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第19話 - それぞれの成長 -

 本格的に冒険者として動き始めたティグ達一行が受注する主な依頼は、小型・中型魔獣の討伐だった。これはティグやコウトの実戦経験を積ませる事に目的があった。大型の魔獣相手にティグとコウトの攻撃はまともに通らない。出来る事と言ったら陽動位だが、経験の浅い二人では足手まといになってしまうのだ。

 時折、割の良いそう言った依頼があれば、年少者達は町に残り、大人達が別の冒険者と組んで、それをこなすという形を取っていた。こういった時は、アッサムト夫妻の支援が頼りになる。最低でも一週間程は町に戻れないのだから、その間、子供達を安心して預けられる者がいるのは、何よりも心強いのだ。

 普段は身内だけでこなせる依頼を選んで報酬を得ているティグ達だが、場合によっては他の冒険者達と組む必要もあった。

 それは例えば、近隣で小型・中型魔獣の巣穴が見つかった時である。報酬はいいが、ティグ達だけでは危険が大きい。かといって、こういった類の依頼を誰かが終わらせれば、しばらくはその巣にいた魔獣の討伐依頼が無くなってしまうのだ。故に、収入の事を考えれば、そういった仕事には積極的に参加せざるを得ないのである。

 そこで問題になるのが、ティグとコウトの扱いである。複数のパーティが組んで依頼をこなす場合、報酬は参加者の頭割りになる。そうである以上、明らかに足手まといの人数合わせに見えるこの二人を、快く歓迎するような者はいなかった。


「それじゃあこうしよう、あんた達が足手まといだと言うこの二人と、

 俺が選ぶそちらの二名が手合わせして、こちらが負けたらこの二人は置いていく。

 逆ならば報酬は通常通りで納得してもらおう」

 向こうが戦力にならないと言い出したのだから、そんな事を言われれば受けて立つのが筋だろう。ついでに周りの観衆がいい余興だと騒ぎ立て、なし崩しに話は進んでいく。

 表通りでティグとコウトに対峙するのは、オーグが選んだ相手方の若手と中堅所の戦士だった。一番のやり手であろう男を選ばなかったのは当然だが、もう一人いた若手を選ばないのは、後で言い訳をさせない為である。

 ティグの武器はショートソードに短剣二つ、コウトと相手の若手は剣と盾を装備しており、中堅の男は両手持ちの大剣を構えていた。当然だが、どれも訓練用のものである。こういった小競り合いは日常茶飯事であり、そういう物がどこにでも用意されているのだ。

 並んで構える相手に対し、ティグはコウトのやや後ろに立って短剣を手にしていた。

 面白半分で立会を申し出た観衆の一人が、開始の合図を出す。

 出方を伺う相手にコウトが突っ込んでいく。狙ったのは中堅の男だった。腕の差は歴然だが、男が胸を目掛けて飛んできた短剣をかわした分だけ、コウトが少しだけ深く間合いを詰めることができた。

 短剣を投げたティグは間をおかず剣を手にして、若手の方へと向かっていく。魔力を制限しないだけではない、足元に魔力を集中させた、全速の踏み込みだった。

 若手からすれば間合いを詰められた中堅の男を援護しようとした所に、コウトの影からとんでもない速度でティグが飛び出して来た格好になる。

 ティグはそのまま若手の脇をくぐり抜けると同時に、横薙に剣を振るいその胴体を払い抜いた。強かに腹を打たれた若手は、思わずその場に膝をつく。

 それとほぼ同時に、コウトの身体が大きく後退した。

 中堅の男は、間合いを詰められたと見るや自分も一歩踏み込んで、コウトに体当たりをしかけていた。ぶつかる心構えの有無と体格の差が相まって、コウトは弾き飛ばされたのだ。

 広がった間合いから繰り出された大剣のひと振りが、コウトを盾ごと地面に叩きつけ、大剣はそのまま跳ねるようにティグの方へと振るわれた。

 しかし、そこにティグの姿はなく、大剣が空を切ると同時に、遠間から投げられた短剣が中堅の男の胸を打ったのだった。

 立会の男が決着を告げると、大きな歓声があがる。結果が予想外であるほど、観客は盛り上がるものなのだ。こんな結果を予想していたのは、オーグ達だけである。

「ご覧の通りだが、まだ何か言う事はあるか?」

「ふん、なにもねえよ、言いがかりつけて悪かったな。

 しっかし、あの馬鹿は……きっちり鍛え直さんとな」

 ニヤリと笑うオーグに、相手の代表はやられた若手の方を見ながらそう返すのだった。

 そんな事が、二度、三度と繰り返される内に、ティグの力は町中に知れ渡っていった。


 気がつけば一年、二年と時間は過ぎていく。


 ティグが六歳になる頃には、知らない者は新参者と言われるくらいに名が売れていた。幼くしてそこらの冒険者と遜色ない働きを見せるのだから、誰もが面白がって喧伝して回るのだ。

 身体の方も順調過ぎる程に成長しており、二つ年上のクリスの頭上に目線があるくらいで、町の子供達と比べても十歳位の子等と並ぶほどなのだ。

 鍛えられた内臓が著しい成長を促したのだろうと、事情を知るボルドは結論づけた。

 特訓の成果がこんな形で現れたのは、ティグにとっても望外というより予想外の喜びだった。自身の技に、身体がついていかないという悔しさは、ティグの傍に常に付きまとっていた思いだったのだから。

 そして、ティグはこの歳になってようやく、今まで秘密にしていた特訓を両親に打ち明ける事にしたのだ。

 戦闘に関しては、今や円熟に達したオーグとでも互角以上に戦える。完全な魔力切れを起こしても、動きが鈍くなりはするが、普通に動き回れるだけの体力も出来ていた。

 報告にはボルドも付き添った。危険と知りながら、それを黙認し続けた事を謝らなければならないと言うのだ。

 ティグが申し訳なさそうな顔を見せると、ボルドは笑ってこう言った。

「お前さんの成長を見るのは、この年寄りの残り少ない楽しみじゃよ。

 悪いと思う暇があったら、その間にもっともっと大きくなってくれればよい」

 感謝の言葉も無かった。ティグはこの老人に一生頭が上がらないだろう。

 特訓の話を聞いたエリシアは、驚きよりも呆れたという感情が勝っているようであり、オーグの方はなるほど納得がいったという様子で何度か頷いていた。

 オーグにしてみれば、手合わせの時に見せる驚異的な身体能力と、訓練中の不自然な体力切れの裏には、何かがあるという事くらい薄々ながら感づいていたのだ。

 オーグとエリシアはやや離れた所に移動し、小声で打ち合わせをしていた。ティグの行動にどう対応すべきか相談しているのだろう。少しして二人がティグの前に立つ。

「まずはティグ、それに爺様、よくもそんな危ない事をしながら、黙っててくれたな」

「はい、ごめんなさい」

「わるかったのぅ」

 真摯に謝るティグとボルドを見て、オーグはため息をついた。

「だけどまあ、ティグが常識外れな事は今に始まったことじゃないし、

 なにより、俺達だって今までそういう事を前提にしてお前を育ててきたんだ。

 今更叱りつけて、俺達のちっちゃい枠に収めようなんて思っちゃいない」

「そうね、いままで黙っていたのも、私達に心配かけまいとしたからでしょ?

 途中で言われたら、私はたぶん、いいえ、絶対に止めてたでしょうからね」

「ティグ、お前は見事に結果を出して見せたんだ、胸を張れ、そして進め。

 お前がどこまで行けるかなんて想像もつかない、だから俺達に見せてくれ、

 お前の進む先に何があるのかをな」

 ティグが進む道は決まっていた。その為にティグはこの世界にいるのだ。ただ、オーグとエリシア、そしてボルドに、自分の背中を押された時、気付いた事があった。

 ティグはこれから先も、こうやって誰かに背中を押されて進むのだろう。それがなくても止まる気はない。しかし、それは確かな力をティグに与えてくれていた。

「はい、必ず!」

 与えられた力を示すかのように、ティグはそう答えたのだった。


 さてこの頃、八歳になったクリスティナ・ヴィノワズは、幼き魔法使いの少女として町の子供達の上に君臨していた。

 身内の皆が冒険に出る時、クリスはいつも一人町に残されていた。預けられる先のケーラ達は良くしてくれていたが、家族とは一線を画した存在だった。

 自分も冒険者になれば、皆と一緒に行けるのに。そんな思いが、クリスに募る。その思いは、意志となり、目標となった。

 魔法の習得は、その難解さよりも、魔法に対してどう取り組むかが重要になる。幼い子供に強い目的意識を持てというのは難しい。だから若くして魔法を習得出来る者が少ないのだ。

 その目的意識が、クリスにはあった。そして、時間を惜しむ事なく魔法の手解きをしてくれる祖父が彼女にはいた。

 ボルドは飽きること無く何度でも魔力の扱い方を教えてくれた。

 達人の域にある者が、強い意志を持った者に、付きっきりで指導したのである。

 八歳での魔法の習得は快挙ではあるが、当然の結果でもあったのだ。

 初級とは言え魔法を扱えるという事は、魔力の扱いに長けているという事だ。魔力が扱えるという事は、身体の動きにも大きな影響を与える。そして、この年頃の子供は、単純な身体能力に男女差が殆ど影響しない。

 一人町に残される鬱憤と、有り余る力が行く先を見出したのは、弱者を虐げる者達を目にした時だった。衝動がその身を動かした。多勢に無勢、そんな事はクリスを押し止める理由にならなかった。

 クリスは戦った、戦い方は知っていた。どの子供達よりも間近で、本物の闘いを見て来たのだから。

 長く激しい戦いだった。倒された者が黙って引き下がる事はなく、己の面子をかけて再戦を挑んでくる。ある時には堂々と、またある時には徒党を組んで。

 襲い来る敵をクリスは臆する事なく迎え撃った。無数の敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げての大立ち回りであった。やがてその力を疑う者はいなくなった。

 勝利である。

 こうして、クリスは近隣の子供達を、武力でまとめ上げるに至ったのだ。

 仲良くなった子供達には、魔法が使える所を見せて自慢した。幼き魔法使い、その異名の由来である。


 一七歳になったコウトは、悩みを抱えていた。

 冒険者としての生き方にはようやく目鼻がついたといった所だが、周りを見れば自分の無力さが嫌というほど目に付いた。

 まあ、その辺りは努力と時間が解決してくれると信じている。

 問題は最近町で情報を集める度に聞こえてくる、幼い少女の武勇伝であった。

 気になって探りを入れてみれば、見慣れた少女が、力に任せて大暴れしている姿が目に浮かぶような活躍譚の数々が、出るわ出るわ。

 余りに目立つものだから、年上のやんちゃな者達にまで目を付けられている始末だ。

 このまま放っておけば、その内痛い目に会うのが目に見えていた。しかし、クリスのやっている事を聞けば、道に外れた事をしている訳でもないらしい。そうでなくとも、コウトのやる事に変わりはなかっただろうけれど。

 コウトは悪童達のたまり場に顔を出し、依頼で受け取った報酬を使って、その輪に加わる。そこで目立たぬ様に気をつけながらも、実力者に近づいて更にその上へと縁を結ぶ。

 どこの町にもある暗い部分は、どこかで悪童達と繋がっているものなのだ。

「すみません、俺の身内がちょっとやんちゃしてまして。

 若い子達に、手出しさせないよう口を聞いてもらいたいんです」

 町の裏側の顔役と言える人物に、そんな事を頼める様になるのに、何がどれ位かかったかは、思い出したくもない程だ。

 とにかくこういう繋がりも、いつか何かの役に立つはずと、コウトは自分を慰める。

「コウト、お前最近変なのと付き合ってるんじゃないか?

 うるさくは言わないけど、程々にしておけよ」

 そんな事をいうオーグに事情を一から説明しても、大した得にもならないだろう。それが見えてしまうコウトは、悶々としながら苦笑いを作って、自己満足に浸るだけにした。

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