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閑話 - へっぽこコウトの道中記 -

「おーい、コウト、あれどこやったっけ?」

「はいはい、たしかこっちの袋の中にあったはずだよ」

「コウトー、こないだの話つけといてくれた?」

「ちゃんと了解貰っといたから、心配しなくていいよー」

「次のルートだけど、コウトはどっちがいいと思うよ」

「ああ、それならこっちに行った方が無難だね、聞いた情報によると……」

 オルベアの町を離れて半年余り、コウトはジルムベイグより東にある、別の辺境領土に身を置いている。そして、そこで出会った冒険者のパーティに加わって、苦労しながらも着実に経験を積んでいた。

 パーティの面々は決して一流とは言えない実力ではあったが、だからこそコウトも彼らに頼り切る事なく、最大限の力を出して依頼をこなしているのであった。

 自分がパーティを引っ張っている等とは口が裂けても言えないが、それでも自分なりの仕事を果たしていると、密かに自負出来る程度には確かな地力もついていた。

 後は持ち前の立ち回りのよさで、パーティ内でも確固たる位置を保持している。戦闘中より、それ以外の場面で頼られる方が多いのは、きっとその内改善されるだろう。

「おーい、コウトー」

「はいはーい」

 戦闘でもこれくらいに頼られるようにならなければ、そう思うコウトであった。


 引き絞られた弓弦がコウトの指を離れると、つがえられていた矢が風を切って獲物へと向かっていった。矢は狙い通りに飛んで、人の身体程はありそうな黒狼の前肢を地面に縫い付ける。

 今回の依頼は町の近くに出没する、中型魔獣の群を討伐するといったものだった。よくある類の依頼だし、ティグとボルドがいれば、二人だけでも軽くこなせてしまいそうな内容である。

 しかし、今のパーティはコウトを含めた四人全員がかりでも、気を抜けば負傷者が出ておかしくない実力だった。それでこそ、やり甲斐があると言うものだ。

 コウトは広く戦場を見渡した。二人の前衛は崩れる事なく前線を維持している。隣にいる後衛の魔法使いが、前衛の合間を縫って少しずつ魔獣の戦力を削っていた。

 コウトの弓の腕前では、前衛の動きに合わせて魔獣を射る事は難しい。故に、次に先陣に加わってきそうな獲物を狙って、いち早く足止めを図っているのだ。

 地味な仕事ではあるが、確実に前線の維持に貢献できていた。今出来る事を全力で、コウトが常に念頭に置いている事である。

 その時、前衛の合間を抜けて、一匹の黒狼が魔法使いを目掛けて襲いかかってきた。魔法使いが咄嗟に対応できないのを見て、コウトは弓を捨てて腰の剣を引き抜いた。

 こんな状況にも対応できるのは、オーグの指導があればこそだ。一つの武器だけを習熟するのではなく、状況に応じた戦術を心がける事こそを、コウトは教えられていた。

 黒狼の横面を切りつけて、自身に目標を向けさせる。一撃で斬り倒す事ができれば苦労はないが、無い物ねだりなどしている暇はない。一撃目が黒狼の目を傷つけて、その視界を奪っていた。

 コウトはその死角に潜むように動きながら距離を取り、腰の手斧を投げつけた。胴体に命中した手斧に、怒りの咆哮を上げる黒狼だったが、すぐにその頭が両断された。落ち着きを取り戻した魔法使いが、風の魔法を使ったのだ。

 手柄を誇るように魔法使いがコウトに笑みを向ける。しかし、それに応えたコウトの顔には一切の余裕が見られなかった。もう一匹、前衛の間から黒狼が抜け出して来ていたのだ。

 コウトは魔法使いと黒狼の間にその身を割り込ませて剣を振るった。今度は黒狼の鼻先をかすめただけで、目立った傷を負わせる事は出来ていない。

 前衛の二人はこちらを気にしながらも、持ち場を離れる訳には行かない状況だ。魔法使いが立て直すまで、コウトが身体を張って守らなければならない。

 飛びかかってきた黒狼の頭にコウトが斬りかかったが、剣を口で噛み止められて、黒狼の爪が逆にコウトを切り裂いた。

 コウトは厚皮の鎧を着ていたけれど、弓を使うために左の肩当てを外していたのが仇となった。左の肩口に裂傷を負ったコウトは、それでもひるまずに、剣を手離して短剣を構え、黒狼の首元に突き立てた。

 その痛みに黒狼は咥えていた剣を地面に落とす。その剣を拾ったコウトは、それを掲げるように突き上げて黒狼の頭を顎下から貫いた。

 一息つきたい所だが、戦いは未だ終わっていない。痛む肩を気にしながらも、コウトは弓を手に取って、再び前衛二人の援護に回るのだった。


 その後は大過もなく仕事を終えて、コウト達は町へと戻った。依頼の報酬を受け取って、宿の部屋に戻ったコウトは、今日の戦いを振り返る。

 最低限の役割は果たした筈だが、やはり自分の地力のなさが目に付いてしまう。オーグやティグであったなら、どうしてもそんな事を考えてしまうのだ。

「それにしても、やっちまったなあ」

 左肩の傷に手をやって、コウトはため息をつくのだった。

 翌日、酒場に呼び出されたコウトは、パーティを代表して来たのであろう最年長の戦士と食事を取っていた。最年長といっても二十代前半の男である。

 男の要件は体裁を取り繕ってはいたが、事実上のコウトに対する戦力外通告だった。

 別に意外な話ではなかった。

 コウトはそつなく仕事をこなしていたが、替えが効かないかと言われれば、そんな事は全然ない様な立ち位置である。若い冒険者達の上昇志向を考えれば、大した実力がある訳でもないコウトを切り捨て、より優秀な人材を探してパーティの戦力向上を図るのは当然の選択肢だった。

 加えて今回受けた肩の傷が、いい口実になったのだろう。

 それでもコウトのやってきた地道な援護の成果を主張すれば、今回の話位は先延ばしにできるかもしれない。彼らはコウトの援護がどの程度の力になっていたか、はっきりと気づいていない節があった。昨日の黒狼に対する足止めも、前線とは別の場所の敵をちまちま攻撃していただけにしか見えていなかったのだろう。

 だが、コウトはあえて抗弁しようとも思わなかった。

 コウトにもっと力があれば、足止めではなく魔獣の眉間を射抜いて、戦力を削る事が出来ていただろう。あるいは、前衛の隙間を縫って矢を放ち、もっと直接的な援護が出来ていたかもしれない。そもそもオーグやティグなら、前衛を抜け出してきた黒狼相手に、こんな傷を負うようなへまはしなかった筈だ。

 結局の所、この結果はコウトの実力不足に帰結するのだ。

 養生します、頑張ってください、そう答えて男の意向を受け入れた。

 男はバツの悪そうな顔をしながらコウトに別れを告げて、この場の勘定を引き受け、酒場から立ち去っていった。

 こういう事は初めてではなかった。この町に来るまでにも、何度か別のパーティに参加して依頼をこなしていたけれど、目を引くような活躍が出来た事はなかった。

 飯代が浮いただけでも良しとしよう、コウトは前向きに考える事にした。苦労したく無いのなら、オルベアを離れる必要はなかった。あの町でなら、もっと平穏で幸せな暮らしが出来ていただろうから。

 冒険者としての道は、コウトにとってどんな苦労を負ってでもしがみつきたい物だった。初めて本物の冒険者を見た時のあの感動は、一生涯コウトの心から消える事はないだろう。それは正に、夢の道で、希望の道だった。

 とはいえ、心に苦いものが残ってしまうのもまた事実である。食べ始めた時より味が落ちた気がする食事を、コウトは手早く口に放り込んだ。

「ちょっといいかな?」

 声の主は冒険者風の男だった。歳の頃は二十を少し越えた程、人並みの身長だが特段鍛えられた身体という印象は受けない。魔法使いだろうか。

「はい?」

 見覚えのない男に声を掛けられて、どう対応しようか思いを巡らせているコウトを気にする事もなく、男は自分の要件を切り出した。

「少し話を聞かせて貰ったけれど、君は今パーティを抜けた所じゃないかな?」

「そうですよ、中々うだつが上がらなくって、苦労してます」

 なにか良からぬ魂胆があるようにも見えず、コウトは素直に対応して見せた。

「若い内はそんなものですよ、気を落とさない方がいい。

 それに、捨てる神あれば、という話もありますからね。

 というのも、私のパーティで受けようと思っていた依頼なのですが、依頼主が融通の効かない人でしてね、最低でももう一人は人員を確保しないと、その依頼を下ろせないと言うのですよ。

 戦力的には十分なので、人が増えればそれだけ分け前が減ってしまう、だからと言って、都合よく一人で動いている冒険者がいる訳でもない、そう思ってた所なんです」

 軽い口調で説明する男の言葉には、やはり何か裏があるとは思えなかった。おそらく、本当に説明通りの状況だったのだろう。

「そこに、丁度パーティから溢れた俺がいた、という訳ですね」

「ええ、まさにまさに、それで突然に声をかけてしまったという訳です」

「そういった話ならありがたい、是非ともお手伝いさせてください」

 コウトは笑顔でその誘いに飛びついた。悪い人でもなさそうだし、戦力が十分という言葉にも嘘はないだろう。上手く行けばその後も行動を共にできるかもしれない。

 男が言った通り、一人で活動する冒険者などというものは、殆どいないのである。

 この時コウトは、自身の眼力を過信していた。受けた依頼の内容がどのようなものであるか、男の言う十分な戦力というのがどの程度のものなのか、そんな基本的な事を確認していなかったのだから。


「俺はコウトっていいます、見ての通り駆け出しの冒険者です」

「ああ、自己紹介とかは止めておきましょう、今回の依頼にしても、依頼主の前に顔だけ出してもらえれば、後はこちらで終わらせてもいい位なんですよ。

 町で待っていて貰えれば、分け前もちゃんとお渡ししますから」

 男がそんな事を言うのを見て、仲間になるのは難しそうだと判断する。本当に言葉通り、頭数を合わせるためだけに声を掛けられたようである。

 コウト達は酒場を出て、男の仲間が待っているという宿に向かっていた。その仲間と合流して、今日中に依頼主の所に顔を出すらしい。

 待っているだけでも分け前は貰える。しかし、コウトはそれだけでいいとは思っていなかった。例え煙たがられても、彼らについて行き経験を積まなければならない。

「そうですか、でも、今の俺には少しでも経験が必要なんです。

 邪魔になってしまうかもしれませんが、現場までついて行かせて貰えませんか」

「ああ、それなら構いませんよ、危なくなっても私の傍にいればお守りできますから、

 思う存分、気の済むまで経験を積んでください」

 あっさりと了承が得られた。今の言葉にも一切の虚勢は感じられず、男が磐石の自信を持っている事を伺わせた。一体どれほどのものなのだろうか。

「おお、協力者が見つかったのか、早かったな」

 宿の前にいた、どこからどう見ても戦士といった感じの、大柄で力感溢れる体格の男が出迎えた。恐らく魔法使いの男と同じような年齢だろう。

「ええ、本当に丁度良かったです、これで他の方に依頼を取られなくて済みますね。

 そうそう、彼も現場まで着いて来たいそうです」

「はっはっは、そうか、分かった、少しの間だがよろしく頼むぞ、少年!」

 見た目に違わぬ、豪傑然とした態度には好感が持てたが、やはりこの話はここだけの物に終わりそうである。まあ、余り実力差がありすぎる者達と行動を共にしても、コウト自身の成長は望めないだろう。今回は彼らに勉強させてもらおう、コウトはそう考えることにした。

「はい、こちらこそよろしくお願いします。

 それで、他の方はどちらにいらっしゃるんですか?」

「ん、ウチのパーティは俺たち二人だけだ、今回は少年をあわせて三人だな!」

 戦士の男が力強く言い切った。なるほど、確かに二人だけでは頭数が足りないと判断される事もあるだろう。

 しかし、それはそれで不便であるだろうに、あえて二人組で活動するというのは何故だろうか。恐らく、彼ら仲間となる者には相応の力が要求されるのだろう。それこそ、ティグのような力と才能が。

 ますます自分にはお呼びはかからないだろう、そんな結論に思い至った。

 そんなコウトの思いを他所に、三人は連れ立って依頼主の元へと向かうのだった。


 コウトはここに来て、漸く自分の見立てがどれだけ甘いものだったかを、身をもって実感させられていた。

「ここ、中型魔獣の巣穴じゃないですか!」

 先日の黒狼より確実に一回りは大きい猪のような魔獣達が、数え切れない位にひしめいている戦場で、二人の男と共にコウトは立っていた。

「そういえば、言っていませんでしたか、それは失礼」

「はっはっは、そんなにうろたえるな、大した相手じゃあないさ」

 事もなさげにそんな事を言い放つ二人に、コウトは目眩にも似た感情を覚えた。

 中型魔獣の巣穴を掃討する、それ自体はコウトも何度か経験した事があった。しかし、その時はオーグにエリシア、ボルドにティグがいて、更に別の複数パーティが協力した上で赴いた依頼だったのだ。

 それが今は、コウトを含めた三人だけが、この戦場にいるのである。二人で依頼を受けようとして断られるのも当然の話だった。むしろ、三人で許可が下りたのが不思議な位の危険な依頼である。

 十分な戦力とは何の話だったのか。

 その疑問の答えは、さほどの間もなく知らされた。

 大剣を抜き放った戦士が、襲い来る魔獣達を大剣のひと振りにつき、二、三匹ずつ纏めて斬り倒していく。

 魔法使いは革袋から水を取り出し、それを自身の周りに漂わせていたかと思うと、狙いを定めた魔獣達に向け、そこから針のように鋭く尖った水流を伸ばして、次々とその頭部を貫いていった。

 戦いは始まったばかりであり、魔獣の数はそう簡単に目減りする事はなかったが、この二人もまた、なんの危なげもなく魔獣の群れを蹴散らしている。

 実力差などという言葉を使うのがおこがましく思えるような、隔絶した次元の力がコウトの目の前で展開されていた。

「どうしたんです、経験を積むために来たんじゃなかったんですか」

 涼しげな調子で魔法使いが声をかけてきた。そこには、からかうような響きがある。悪意こそ感じられないが、こうなる事を予見はしていたのだろう。

 コウトが射つべき獲物は、狙いをつける前に、水の鋭針で貫かれて絶命していく。前線で高笑いしながら暴れ回る戦士には、なんの援護も必要ないだろう。

 一匹の魔獣が、こちらに向かって突進してきた。コウトが剣を手に取る間に、魔法使いの周りを漂っていた水が膜の様に広がり、そこから何本もの刺が突き出て、突進してきた魔獣を串刺しにした。

 いよいよ出る幕が無かった。ティグやボルドと一緒に仕事をした時以上の無力感が、コウトを苛んでいた。

 それでもコウトは弓を手に取った。出来る事はそれしかなかったから。今日まで生きてきた中で、出来る事をしなかった事などなかったのだから。

「魔法で足場を作って貰えませんか?」

 コウトは魔法使いに声をかけた。それを聞いた魔法使いはコウトを見たあと、踵をつけたまま、つま先で軽く地面を叩いた。

 叩かれた先の地面が、腰ほどの高さまで盛り上がる。

「どうぞ」

「助かります」

 この魔法使いにコウトの護衛は必要ないと判断し、弓による援護に集中する。しかし、同じ場所から弓を射ても、やはり役には立ちそうもない。だからコウトは、用意して貰った足場に上り、一段高い視点から戦場を見渡した。

 そこに立ったからといって、弓の威力が増す訳ではない。しかし、目に見える範囲と、矢を射掛けられる場所は格段に広がった。

 次にどの魔獣が戦士に向かっていくか、それを見た魔法使いがどこに向けて魔法を放つか。戦士はどの様に進攻し、その先にはどれだけの魔獣の群れがいるのか。

 コウトの放った矢が魔獣に突き立った。その一矢は、魔獣の命脈を絶つ事もなく、突進を止める力もない。ただ僅かに、その動きを鈍らせただけだった。

 次々と射掛けられていくコウトの矢は、傍目には何の効果も上げていないように見えただろう。

 しかし、今のコウトの眼には、それとは少しだけ違う戦場が見えていた。

 弱々しい矢によって出来た僅かな滞りが、魔獣全体の動きに影響を与えていた。小さな突進の停滞が、後続を少しずつだが塞き止めて、やがて大きな停滞を生み出した。

 魔法使いに向かう群れを抑制し、出来る限り戦士の方へ誘導する。無作為に戦場に突き立っていく様に見える矢の一本一本が、群れ全体の流れに干渉して、ほんの少しずつだが、コウト達に有利な配置を作り出していた。

 手持ちの矢が尽きた頃には、戦士と魔法使いの手によって、魔獣達の屍山血河が築かれていた。

 完全に二人の力に頼り切った形ではあるが、それでも自分なりの成果は上げられた。そんな満足感がコウトにはあった。

 コウトがこの場に居らずとも、この結果が変わる事はなかっただろう。世の中にはまだまだ、信じられない実力を持った者達がいる。それが分かっただけでも、コウトには出来過ぎなくらいの一日だった。

「君、名前はなんと言うんでしたか」

 足場から降りたコウトに魔法使いがそんな事を聞いてきた。先に名乗った時には、覚えられていなかったらしい。

「コウトです、何でそんな事聞くんです?」

「コウト君ですか、君は中々面白い事をやりますね」

 一瞬何の事を言われているか分からなかったが、すぐに褒められているのだと気がついた。この人は、コウトの上げた目立たない成果に気づいていたらしい。

「貴方程の人に褒められるとは思いませんでした、少し嬉しいです」

 控えめに喜びを表現するコウトの耳に、戦士の大声が聞こえてきた。

「おい!弓を射ってたのはお前さんか!おかげで随分手応えがなかったぞ!」

 怒られたのかと錯覚したが、その顔には豪快な笑顔があった。あれだけ好き勝手に暴れていたのに、こちらも戦場の微妙な流れを感じ取っていたらしい。

「コウト君、君はこの後どこかのパーティに参加する予定とかあるんですか?」

「はい?」

「おお、連れて行くのか、それなら、もっとでかい仕事もできそうだな!」

「何言ってるんですか、俺なんか着いて行っても、力の差が……」

「大丈夫ですよ、ちゃんと経験は積ませてあげますから、ご心配なく」

「あれだけやって見せたんだ、謙遜する必要もない、胸を張れ!

 まあ確かに、腕の方は何ともへっぽこだがな!」

「その辺りはこれから伸ばして行けばいい事ですよ」

「あの、いや、俺はもう少し身の丈にあったパーティに……」

「はっはっは、ここまで来て逃げられるとでも思っているのか?」

「安心して下さい、本当に使い物にならなかったら直ぐに首にして差し上げますから」

「死んだら骨くらいは拾ってやるから、何も心配するな!」

 コウトが何を言っても、二人は聞く耳を持たず、話だけが進んでいった。



「ちょ、多すぎです!無理です!止めてください!」

「大丈夫ですよ、落ち着いて、君ならできるし、死ぬ前には助けてあげますから」

「いや、俺の失敗が前提になってますよね!?無理って分かってますよね!?」

「何事も経験です、案外いけるかもしれません」



「なんで置いてくんですか!死にます!死んでしまいます!」

「はっはっは、死中に活を見出すんだ!一流の冒険者はどこかで死地を体験する物だ!

 大丈夫、コウトはなんとなく出来る男だと、俺は信じている!」

「もっとちゃんと俺を見て下さい!全然実力足りてませんから!

 活を見出す前に死んじゃいますから!」

「ここを切り抜ければ、更にひと皮剥けるだろう、期待しているぞ!」



「囮って、これ、どう見ても一対一じゃないですか!俺じゃ無理ですって!」

「コウトが無理と言って無理だった試しはありませんからね、今回も平気でしょう」

「うむ!俺もコウトはやる男だとわかっているぞ!さあ、いけ!」

「おかしいです!勘違いです!助けて下さい!今度こそ死にますって!」



 こうしてコウトは、素晴らしい仲間に恵まれて、着実に実力を伸ばして行くのだった。

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