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第3話 - 転生 -

「やあ、調子はどうだい」

 聞き覚えのある声は、やはりどこか軽薄な印象をうける。

(またあなたか、あいかわらず薄っぺらいですね)

「神様との邂逅って奇跡を経ても、畏敬の念を抱かない人のおかげでね」

(それで、こんな所につれてこられたという事は。僕はまた死んだんですか?)

 そこまでの傷を受けた覚えもないが、気づかないうちに頭でもぶつけたのだろうか。

「ああ、君がこんな所にいたから声をかけただけで、別に僕が引っ張ってきたって訳じゃない。それに、勘違いしてるみたいだけど、君は元気だよ、怪我ひとつしていない」

(そうですか、じゃあいいです、早く元に戻してください)

「さっきも言ったけど、僕が連れてきた訳じゃないんだ、だから戻せもしないよ」

(あなた、神様じゃないんですか)

「ひどい偏見だ、神様をなんだと思ってるんだ。君をまた生まれ変わらせる事ならできるけど、そんなことしたくないし、望んでもいないだろ?」

(あなたと会ってからこっち、僕の中で神様の株は下がりっぱなしです)

「僕が悪いの!?」

(役に立たないなら、これ以上威厳が無くならないうちに、どっかに行ってください)

「なんでそう、即物的かな。君らしいといえば君らしいんだけど」

(まだいたんですか)

「……僕のこと嫌いなの?この間、感謝してたじゃないか」

(感謝と好意と尊敬はそれぞれ別のものだとおもいます)

「いいよ、わかったよ。戻るための手伝いするから、ちょっとは尊敬してよ」

(できるなら最初からそうして下さい、また株が下がりました、がっかりです)

「ちょっと挨拶がてら世間話から入ろうとしただけじゃないか」

(そんなんだから尊敬されないんです)

「僕だって、信仰を持っている人の前とかでは、もっと立派なんだよ?髭とか生やしたりして」

(どうでもいいです)

「ちょっとやってみるから、みててよ。あーなんじにーじょげんをーあたえよう」

(どれだけ株を下げたら気が済むんですか?勘弁してください)

「八方ふさがりだよ、打つ手なしだよ」

(高望みせず堅実に生きるのが近道だとおもいます、具体的には早く助言してください。僕は早く戻りたいんです)

「わかったよ、つれないなあ。じゃあまず、君はなんでここに来ちゃったか、わかる?」

 少し考えて、下手に言葉を返すと脱線するだろうと判断し、黙って首を振る。

「原因、いや、引き金になったのは父親の質問だね、君は何になりたいか、ってやつだ」

 言われて見ると、確かにその質問に答えようとした後からの記憶が無い。だが、なぜなのか。黙って言葉の続きを待つ事にする。何か喋ったらあいつは絶対食いついてくる。

「ひどい誤解だ、ああ、睨まないで、ちゃんと話すから。だからたまには返事してくれるとうれしいな」

 考えている事は筒抜けらしい、たちが悪いし趣味も悪い。

「ここはそういう場所なんだから、僕のせいにしないでほしい。まあ、とにかく、なぜかだったね」

(そう、そんな質問されたからっていちいちこんな所にきてたら、不便で仕方が無い)

「そうだね、でも原因があるんだ、特異な存在である君ならではの問題がね。それを順番に解決していこう。そうしないと君はまた、簡単にここへ迷い込んでしまうから。まあ僕はそれでもいいんだけどね」

(早急に解決しなければいけない問題だとわかりました、ご助力をお願いします神様)

「丁寧な返事なのに微妙に嬉しくないのなんでだろう」

(きっと僕の早く話を進めろこのウスノロが、と言う想いがにじみ出てしまったせいです。申し訳ありません、特異な場のせいだと思います)

「場所のせいならしかたないね!……わかりました、それじゃあまず質問です」

 少しの間が取られる。何を問おうと言うのだろうか、父親と同じ質問だろうか。


「君は誰?」


 なんだその質問は。名前を答えろと言うのか?それとも、過去の名を言えばいいのか?なんにせよ、そん質問の答えは知っているはずだろう。

「これは問題じゃなくて質問、よく考えて答えを出せって事さ。というか、それに即答できれば問題は解決したようなものなんだ」

(僕は、何者か)

「僕が答えを言っても何の意味も無いからね、ヒントはいくらでも出させてもらうよ。まずは最初のヒント、あの世界の刀工は死にました。だから、もういません」

(知っている、自分の事だ、満足して納得して死んだ)

「二つ目のヒント、初めて僕たちが会った時と今とでは大きく違うことがあります、自分の身体を見てみてください」

(身体?)

 言われた通りに身体を見ようとして気づく、以前ここにきた時は身体など無かったはずだ。しかし、今は身体がある。薄ぼんやりとした光が小さな身体の輪郭を形作っている。

「最後のヒントです。今の君は、最初に僕と最初に会った時と同じ存在ですが、この問題を解決した瞬間からまったく別の存在になります。そうなることを転生と呼びます」

(もう答えを言ってるも同然な気がしますが、わかりました。答えはティガウルド・ホグタスク、僕はティガウルド・ホグタスクだ)

「そうだね、正解だ」

 当然だ、それが間違いの訳が無い。だが、まだ足りてはいないはずだった。

「うん、その通り。答えにはその先がある、そしてそれが、君に必要なものだ」

(僕に、必要なもの)

「すぐには分からないかな、じゃあ考えている間にちょっと話をしよう。ヒントって訳じゃないから、聞き流してくれてもいいよ。なに、たかだか神様の語る真理の一端って程度のものだよ」

(ご大層な話ですね、好きにしてください、聞き流しますから)


「気づいているかい?君が初めて僕と会った時とは、いろんなものが随分変わっている事に。その理由は君の身体だ。あの時の君は刀工の身体を失った直後で、その影響が強く残っていたんだ。何に対する影響か、まあ安易な言い方をすれば魂ってやつだ。そう、今の君は魂そのものなんだよ。肉体と魂は強く深く結びついている、片方だけでは別物になってしまうくらいにね。魂を失った肉体はただの置物と変わらないし、肉体を失った魂はすぐに形を失ってしまう。だから、刀工はもういないと言ったんだ。肉体が失われてしまったからね。ではなぜ、君の魂が残っているのか。簡単さ、君には肉体があるからだ。けれど、魂の形が変わらない訳じゃない。肉体と魂は双方が強く影響を及ぼすんだからね。問題が起きたのは、君の魂と肉体が、影響は与え合ってはいても、結びついてはいなかったからなんだ。そのほころびが父親の質問であらわになってしまった訳だ。おかげで僕たちが再会できたわけだから、悪い事ばかりじゃないよね」

(一つもいい事がないですね)

「聞き流してたんじゃないのかい。うれしいね、それじゃあ次は僕の話をしようか。前にも言ったけど、僕は君の知識や信仰によって形成されているんだ。うすっぺらいのは君が限りなく僕に興味がないからなんだ。寂しい話だよね」

(あなたの話はとても納得がいきます)

「だよね、そういう態度もそのあたりから来てるんだよ。君が僕を嫌っているってわけではないんだ。僕が君に嫌われてるわけじゃないんだよ。念のためもっかい言おうか?」

(結構です)

「そこでお願いがあるんだ、そろそろ答えも出たみたいだしね。その答えを聞いてしまえば、君はここにはいられないだろう。実はここってそんな簡単にこられる場所じゃないんだよ、今回の問題を解決してしまえば次はいつ会えるか見当もつかないくらい。だからその前にひとつだけ、本当に嫌なら断ってくれてもいい、お願いを聞いてほしい」

(……聞くだけ聞きますよ)

「だよね、そう言ってくれると思ってた。ああ、嫌そうな顔しないで、僕は素直に喜んでるんだから。お願いって言うのはね、そんな難しいことじゃない。僕に、形をくれないか」

(形、ですか)

「そう、たとえば、逞しい肉体を誇る雄々しい戦士とか、豊かな髭と威厳をもつ老人とか、なんだったら長い緑髪をくるぶしまで伸ばした女神とかでもいい。とにかく、君が僕と結びつけられる、一番手近な姿を思い描いてほしいんだ」

(例に出た3つにならない事は分かってますよね?)

「例に出したら思い浮かべやすいかなという親切心だよ」

(そういわれても、神様の姿なんて考えたこともないし、相手が相手だしなぁ)

「わかった、もう、この際神様とかおいといていいから、やさしげな雰囲気を纏った好青年とか、つい甘えたくなるようなお姉さんとか、いざって時は頼りになる先輩とか、僕と聞いて思いつく姿ならなんでもいいよ」

(いらん親切心など犬に食わせてください)

「可能性があるなら、諦めたくないんです。って、おお?」

(あ……)


 何も無かった空間に、何かが形作られていく。それは、確かに一番早く頭に浮かんだもの、神様の姿では無く、彼と交わした一方的な約束の形。


「……こうなったかぁ」

(まあ確かに、それが最初に浮かんだんですど、いいんですか)

 そういって手を伸ばす。

 それは空中に浮かぶ刀だった。ぼやけてはっきりとしないが、見間違えようのない特徴的な形。

 伸ばした手は空をつかんだ。確かに見えているのに、届かない。

「たぶんこの姿は、いつか君が、僕にくれると言った刀なんだね。最高の、でも、まだ存在していない幻の刀。うん、気に入った、嬉しいよ」

(ちょっと分不相応な気がします)

「いやいや、すごくいいよ。この姿なら、無下にも扱われなさそうだし」

(まあ……嫌いにはなれそうもないですけどね)

「ふふ、それじゃあ聞こうか。もう出たんでしょ、君に必要な答え。ちょっと名残惜しいけど」

(十分すぎるほど話したでしょう。たぶん、そのうち、また会えますよ)

「いいねこの姿、ちょっと優しくなってる!」

(……別のに変えられませんかね、便所虫とかに)

「無理です、嫌です、返しません」

(まあいいです、じゃあ、ちょっと長くなるけど聞いてください。あなたの長話よりは短いですから)

「うん、聞かせてもらうよ、君に必要なものを」

(まず、あの刀工は満足して死んで、そこで終わった。僕は刀工の持っていたものを受け継いだ。知識や技術、経験やその想いまで。それが余りにも大きかったから、それに縛られてしまった。そのせいで、僕は僕として生きていなかった。受け継いだものは大きくて、重くて、消える事無く、僕の中にあるものだけど、僕は最高の刀を手にして死んだ刀工じゃない。ここであなたと出会った魂でもない。これからこの世界で最高の刀を求めて生きる、ティガウルド・ホグタスクだ)

「お見事、これでさよならだ。最後に一言贈らせてもらおう」

 景色が霞んでいく、夢のように、幻のように。

「ようこそ、この世界へ」

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