ほいほいⅤ
なんだか久々。だらだら思いついたら不定期投稿。シリーズ第五弾です。
――前回のあらすじ――
なんか、もう一個。段ボール箱を押しつ――拾った!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「駄目ですよ! こ、この最後の一枚は……。私が、私のために丹精込めて焼き上げた一枚なんです!」
益荒男だ……。益荒男が暴れている……。ドッタンバッタンと、僕の部屋に居候している益荒男――座敷さんが駄々をこねている。
座敷さんは暴れすぎて、唐草模様の着物が肌蹴ているんだけれど。どうしよう? 全くもってうれしくない。むしろ反射的に「払っていないけど金を返せ」と言わなかった僕は、褒められるべきだと思う。
「い~や~じゃ~! わらわが目を付けたんじゃ! わらわが食べるの~!」
相対するは、しっとりとした黒髪をポニテにした、勝ち気な感じの少女。こちらに関しては、後十数年先に出会いたかった……。成長するならば……だけど。
少女はダイバースーツみたいな、ぴっちりとした素材の着物を着ている。おかげさまで、座敷さんみたいに肌蹴ることはない……。ないんだけどね?
「ゆるしてたもれ? 川の中じゃと、熱々のお肉などめったにくえんのじゃ! ゆるしてたもっ、ゆるしてたも!」
「ダメです! まいすいーとぎゅうにく。これだけはゆずれません!」
どうしようかなぁ……。正直、益荒男と少女ががっぷりよっつで戦うさまって、心臓に悪いんだよ……。
「オイッ! っせーぞっ!」
「すいません!」
これで何度目だろうか? 下の住人さんが、またプリプリ起こっていらっしゃる。苦情に対する条件反射。また微妙な特技を手に入れてしまった……。
「家~主~さ~ん!」
自身の行く末に一抹の不安を覚えていると、座敷さんが駄々をこね始めた。だから、その巨体で騒いだらまた――
「っせぇっ!」
「あぁ……。すいません!」
――下の住人が……って、いま、ドアの向こうから聞こえてきたっ?
そろそろりと……。玄関ドアを開けてみる。するとそこには……。
「こ、これは……。お肉っ?」
そして添えられたメッセージには……『こいつをやっから静かにしろッ』。どうしたものか……。下の住人さんが男前過ぎる……。
「下の人……。名前もまだ知らないけれど……。このご恩はいつかきっと……お返しします」
僕は下の住人に深く感謝して拝んでみる。そして、そのまま争い続ける座敷さんと少女。ふたりのアゴをガッとつかみながら、ふたつ目の段ボールを拾った時のことを思い出す……。
「ひゃ、ひゃにゅにひゃん? ひょっひょ、ひひゃひんひぇひゅひぇひょ?」
「ゆ、ゆるしてたもれっ! あ、アゴが割れるのじゃ!」
「ちょっと、ふたりともうっさい! いまから回想するから黙ってて!」
「「いたっ!」」
と言うか、この娘はなんでアゴをつかまれて、こんなによどみなく話せるんだろうか……。まあそれはともかくとして、回想、回想……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの時、『タウラス・パレス』から帰宅した僕と座敷さんだったが……。
「「………………」」
アパートの玄関前には、どこかで見たような、『どなたか拾って下さい』と書かれた段ボールが置かれていた。
当然、そんな懐かしさ漂う物を見た僕と座敷さんは、柔らかい笑顔を浮かべて見つめ合う。
「スルーで」
「分かりました!」
そして見なかったことにしました。
苦渋の決断を下した僕と座敷さんは、涙ながらに玄関ドアに手を掛けて叫ぶ……。
「「「ただいまー」」」
さて、ここでおかしな現象が発生してしまった……。
なんだか声が多い。これは……。うん、駄目だね。
僕はひとまず、座敷さんにガンを付ける。そして、優しく確認する。
「ねぇ? 座敷さん、本当にアレ……。心当たりはないの?」
「だから、知りませんよ!」
この目。この目力。うん、座敷さんはうそを付いていない。もちろん、これっぽちも疑ってなかったけどね!
「じゃあ捨てよっか?」
「それが良いと思います!」
こうしてふたりで力を合わせて。いつの間にか家宅侵入していた段ボールを、ガッと持ち上げる。
すると、段ボールからなにやら大量の水があふれ出て来た!
「うわっ! ざ、座敷さん! おトイレ行きたかったなら、言ってよ!」
「えっ? ち、違いますよ? いくら私が、童だからって、さすがにおもらしなんか…………………………………………………………しませんよ……? ………………しないもん……」
ふむふむ……。目が泳いでいる座敷さんには、後でもう一度尋問するとして。だとしたら、この水はいったい……?
「ちょっとひとなめ……。ん? しょっぱい……。ってことはやっぱり……?」
どうしよう? なんか、大丈夫かと思ってなめたけど……。もし本当にアレだったら、どうしよう?
「あぅ。ちょっと家主さん? いきなり離さないでくださいよ!」
衝撃のあまり、思わず段ボールから手を離してしまった……。動揺したままの目で、落下した段ボールを見ると、なんだかプルプルと震えはじめている。
「ん……?」
「なまものですかねぇ?」
座敷さんとふたりで、震える段ボールをゴンゴンと蹴ったり、殴ったりしてみる。
そうしてしばらくすると――
「や、やめて! やめてたもれ! 痛くはないが、心が折れてしまうのじゃ! やめてたも! あと、早く開けて欲しいのじゃ! それとわらわは、オションなどしていないのじゃ、これはただの大量の汗なのじゃ!」
――なんか、段ボールからおびえたような声がする。
どうやらこの大量の水は、段ボールの汗であるらしい。良かった……。本当に良かった……。
「早く開けてたもれ! 暗いのじゃ! そろそろさびしいのじゃ!」
「えっと……。どうしよう、座敷さ――んんんんんんっ」
「や、家主さぁぁぁんっ!」
早く開けてとせがむ段ボールに、若干のいら立ちを感じながら座敷さんに相談していると……。
「もう、自分で出てやったのじゃ!」
なんか、ぶにゅって。僕の顔面に、誰かの足裏が飛び込んできた。
その日はそこで、僕の意識は飛んで行ってしまった……。
――次の日。
「なに、この状況……」
目を覚ましてみると……。
「家主……さん……」
右に「エグッ」とすすり泣く益荒――座敷さん。うん。心臓に悪い。
「ゆるしてたも……」
左に許しを懇願する幼――少女。うん……。とても……心臓に悪い。
取り敢えずアレだ……。
「どいてっ!」
「「ギャアアっ!」」
人の腕を枕にするのは、カップルだけに許された行為だと思うよ? もしくは親子。
ふたりをたたき起こして、僕が気絶したあと、どうなったのかを聞きだしてみる。
すると――
「わ、わらわは『川姫』。この辺りの川をうろついておったのじゃが……。ここ数日ばかり、不可思議な気配を感じたのじゃ――」
――とのことで、つまり……。
少女は『川姫』と言うらしい。
川姫いわく。ここ数年は感じることのなかった『妖怪』の気配を感じたんだとか。それで気になってこの間の雨の日に、思い切って気配の元を見にきたんだと。
「そしたらそこのバケモノが、楽しそうに人間と暮らしていたのじゃ……」
そしてなんとなくうらやましくなって、ここ数日の間、僕たちをストーキングしていたらしい。
そして僕たちが『タウラス・パレス』に出かけていた時。うらやましさの限界を突破しちゃったらしくて。
「わらわも拾ってもらおうと思いついたのじゃ……」
そして今に至る……と言うことらしい。
「で、でもですね? ここは私の家ででででででで――す、すいません! ちょっと。ちょっとだけ、調子に乗ってました! ア、アイアンクローは勘弁してください!」
僕よりちょっとだけ、顔の位置が上にある座敷さん。そんな彼――彼女の顔から手を離すと、川姫は目に涙をためていた。
「うぅ……。そ、それは分かっておるのじゃが……。ふ、風呂場でもよい! わらわをここに置いてたもれっ! ちゃんとお手伝いもするのじゃ! 水妖の誇りに掛けて、ちゃんとぴかぴかに洗ってやるのじゃ!」
「むむむぅ……。や、家主さん! まさかまさか、私を追い出すとかしませんよね? ねっ? わ、私だって、お手伝いするもん! お皿洗いでもなんでもちゃんとするから!」
さてさて。何だか僕も、正直言って。別に川姫を居候させても良いかなと思うんだけどね……。ほかの人には見えないだろうから、家賃的にも問題ないし。
でも……。それだと、少しつまらないかなぁ……。座敷さん、ここしばらくポイント無駄遣いしてるし。ひさびさに益荒男じゃない座敷さんも見たいしなぁ……。
「うん。決めた!」
「「――っ!」」
僕の一言で、座敷さんと川姫がギシリと固まる。
「ふたりには、いまから数日間。女子力勝負をしてもらおうと思います!」
僕と座敷さんの同居生活はまだまだ続……く?
終わり方がこんなんなので、近いうちに「6」を投稿すると思います。
取り敢えず、「5」と言ったら「Ⅴ」と書きたくなりますよね?