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瀬戸川妖怪物語  作者: ZeroSt
Chapter1
15/20

宣伝効果

ピントが合った瞬間、弓を引いた。

翼から溢れ出る神気が弓へと移り、的へと一直線に向かう。


トンッという音がした。


やったか?と目を開ければ、的スレスレの場所に刺さっていて安堵する。


「ど真ん中はまだキツイけど、いい感じかもしれない」

目を閉じてもはっきりは見えないが、ぼんやりと的が見えるようになった。正直そんなこと出来ないのではないかと思っていたが、異常にまでの急成長に自身でも驚いているほどだ。


「何でこんな早く上達するんだろう…」

元からこんなに早く出来ていれば、何の苦も無かったのだろうか。ここ一年間での伸びははっきり言って異常だ。

時折、目が疼く時がある。…それと何か関係があるのか…。わからない。


「っていうか、目が疼くとか私完全に中二病じゃんか」


神になろうとしている人間が言える事でもないか、これ。傍から見たらただの現実逃避者だ。痛い子だ。



「私って痛い子なのか…」


自分で言ってて悲しくなった。








「樹里嬢ちゃんや、邪魔するよ」


祀りまで後2日。

いつも通り、神社のお掃除をしていると鳥居を抜け私の近くの木に止まった峰木爺。



「ああ、峰木爺も帰ってたんだ。連れてきたの?」

「そりゃ頼まれたもんは、ちゃんとやってきたさ。皆、こっちだ」

「それはよかった……ん?」


鳥居や周りの木影からやってきた峰木爺の仲間は大きな音を経てて神社の中に入ってきた。



「峰木爺…貴方のお仲間は広いんですね」

「そうかい?」

やってきたのは、鹿や熊、猫や犬、狸なんかも居て、何かもう神社が動物園と化していた。


別に神社で動物園を開くわけじゃないのだが…。



「私はこの神社を復活させたいというそなたの意思にとても感服した。是非、手伝わせて頂きたい」

鹿は頭を下げて、そう言ったことに対し、私は「そんな…」と頭を左右にブンブンと振った。何て素晴らしい鹿なんだ。頭なんて下げられる器でもないのにと、対応に困った。


「オメーさんこの神社大切にしてんだな。そういう人間が居ることに俺は満足だよ」と熊も積極的に手伝ってくれるらしく、他の動物達も同様だった。何だか暖かくて涙が出そうになった。

「それにしても…ちと見ねぇ間に樹里嬢ちゃん、益々神々しくなったな。おばば様の気と似てきたのぅ。ほっほっほ」

「えっ、峰気爺さん。この方は神様ではないのですか?」

「正確には成りかけじゃよ。この娘は人の子よ」

「な、なんと…!」


鹿さんとかにものすごくビックリされた。

でもそれほどに力が蓄えられてきているということだ。


「人の子が神になろうとしているとな?…普通の人間なら出来ないと言うところだが、そなたなら出来るだろう。その素質というものがある」

「本当ですか…?ならありがたい事です」


そう言って、鹿さんに頭を下げると横からニャ~と声がし、振り向くと…「頑張ってね、アタシ応援してるわ。貴方のこと」と猫が笑ってそう言ってくれたり、色々な動物たちから励まされ、祈願してもらった。確かに、するのとしないのとでは神気が全然違う気がする。神社本体にも力が流れるようにこの神社は確実に前の姿を取り戻そうとしてる。


「そういえば、樹里嬢ちゃんの友達はどうなってんだい?」

「友達…とは呼べるかどうかわからないけど、クラスの人数人は来てくれることになってるよ。その人達も暇だし…とか言ってたから多分、暇つぶし程度なんだろうけど」

「そうかい…。暇つぶしであっても祈願されれば神社には力が蓄えられる。悪い方には持って行かんと、大丈夫じゃよ」

「そうだね」


この後私は手書きで祀りのチラシを作った。町中に張って宣伝をした。

それで来てくれる人が居るかどうかはわからないけど、しないよりはマシだよね。





「瀬戸川さん、聞いたよ!天和見神社で祀りをやるんだって?」

「私達も行くよ!えっと…神様に祈るのよね!」


祀りの日前日、いつも通りに一番後ろの席に静かに席を着いた。ボーッと綺麗に消された深緑色の黒板を見ていると、横から女の子達が話しかけてきた。


「でも…祀りと言っても屋台とかあるわけじゃないし、参拝って感じだよ?」

「ここってさ、お祀り…お祭りみたいなのってないじゃん?だからさ、屋台とか無くても賑やかな場所に行きたいんだよね」

「ここド田舎だからねー。日に日に住人減ってるし…ここが妖怪の町だって言うのは知ってるけど、私達の故郷であることには変わりないしね」


田舎というのは純粋な子が多くて困る。

きっと、都会とは違う美しさや素晴らしさがこの町にはあるのだ。そう信じ続けている無垢な少女たちは微笑む。

田舎で、何もなくてつまらなくて町から出て行く人々は大勢居る。日に日に人口が減少しているのは事実。しかし、ここに留まる人たちはこの町を信じている者が多い。

悪い意味で信じる者も居るだろう。信仰だ、と罵る者も居るだろう。それを含め、ここ百川町は長くあり続けるのだ。


私はその子達にお願いした。神社を一人でも多くの人たちに参拝して貰えるようにと。ついでに先生に許可を貰って、チラシも貼った。



「瀬戸川!お前、神社で祀りやるんだって?」

「俺らも行くよ。あそこの神社には世話になったことがあったんだ」


その子達やチラシの影響もあったのか、他クラスの子達も来てくれると言ってくれた。

天和見神社の祀りの事は学校中に知れ渡り、来てくれる人も何倍にも膨れ上がった。何倍と言っても、少人数制の学校だからあんまり人は居ないけれど、それでも多くの人が来てくれるのだ。


私は嬉しくて笑ってしまった。




「凪―!峰木爺―!やったよー!私やったよー!!」


学校が終わり、私は興奮気味で神社へと全力疾走で帰った。


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