表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

婚約破棄された公爵令嬢はすべてを奪われた——はずだった。だが彼女は隣国の皇太子に溺愛されながら、裏切り者たちへ完璧な復讐を果たす

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/25

 王城の大広間に、ざわめきが広がっていた。

 その中心に立たされているのは、公爵令嬢エリシア・ヴァレンティア。

 そして、その前に立つのは――婚約者である王太子レオン。

「エリシア・ヴァレンティア。貴様との婚約を、ここに破棄する」

 その言葉は、あまりにも冷酷だった。

 ざわめきが一層大きくなる。

 だが、エリシアは微動だにしなかった。

「……理由を、お聞きしても?」

 静かな声。

 しかしその瞳は、凍てつくように冷たい。

 レオンは不快そうに顔を歪める。

「とぼけるな。お前は長年にわたり、マリアを虐げてきた」

 視線の先には、涙ぐむ一人の少女。

 伯爵令嬢マリア・リーヴェル。

「わ、私は……そんなつもりでは……」

 か細く震える声。

 だがその仕草は、どこか芝居がかっていた。

 エリシアはそれを見て、内心で冷笑する。

(やはり、ここまでやるのね)

 すべては、仕組まれていた。

 証拠も、証言も、全て。

 エリシアを「悪役」に仕立て上げるために。

「さらにだ」

 レオンが続ける。

「公爵家の名に泥を塗るその性根、王妃として相応しくない」

 決定的な一言だった。

 ――王妃の座からの追放。

 それはすなわち、すべてを失うということ。

 その瞬間。

「異議はありません」

 エリシアは、あっさりと言った。

「……なに?」

 レオンが目を見開く。

 会場もざわついた。

 普通なら泣き崩れる場面。

 しかしエリシアは、優雅に一礼した。

「その婚約、喜んでお返し致します」

 静かで、美しい声だった。

 だがその言葉には、確かな棘があった。

「ただし――」

 エリシアはゆっくりと顔を上げる。

「後悔なさらぬよう」

 その微笑みは、あまりにも意味深だった。

 その日のうちに、エリシアは公爵家からも追放された。

「お前のせいで家名に傷がついた!」

 父は怒鳴り、母は顔を背けた。

 弟でさえも、冷たい視線を向ける。

 誰一人、彼女の味方はいなかった。

(……想定通りね)

 エリシアは、ただ静かに馬車へと乗り込む。

 涙は、一滴も流さなかった。

 なぜなら――

(もう、この国に未練はないもの)

 すでに彼女は、すべてを見限っていた。

 数日後。

 エリシアは隣国へと足を踏み入れる。

 そこは強国として知られる帝国。

 そして――

「面白い女だな」

 低く響く声。

 振り返ると、そこにいたのは一人の男。

 鋭い眼差し、圧倒的な存在感。

 帝国皇太子、カイゼル・アルヴェルト。

「……無礼を承知で申し上げますが」

 エリシアは一歩も引かずに言う。

「盗み聞きは趣味が悪いのでは?」

 周囲が凍りついた。

 だがカイゼルは――笑った。

「気に入った」

「……は?」

「俺の妃になれ」

 あまりにも唐突な言葉。

 しかしエリシアは、驚かなかった。

 ただ、静かに問い返す。

「理由をお聞かせください」

「お前は使える」

 それは、愛ではない。

 打算。

 だが――

(それでいい)

 エリシアは微笑んだ。

「では条件を」

 その瞬間、空気が変わる。

「私は飾りの妃にはなりません」

「当然だ」

「そして――」

 彼女の瞳が鋭く光る。

「復讐を、許可していただきます」

 カイゼルは一瞬、沈黙した。

 そして――

「好きにしろ」

 愉快そうに笑った。

「ただし」

 彼は一歩近づく。

「俺を退屈させるな」

「ええ、保証いたします」

 その瞬間。

 エリシアの復讐劇が、静かに幕を開けた。



✲ ✲ ✲ ✲



 帝国に嫁いでから、半年。

 エリシアは瞬く間に、その地位を確立した。

「皇太子妃殿下のご采配は見事です」

「商談もすべて成功しております」

 貴族たちは口々に称賛する。

 その実力は本物だった。

 一方で――

「……面白い」

 カイゼルは玉座から彼女を見下ろす。

「お前、本当に女か?」

「失礼ですね」

 エリシアは微笑む。

「必要なら、証明いたしましょうか?」

 一瞬の沈黙。

 そしてカイゼルは吹き出した。

「やめろ、今は仕事中だ」

 そのやり取りは、周囲の者たちを凍りつかせたが――

 同時に確信させた。

 この二人は、誰にも止められないと。

 そしてついに、その時が来る。

「旧王国との会談が決定しました」

 かつてエリシアを追放した国。

 その代表として来るのは――

 王太子レオンと、マリア。

(来たわね)

 エリシアの唇が、わずかに歪む。

 会談当日。

「なっ……!」

 レオンは言葉を失った。

 玉座の隣に立つのは、かつての婚約者。

 だが今は――

「帝国皇太子妃、エリシア・アルヴェルトでございます」

 誰よりも高い場所に立つ存在。

 その美しさも、威厳も、すべてが別人のようだった。

「ば、馬鹿な……」

 マリアも青ざめる。

 だがエリシアは、ただ微笑んだ。

「お久しぶりですね」

 その一言だけで、二人は震え上がる。

 会談は、完全な敗北だった。

 エリシアの用意した資料、証拠、論理。

 すべてが完璧だった。

「この条約を拒否するなら――」

 彼女は淡々と言う。

「貴国は三ヶ月で破綻します」

 沈黙。

 誰も反論できなかった。

 そして、最後の一撃。

「それと」

 エリシアは軽く指を鳴らす。

 すると兵士が一人の男を連れてくる。

「その者は、あなた方の不正の証人です」

「なっ!?」

 それは、王国の重臣。

 すべての陰謀の黒幕だった。

 次々と暴かれる真実。

「マリア様は、その指示で動いておりました」

「違う!私は――!」

 叫びは、誰にも届かない。

 さらに。

「王太子殿下」

 エリシアが静かに言う。

「あなたも共犯です」

 証拠は揃っていた。

 レオンは崩れ落ちる。

 数日後。

 王国では大粛清が行われた。

 レオンは王位継承権を剥奪。

 マリアは処刑。

 すべてが終わった。

「満足か?」

 カイゼルが問う。

 エリシアはしばらく沈黙し――

「ええ」

 静かに答えた。

「すべて、終わりました」

 その横顔は、どこか寂しげだった。

 だが次の瞬間。

「なら――」

 カイゼルが彼女の手を取る。

「今度は俺の番だ」

「……何の話です?」

「お前を、俺のものにする」

 その言葉に、エリシアは目を見開く。

「それは、もう……」

「違う」

 カイゼルは首を振る。

「契約ではない」

 そして、真っ直ぐに見つめる。

「愛している」

 初めての、感情の言葉。

 エリシアは――

 一瞬、言葉を失った。

 そして。

「……困りましたね」

 小さく笑う。

「私、もう逃げられませんわ」

「逃がすつもりはない」

「でしょうね」

 二人は見つめ合い――

 静かに、微笑んだ。

 こうして。

 すべてを奪われたはずの一人のプリンセス……

 すべてを取り戻し、それ以上を手に入れた。

 そして何より――

 彼女を裏切った者たちは。

 誰一人として、幸福(しあわせ)はなれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ