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第15話 - 辺境領土 -

 その後の野盗の討伐は、特筆すべきこともなく、粛々と行われた。

 コウトから聞いた本物の野盗団のアジトへ移動し、そこに残っていた頭目以下六名に奇襲をかけて一掃した。頭目だけは役人に引き渡す為に捕縛したが、ここで死ぬか処刑されるかの違いしかないだろう。

 捕縛された頭目が冒険者達に並んで立つコウトを見て口汚く罵っていたが、言われた当人はどこ吹く風と聞き流していた。

 オーグ達を喜ばせたのは、野盗達が所有していた馬の存在だった。駿馬という訳ではないが、旅慣れた様子の落ち着きのある栗毛の馬車馬だった。コウトによると、数ヶ月前に行商人から奪った物を、頭目が気に入り売らずに手元に残していたらしい。

 子供達の体力と旅上の食料や必要品の輸送手段を考えれば、馬と荷馬車は必須である。しかし、普通に馬を買おうと思えば相当な金額になる。生活の基盤がない以上は、余計な出費を抑えなければならない。

 故に、行商人を探してその移動に合わせて動く必要があり、同道する相手が見つからなければ、無為な滞在を強いられてしまう。そして、行商人の予定に合わせるのだから、滞在中に町で依頼を受けるにしても日数のかかるものは選べない。

 この馬があれば目的地への行程を大きく短縮できるだけでなく、自分達の都合にあった予定を立てて行動できるのだ。最初に語られたでまかせの財宝より、余程価値のある戦利品であった。

 街に戻り着き役人に野盗の頭目を引き渡す。先日の行商人が面通しを済ませ、役人がアジトを確認して依頼は完了だ。全て終わるのに一週間もかからないだろう。

 引き渡された野盗の頭目が、最後の足掻きにコウトも自分達の一味だと喚きたてるが、この歳の少年が幹部である筈もなく、オーグ達が身元の引受を申し出るとすんなり了承された。衆目に晒す野盗の死体が欲しければ、現地にいくらでも転がっているのだ。


 自分の喉元にピタリと突きつけられた剣に、コウトは息を呑む。

 剣の主はティグである。

「ゆ、油断してたんです!」

 そのコウトの言葉を聞いたオーグに、そうか次は油断するな、そう言われて挑んだ二度目の模擬戦の結果が、この状況だった。

 一戦目は確かに油断があったのだ。いくらなんでも三歳の子供に遅れを取るはずがない。そう思いながら開始の合図を聞き、思いの外鋭かったティグの初撃を剣で受ける。その瞬間に、切り結んだティグの剣がコウトの剣に巻き付くような動きを見せて、何をする間もなく、剣を弾き飛ばされた。ティグの剣はコウトの目の前で止まっていた。

 仕切り直しての二戦目、今度はコウトが先に動いた。今度は逆にティグの剣を弾き飛ばしてやろうと、力任せに振るわれた剣撃は、それに合わせたような一撃で受け止められた。そしてそのまま、一戦目と同じような動きで剣を巻き上げられ、現状に至ったのである。

 町に戻って報告と引渡しを終えた翌日、訓練の前に、どの程度戦えるのかを確認するという事で行われた模擬戦だった。

「まあ、そんなもんだな。つぎは弓でも試してみるか」

 一部始終を見ていたオーグが、何事もなかったかのように弓を手渡してくる。

「え、あの、剣は……」

「ティグは剣が得意だからな、このパーティで居場所を見つけるなら、別の所を伸ばすのが無難だろう。

 もちろん、剣の扱いも教えるぞ、何か一つしかできないってのは弱点になる。

 戦士ならなんでも出来て当たり前、その上でどこを伸ばすかって話だな」

 ティグとの間には得手不得手どころの問題ではない差があるように思ったコウトだが、それだけにオーグの言葉に納得できた。出来る事をやって自分の居場所を作っていくしかない、今までだってそうしてきたのだ。自ら望んだこの場所で、それをしない理由はどこにも見当たらなかった。

 その後、色々な武器を試したが、特に秀でた適正のあるものは見られなかった。

「まあ、慣れればその内芽が出るさ、若いんだしな」

「……努力します!」

 本音半分、慰め半分と言った感じのオーグに、そう言って返すコウトだった。


 馬を得て以降の旅は速く快適なものになった。自分達だけで旅をする分、護衛の報酬はなくなったが、用のない町での無用な滞在費が減り、町で受けられる依頼の選べる種類が大きく広がっていた。差し引きすれば金額的には大差なく、旅足と行動の幅は大きく改善されていた。

 立ち寄る町で丁度良い依頼があれば、それをこなして路銀に当て、なければ直ぐに次の町を目指す。予定の順路に危険がありそうなら、柔軟に進路を変える事でそれを避けるように移動した。おかげで、これといった事件に巻き込まれる事も無く、一行は順調に目的の辺境領土へと辿りついた。

 当初は三ヶ月から半年程と考えていた道のりが、二ヶ月にまで短縮されていた。


 辿りついた辺境領土の名は勇壮な戦馬(ジルムベイグ)、かつてのボルグが所属していたパーティの名を冠する土地である。

 最初についた町で、駐在の兵士に領主の所在を訪ねると、この町から一週間ほど領内を行った町に館を構えていると言う事がわかった。そこが、ボルドの当面の目的地であったが、前領主の事に話が及ぶと兵士は首をかしげた。

「そういえば、前の領主様がどこにいるってのは聞いた覚えがないな。

 本邸には住んでないのは知っているが、ここ十年近くは公式の場にも出てないし。

 亡くなったと言う話も聞かないけど、どうなんだろうな」

 領主の座を退いてから二十年近くが経つというのだから、わからない話でもなかった。何にしても現領主の元を訪ねれば、その所在も聞ける事だろう。そんな見通しを持って、一行は領主のいる町に向かった。

 ボルドは立ち寄った町で前領主の話を集めようとはしなかった。本人に会えばそれだけで、一々下らない噂話に耳を尖らせるより、余程有意義な情報がえられるだろう。ボルドがそうなのだから、オーグ達もわざわざ話を聞いて回るような事はしない。


 辺境とは言え領主のお膝元ともなれば、それなりの規模の町が形成される。もちろん旅を始めてから今日までで一番大きな町だったし、治安の良さも抜群である。そして、そうなれば、厄介事を引き受けている冒険者の仕事が激減するのも必然だった。

 その上、物価が高く、滞在費がかさむとなれば、早急に用事を済ませてこの町を立ちたいと考えるのが冒険者である。

 だからと言って、ふらりと立ち寄った冒険者が領主に面会を求めて、すぐに取り次いで貰えるなどという事もないのである。

 ひとまずボルドが役場に面会の申請を提出し、一行は町に滞在する事となる。

「会えるのが楽しみじゃのぉ」

 そう言ったボルドの声音や表情からは、不安などは感じられない。しかし、ボルドの重ねてきた年月が、その本心を巧みに覆い隠しているようにも思われた。

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