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《ぼく》シリーズ

ぼくは舞子

作者: 武智舞

ぼくシリーズ第二弾

振るう。振るう。剣を振るう。


時に軽やかで、時に重々しい。


木を削り、両刃に銀紙ぎんがみを貼り付け、柄をうるしで塗った、祭りにふさわしき派手やかなつるぎ


しかし、辺りは闇を着込んで、ぼくたちには街灯一本が照明装置。


よく見れば剣だって、練習用でみすぼらしい。


けれど、だからこそ、聞こえてくるのは太鼓たいこ律動りつどうと田舎じじいの舟歌ふなうただけ。


澄んだ空気も胸を満たす要素の一つで、舞台道具だ。


さらにぼくは知っている。


ひざを振るわす前に、剣先を見つめる。


矢の羽に似た模様が、赤いテープで描かれた刀身。


肩幅に足を開き、たるを踏みしめ、太股からお尻に力を入れて、膝をささやかに曲げるのだ。


そして上下に動かせば、ささやかな回転を上半身が受け持つ。


今だけは、私服こそが衣装。


舞の前に、所詮、つるや花模様は小道具。


ぼくたちが描く剣筋だけが、物語。


二度目の練習がはじまった。


剣は背中に、手はかざす。


今夜の月も美しい。


打ち鳴らす太鼓が合図だ。


剣を逆手に、横へ腕を交差する。


二回繰り返せば、ついに剣先が披露され、ぼくを中心に回る回る。


やがて、斜めに向かって空を穿うがてば、後方を穿つ。その際、手を用いて、汚れを落とす。


いくたび経てば、剣先をすくうように袈裟けさ斬りもどき。腰は深く折り曲げ、戻す。


やはり二回繰り返せば、指が剣を縦に回す。


そして腕を横に振れば、後方を穿つ剣がもう片方の手に渡ってる。


舞が語るは、感謝と魔よけ。


舟歌もまたそうである。


しかし、ぼくにはどこ吹く風で、ぼくは舞に感謝する。それはみんなだって同じこと。


素敵な舞をありがとう。


未来のぼくは感謝する。


素敵な思い出をありがとう。


今、部屋の片隅には、みすぼらしい剣が一本、立て掛けてある。

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