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第6話 - 訓練と冒険者 -

 隊商の人々は明後日にひかえた出立の準備に追われていた。

 それを遠目に見やりながら、オーグとティグは町外れで訓練を行なっている。

 オーグの指導による各種武器の取り扱い方が、ティグの主だった訓練内容だ。

 先日ティグが見せた剣を両手で扱う技は、確かに目を見張る程の鋭さを持つが、実戦もそれ一本で行けるかというと、体力面で不安を隠せない。

 そこで、中・遠距離の武器を扱わせてみた所、思った以上に明確な差が見られた。

 短剣の投擲は鍛えれば十分実戦で扱える技量だが、手斧や手槍、弓などは三歳児としては素晴らしい、といった程度のものだった。とてもじゃないが実戦では使えない。

 弓にも剣技で見られたような天分があれば、エリシアと共に後衛として構え、近づく敵をティグが迎撃するという戦術を取れたのだが、思い通りにはいかないらしい。

 ティグの適性を考えると次点の策は、前衛のオーグと後衛のエリシアの間で遊撃を担当させるのが適当だろう。

 ショートソード一本と短剣を2つ、それ以上装備させると体力的に問題が出てくる。

 後は魔法の出来次第だが、こちらは畑違いなので今は考えない事にする。どうせ、同時に扱うと言う訳にはいかないのだから。

 ちなみに魔法の指導役は、現在、育児全般の特訓中。おかげでオーグがティグを独占出来ていた。

「父さん、お願いします!」

 一通りの訓練を終えたティグが、刃引きの剣を構えていた。望む所だと、オーグも剣と盾を構え、試合が始まる。

 思えば、初めて剣を交えたあの日以来、ティグは自分の思いを積極的に伝えるようになった気がする。それまでは、少しばかり大人しすぎるきらいがあった。まあ、どれだけ才能があってもまだ三歳だ、これからますます賑やかになるのだろう。

 そんな事考えつつ、打ち合いが続く中で握りが甘くなったティグの剣を、オーグの盾が弾き飛ばす。体力勝負になれば勝ちはない、それをしっかり教えこまなければいけない。

「どうだ、もう一本いくか?」

 ティグは自分の手を見つめ、確かめるように何度か閉じ開きを繰り返してから、顔を上げて首を振った。

「……いえ、それより、今日は父さんの剣の話をしてください!」

「ん、俺の剣?」

 そういえば、この間剣の名前を暴露したとき、ティグもその場にいた事を思い出す。

 思い出すとのたうち回りたくなった。いや、子供相手に気にするような事じゃない、そう自分に言い聞かせる。

「はい、護剣エリシアの話です」

 思わず激しく身をよじらせてしまったオーグは、取り繕うために不自然ながらも身体を伸ばしている風を装って答える。

「ぅあぉっと、う~ん……ふぅ~。うん、そう、あの剣ね、うん。いいよ、いいけどな。なんだ、あれだな、その名をな、軽々しく口にしないように。父さんの、あれだ、願掛け見たいなものだからな、うん、願掛け」

「そうなんですか、ごめんなさい、気がつかなかったです」

「ああ、まあ、気にするな。でも、だから、ほかの人にも言うなよ、約束だぞ」

「はい!」

 誤魔化せた、これでティグの口から漏れはしないだろう。我ながらいい理由付けだと、自賛する。

「それで、何が聞きたいんだ?あれか、その、名前がそうなった理由とかか?」

「いえ、ちがいます!」

「あ、そ、そうなんだ」

 オーグのちょっとした持ちネタの冒険譚だったので、少々落胆する。まあ、それは別の機会にでも話して聞かせよう。

「あの剣が何で出来ているとか、どうやって作られたとか、色々教えてください!」

「ふむ、なるほどな」

 確かにオーグも、初めてあの剣を見た時は、それはもう興奮したものだった。絶対手に入れると決心し、なりふり構わず金策して、やっとの思いで手に入れたのだ。

 幼くとも、あれだけ剣を使えるティグなのだ、見る目があって当然だろう。

「よし、それじゃあまずは……」


 同じ年頃の男の子が、英雄譚を聞く時のような瞳の輝きが、そこにあった。次の話を、次の次の話を、そう急かすような瞳だ。ただし、ティグの心を揺り動かしている話の内容は、本当にそこまで面白いのかと、首をかしげてしまうのがオーグの本心だった。

 護剣エリシア、この剣を鍛えたるは遥か北の町を根城とする魔工エルベグ・エハルタス。用いられたる素材は、大火口に棲む猛き大炎龍の牙を軸として、古の帝国の宝物庫から持ち出されし精霊銀を纏わせた神鉄だ。この世にも希なる魔法の剣。振るう者が振るわば、巨人が纏う大鎧ごと両断せしめる一品だ。

 今思えば、なんと大げさな口上であった事か。しかし、当時のオーグはその話を完全に真に受けていた訳だ、たぶん、いまのティグのように。

「いいか、ティグ。実際にこの剣に使われてた素材は、そこまでご大層な品じゃないし。魔工の名だって勝手に語ってるだけかもしれん」

「それでも、その剣はすごいものでしょう?」

「まあな」

「それに、大炎龍の牙も、精霊銀も、実際にあるし、どこかの魔工という人がその剣を鍛えた!」

「そりゃそうだ」

「僕はこれからの旅で、そんな物にこそ触れてみたい!」

 子供というのはどんな物に興味を抱くか分からないものだ。大した見聞がある訳でもないのにオーグはそんな事を思う。まあ、喜ぶならばそういう話を聞かせてやろう。

「ならこんな話はどうだ?鉄を食らう魔神の腸から取れる変色魔鉱。大火口の奥底で眠り続ける希炎石。最高の魔力素材と名高いが、世に出回る事は百年に一度とも言われる龍魂の宝玉」

「すごい!旅に出ればそんな物も見られるのですか!」

「俺もまだ見た事はないな、でも」

「でも?」

「ティグが大きくなって、一流の冒険者になれば、望んで出会えない物なんてないと、俺は思ってる」

「本当ですか!魔工って人達にも会えますか!色々教えてもらえますか!」

「魔工か……うん、まあなぁ」

 突然口ごもったオーグを不安そうに見つめるティグ。

「ああ、うん、探せば見つかると思うぞ。ただ、教わるのはなぁ」

「無理なんですか?」

「いや、とにかく偏屈な奴らだと聞くし、才能がいる~ってのは、まあ、ティグなら大丈夫かもな」

「がんばります!」

 その返事を聞いて楽しそうに笑ったオーグだが、ふと表情を改める。

「しかし、魔工か。そんなに興味があるのか?」

「はい、すごく!」

 オーグが先ほどとは違う笑みを浮かべた。

「それなら、ティグ。お前の冒険者として最初の仕事だ」

「え?」

「これからの訓練のない時、そして、旅する先々で、お前が魔工の事を調べるんだ。どんな者か、どこに行けば会えるのか、お前に必要な事全部を」

「僕が、ですか」

「そうだ、俺や母さんは、それを手伝わない。そういう力も、冒険者には必要なんだ。わかるか?」

「……はい、わかります!」

「そうか、じゃあ今日の訓練はここまでだ。まず手始めに、隊商の連中に聞いて回ってこい。ただし今は忙しいから、待つなり手伝うなりしてから聞くんだぞ」

「はい、手伝ってきます!」

 そう言ってティグは隊商の方へ走っていく。

 冒険者としての第一歩を踏み出した息子の背中を、オーグは嬉しそうに眺めるのだった。


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