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3-3-11 サーラの誤算

いつの間にかエーテルサインの中継システムが改良されており、今や音声だけでなく映像も転送できるようになっていた。

どうやら王都にいるエグバート先生が、中央システムのアップデートを継続していたらしい。


そのおかげで、遠く離れたメンバーたちは互いの姿を見ながら話せるようになり、皆が魔法スクリーンに映し出される形で遠隔会議が始まった。

それぞれの場所の風景を背に、画面の中で仲間たちが顔をそろえている。


最初に報告を始めたのは、氷晶湖にいるレイラだった。


「水竜ヴァルガレオンを湖から出すことには成功したわ。ただ、引き止めることができなくて……逃げられてしまった」


その報告を聞き、シェリーが小さく頷いた。


「会話できただけでも十分な成果だと思うわ。でも、再び姿を現すかどうかは不確かね……」


エヴァが画面の向こうで身を乗り出す。


「次の機会には、必ず説得してみせるわ」


決意のこもった声だった。


今度は、大渓谷の工事現場にいるミーナが報告を引き継ぐ。

背後には岩肌と仮設足場が映り込み、現場の慌ただしさがそのまま伝わってきた。


「地竜テルミルスの運搬は、職人数百人体制で準備を進めてるけど、かなり慎重にやらなきゃいけなくてね。完成まではまだ時間がかかりそう」


ミーナは少し焦りの色を見せながらも、現場監督と綿密に連携していることを強調し、できるだけ早く進めるつもりだと説明する。


「完了までにどれくらいかかりそう?」


シェリーが尋ねると、ミーナは少し考え込んでから答えた。


「具体的な期間は、もう少し様子を見ないと何とも言えないわ。でも目標は設定してる。計画通りに進められるよう、全力でやってるところ」


次にサーラが発言した。


「私も実は、すぐに最終試験が控えていて……一分一秒も無駄にできない状態なの」


その真剣な表情を見て、シオンが軽く笑いながら言う。


「まるで最難関の魔法エンジニア資格試験を受ける受験生みたいですね」


サーラもわずかに微笑みを返す。


「それに近いわね。でも、この試験に合格できれば、天竜ゼフィルドラスに対抗できると思う」


短い言葉だったが、そこには強い決意が込められていた。


話が進む中、サーラはふと時計に目をやり、小さく息をつく。


「ごめん、試験の準備に戻るね」


そう言い残すと、彼女の姿は魔法スクリーンから静かに消えた。


その場には残ったメンバーたちが引き続き意見を交わし、それぞれの任務と今後の方針を確認していく。


会議の終盤、シェリーが提案をまとめた。


「まずは王都に戻って、防衛策を練りましょう。サーラには試験に集中してもらう。その間はシオンがサポートに残る形にするわ。他のメンバーは現地を一旦離れて、王都で対応するのが良さそうね」


画面の中で、各々が静かに頷いた。


方針は定まった。

新たな作戦を胸に、全員がそれぞれの任務へと向かう準備を始めた。


—-


「もう、こんな試験、誰が通るのよ……」


休憩時間にふらりと姿を現したサーラは、疲れた表情を隠しきれないまま栄養ジュースを一口飲んだ。

そして隣で見守っていたシオンに向かって、ぼやくように言う。


「《処女の書》が用意した最終試験、まるでエキスパート魔法エンジニアの試験そのものよ。普通の魔法知識だけじゃ、到底クリアできないんだ」


サーラは深く息をつき、頭を軽く押さえながら続ける。


「魔法デバイスの基礎設計だけじゃなくて、その内部の制御魔法まで完全に理解してないといけないの。魔力信号の流れを逐一把握したり、術式で論理構成を説明したり……少しでも計算ミスすると装置が暴走して、試験は最初からやり直し。さらに指定された動作環境で最適化まで求められるから、応用力も必要になるの」


言葉を吐き出すように説明しながら、サーラは肩を落とした。


「何時間も集中し続けなきゃいけなくて……まるで頭が燃え尽きそうよ」


シオンは微笑みながら、静かに労いの言葉をかける。


「姫、大変ですね。ですが、とてもよく頑張っておられます」


ふとサーラは、周囲に他の仲間の姿が見当たらないことに気づいた。

軽く辺りを見渡してから、シオンに問いかける。


「そういえば、セレナとフィーはどこ? 最近見ないけど……」


シオンは穏やかな表情のまま答えた。


「先日の会議の結果、他のみんなは一旦王都に戻ることになったのです」


「へぇ、そうなんだ……」


サーラは一瞬、気の抜けた声を出した。

だが数秒後、突然目を見開く。


「ちょっと待って、それって──」


次の瞬間、愕然とした顔で叫んだ。


「しまった!!」


—-


帝国でクーデターが発生したとの報告に、アーゼラは高笑いを隠そうともせず声を上げた。


混乱に沈む帝国。

逃げ惑う人々。

そして皇帝の無様な敗北。


その光景が脳裏に浮かぶたび、彼女の笑い声はますます深く、暗い響きを帯びていく。


彼女がかぶる《毒蛇の仮面》も、まるでその邪悪な喜びに共鳴するかのように、妖しい光を放ちながら低く囁きかけた。


「お祝いだ、我が闇の女王よ。

我らが敵、あの帝国が自ら崩れ去っていくとは、なんと滑稽なことだろうか。この混乱が、我々の邪魔者たちをことごとく吹き飛ばすだろう」


「まったくその通りね」


アーゼラは仮面に向けて薄い笑みを浮かべ、口元をほころばせる。


「あの愚かな皇帝も、地に這いつくばるのがやっとのようね。自らの国を守ることすらできないとは……見ていて哀れだわ」


闇のデバイスである毒蛇の仮面が、ここでさらに言葉を重ねた。


「だが、それだけではない。我が女王よ。さらに喜ぶべき知らせがある」


アーゼラはわずかに眉をひそめ、興味を示すように仮面を見やる。


「へぇ、何かしら?」


「光のデバイスどもが王都に集まりつつある。だが滑稽なことに、まだ十二は揃っていない。持ち主も未熟者ばかり……まるで自ら狩られに来たようなものだ」


その言葉を聞いた瞬間、アーゼラの表情がわずかに険しくなった。


光のデバイス──かつて自分を封じ込めた、忌まわしい十二の存在。


その記憶が蘇り、胸の奥底で黒い憎悪が静かに燃え上がる。


だが、毒蛇の仮面は愉快そうに続けた。


「ふふ……今こそ好機だ。我らが動けば、あの光の玩具どもをまとめて握り潰せるだろう」


その言葉を聞き、アーゼラの不機嫌そうな表情がふっと緩む。

代わりに、邪悪な笑みがゆっくりと浮かび上がった。


「ならば、あの連中を捕らえ、永遠の闇へ葬ってやるのも悪くないわね」


毒蛇の仮面もまた、不気味な気配を漂わせながら低く笑う。


「さすがは我が女王、慧眼だ。これは我らが長きにわたり待ち望んだ瞬間。光の力を根絶し、永遠に封じ込めるのだ」


「ええ、作戦を立てましょう。

光など、この世に必要ないのだから」


アーゼラの声には、期待と楽しみが滲んでいた。

封印されていた長い時代の鬱屈が解き放たれ、今度こそ復讐の舞台に立てる──その歓喜が彼女を突き動かしていた。


仮面は何も言わなかった。

ただ、その沈黙がどこか愉しげに感じられた。

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