お前が女の子
小陽が何も言えないのを見届けた榎戸は、嘲笑するように息を吐いて、終わりを宣告した。
「それじゃあ、これでお終いやな。お前ら、朝比奈にヘルメット被せたり」
榎戸の声掛けを受けると、生徒たちが小陽を取り囲み始めた。逃げられないように小陽の周囲を取り囲む皆の瞳からは生気が感じられず、不気味な雰囲気を漂わせている。
「コハルさん、どうか椅子にお座りください」
「えへへ、ぼくたちが傍に居るから安心してくださいね!」
イヨとミコトのふたりが、小陽が直接女の子を押し付けたふたりが、両腕にしがみついた。ふたりが小陽を見る瞳はぼんやりとしていて、小陽には振り払えなかった。
小陽は強引に椅子に座らされ、目の前に真っ黒なヘルメットを持った睦美が立った。
「睦美……」
「……」
睦美は小陽からの呼びかけにも応えず、淡々と小陽の頭にヘルメットをあてがった。あまりにも呆気なく、小陽は着々と女の子への道を歩まされていた。
(本当に、これで終わっちゃうの……? 僕は、男の子なのに……っ)
えるが公正なAIでは無い以上、論理で逆転することはできない。味方が居ない以上、無理矢理逃げ出すこともできない。
此処から小陽が助かる道があるのだとすれば――親友が洗脳を打ち破ってくれたなら、あるいは――
「……睦美?」
小陽の視界の中で、睦美は涙を流していた。朧げな瞳を涙の海で泳がせながら、睦美はヘルメットを持つ腕を振るわせていた。睦美の意思は、小陽にヘルメットを被せることを拒絶してくれていた。
「あれ? おかしいかな……? どうして、ボク……ハル君は男の子なのに……女の子にしちゃうなんて、変かなって……?」
「睦美、睦美! 僕を見て!! 睦美の思う僕を信じて!! お願い、自分を取り戻してっ……睦美!」
小陽の必死な呼びかけに、睦美は確かに反応を示していた。睦美はまっすぐに小陽を見ようとしてくれていた。
「ハル君……ハル君は、男の子……。でも、えるは先生が男性だって言ってて……それは、絶対に正しいけど……。だけど、ハル君は……小陽の……。ボクは、決めたから……ハル君を――」
「ええから、そういうの」
小陽が最後に見たのは、榎戸の面倒くさそうな表情だった。
睦美の手からヘルメットをひったくると、榎戸は躊躇なく小陽にヘルメットを被せた。
(あぁ……ごめん、小陽……。小陽は信じて託してくれたのに……僕じゃ守れなかった……ごめんね……)
視界は真っ暗で、頭部全体が締め付けられるくらいに窮屈で、呼吸音も鼓動も耳から鳴っているような錯覚に陥って――
――やがて眩しいくらいにチカチカとした映像が再生されると、小陽は意識を失ったのだった。




