを確認して、草太は口を開いた。
「作戦はありきたりだけど、囲ってからの一斉射撃だ。いくらレッドワイバーンが一人一人の矢を避けられるとしても、何十もの矢を避けることは出来ない筈だ」
「避けることは出来なくても、防ぐことは出来るのではないか? 奴にはブレスが有る」
草太の作戦に、バーテインが首を捻る。
「ああ、確かにブレスは脅威だ。でも、見た感じだと連続で撃てるものでもないみたいだ。だから、その隙を狙う。矢を放つのは二段階に分けて、奴がブレスを撃った直後に第二波で確実に仕留めよう」
「……よし、了解した。放つ矢は最速の物であればいいな?」
「ああ、威力は二の次で良い。あいつを地面に落とせれば、後は俺と森園さんで止めを刺す」
草太の言葉に、全員が一斉に頷いた。
それぞれが地上からレッドワイバーンを囲むように立ち、上空に留まる亜竜を睨む。
レッドワイバーンも、その視線に答えるかのように、口角を釣り上げた。
「……よし、行くぞ!」
『『『疾風弓!!!』』』
バーテインの声を合図に、エルフ達が一斉に矢を放った。
最速の矢、【疾風弓】。威力は低いが、その速度は、それまで余裕の表情だった竜の眼を見開かせるほどのものだ。
「ガァ!」
短い唸り声をあげて、レッドワイバーンは咄嗟にその矢をかわしていく。
しかし、最速の矢は途切れることなく、その巨体に向かって飛んで来る。
第一陣が弓を撃っている間に、第二陣が攻撃の準備をする。
ローテーションを組んでとめどない攻撃をすることが、上空にいる強大な敵を倒すために、草太が出した作戦、その第一段階だ。
無数の矢が飛来し、レッドワイバーンの体に少しずつ傷を負わせていく。
「グルゥウウウアアアアアアアアアアアアアア!!」
苛立ったレッドワイバーンの口腔が赤く煌めく。
「! ブレスが来る! 森園さん、呪文の準備を!」
「うん! 【呼ぶは土・妨げる壁・アースウォール】!」
草太の指示で、花奈が素早く呪文を唱えた。すると、エルフたちの足元から土がせりあがり始め、やがて彼等を覆う程に巨大な土の壁が出来上がった。。
中級土系防御魔法【アースウォール】。その名の通り分厚い土の壁で相手の攻撃を防ぐ魔法だ。
「みんな、その壁の陰に避難してくれ! 大丈夫だ、森園さんの魔法なら絶対にブレスを防ぐことが出来る!」
「く、草壁くん……」
草太の言う通りに、エルフ達は壁の陰に隠れ、身を小さくした。
次の瞬間。
「ァアアアアアアア――!!」
レッドワイバーンが、灼熱のブレスを解き放った。
亜竜から放たれたそれは、勢いを落とさずに地上へと向かい――
土壁にぶつかった。
壁の向こうからもわかる熱量に、エルフ達が縮み上がる。
が、しかし。花奈の作り上げた壁はびくともしない。ただそこに立ち、竜の必殺攻撃を防ぎ続ける。
それはまるで、難攻不落の要塞であった。
「すごい……」
一人のエルフが、ポロリとそんな言葉を零した。
そんな様子を見て、草太は満足そうに頷いた。
「よし、余裕で防げそうだな。これならいける。バーテイン、カイ! 準備は良いか?」
「はい!」
「当たり前だ」
そして、別の場所で待機していたエルフ達に声をかけた。
そこに居るのは、リフーリの中でも指折りの名手達だ。
レッドワイバーンの隙は一瞬、その一瞬のチャンスを生かすことが出来るように、草太がバーテインに選んでもらったのだ。
少数精鋭による止め。これが、作戦の第二段階だ。
――ワイバーンのブレスが、終わる。
「今だ! 行け!」
「「「「「「「【疾風弓!!】」」」」」」」
草太の声を合図に、バーテイン達が矢を放った。
「ガァッ!?」
予想外の攻撃に、レッドワイバーンは躱しきることが出来ず。
――片翼を射貫かれた。
「ガ、ガァアアアアアアアアアアアア――!」
片方の翼を失ったことで、レッドワイバーンはバランスと飛行能力を失い、叫び声を上げながら、地上へと真っ逆さまに落ち始める。
数秒後、轟音と共に亜竜の体が地面に激突した。
「おいおいまじかよ! あいつらレッドワイバーンを落としましたぜ!?」
一連の攻防を見ていたヨセフは目を丸くし、同じく隣で見ていたラクセンを揺さぶる。
「見ればわかる、揺らすな。……しかし、予想外の事態だな……どうするか……」
「これはもうアレを使うしかありませんよ! アレを!」
「わかっている! だがアレはを使えば……」
「なりふり構っていられないですよ! やりましょう!」
二人がそんな会話をする後ろで、キットは依然として何も出来ずにいた。
(ご主人は流石だにゃ……竜種に立ち向かって、しかも攻撃を当てるなんて……それに比べればオイラなんて……)
暗い感情がキットの中で渦巻く。
落ちこぼれ、役立たず、戦力外。
召喚されるたびに、非力なケットシーはそう蔑まれてきた。
戦う力はなく、少し賢いだけの最弱な魔物。
(結局オイラはご主人の力になんてなれないんだにゃ……)
――お前の知能は、立派な武器だよ。その武器で、俺たちを助けてくれないか?
「っ!」
諦めかけたキットの脳内に、不意に草太の言葉が蘇った。
(そうだにゃ、ご主人はこんなオイラを受け入れてくれたにゃ。オイラを認めてくれたんだにゃ。オイラに期待してkれたんだにゃ。――ご主人を裏切る訳にはいかないんだにゃ!)
目を見開き、キットはその頭をフル回転させる。
考える、考える。どうすればこの状況を打破できるか。どうすれば草太に敵の居場所を伝えられるか。
口はふさがれ、手足は抑えつけられている。身動きは取れない。けれど、頭を動かすことは出来る。
(オイラは猫の頂点にして最も賢く、最も旅好きの魔物……ご主人への恩はきっちり返すのがオイラの役目だにゃ!!)
キットは覚悟を決め、じたばたと群猿たちの中で暴れ始めた。
「キキっ、キィキィ―!」
そんなキットの様子を見て、群猿達がおかしそうに鳴く。完全にキットを見下しているのだ。
だが、今はそれが好都合。
もがいたおかげで、口を抑えつけていた手が少しずれた。
その瞬間、キットは大口を開いて――
ガリッ。群猿の手に噛みついた。
「イギャアアアアア!!」
突然の痛みに、群猿は思わずその手を離した。
――今だにゃ!
「ご主人! 広場の西、植木の陰だにゃ!! そこに居るにゃ!」
小さいからだを目いっぱい使って、大声を上げる。
きっと届く。キットの心にあるのは、たった一つの信頼。
――草太なら、ここに来てくれる。
「……っこのくそネコ!!」
直後に、ヨセフが慌ててキットの口を塞ぐ。完全に予想外の反抗に、ヨセフもラクセンも少し行動が遅れてしまった。
「ヨセフ、そいつは置いて、ここから離れるぞ! 恐らく今のでこちらの居場所がばれた。俺もお前も、ちゃんとした戦闘になれば不利だ」
「わかってますよ! でもその前にこいつの口をきけねーようにしないと……!」
ヨセフとラクセンが焦りながら離脱の準備を整え、物陰から離脱しようと――
「そいつは俺の仲間だ。余計なことはするな」
二人の背後から、静かで低い声が聞こえた。
そこには、黄金の剣を片手に、全身に黒衣を纏わせた青年が――草太が、炎を背にして立っていた。
読んでくださり、ありがとうございます!
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