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第2話 - 両親 -

「ようオーグご機嫌だな」

「ぬかせよ、息子を取られた父親の気持ちがわからねぇのか」

「大魔法使いの卵だもんな、羨ましい限りだ」

「黙れってんだよ!ティグは戦士になるんだ!俺が鍛えるんだ!そう約束したのに、エリシアの奴、抜けがけしやがって……」

「ははは、まあ飲め飲め、父親も大変だよな」

 隊商後方に位置する幌馬車は、夜な夜な簡易の酒場として開放されている。そこで店番を相手にくだを巻いているのは、ティガウルド・ホグタスクの父オーグルド・ホグタスクである。

 冒険者として生きようと決心し、家を飛び出したのが一六歳。若輩者とそしられながらも、着実に経験を積み、生まれ持った才能も手伝って周囲に一目置かれるようになってきたのが十九歳。その頃にパーティを組んだエリシアに一目惚れし、熱烈な求愛の末に見事思いを遂げる。その結果として生まれたのがティグだった。

 そして現在二十三歳のオーグは、そろそろ冒険者よりも、隊商護衛として過ごした時間が上回る頃合だ。冒険者としての志が萎えた訳ではない、むしろ冒険者として何も成し得ぬままに至った現状を嘆いていた。

 この隊商とは良好な信頼関係を築けたし、ここになら妻子を任せて旅に出る事もできると考えて、そこで自分が妻子と離れがたく思っている事を痛感したのだ。同い年の妻は最近ますます美しくなってきた。思わず二人目を作ってしまいそうになるのを思い止まるのは、冒険者への並々ならぬ未練からであった。息子はというと、こちらも可愛くて仕方がない。その上その溢れんばかりの才覚は誰の目にも明らかで、その成長に携われないなど考えたくもない事である。

 隊商に家族を預けて冒険者として活動するというのは、最低でも2年、下手をすれば5~6年は再会できない覚悟がいるのだ。

「あと5年……いや3年あればなぁ」

 それだけ時間があれば、冒険者としての何らかの成功を手にしていた。そして、小さな町にでも居を構え、我が子の成長を見守りながら、そこを拠点に冒険者として活動する事も可能だっただろう。

 あるいは、自らの限界を知り、身の丈にあった生き方を選べたかもしれない。しかし、若いオーグには挑戦もせずに志をたたむという選択は不可能だった。

 思えば苦悩の原因は全て若さにあるのではないだろうか、と考える。エリシアに受け入れられたあの日から、若さに任せてめくるめく昼と夜を繰り返し、それはもうある種の獣のように、とどまる事を知らない若さが溢れ出していた。

「ああもう、昔の自分を殴り飛ばして説教してぇ、もう少し落ち着けってよぉ」

「殴り返されるのがオチだろうよ」

「全部若さが悪いんだぁ」

「おう、そうさ飲め飲め」

 そのまま、夜は更けていった。翌朝、目が覚めてから渡された酒代の請求書を見て、再び己の若さを痛感させられるのだった。


 若きオーグが酒場で苦い経験を積むことになったそもそもの原因は、息子の教育方針を巡っての夫婦の対立だった。余人からすれば馬鹿親の痴話喧嘩とも言う。

 その日、哨戒を終えて小休止していたオーグの元に、興奮したエリシアがタオルを被せられたティグを連れて現れた。普段なら勤務中は顔を見せないし、そもそも大抵の事に動じないエリシアが、ここまで興奮してそれを隠そうともしないなんて何事だろうか。そうオーグが訊ねる迄もなくエリシアが口火を切った。

「オーグ!この子ね、すっごいの!絶対すごい魔法使いになるわ!」

「何言ってるんだよ、いや、何の話だよ。とりあえず落ち着けよ」

「ティグの将来の話よ、魔法使い!もう、今から楽しみだわ!」

「待て待て、待て待て待て!ちょっと待て!」

 耳を疑う言葉だった。そもそも、子供の育て方については、お腹の中にいる時にしっかりと話し合って決めたではないか。名前にしても、将来についても。男の子なら名前はエリシアが決めて、オーグが戦士として鍛える。女の子ならオーグが名前で、エリシアが魔法を教える。忘れてしまったのだろうか。

「ティ、ティグは男の子だから、戦士として育てるんだよな?」

「ああ、うん、でも、こうなったら仕方ないよね!」

「いや、何の話だよ!」

「こんな魔法の才能の塊みたいな子だったら、もうそうするしかないわ!」

「才能が、ってまだ三歳だぞ、魔法がどうとか言う歳じゃないだろ」

 その言葉で墓穴を掘る格好になると想像できる者はいないし、言わなくても結果は同じだっただろう。

「それが、違うのよ!ほら、お父さんにもみせてあげて」

 未だに興奮冷めやらぬ様子でなにやらティグを促すエリシア。

「でも、水が……」

「さっきはゴメンって言ってるじゃない、こんどはちゃんと加減してかけるから、ね」

 オーグがさっぱり事情がつかめないまま状況は進んでいく。ティグがおずおずといった感じで前に出ると、周りで面白そうに眺めていたオーグの同僚達も集まってきた。あの坊主がまた何かやらかすらしい、そんな好奇の色が見て取れる。

 差し出されたティグの手に皆が注目し、次の瞬間、言葉を失った。

 直前まで何もなかった掌上に炎が現れたのだ。魔法の炎、しかも間違いなく上級に分類されるそれは、火勢にしても弱々しい物ではなく、触れればたちまちに燃え上がりそうな力強さを有していた。

「っ!手は!手は大丈夫なのか!」

 未熟な者が炎の魔法を扱えば、その身を焼き焦がす事になる。それに思い至ったオーグが慌てるが、エリシアは全く動じていなかった。あれ程の火力を、御し得ているというのだ。

「今度は自分で消せる?」

「……はい」

 母子の短い受け答えの後でティグの小さい手が握られると、燃え盛っていた炎は最初から何もなかったように立ち消えた。

「すげぇ」

 誰かが呟いたそれは、呼び水となって熱い共感の声を呼び起こした。目の前で起こった信じられない出来事が、自分だけが見た幻覚ではないと誰もが確認できた瞬間だった。

 熱狂に駆られたオーグの同僚達が、エリシアとティグを巻き込んで本隊の方に向かっていった。小休止なんてそっちのけで、彼らが行く先々で歓声が巻き起こっている。

 小休止場所の荷馬車の上で、オーグだけが呆然として残されていた。我が子の破格の才能を目の当たりにして、喜ばしい事だと頭では分かっているが、心がついていかない。

 任務を思い出して戻ってきた同僚達が、口々に絶賛の言葉をかけてくるのをオーグは上の空で聞き流していた。

 勤務を終えたオーグが、キャンプを張り始めた隊商の中を抜けて妻子の元へ向かう。隊商の皆がいつにない熱を持っているのは、やはりさっきの出来事が尾を引いているからだろう。オーグに気づいた者は一様に賞賛の声をかけてくる。

 自分のキャンプに到着すると、そこではエリシアとティグを囲んで、隊商の顔役達が集まっていた。彼らもまた惜しみない称賛と期待の眼差しをティグに浴びせていた。

 やあやあ旦那様のお帰りだ、と胸を張って登場しても素直に受け入れられるだろう。しかし、オーグは気づかれないように踵を返し、一人酒場へと向かうのだった。


 エリシア・ホグタスクは不安を抱えたまま朝を迎える。昨日はティグの見せた規格外の才能にあてられ、冷静さを欠いていた。そのせいでオーグとの話を中断してしまった。

 引き離された後、すぐにでも会いに行けば良かったのだが、隊商中がお祭りのような騒ぎになってしまい、浮き足立ったエリシアはその中心であるティグを連れて行く事も、置いていく事もできなかった。それでも勤務が終わればオーグは帰って来る、その時にしっかり話せばいいと思ったし、その頃にはエリシアも平静を取り戻していた。

 しかし、人の往来は絶えず、しまいには隊商の顔役達までがティグを見物に来てしまい、彼らを無下に扱う訳にもいかず応対していた時、ちらりとオーグの姿がみえた。オーグは輪に加わらず姿を消した。仕事で疲れているから、顔役達に合わせるのが嫌だったのだろうと思い、帰りを待った。夜、来客が途絶えティグが眠ってもオーグは現れなかった。

 不安でいてもたってもおられず、ティグを残してオーグの行方を訊ねて回り、酒場へとたどり着く。普段はお酒などほとんど飲まないオーグが、酒場の端で酔いつぶれて眠っていた。

「父親ってのも複雑なんだよ。なに、明日になれば頭冷やして帰ってくさ」

 店番にそう言い含められ、エリシアは一人で帰途につく。その晩は静かに眠るティグを抱きしめるようにして眠りついた。

 そんな風に迎えた朝だったから、早朝に帰ってきたオーグの姿をみつけたエリシアは勢いよくその胸に飛び込み、すがるように謝った。あなたの気持ちを考えていなかった、と。それでオーグが許してくれると知っていた。自分はずるいと思ったが、それがどうしようもない本心だった。


 どうやって謝ろうかと考えながら、オーグが重い足を進めて妻子の待つテントへと帰り着くと、勢いよくエリシアが飛び込んできた。

「ごめんなさい、あなたの気持ちを考えてなかった。本当にごめんなさい」

「こっちこそ、ごめん。不安にさせちまった」

 謝るつもりが先に謝られてしまい、なんともばつが悪いのだが、そんな気持ちを飲み込んで、オーグは震えるエリシアを抱きしめる。馬鹿なことをしたと思った。

 隣のテントのオヤジが顔を出し、朝からお盛んだね、二人目かい?などと冷やかしてくる。睨みつけると、してやったりといった表情を見せて引っ込んだ。おかげで肩の力が抜けた。

「エリシア、聞いてくれるか」

「うん、なんでも言って」

 潤んだ瞳で見上げてくる妻を見て、二人目もいいかもしれないなどと考え、慌てて頭をふるオーグ。けじめはしっかり付けなければいけない。


「ティグの魔法の才は、聞いた事も無い程すごい。それはもう、否定しようのない事実だ」

「うん、昨日は私も舞い上がってたけど、それでも、あれはもう、ねぇ」

「でも、だからといってこのまま魔法使いに!ってのはちょっと不公平だ」

「不公平……っていっても、それは」

「そこで、だ」

 オーグが二本のショートソードを持ち出した。エリシアがあらためると、それは刃引きのされた訓練用のものだった。

「剣の方の才能も見て、それで決めよう。それで公平だ」

「オーグ……」

 三歳で上級魔法を扱うなどという前代未聞の才に、何があれば並べるというのか。そんな事はわかった上でのオーグの提案であり、それを見た上で納得したというのが、オーグの考えた落としどころであった。

 その意を察して、エリシアはそっとオーグに身を寄せる。やばい、ほんとに二人目できちゃうかも、と気が気でないオーグ。雑念を振り払う。

 ちょこんと座って両親を眺めているティグに、ショートソードを手渡す。

「ティグ表に出るんだ」


 オーグには確信があった。ティグには戦士としての天分がある。

 エリシアが魔法に長けているように、オーグも腕に覚えがある身だ。同僚の護衛隊の面々と話していても、そこに話題が及んだ事は一度や二度ではない。魔力の扱いは、何も魔法にのみ影響を及ぼすわけではないのだ。

 ティグの三歳児とは思えぬ働きの数々は、紛れもなく魔力による肉体への影響から来るものだろう。そして、ティグのそれは無意識に行う魔力操作の限界を超えている。三歳にしてその域にある才を、天分と言わずしてなんと言おう。

 だがやはり、上級魔法を見せられてはその才も霞んでしまう。魔法の才を見つけるのがもう何年か遅ければ、そんな事を考えて、笑ってしまった。昨晩酒を飲みながら、似たような事を愚痴っていたのを思い出したのだ。

 今ここにいられる事を感謝するのだ、魔法の道を行くであろうティグの、埋もれゆく戦士としての可能性を自分だけが体感することが出来る、それでいい。人の短い一生で、二つの道を極めるなど、出来はしないのだから。

 けれど、せめてひと月位は剣の手ほどきをしてからでもよかったかもしれない。今更ながらに後悔したが、後の祭りである。


 大の大人が三歳の幼児と剣を持って対峙する姿は、有り体に言って滑稽そのものだ。しかし、事ここに至ってはそんなものを気にする程のこともない。

 オーグが片手で剣を持ち前方に向け、やや半身に構える。盾は持っていないが一般的な隙のない構えだ。打ち込みはしない。存分にティグの剣を受けるつもりだった。

 対するティグはショートソードを両手で構えていた。如何に身体能力が秀でているとは言え、身の丈に合わない武器を片手で構えるのは難しいのだろう、そう分析するオーグだが、言い知れない違和感を覚える。

 オーグの想定では、その年頃の子供が棒きれを振り回す要領で向かってくるのを、受け、いなし、かわす事でティグの体力切れを決着とするつもりだった。

 しかし実際はどうだ、ティグは無闇に向かってくる事をせず、だからと言って怖じけている様子でもない。ティグの立ち姿が堂に入っているようにすら感じるのは何の冗談だろうか。いや、冗談ではない、そう確信したのは、ティグの初撃を打ち払う直前だった。

 まっすぐこちらを向いて小さく揺れていた剣先がぴたりと止まった、そう見えた瞬間に剣撃は眼前に迫っていた。咄嗟に打ち払えたのは、オーグの力があればこそだった。

 油断がなかったとは言わない、しかし、それを差し引いても初撃に対応できたのは、ティグの幼さから来る体力不足のおかげだった。今の一撃が身体のできた者から放たれていたなら、それで勝敗は決していただろう。追い打ちはない。

 逸る鼓動を感じつつ、ちらりとエリシアを見る。案の定、目を丸くしていた。オーグだって傍から見ていれば、全く同じ反応をしていただろう。

「エリシア、盾をくれ」

 惚けていたエリシアが、オーグの言葉に反応し、こくこくと頷いて手持ちの盾を持ってくる。

 今更ながら、とんでもない勘違いしていた。そもそも、ただの子供が三歳で上級魔法など扱えるはずがない。こいつはとんでもない子供だ。そして、同時にオーグの息子だ。10年、いや、5年後ならばいざ知らず、今この場というのなら、意地でも負けてやるものか。

 オーグの大人気ない覚悟が決まった、同時に盾を前面に構えて上半身を隠す。大剣を携えた大人ならば、正面から斬りかかって防御をこじ開ける事も出来るだろう。だが、子供の振るうショートソードで正面突破は不可能だ。エリシアの方は意識的に見ないようにした、間違い無く呆れた顔をしているだろうから。だが、最初の一撃を体感した身から言わせてもらえば、確実にティグに勝つつもりなら手段を選んではいられないのだ。

 それほどの一撃だったし、才を見るというならあれだけで十分だったかもしれない。けれど、欲が出た。オーグがここまでやって、それでも負ける事があるならば、それはティグの見せた魔法の才にも匹敵するといえるだろう。

 少しの間攻めあぐねるようにしていたティグだが、意を決したようにじわりと間合いを詰めてきた。遠巻きに動いても、オーグの側面を取れる訳が無いのだからそうするしかない。足下を薙いでくるか、身を寄せて回り込むか、出来る事は限られる。

 ティグが間合いに入っても、あくまで出方を伺うオーグ。もう一歩近づけば盾による突撃により、体格差だけで勝敗を決められる、そんな距離まで来てティグの歩が止まる。

 このまま双方が攻めなければ、体力の勝る自分が勝つ。最早、手段どころか勝ち方すら眼中に無くなったオーグである。そんなオーグを尻目に、ティグが動く。

 ティグは両手で持った剣を大きく頭上に掲げた。がら空きの胴体がオーグの前にさらされる。オーグはそれを誘いと見た。ティグがどれだけ力を込めても、盾の守りをこじ開ける事はできない。逆にがら空きの胴を叩こうとすれば、迎撃の余地を与える事になる。

 故に、その剣が勢いよく振り下ろされたのには意表を付かれた。だが、それだけである。打ち下ろされた剣撃が盾を叩くが、当然オーグは微動だにしない。それでもティグは、何度も剣を打ち付ける。あるいは焦れて勝負を投げたか、それでも勝ちは勝ち。勝利を確信したオーグは何度目かの剣が盾を叩くのに合わせて、盾をかち上げた。ティグの剣を弾き飛ばす感触が、無い。

 あの勢いで振り下ろしていた一撃を、オーグの動きに合わせて寸前で引いて見せたのだ。僅かに空いた隙間を縫うように、横薙ぎの剣がオーグの胴に打ち込まれる。左脇を抜けるような動きを伴って繰り出された剣は、なんとか後方に受け流す事が出来た。

 後ろを取られた、だが、まだティグもこちらに背を向けている筈だ。振り向いたオーグの懐に小さな人影が滑り込む。ティグは振り向く一手間を省略し、背をあずける形で懐に潜り込もうというのだ。

 勝負は決した。オーグが懐に入られる寸前で、体の間に盾を割り込ませる事に成功したのだ。後はそのまま盾で押しつぶして、体格で圧倒するだけだった。地面に押し付けられたティグの剣は逆手に握られている。あのまま懐に入られていたなら、刃を突きつけられていたのはオーグだっただろう。

 エリシアを見れば、その場にへたりこんで呆気にとられていた。きっと、昨日のティグの魔法を目の当たりにしたオーグも、そんな感じだったのだろう。

 ティグを立たせて、身体についた土を払い落とす。幸いにも怪我はないようだ。大したもんだ、そうティグに声をかけると、にこりと笑って抱きついてきた。可愛い。

 そうこうしていると、我にかえったエリシアが近づいてきた。

「……びっくりしたわ」

「俺もだ」

「知ってたんじゃないの?」

「まさか、だったら最初から盾を持ってたさ」

「そっか、でも、どうしよう、この子の将来」

「魔法を教えてやれよ」

「でも、今の闘い、すごかったよ」

「俺なんかじゃ2年後には負けてるよ、教える事だって何もない位だ」

「そうなんだ、ティグったら、すごいのね」

「ああ、でも。一緒に訓練すれば……5年くらいは持つかもしれないな」

「考えてみたら、私だってすぐに追い越されちゃいそうだわ」

 二人は顔を見合わせてから、吹き出した。

「おう、お熱いね。二人目かい?」

「それも悪くないな」

「なにいってるの、ばっかじゃないの!」

 オーグがエリシアを抱き寄せると、隣のオヤジは鼻息を一つ鳴らしてからどこかへ行った。

「……本気?」

 顔を紅くして、覗き込むようにオーグの表情を伺うエリシア。

「……冗談だ」

「そっか」

 そっぽを向いたエリシアの顔は、どこか残念そうにも見えた。二人目が出来てしまうかもしれない。

「次は家を持ってからにしよう」

「いつになるのよ」

「さあな、でも……」

 この時オーグの心には小さな火が灯っていた。燻っていたものが、風に吹かれて顔を出すように。

 オーグはその風を起こした本人に聞いてみた。それが一番だと思った。


「ティグ、お前は何になりたいんだ?」


「僕は……」


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