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第22話 - 冒険者たち -

 各地にある冒険者ギルドが公布する様々な依頼の中でも、人里を脅かす魔獣の討伐に並んで、普遍的に取り行われているのが野盗討伐である。

 この野盗討伐の対象となるのは、住所が不定であったり、公的に身分の証明が出来ない者ということになっている。

 例えば、冒険者がどこかからその条件に当てはまる者を捕らえてきて、冒険者ギルドや然るべき役所に引き渡せば、それだけで報酬を得ることが出来るのだ。

 これは、多少乱暴にも思えるかもしれないけれど、身元の分からない者が好き勝手にうろついていては、その地域の治安維持に支障をきたす事になるからである。

 それでもただの一般人が、そういった者を捕らえて役所に突き出していては、いちいち手に負えないし、なにかと諍いの原因になったりもしてしまう。

 そこで、随時依頼を出す形を取って、冒険者に連れてこられた者を役所が報酬を支払い引き受け、その地域の状況に応じて裁定を下す事になるのである。

 それが特に野盗被害の上がっていない地域であれば、ある程度の労役を科した後で住民として受け入れたりもするし、現在のオルベアのように被害が続出している地域などでは、例え決定的な証拠がなくとも野盗と断定し処罰することになる。

 ちなみに、正式に冒険者という立場を得る為には、登録の後に一定の公的な依頼をこなす必要があり、立場を得た後でも決められた期間内に公的な依頼を果たさなければ、正式な冒険者としての扱いを受けることは望めない。

 つまり、それなりの実力と実績がないと得られない冒険者という立場は、一種の免許のようなものであり、公的な信用を得るに足るものなのだ。

 そして、それだけの社会的な信用を持つ立場を悪用したりすれば、冒険者ギルドを通じて辺境に広く手配され、日の当たらない世界で生きるか、あるいは盗賊団などを組織して世間を騒がせたりする事になる。

 現在オルベアの町では潤沢な資金を元に、増加する野盗被害に対して、通常よりも報酬を引き上げる事で野盗討伐の奨励をはかっていた。


 だからといって、ディマス・カスケウスが野盗討伐に赴いたのは、そんな報酬につられたからという訳ではない。単純に報酬が目的であるならば、即席ででもパーティを組んで事に当たった方が効率は良いのである。

 町の冒険者から受けた同道の誘いも断り、あえて単身で依頼を受けたのは、これが彼にとって余暇に当てた行楽だったからに他ならない。

 類い稀な武の天稟を有するディマスだが、それ以外に冒険者としての才には恵まれておらず、どこの町でも内偵や調略に類する働きを求められる事は無かった。

 その代わりディマスに任せられているのが、パーティの顔として注目を集め、その名を売って回る、いわば広告塔としての役回りである。

 大きな仕事には必ず参加し、その力を以って存分に暴れ回り、衆目を集める場があれば、欠かさずそこに馳せ参じ、機会を見つけて力を示すよう努める。つまりは、その並外れた武力をあちこちで誇示して回るという、極めて単純な仕事であり、大味な性分のディマスにはお誂え向きと言えるものだった。

 とはいえ、彼らの抱く大望から見れば、これもまた地道過ぎる行いではあるのだが、エイダムやコウトがそうしているように、今が雌伏の時である事を理解し、それが今できる自らの役目と割り切っていた。

 そんな中で、大した仕事も興業も無い今のオルベアには、自分の果たす役割もまた無いものと見なし、早々に自主休業を決め込んでいるのだ。

 休暇なのだから、人で賑わう町の市場を冷やかして回ってもいいし、場末の酒場で時間を潰してもいい。そういった数ある選択肢の中から、今回は野盗討伐が選ばれたというだけの話であった。

 それは決して、一般的な冒険者の休日の過ごし方ではありえないのだが、郊外への散策の添え物程度に考える者が稀に、というか、ここにいた。

 そこらの野盗など物の数ではないという認識は、ディマスにとって過信ではなく歴然とした事実である。彼我の実力差を考えるなら暇つぶしにもならない所なのだが、前々からディマスは辺境に生きる野盗というもの自体に興味があったのだ。

 まさか野盗の中に人物がいるとも思ってはいないのだが、ディマスには機会があれば一度野盗という者たちと話をしてみたいと言う気持ちがあった。

 というのも、ディマスが師の元を厄介払いされるようにして独り立ちしてからおおよそ14年、エイダムと出会い供に旅をするようになってから10年余りの間、そういった適当な機会が一度もなかったのである。

 最初の数年間は、力はあれどその視野は狭く、ディマスが他人に興味を抱くことはなかった。その胸の内にあるものは、ただ自分が強いという単純な思いであり、それを他人にも知らしめようというだけの、大した理由もない自己満足程度のものだった。

 そんな時に出会った、どこかの貴族の三男坊だという男は、その目を輝かせながら大真面目に馬鹿みたいな夢を語って見せた。その夢物語の中で、なんの断りもなくディマスが中央部に据え置かれているのを聞いて、たまらず失笑してしまう。

 その笑いが貴族の三男坊にはどう見えたのか知らないが、その後に鼻息を荒くした若さと勢い任せで、その割やけに具体的な計画を伴った勧誘が始まると、ディマスは大した考えもなくその夢に巻き込まれてみることを決める。

 別にその言葉がディマスの共感を呼んだという訳ではない。

 ただ、本気でそんな夢を実現しようと考え、実現できると信じているその男を、面白いと感じてしまったから、というだけの理由だった。

 それは、ディマス・カスケウスという男が、他人というものに興味を抱くようになる切っ掛けであり、いちいち口に出して伝えるような事はしていないけれど、少なからぬ感謝の思いがそこにあった。

 そしてディマスは、ただその一事を以って、今日までその馬鹿げた夢に付き合っているのである。

 だから、意見が衝突するような時はディマスが譲るし、エイダムが野盗嫌い(そんな事をしているくらいなら冒険者を志す気概を持て)ならば、あえてその目が届く所で接触を持とうとも思わなかった。

 そして、幸か不幸か、一人で行動している時には盗賊に襲われた事がないし、わざわざ時間を割いて探そうと言うほど話したい気持ちが強い訳でもなかった。

 そもそもディマスとしては、この町で面白そうな冒険者に出会っていなければ、予定されている定期報告の会合などもすっぽかして、一人で辺境の奥へ探索にでも行こうかと考えていた位なのだ。

 コウトに頼んで集めてもらっている情報があるのであまり遠出は出来ないし、そういえばこの近隣では野盗が頻出しているという話も聞いた。それならば探す手間もそれ程気にしなくていいのではないだろうか。

 とはいえ、話をしてみて面白ければそのまま見逃してもいいなどと考えている手前、真面目に依頼を果たそうとしている他の冒険者達と同行するのは憚られる。

 そういったディマスの個人的な諸事情が重なった結果、常識人からみれば気の知れないような、当人にとってはちょっとした行楽気分といった、今回の単独行が行われる運びと相成った訳である。


「なんだ、昼間から酒びたりとは、なかなかいいご身分じゃないか」

「……言うほど飲んでる訳でもない、まだ味見程度といった所だ」

 町に帰って来たディマスが最初に目についた酒場で飲んでいた所、思わぬ相手、冒険者のウォードから声をかけられ、しかめっ面のまま面白くなさそうに返事を返す。

「らしくない、と言うほどの付き合いじゃ無いが、なにかあったか?」

 遠慮する素振りも見せず同じ卓についたウォードは、その態度のままに、変に気を遣うでもなくディマスが醸す不機嫌の元をつついてくる。

「なに、ちょっと仕事で不首尾があって、その気晴らしだ」

 自身の不機嫌を自覚していたディマスだが、それは誤魔化さなければならないほど深刻な話でもなく、聞かれたのなら苦味のある酒のつまみに出来る程度の事、つまる所、今回の野盗討伐が徒労に終わったと言うだけの話であった。

「ああ、そういえば一人で行くと言ってたからな、その感じだと大した下調べや計画もなしに、出たとこ勝負で事を進めたって所じゃないか?」

 からかうようなウォードの指摘に対して、ディマスは肯定する代わりに苦笑いを見せながら手元の杯を煽る事にする。

 やっぱりな、そう言って笑うウォードに、ディマスは自省の言葉を返すことで、幾らかでもその体裁を繕って見せた。

「確かに俺は連中を甘く見すぎていたらしい。

 烏合の衆と思っていたが、なかなかどうして、随分としてやられたよ」

「そうだな、特にここ最近は俺達も手を焼いて困ってるんだ」

「ああ、あの連中ときたらもう、兎にも角にも、良く逃げる」

 肩を竦めながらのディマスの感想に、ウォードは笑いながら頷いた。

 二人が何気なく語り合っている内容は、冒険者達の常識に照らして考えるならば、少しばかり厄介な状況が垣間見えるという事実の確認でもあった。


 野盗と一口には言ってみても、その実力や脅威が個々の集団によって違ってくるのは当然の話である。

 数と勢いだけを頼りにして手当たり次第獲物に噛み付いて回るような集団は、実力的に言えば下の下と言った所であり、放っておいてもいつの間にか駆逐されている程度の者たちだ。

 しかし、そういった者たちであっても、偶然が重なったり、あるいは世に歓迎されない才能が発揮された結果、野盗として生き残っていくことがある。そういった集団が経験を積んでいく中で、実力とともに慎重さというものを身につけていくようになる。

 それは、計画的な犯行であったり、より大きな集団の形成であったり、今回のような彼我の実力差を見極めた上での速やかな撤退といった形で現れてくるものなのだ。

 さらに言えば、野盗が野盗という括りを越えたような力をつけると言う事もある。

 運と実力を兼ね備えた集団が肥大化を続ける中で、稀に見るようなカリスマを有する指導者を戴く事があるとすれば、それは時に、冒険者どころか領主達の手にすら余るような存在に成り得るのだ。

 そこまでの変容を遂げた集団は、その内情や背景も単純ではいられない。

 表立っては争うことの出来ない地方領主間での力関係や、利権、嫉妬、遺恨といったものまでが複雑に絡みつく事で、過去には地方貴族を越えて、北部公爵の名の下に中央の兵団が平定に乗り出すといった事態にまで発展した事もあった。

 また、そこまでの大事にまでは至らずとも、辺境の歴史を紐解いてみれば、その成り立ちが不明瞭な地域や勢力圏などが幾つも存在しており、公にできないような背景を感じ取ることが出きるだろう。

 そういった地域では、義賊などを題材にした冒険譚が好んで語り継がれていたり、普通なら公然とは行え無いような大規模な闇市場が存在していたりといった事がある。

 決して褒められたものでは無いとはいえ、そういった物語も、辺境を織りなす彩りの一部であり、ある種の英雄譚と言えるのかもしれない。

 閑話休題。


 現在オルベアの周辺に出没する野盗達が、放っておいても立ち消えていく程度の弱小ではないにしても、実際にどの程度の力量や規模を備えている集団なのかを正確に推し量るのは難しい。

 ウォードが言うには、油断するべきではないが、ここ一年で彼等が狩りやすい弱小集団を刈り取った結果として、中堅どころの集団が目立つようになったのかもしれない、といった解釈も付け加えてみせる。

「まあ、それならそれで、中堅どころが寄り集まって、変に力をつけても面白くない。

 だから冒険者ギルドを通して守備隊にも話をしてあるんだが、

 なんとも腰が重いというか、なにかと対応が遅くってな。

 俺達の知らない情報から大丈夫と判断してるってんならいいんだけどよ」

 ウォードのそれは、少々投げやりな意見かもしれないが、根無し草とも言える冒険者にとっては、それ以上の責任もないというのは珍しくない考え方だった。

「まあまあ、そんな話は置いといて、まだ飲み足りないんじゃないか。

 もしそうなら、行きつけの店があるんだが、これから一緒にどうだ?」

「ふむ、それは願ってもない誘いだが、俺にばかり係っていていいのか?

 お前さんがパーティのまとめ役だろう」

「なぁに、俺がいなきゃ何もできないなんてケツの青い連中でもないし、

 面白くなさそうに酒を飲んでる同業者を放っておくのも寝覚めが悪いのさ」

 そう言われてみて漸く、ディマスは自分が気遣われている事を察する事ができた。

 若手の育成に力を入れているような所も含め、随分と世話焼きな性分であるらしい。

 最初に興味を引かれたのとは別に、ただの個人としても付き合いやすそうな好人物だという印象が加わったディマスは、はしご酒の誘いを快諾する。

 実際の所は、もうしばらく一人で飲んだ後、宿に帰って一晩眠れば、それだけで解消してしまう程度の気鬱なのだが、これは丁度いい機会に思えていた。

 このウォードという男の中に見た、自身が未だ持ち得ないものの一端を覗く事が出来るかも知れなかったからだ。

 それは、辺境に冒険者の国をと語るエイダムや、自らが打ち上げるべきまだ見ぬ刀に思いを馳せるティグに感じたような、言うなれば確たる志の形であった。

 龍を狩り、国を建て、その象徴として無双の力を示す。エイダムがディマスに求めた辺境の王の姿である。

 偶々に持ち合わせた力の行き着く先がそんな形であるのなら、それもまた良いだろうと達観する一方で、自分自身の道と呼べる志望を求める思いも確かに存在していた。

 それを渇望するほどに執着がある訳ではないのだが、どうでもいいと切り捨てることもまた出来そうにはない。

 誰に語るでもないそんな些細な思いに手を引かれたディマスは、先に店を出て上機嫌で先導するウォードと並ぶようにして道を行くのであった。


 が、結局この日、ディマスの聞きたかった内容にまで話が及ぶ事はなかった。

「おう、なんじゃ、ディマス殿ではないか、こんなところで会おうとはのぉ」

 訪れた店には先客、程よく酔っ払った様子のボルドがいた。

「御老か、確かに思わぬところで出くわした、お一人か?」

「うむ、最近は午後に暇が出来るようになってのぅ。

 ん、そちらのお連れはどちら様じゃろうかの、先日は会っておらんと思うが」

 ボルドに視線を向けられたウォードは、軽く姿勢を正しながら自己紹介を始める。

「お初にお目に掛かります、最近この町で冒険者をしているウォードという若輩です。

 ボルド・チェルグ殿とお見受けします、お噂はかねがね、どうかお見知り置きを」

「ほほ、これはなんともご丁寧に、しがない老骨に対し痛み入りますじゃ」

「何を仰る、町の碑に名を刻み、大討伐の詩にその活躍を語られる冒険者、

 同業としてこの町を少し知るならば、その名を知らずにはいられません。

 お目にかかれて光栄です」

「このウォードにいい店があると誘われて来たんだが、御老もここの常連らしいな」

「うむうむ、わざわざこの店を選ぶとは、なかなかに町を知っておるらしいのぅ。

 お主らも飲みにきたんじゃろう、どうじゃ、年寄りの慰みと思って伴に一献」

「願ってもないお誘いですよ、ディマスも構わんだろう?」

 もちろんディマスもその提案に否があろう筈もなく、三人が一つの卓を囲んでささやかな酒宴に興じる運びとなる。

 冒険者が三人寄れば話題の方向も自ずと定まって行くもので、それがディマスの考えていた流れと違っていても、あえてどうこうしようとも思わなかった。

 ウォードともこういう形で関わりを持ったのだから、聞きたい話があるのなら別の機会を待てばいい。わざわざ場の流れを断ち切ってまで、事を急くような真似をする必要はないのだ。

 かくして、この場で話を聞きそびれた事が、ディマスの求めるものに少なからぬ影響を及ぼすなどとは知る由も無く、話題は町に群がる野盗の動向が中心となっていた。

「わしも何度か討伐に立ち会ったが、確かに腰の引けた連中が目に付いたのう。

 捕まえられるのは大抵が怖いもの知らずといった感じの雑魚共ばかりじゃったな」

「被害が減らない所をみれば、弱腰というより慎重で狡猾な奴等が残っていると考えても間違いはなさそうですが、その統率が執られているかといえば、そうでもない」

「たしか、長い目で見ると被害は横ばいだったな。

 野盗共に強力な指導者がいるならば、もっと被害が大きくなって然るべき、か」

「まあ、そういう事だ。

 だから、連中が結託する前に、守備隊なり領主の兵なりが動いて欲しい所なんだが、

 いかんせん反応が鈍くってな」

「オーグも町中の事だけで手一杯らしいからのぅ、手が回らんのじゃろうな」

「こういう時は我ら冒険者の誰かが音頭を取って、包囲作戦でも敷ければとは思うのですがね、そこまで力のある者がいる訳でもない」

「お前さんが先頭に立つんじゃ駄目なのか?」

 ディマスの何気ない提案を、ウォードは首を横に振って否定する。

「そうしたいのは山々だが、うちのパーティの若手共は、いくらか見所はあっても、

 まだまだ経験が足らん奴等ばかりでな、現状で俺から声をあげるのは難しいんだ」

 確かにそういった声を上げる者は、作戦の中核となるべきであり、そのパーティが力不足と見られれば、大した賛同者も集められないだろう。

 無念さを窺わせるウォードの言葉だが、そこにボルドが興味を示す。

「ほう、お主程の歳で若手を何人も育成しておるのか、中々出来る事ではないのう。

 わしがお主位の頃は、自分達が功を成そうとばかり考えておったもんじゃ」

「ははは、お節介な性分が高じただけの話で、連中からは鬱陶しがられてますよ」

「確かに、お節介焼きなのは間違いないな、俺にまで世話を焼いてくる位だ」

「……やはりそう思うか、いや、分かってはいるんだが、どうにもなぁ。

 そうそう、実は若手の何人かが、依頼でボルド殿とご一緒した事もあるんですよ。

 ミィムとギタムとヘイガットという三人なんですが、覚えはありませんか?」

「おうおう、たしか戦士の三人組じゃったかのう。

 他の冒険者達より歳が近かったせいか、クリスも楽しそうにしておったでな」

「お孫さんですね、随分と若いのに大した腕前の魔法使いだとか。

 あいつ等の尻を叩く良い材料になりました」

「お宅の三人もなかなか有望だったように思うがの。

 まあ、うちのクリスはちょいとばかり特別じゃからのぅ」

「なんだ、若手自慢か、それならうちにも一人凄いのがいるぞ?」

「ティグを若手に数えるのは無しじゃぞ、ありゃ規格外じゃて」

「む……ならコウトでもいいか、実戦だけみればまだ若手と言えなくも無い」

「なんじゃ、あやつは相変わらずパッとせんのか、まあ、向き不向きがあるからのぉ」

「この間言っていた、この町出身の仲間というのがその二人か。

 ……ティグというのは、もしかしてティガウルド・ホグタスクの事なのか?」

「なんだ、知ってるのか」

「知ってるも何も、この町じゃ結構に知れた名だ。

 なるほど、それでボルド殿とも面識があった訳か、それにしても……」

 酒の上での会話は、その焦点も曖昧になりがちではあったが、別にじっくり何かを話し合おうという訳でもない。

 皆が時間を忘れて飲み、語らう中で、いつしかディマスの取るに足らない気鬱など、跡形も無かったように消え失せていた。

 楽しげな余韻を残してお開きとなった酒宴の後、そのまま自分の宿へと帰ったディマスは、ここ数日の全てが清算されたような心地よさを持って床へとつく事ができたのだった。


 そんなディマスに付き合って普段より酒量の過ぎた二人が、孫娘やパーティの仲間からささやかな非難を向けられたのは、また別の話である。

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