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閑話 - オルベアの町 -

 幼い憧れとは、時に人をそれとは知らぬままに、奇特な行為に走らせる事がある。

 それは、一時の淡くもどかしい思い出になる物もあれば、その者の生涯に深く根付いていく事もある。

 クリスティナ・ヴィノワズには好意と感謝と尊敬を、何一つ惜しむ事無く向けられる者がいた。彼女にとってこの世で唯一の肉親であり、偉大な魔法の師でもある、ボルド・チェルグその人である。

 物心がつく前に両親と死に別れたクリスに、不足を感じさせない程の愛情を持って接してくれた。魔法にさほどの興味を持っていなかった頃のクリスにも、手を抜く事なく、丹念にその手解きをしてくれた。クリスが魔法を必要と考え始めた時には、本人以上の熱心さで、手を引き、手本を示し、背を押しながら、共に歩んでくれた。

 魔法への理解が深まる程に、ボルドの偉大さを実感できるようになっていた。

 クリスに理想とする魔法使いの姿を問えば、迷う事無くボルドの名を上げるだろう。それは余りに当然で、まさに憧れと呼ぶに相応しい存在だった。

 クリスが自分の未来を思い描く時は、いつでも祖父の姿が最初にあった。


「クリスちゃん、今日は何して遊ぼうか」

 クリスは子供達の人気者である。弱きを助け強きを挫く、暇と力と信念に飽かせて、そんな事を繰り返している内に、今では誰もが認めるガキ大将になっていた。

「そうじゃのぉ、今日は人数を集めて、大隠れんぼ大会でもやろうかのぅ」

「いいね、それじゃあ皆をよんでくるね!

 そういえばクリスちゃん、最近言葉遣い変わったねー」

「うむ、私は将来立派な魔法使いにならねばならんからのぅ。

 今からちゃんとしておかんといかんのじゃ」

「へーそうなんだー、すごいんだね!」

「うむ、すごいのじゃ」

 子供達の世界は、今日も平和である。


 町の悪童達の勢力は、日増しに小さくなっていた。

 別にクリスがぶちのめしたりした訳ではない。クリスはコウトの去り際の忠告を受けて以来、比較的しおらしく振る舞う事を心がけていた。

 彼等は町の人口が増えるに従って、あちこちで人手を求める大人達に引っ張られていき、ぐれて遊んでいる暇が無くなってしまったのだ。

 それでも普通は(たち)の悪い連中が残りそうなものだが、コウトが町を離れる前にそういう者を優先させて、働き口を斡旋していた。

 中でも、力の余った者達には、オーグに口を聞いてもらい、町の守備隊として雇ってもらっていた。悪さをしていた者達が、逆に治安を担う立場として働くのだから、的確な指導さえ怠らなければ、その効果は言わずもがなである。

 それはコウトが、嫌でも目立つクリスの身辺の安全と、守備隊長であるオーグの負担の軽減を狙って行った、この町で最後の置き土産であった。


 こうしてオルベアは、ジルムベイグ随一の町として発展を遂げていく。

 この町に暮らす者は誰もが、苦労に見合っただけの幸せを手にすることが出来るだろう。それは辺境に生きる者が、何より望むものだった。

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