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プロローグ - ある刀工の生涯 -

 彼は完成していた。あまりにも狭く、どこまでも深い、そんな世界で。

 彼はただ一つの業に憧れ、魅せられ、取り込まれた。

 七十年の生涯の大半を注ぎ込み、満足し、納得して、死んだ。自殺だった。

 その生涯を賭した傑作が、本来の役割を果たした結果だった。


 彼の名前は……意味をもたない。刀工、それがこの世界での彼の立場だった。冠に稀代の、とか当世一の、といった装飾がつけられる事がしばしばであったが、意味はない。

 忘れてしまった位に遠い昔、刀というものに魅入られた。いくらか年を重ね、最初に憧れた印象が美化と誇張に塗れた物だったと知っても、その想いは冷めなかった。

 手近な道場で剣道と居合道を修め、その扱いを覚えた彼は、衰退の一途を辿っていた刀鍛冶の門を叩く。その業界の振興などに興味は無く、唯々己の為だった。

 彼の人生は刀と共にあった。自らで鍛え上げ、自らで振るう。その繰り返し。ただそれだけで、喜怒哀楽の全てを感じられた。

 親兄弟との縁を切り、友も無く、妻子も無い。それらの代わりを刀が担った。

 彼は幸せだった。


 最後の時、最後に打ち上げた最高のひと振りを前にして、至高の喜びと唯一つの心残りを感じる。

 それを振るう場所は、世界のどこにも存在しないのだ。最初から分かっていた。彼が志を持った時には、世界の戦場に刀の居場所など無かったのだから。さりとて、辻斬りなどに意味を見出すほど酔狂でもない。

 あらゆる素材、あらゆる製法を試した。百年もすれば新たな技術や素材も存在するだろうが、そこまで生きられると思うほど無知でもない。

 それを振るう場、見たこともない素材、聞いたこともない技術。どれだけ願っても、そんな物はもう、どこにもない。


 自らの首を切り落とすという難事は、彼の刀と業前によって容易くなされた。


 血の花が咲く。その徒花は強く美しかった。どこかの世界の神様が、ふと気まぐれを起こすくらいに。

 この物語には濃厚な刀鍛冶描写が含まれません。出てくる知識もググってわかる程度の物しか出てきません。その方面に詳しい方には、豆知識や裏話、秘伝の奥義などを教えていただけると、作者の妄想が広がります。

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