接続話 - 死んだ刀工と別世界の神様 -
「君の人生はつまらないね。見返してみれば何の起伏もなく唯同じ事の繰り返しだ」
初めて聞く声だった。無礼で不遠慮で不躾な言葉だが、反論の余地は無かった。
「だけど、最後の最後に出来上がった結晶は、それだけで君の一生よりも価値がある。あの世界の何よりも僕の目を引いたよ」
声の主が何者か分からないが、文句のつけようのない評価だ、男はそう思った。
(あんた何者だ?)
大した興味もなく訊ねてみたが、声が出なかった。どうやら身体が無いようだ。
「神様ってやつだよ、君が生きていた世界のとは別のだけどね」
それでも返答は得られた。随分と荒唐無稽なものだけれど。
(神様の割には随分と薄っぺらい人柄だな)
「僕の人格は君の知識の範囲内で形成されているんだ。君には信仰が無く知識も無い、だから君の目に映る僕にも威厳がないんだよ」
納得がいく答えだった。男は刀以外には興味がなかった。刀に関する事柄以外、聞いたそばから忘れていく様な生き方だったから。
(で、その神様がなんの用だ?)
「君を僕の世界に招待したい」
(あんたの為に刀を打ち上げろって話か?お断りだ、あれは全部俺の為で俺の物だ)
「知ってるよ、君の人生は見てきたからね。上手く立ち回ればもっと華やかな生き方だって出来ただろうに。まあ、だからこそあれ程までに至ったのだろうけど」
(知ってるなら去ね、俺は満足したんだ、これ以上ない位にな)
「見た事もない鉄」
男の前に奇妙な輝きを持った鉱石が現れる。
「聞いた事もない技術」
今度は煌々と渦を巻く炎の玉が現れる。
「打ち上がった刀を存分に振るえる場所」
身の丈を超える獣の群れに、剣を持って対峙する人々の姿が現れる。
「これらを見て、何も感じないならば、僕としても招待する意味がない」
(連れていけ!お前の世界に!今すぐだ!)
生前は病的なまでに頑迷と評され、そのせいで時には狂人扱いすらされていた様な男が、あっさりと前言を翻した。渇望が男を支配していた。
「いいね、その意気だ」
楽しそうな声と共に、男は熱を感じる。それが新たに与えられる生命だと理解出来た。
「最初から全てを持たせる事も出来るけど、そんな事をしたら君は君でなくなってしまう。この世界で全てを自分で探し、手に入れ、生み出せばいい、君がいままでしてきたように。僕がするのはここまでだ、この先君は何も残さず野垂れ死んでも、あるいは怠惰に過ごしてもいい。実を言うとね、僕は君のファンなんだ。だから君が、この舞台の上で存分に生きてくれれば、それでいい」
言い捨てるような言葉は随分と身勝手なものだった。
(いつかあんたに、最高のひと振りを捧げよう)
最大限の感謝の意に、返事はなく、男の意識は世界に溶けていった。