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第7話 - 戦士と魔法使い -

 本日の訓練を終えたティグは、今後の日課になるであろう情報収集を開始する。

 本日向かう先は、昨日訪ねた時に「忙しいから明日にしてくれ」と断られた、オーグと一番近しい隊商の顔役の所である。

 今日を逃せば明日には旅立ってしまうのだから、是非にでも話を聞いておきたい。

 そういう訳で、やってきたのは隊商の中でも周りより一回り大きいテントの前だった。

 昨日訪れた時より明らかに人が少ないのは、あらかたの仕事が片づいたからなのだろう。

 あるいは、忙しい中でもティグの為に時間を作ってくれたのかもしれない、そう考えると頭の下がる思いがした。

 ちなみに余談であるが、この世界にお辞儀というものは無いらしい。

 顔役の所に着くと、そこには一人先客がいた。いや、正確には二人である。

 頭からローブを被り顔役と話をしている人物と、その影で退屈そうにしている小さい人影。小さいといっても、当のティグよりは年上のようではある。こちらもローブを被っていた。

「残念だねぇ」

 ローブの人影がそう言って顔役に背を向ける。歳のいった男の声だった。

 ローブの男はそのままテントを出て行く。ローブの子供もそれに従った。

 テントの入口に立っていたティグは、その二人とすれ違う。男の方は顔も見えなかったが、頭の高さが近い子供の方とは目が合った。

 ただそれは、印象的な黄色の瞳が、そう思わせたというだけかもしれない。

 二人はティグを気に止める事もなく、この場を後にした。

「おお、ティグ、よく来たな。こっちに来い」

「はい、あの、今の人達は?」

「ん?ああ、今日になって隊商に参加できないかと聞いてきたんだが、

 出立が明日だってのに突然参加って訳にも行かなくてな。

 いい腕の魔法使いみたいなんだが、断った。

 たぶん次に来る隊商に参加するだろう、目的地が合えばだが」

「そうなんですか、それはそうと、お話聞かせてください!」

「おう、魔工の話だったか、まあ座れ」

「はい、それに魔法の鉱物とかの事も教えてください!」

「おう、いいともさ。俺が聞いたのはな……」

 さすが長年行商をしているだけあって、顔役の男からは質量共に揃った面白い話を聞かせてもらえた。

 しかし、やはり魔工に教えを請うのは難しいと言われた。話を聞けた人は皆がそう言うのだ。

 まあ、その後で口を揃えたように、それでもティグならば、と続くのは嬉しかった。嬉しかったが、如何様にしてその業に触れるか、授かるか、あるいは盗み取るかが、大きな問題になりそうだった。

 時間は少なかったが、隊商の多くの人に話を聞けた。確かな収穫があった。

 翌日、隊商は街を離れていった。


 その日の午後になって、オーグとの訓練の予定が、急遽、エリシアの授業に変更された。

「オーグはずっと面倒見てくれてたんだから、これからは私がいっぱい負担するね!」

 どこか迫力のある笑顔でエリシアが言うと、今日の所はといった風にオーグは引き下がった。

 思えばここ数日間、エリシアは母親修行に手一杯で、ティグと過ごす時間が極端に少なかった。

 こうして本日のティグは、座学を中心に学ぶ事と相成った訳である。

 オーグはつまらなそうに町をぶらつきに行った、自分には必要ないとの事である。

「魔法と魔力の話はもうしたわよね?」

「はい、全てのものに宿っていると、そしてその働きを助けると、これは本に書いてありました」

「あら、予習してあったの、お利口さんね。

 そうなの、世界に満ちている魔力が世界を動かしているのよ。

 そして、そうだからこそ、ティグ、あなたは戦士か魔法使い、どちらかを選ばなければいけないの」

「前から思っていたけど、両方じゃダメなんですか?」

「そうね、あなた程の才能があれば、両方の道で私や父さんを超える力を身につける事も出来ると思う。

 だけど、それはして欲しくないの」

「なぜですか?母さんも父さんもすごい人で、今の話が本当なら、僕はものすごい人になれると思うんですが」

「ええ、そうね。

 実際、世の中には両方を扱う、高名な冒険者の話が幾つもあるわ。

 その全員が若くして名を上げ、歳を重ねる事なく、亡くなっているのよ」

「……そう、なのですか」

「理由があるの、説明すればティグなら分かると思うわ。

 だからこそ、学ばなければいけないの、魔法と魔力と身体の関係についてね」

「わかりました、教えてください!」

「いい子ね、じゃあまず、魔法と魔力のお話。

 魔法を使うには、自分の身体の中にある魔力を使って、他の物に影響を及ぼす」

 エリシアは用意してあった水桶に指を差し込み、指先に水の球を作ってみせた。

「この間も見せたわよね、これは私の魔力を水と混ぜて、水を操作しているの。

 これは初級の魔法、これくらいならいつまでだってこうしていられるわ。

 ティグも一度出来てしまえば、同じようなものよ」

 水の球を水桶に戻す。

「初級、中級、上級の魔法の違いは、その事象に対する理解の違い。

 理解してしまえば、ティグみたいに子供でも上級魔法を使うことができる。

 ほんとはそこまで至るのはすっごく大変なんだけど、ティグはすごいね。

 でも、上級の魔法を使い、存在させ続けるには、沢山の魔力がいるの。

 そして、中級や上級魔法で生み出した事象は、魔力の供給が途絶えると消えてしまう」

 今度は掌上に水の球を発生させ、床に落とす。しかし、床を濡らした水は、すぐに消えて少し湿った跡だけが残された。その跡を指で指し示すエリシア。

「魔力の供給が途絶えても、ほかの魔力に触れていた部分は世界に止まる事が出来る。

 ティグの炎なら、燃え広がっちゃうから、気をつけなきゃだめよ?

 ここまでで、分からない事はある?」

 エリシアの確認に、ティグはやや考えてから口を開く。

「魔法で、鉄や金属を曲げたり、発生させたりできますか?」

「面白い事言うのね、でも、そうね、たぶん難しいと思うわ。

 普通の鉱物には魔力が少ないし、魔力を沢山含んだ鉱物はものすごく高級なの。

 仮に手に入ったとしても、覚えてる?魔力はその働きを助けるって。

 鉱物の働きは固まり止まる事、逆に作用させるなんて、そうそう出来る事じゃないわ。

 それに、上級魔法みたいに発生させるなんて、想像もしてなかったから、

 それはもう、分からないとしか言えないわね」

「そうですか、やっぱり難しいんですね」

 しょげるティグを見て、気づいたようにエリシアが言う。

「そっか、ティグは魔工に興味があったのよね。

 うん、魔工の業については詳しく知らないけど、魔法を学ぶ事は無駄にはならないはずよ」

「はい」

「他に聞きたい事は?無いみたいね。

 それじゃあ次のお話、ここからが大事よ、よく聞いてね。

 さっき魔力の供給が切れたらって、言ったわよね、その状況は単純に2通りある。

 意識的に断つか、無理やり断たれるか。

 前者は自分で消すって事で、後者は維持できなくなるという事なの。

 問題は後者、自分の身体の中の魔力が無くなっちゃった状態、魔力切れね。

 これがとても危険な状態なのよ」

 そう言ってエリシアは口を結び、今日見せた中で一番真剣な表情を見せる。

「ティグはもう、分かってるわよね、魔力が身体を動かしているって事」

 黙って、真剣に、ティグは頷く。

「魔力が切れるっていうことは、身体が思うように動かせなくなる。

 身体だけじゃないわ、物を良く考えられなくなるし、目も耳もダメになる。

 魔力切れが長い時間続けば、それだけで生命にだって関わり兼ねないの。

 まあ、そこまでの事になる事はそうそうないんだけどね。

 だって、魔力は自然に供給される物だから。

 吐いた息を吸うように、いえ、それよりもずっと自然にね。

 試してみましょうか、ティグなら体感できるわ。

 ちょっとびっくりするかもしれないけど、母さんがついてるから大丈夫。

 手を出して、そう、炎を出してみて……」

 ティグは言われるままに、炎の魔法を使う。掌上に激しい炎が生まれた。

「そう、そのまま、それを使い続けてごらんなさい。

 手から離さなければ、そこまで魔力は使わないけれど、それでも確実に無くなっていく。

 経験を積めば身体の中にどれだけの魔力が残っているか、分かるようになるわ」

 最初はなんの事はないと思っていたティグだが、5分程経った頃に急激に疲労を自覚して、そこから1分もしないうちに炎は消え、立っていられない程の目眩に襲われた。

 倒れそうになったティグをエリシアが抱きとめる。

 その症状は10秒も立たずに収まって、30秒もすれば普段と何も変わらない体調を取り戻していた。

 ティグを抱きしめたままエリシアが言葉をかける。

「今のが魔力切れの寸前よ、怖かったでしょう、ごめんなさい。

 でも、知っておいて欲しかったの、それが、戦士か魔法使いを選んで欲しい最大の理由だから」

「魔力切れが、ですか?

 でも、経験を積んで気をつけて扱えば、両立できるんじゃ……」

 エリシアは静かに首を振った。

「いいえ、問題はそこじゃないの。

 大事なのは心の問題、戦士と魔法使いの考え方の違い」

「心と、考え方?」

「そう、戦いの場で戦士は勇敢に、魔法使いは臆病に、それぞれ振舞わなければいけないの。

 戦士なら戦っている最中に魔力が切れる事は、殆ど無い。

 逆に魔法使いは、状況によっては魔力が切れるまで魔法を使わなければいけない時がある。

 魔力切れを気にして、いざという時魔法を出し惜しみする魔法使いは、必要ない。

 魔力が切れた魔法使いを、戦士は体を張って守ってくれる、勇敢に、命をかけて。

 そうしない戦士は、誰からも必要とされない。

 だからこそ魔法使いは、臆病に、自らの身を敵や危険から遠ざけないといけない。

 だけど、この二つは両立しない、勇敢と臆病は正反対でしょう?

 ティグはさっき気をつければと言ったわ。

 実際それで、すごい成果をあげた人達はいる、それは言ったわよね?

 でも彼らは皆、早くに死んでしまった。

 きっと、彼らの心の中には勇敢と臆病が混ざっていたの。

 伝えられている彼らの死に様は、全てが仲間を助けて魔力切れを招いた末にの事なの。

 自分が無理すれば仲間を助けられる、そんな状況なのに何もしない事を選べない。

 一流と言われる冒険者の周りには、絶対に切り捨てられない仲間がいるのだから」

「でも、戦士や魔法使いなら死なないなんて事はないでしょ?」

「そうね、でもやっぱりダメ。

 若くして一流といわれる戦士や魔法使いは、大抵長生きするものなの。

 でも、両方出来て若くして一流で、長生きした人はいないわ、一人もね。

 ティグなら、もしかしたら、大丈夫かもしれない。

 でも、片方だけで一流になれるあなたに、危険な道を進んで欲しくない。

 それが、私と父さんの考えよ」

 言い切った、そんな様子でエリシアは一つ息をついた。

「わかりました、でも、それならきっと僕は戦士として闘いたいと思います。

 その時は、魔法は教えて貰えないんですか?」

 選ぶなら勇敢か臆病か、ではなく、いつか手にする刀のために、ティグは戦士の道を選ぶだろう。しかし、技術としての魔法を諦めたくはなかった。

 だから、エリシアの言葉に胸を撫で下ろした。

「大丈夫よ、それならそれで教えられる事はあるわ。

 父さんは不精者で絶対やらないけど、戦士にだって魔法の活用法はあるの。

 自分の身を守る為に使う方法よ。

 それなら魔力切れが起こる事もないし、あるとないとじゃ大違いなんだから!

 ティグを父さんに取られちゃうのは、ちょっと残念だけど」

「僕は魔法もしっかり覚えたいです」

「……まあ、実戦で魔力切れが起こらない程度なら、教えてあげられるかな」

「はい!おねがいします!」

 ティグは心から笑って言った。

 いつか、本格的な魔法の研鑽を必要する時があっても、それは両親の手を離れた後になるだろう。ティグが両親の懐にある内は、その想いを素直に受けて生きるのだ。


説明回ですが、明らかな矛盾や、我慢できない穴があったら教えてください。

恥を忍んで修正するか、なんとかして後付するか、開き直って言い訳します。


あと、会話文をやや変えてみました。

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