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約束

 その夜、アプリコーゼの寝室。

 無器用な手付きで寝巻きに着替えるアプリコーゼ。

 それを見守り終えたモニカは、部屋を去ろうとドアに手をかける。

「……待ちなさい」

 振り返ると、ベッドの上に座ったアプリコーゼが、ふてくされた顔をしていた。

 白い毛布をまくりあげ、ここに来なさいとばかりに、パンパンとシーツを叩く。

 モニカは苦笑いを浮かべながら一旦寝室を出て、自分の部屋で寝巻きに着替える。

 戻ってくると、アプリコーゼは毛布に身を包み、丸くなっていた。

 灯りを消し、足元の掛布団をアプリコーゼにかけると、自分もその横に潜りこんだ。

 月明りが照らす暗い部屋。ベッドの柔らかさを全身で感じる。

 やがてアプリコーゼがもぞもぞと、モニカの近くに寄り始めた。

「……あなたは一体、いつになったら、ひとりで寝られるようになるのかしらね」

 天井を見上げながら、ささやくような声でモニカは言った。

 わずかな静寂の後。

「……いいじゃない。モニカだって、こんなふわふわのベッドで寝られるのだから」

 あなたの部屋のベッドは硬すぎるのよ、と、なぜか不満げな口調で呟く。

「そうなんだけど……私、最近思うのよ。ふわふわのベッドに慣れちゃって、自分のベッドで寝られなくなっちゃったらどうしようって、ね」

「あら、悩むことはないでしょ。私とずっと一緒に――」

 そこまで言って、アプリコーゼは言葉を止めた。

 遠くで鳴くフクロウの声を聞きながら、モニカは自分の発言を後悔する。

 ぎゅうっと身を縮めるような衣擦れの音から、少女の孤独を感じ取り、胸を痛めた。

「ねえ、モニカ」

 背を向けて。

「あなたはいつまでも、私の世話係をしてくれても、いいのよ」

 小さな声でそう言った。

「それは、どうかしら……ね」

 モニカは、アプリコーゼの両親について、さほど詳しいことは知らない。

 彼らは革命により支配者の座を追われはしたものの、国が生まれ変わるにあたって、政治的に協力をしている。やがて国が安定し、その職務が終わったときに、アプリコーゼを迎えにくると。

 そんな話だけを聞いていた。


 そしてその時がきたら――私の役目は終わりだと。

 モニカはそう考えていた。

 アプリコーゼが両親のもとで暮らせるのであれば、私なんかが近くにいなくとも――


「ううん、べつに世話係でなくてもいいの。そう、例えば……もんばん、とか」

「なによそれ。私みたいなのが門番をしてても、何の役にも立たないじゃない」

 モニカはくすくすと笑う。

「でもそうね、槍か何かを華麗に使いこなして悪い人を追い払うのも、格好いいかも。今度、衛兵さんに習ってみようかな。アプリコーゼも一緒にやってみる?」

「……モニカのばか」

 アプリコーゼは不機嫌な声で言うと、毛布に潜りこんでしまった。

 やれやれ、と、モニカは息を吐き。

「承知しました。お姫様」

 言って、アプリコーゼをぎゅっと抱き寄せた。

「ずっと、とは言えないけど、あなたがひとりで寝られるくらいになるまでは、私はあなたの世話係でいてあげる。その間は門番のように――あなたを守ってあげるから。だから今日はもう寝なさい。ね?」

 アプリコーゼは、もぞもぞと毛布の中、モニカの方に身体を向ける。

 枕の上に顔を出して、ありがとう、と、小さな声。

 細い月明りの下、ふたりは目を閉じる。

 やがて部屋は少女たちの寝息に包まれ、ゆったりとした時間が過ぎていった。


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