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第9話 - 再会 -

 北部大陸は大きく4つの地域に区分されている。

 中央大陸と地続きで繋がる北部公爵の直轄領。

 その直轄領の外縁に位置する地方貴族の領地。

 そこから更に外側へと突き出る形で開拓された辺境領土。

 そして、未だ大陸の半分以上を占める、未開の土地である。

 ティグはディマスと共に、闘技大会が終わった地方貴族の領地から、仲間の待つ辺境領土の町へと向かっていた。

 二人共が馬に乗り、まっすぐ目的地へ進むのだから、それほど長い旅路ではない。

「変わった剣だな、色々な武器を見てきたつもりだが、その剣は見た事がない。

 それになんだ、その切れ味は、すごいな、魔力武器にも見えんが」

「刀って言うんだ、僕が造って、まだこの世に三本しかないからね」

「お前さん、鍛冶も出来るのか、あれだけ戦えるのに器用な奴だな」

「はは、そうだね、まあ、色々あるんだよ。

 でも、それを言うなら僕だって、大剣二つしょって戦う人は初めて見た」

「ああ、一本だと戦ってる内に折れる事があるから、予備みたいなものだ。

 たまにこうやって使う事もあるんだがな」

 そう言ったディマスは、両手で握っていた大剣を片手に持ち替え、空いた手に背負っていた大剣を掴む。

 普通なら片手で扱うだけでも大変なそれを両手に持って振り回し、ディマスは事も無げに魔獣達を蹴散らしていく。

 通常の旅では大事を取って迂回する森沿いを進んだ事で、二人は森に巣食う魔獣達に襲われているのだが、この二人が揃っていれば、道中で遭遇する程度の障害など、ものの数には成り得なかった。

 二人は逃げるでも止まって迎え撃つでもなく、下馬しただけで前進を止めず、交代で馬を守りながら襲い来る魔獣を撃退していた。

 これから一緒に戦っていく相手に、自分の手の内を見せる丁度良い機会とばかりに、二人共が競うように互いの技を披露していく。

 その巻き添えを受けた魔獣は、彼等が進んだ道を示す導の様に屍を並べていった。


「そういえばなティグ、俺にはエイダムの他にもう一人、仲間がいるんだ。

 腕の方はまだまだだが、なかなか面白い戦いをする男で、あれは一種の才能だな」

「ああ、分かるかも、単純な力以外の面でも、冒険者に必要なものって沢山あるよね。

 ディマスもそういう方面が強そうに見えないけど、気のせいかな」

「はっはっは、確かにそうだ、俺には足りん所が沢山ある。

 その上での、持ちつ持たれつこそが仲間の価値で最大の意義よ。

 俺が旅を始めた頃は、そんな事すら分かっていなかったものだ。

 説教臭くなるが、その辺りを心しておくといい、大事なことだからな」

「うん、覚えとく、結構耳の痛い話なんだけどね。

 ところで、そのもう一人っていうのはなんて人?」

「ああそいつの名は……」


「コウト、久しぶり!」

「は?……ティグ!?い、いや、ティグなのか!?それにしちゃお前、背が……」

 コウトが最後にティグを見たのは、もう四年以上も前の事である。

 その当時から発育がよかったティグは、同年代の子供と比べて抜きん出た体格をしてはいたのだが、十一歳となる現在では成人男性と同程度の身長に達していた。

 既にコウトとの身長差は埋まっている。

 以前と変わらぬ変声期を迎える前の声と、幼さを残したその顔がなければ、別人と見られてしまってもおかしくなかっただろう。

 しかも、辺境領土の名も無い町の酒場で再会するなど、思ってもいなかったのだ。

「……ディマス、事情を説明してもらえますか?」

「説明もなにも、誰か一人連れてくると言っておいただろう。

 こいつはティガウルド・ホグタスク、喜べエイダム、念願だった凄腕の戦士だぞ。

 まさかコウトと旧知だったとは思わなかったがな」

 ティグとコウトの再会を横目に見ながら、エイダムが後から酒場に入って来たディマスに対して質問する。

「その名前は聞いてたでしょう、それで連れてきたんじゃないんですか?」

「んん?そうだったか?

 ティグとは闘技大会の決勝戦でぶつかっただけだぞ。

 ああ、だが、スケイズから話を聞いて俺達を探していたとは言っていたな」

「誰ですかスケイズって、そんな人知りませんよ。

 コウト、本当にその方がティガウルド・ホグタスクなんですか?

 聞いていた話だと、まだ十一歳くらいだったと思うのですが」

 水を向けられたコウトは、戸惑いを見せながらもそれを肯定する。

「まさかこんな大きくなってるとは思ってなかったけど、間違い無く本人だ。

 確かに前から成長は早いと思ってたけど、ここまでとはなぁ」

「すみません、自己紹介が遅れました、僕はティガウルド・ホグタスクです。

 ディマスはいいと言ってくれましたが、エイダムさんにも改めてお願いします。

 僕を仲間にして下さい、それなりの力はあるつもりです」

 ティグがエイダムの方に向き直って自分の要望を伝える。

 それを受けたエイダム・アンティートの端正な細面に浮かんでいるのは、当惑というよりは思索の表情であった。

「あー、えっとですね……まず、私もティグと呼ばせて貰っていいですか?」

「はい、構いません」

「ありがとう、私も呼び捨てで、ディマス達と同じように話してくれて結構です。

 それでですね、仲間に、と言う申し出の件は歓迎します。

 コウトから話を聞いて、いずれこちらから出向きたいと思っていたくらいです。

 実力の方もディマスのお墨付きなら、なんの文句もありません。

 ただちょっと、想定外過ぎて考えをまとめたいんですよ」

「エイダムがそんな風になるのは初めて見たよ、ちょっと面白いな」

 一足先に立ち直って茶化してくるコウトに、エイダムはため息を一つ返しただけで顔を上げた。

「すみませんが、今日の所は先に引き上げさせて貰います。

 ティグ、おざなりで申し訳ないですが、改めて歓迎します、

 これから宜しくお願いします」

「こちらこそよろしく、エイダム。

 ごめん、なんか僕のせいで混乱させちゃったみたいで」

「いえ、完全にこっちの都合です、気にしないで下さい、それではお先に失礼します。

 また明日この酒場で、色々話を聞かせて下さい」

「もちろん、よろこんで!」

 ティグの返事に微笑んで、エイダムは酒場を出て行った。

 それを見送ったコウトが首をかしげる。

「普段はもうちょっと飄々とした人なんだけどな、どうしたんだか」

「あいつの野望に関する事だろう、それだけティグの存在が大きいという事だろう」

「エイダムの野望、ってなんの話?」

 コウトの問いにディマスは目を丸くした。

「なんだ、俺がいない間に聞いてなかったのか?」

「なんの事だか分からないけど……もしかして、俺のやってる仕事に関係してる?」

「エイダムが話してないなら、俺の口から言う事ではないな。

 まあ、相手がコウトだから、慎重になってるんだろう、分からんでもない」

「俺はさっぱり分かんないよ」

「まあ、お前もエイダムも、面白い奴だという事だ、気にするな。

 それじゃ俺も先に帰らせて貰おう、お前達には積もる話もあるだろうしな」

 そう言い残したディマスは、大きく笑いながら酒場から出て行った。

 残された二人は顔を見合わせる。

「なんか、全然話について行けなかったんだけど」

「俺も同じだから気にするな。

 それより、色々話を聞かせろよ、なんでティグがディマスと一緒にいたんだ?」

「僕だって、二人の仲間がコウトだって聞いて驚いたよ。

 ディマスに聞いても、旅の途中で出会ったって事くらいしか分かんないし」

「お互い山ほど聞きたい事があるってわけか、今夜は長くなりそうだな」

 コウトがニヤリと笑って杯を掲げ、ティグもそれに応じる。

 そして二人は、これまでの事を語り合った。

 ティグの師の元での苦悩が、コウトの残した手紙に救われた事。

 ジルムベイグを出た日から、何度も繰り返した出会いや別れの事。

 魔力鉱石を手にした喜びや、竜に挑んだ体験と、その時に感じた畏怖の思い。

 コウトがあの二人との出会うまでと、出会ってからの苦労話。

 二人と同行した事で感じてしまった、どうしようもない自身の無力さ。

 それに根ざして手を出した魔力武器の力と、その為に負った借金の恐怖。

 他の細かい話を数え上げればきりがないだろう。

 話は尽きる事もなく、夜が更けるまで続けられた、再会を心から喜び合いながら。

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