シンデレラ・コンプレックス
少年にはふたりのいじわるな姉が居ました。
お菓子をあげるからこっちにおいで。
食べさせてもらえると口を開けて待ちますが、お菓子は姉の口に入っていきました。
家の中でかくれんぼしようよ。
一生懸命隠れ場所を考えましたが、姉は捜しもせずにテレビを見ていました。
サンタさんからのプレゼント楽しみだね。
プレゼントが無くて泣きそうになりましたが、姉が隠していただけでした。
いじわるばっかしないでよ!
少年が必死に訴えても、姉は笑うばかりで真面目に取り合ってくれません。
少年はふたりの姉が嫌いでした。優しく頭を撫でてくれなければ、大嫌いだったことでしょう。
小学校でも、少年はクラスメイトからいじわるされていました。
鬼ごっこをすれば、集中的に狙われました。
ドッジボールをすれば、最後まで残されて笑い者にされました。
テストの点数はいつも低く、クラス中に言いふらされていました。
もう止めてよぉ!
少年が泣き出すまで、皆からのいじわるは止まりません。
少年は学校に通うのが嫌でした。最後には皆が慰めてくれるから、不登校にはなりませんでした。
家でもいじわるされて、学校でもいじわるされる。そんな少年に転機が訪れたのは、中学校に上がってからでした。
姉からの勧めで男子中に入学した当初は、不安でいっぱいでした。小学校でもいじわるなのは男子だったのに、周りにその男子しか居ないのですから。
しかし、少年の不安は杞憂に終わります。男子に囲まれた途端、少年は甘やかされるようになったのです。
運動会のクラスリレーで足を引っ張っても、優しく慰めてもらえます。
合唱コンクールで歌詞を間違えても、何故か頭を撫でてもらえました。
まるで魔法をかけられたかのように。少年は自分が愛されていることを実感し、承認欲求を刺激され続けます。
過剰なまでのお姫様待遇は、少年の心に耐性をつけてしまいました。
いじわるしないで、もっと褒めて。
甘えん坊なんて言わないで、それでも甘やかして。
膨らみ続ける願望の裏では、いじわるへの恐怖も膨らんでいきます。
また、いじわるされるようになったらどうしよう。
もう、褒めてもらえなくなったらどうしよう。
嫌われたくない……お願いだから、ぼくのことを好きになって。
少年が少女になったことで、いじわるに怯える必要は無くなりました。
だって少女は性別不合。身体と心の性別が異なる、配慮を必要とする可哀想な人。
いじわるなんて酷いことは、社会が許しません。
弱者である少女に優しくすることは、社会が課した義務なのです。
少女に酷いことをしてもいいのは、少女よりも可哀想な人だけなのですから。




