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瀬戸川妖怪物語  作者: ZeroSt
Chapter1
13/20

白狐の来門


しかも、黒炎だ。



私はじわりと汗を掻く。

まさか、あそこに居る影が大妖怪だというのかと私は目を疑った。アーサ達が居るならともかく、私一人だなんて太刀打ち出きっこない。少なくとも、今の私では…だ。


その影は尾をゆらゆらと揺らすだけで一向にこちらに向かって来ようとはしない。観察しているのか?…私を?

神気を徐々に使いこなせるようになったからか、あの距離からでもあの影の妖怪が敵意が無いことはわかる。ただ、こちらを見つめているだけ…そんな感じだろう。

もしかしたら、この前の大妖怪かもしれない。あの時も、知らぬ間に消えていたし、今のように観察に来たのかもしれない。


…でも、どうして?


それが謎だった。何故この町に来て、観察にしに来るのだろうと、恐怖よりも謎が上回った。



黒い炎は激しく燃え盛っている。そして未だに、その影は尾をゆらゆらと動かすだけで、一向に動く気配はない。

私は焦れったくて、思わずその影に向かって声を掛けてしまった。


「あの、そこに誰か居るんですか?」

静寂した空間に私の声が響き渡る。その影はピタリと尾を動かすのを止めた。そしてゆっくりとこちらに向かってくるではないか。

神社には結界は張ってあるが、大妖怪になんてあって、無い壁だろう。

あちらが敵意が無いとしても、私は身構えてしまう。おばば様から授かったこの弓を静かに鳥居の方向へと向けた。



「…えっ」


鳥居から出てきたその物体に私はとても驚く。


その物体はちょこちょこと私の足元にやってくると、頬ずりした。尻尾は犬のようにブンブンと振っている。




「狐…?」

それは、どこかで見たような純白の狐だった。

何でこんなところに居るのだろうとその狐を抱き上げてみる。

大きさは親狐と同じくらいで、少し重かったがそれ以前にすごくもふもふしていた。


「も、もふもふ…!」

私はつい、その狐を抱きしめてもふってしまった。その狐は嫌がることはなく、樹里の顔をペロペロと舐め始めた。


「くすぐったい!…すごい人懐っこい狐だな…」

狐ってそんなもんじゃないだろう、なんかこう…ツンツンした感じがあるし。


「というか…キミって昔助けた狐…?」

純白なところも変わらないし、左目の文様も変わらない。


……ん?


アーサが言っていたことを思い出した、いや思い出してしまった。

左目に赤い文様がある狐は現在は九尾しか居ないと言っていた。しかも、この狐もう10年以上経ってるのにあの時のままだ。普通の狐だと10年以上経てばヨタヨタしてる爺婆になるはずなのに、この狐はそんな様子もないし、若い狐って感じだ。


その狐は私の様子を見て首を傾げる。か、かわいい!じゃなくて。


「……」


どうしよう、言うべき?

いや、気付かないフリしてお帰り頂いた方がいいのではないだろうか。


「狐さん、お家はどこ?」

そのまま地面に下ろそうと手を離そうとしたが、何故か狐はそれをとめた。しっかりと私の腕に足が乗っかり、爪が少し食い込んだ。尻尾も私の腕に巻き付くようにして地面に下ろされまいとしている。



「あいててて、狐さん。キミの場所はここじゃないよ。ちゃんと家に帰りなよ」

この狐は群れにいない単独の狐なのだろうか。子供とか居ないのだろうか。



うーんと悩んだ結果、私の大好物の羊羹をご馳走してあげることにした。狐はクンクンと匂いを嗅んだ後、疑わずにパクパクと食べ始める。

いや、別に毒とか盛ってないし、そんな事する気ないから素直に食べてくれるのは嬉しいんだけどさ。

余程美味しかったのか何なのか、白い綺麗な尾を激しく左右に振っていた。犬なのか、この子は。


「美味しかったなら良かったよ。これ私の好物なんだ」

そう言って笑えば、その狐は嬉しそうに笑った…ような気がする。


さり気なく時計を見ると、もう4時。あ、いけない。もうこんな時間だ。

私は白狐を抱えて鳥居を出る。そして鳥居を抜けて少しした場所にそっとその狐を下ろした。

今度は抵抗しなかった。



「もし昔に助けた狐さんだったのなら、また出会えてよかった」


その言葉に驚いたように目をまん丸くする白狐。


「あの後、私はすごく心配だったよ。キミがちゃんと無事にしてるかなって。もしキミがあの時の狐だったら、これは運命だろうね。こうしてまた出会える事が出来た。来てくれてありがとう、狐さん」

白狐の目はまんまるくするばかりで、少し可笑しくなって笑った。


「じゃあね」と別れを告げ、鳥居に入ろうとすると、後ろから声がした。




――いずれ、また会いに行く。




「えっ」

私は驚いて後ろを振り返るけど、白狐はいつの間にか居なくなっていた。



あの声は一体…?



部屋に戻り、書物を開いた視界の端にはガラスに入った緑の炎が穏やかに揺らめいていた。


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