これから
そして数分目を瞑った時、足元に何か紙が落ちたのが音でわかった。
私は目を開けてそれを拾い上げて紙に書かれた文字を見て、泣きそうになったのを手で口を塞いで抑える。
それはおばば様が書いた今後についての事だった。おばば様は私がこうなることを知った上でこれを書いたのだろうか。どれだけ私より上手なのだろうと、気が遠くなりそうになった。やはり、これからもおばば様に敵いそうにない。
書かれていた内容を私は時間を掛けてゆっくりと目を通した。
まず、神主…おばば様が死んだら…と書かれていた。
神主が居なければ、樹里の力を持ってしてでもこの社は崩壊してしまうだろう。そうなる前に樹里が神主となり、この神社で祀りを行え。そうすれば、社に力が宿り、結界の力を強めることが出来るだろう。
出来れば、巫女や神使が居るといいが…とその部分はそれで終わっていた。
「祀り…そういえば最近全然やってなかったよね」
この天和見神社で祀りを行ったのは私が幼い頃だったか。その当時は神様も居たっけかな。
その神様は古代から生きていた天和見春風様という上級神様だったが、神様にも寿命というものが存在するのであろうか、その神は時を迎え、粉のように散ってしまったのだ。
彼女は容姿そのものはそれはそれは美しい、誰もが振り返るような若い女性だったが、実際の年齢は5000を超えていたというのだから驚きだ。
その話を持ちかければ、アーサ達はう~んと首を捻った。
やっぱり難しいのだろう。この町は祀りをしようにも、人が少ないから出来たもんじゃないのはわかってるのだが。
「何でそんな方向になったの?」
「おばば様の遺書にそう書いてあったから、もしかしたら出来るかもと…」
「おばば様も無茶ぶりだなぁ、この町の人口を考えれば今まで祀りをしてこなかったのも百も承知だろうに」
だよね…と私は眉を下げた。
「何も、出来ないことはないぜ、嬢ちゃん」
話を聞いていたのか、チュンチュンと口をパクパクと動きながら樹里の肩に止まった凪。
どういう事?と聞けば、誇った顔をした凪。誇ったところで円で可愛い目は変わらない。
「何も、人間を連れてくる必要はないのさ。妖怪でも霊でも連れてくるといい」
「それ正気なの、凪」
正直、頭がおかしいと思ってしまった。
なぜ神社に人ならざるモノを連れてこなければならないのか、意味がわからない。そもそも人間に参拝されるからこそ力が宿るものではないのかと首を傾げる。
「そりゃ、違うよ嬢ちゃん」と反論された。どうやら人間じゃなくてもいいらしい。
確かに人間が一番効果的だそうだが、別に妖怪や霊が参拝しても力は少しずつ溜まっていくと言うのだから、おかしいものである。
「それに、人間も集まるときには集まるもんだろ。嬢ちゃん学校行ってんだから、友達呼んでこいや」
「あ、そういえば…」
学校という存在を忘れていた。
そういえば、私は今高校一年生だったな。神社のことで手一杯だったからロクに勉強してなかったから必死に受験日が近い中、勉強したっけか。
偏差値中の上くらいのところには入れたから、ほっとしたけど。
友達…かあ…。
「嬢ちゃん、もしや友達いねぇとか言い出さねえよな?」
「いや、居ないよ。神社のことで手一杯で今まで友達って存在は居なかったし」
「…最近の若者とは思えない精神の図太さに驚きだよ、俺は。恨むのならおばば様恨みな」
そんなの恨めるわけがないだろうに。逆に感謝でいっぱいだってのにさ。友達なんて居なくても生きていけると思ってたから、今必要となると後悔はあった。