君が女の子
「なんで……なんで? なんで? なんで? なんでなんでなんで! どうしてぼくばっかり! ぼくはっ……ぼくはっ、いつも……いつもいつもっ……いつも……こんなのばっかりで……っ!?」
嘆き絶望するミコトだったが、その視線に気づいた途端に慌てた様子で振り向いた。ミコトをじっと見つめる視線に……ディスプレイに映るえるが投票先を定めていることに、ミコトは気付いてしまった。
「命くん、もう反論は無いってことでいいのかな? それなら、えるは投票しちゃうよ?」
「まっ、待って! おねがいっ! やだ、やだやだやだ!!」
「ごめんね、待ってあげたいけど時間が遅くなってきちゃったから。これ以上遅らせると皆がお風呂に入る時間が無くなっちゃって、寝る時間も遅くなっちゃう……だから、えるは命くんに1票を投じるよ。投票権を持っているのが小陽くんと命くんだけだから、これで決まりだね。もちろん、小陽くんが自分に票を入れるなら話は別だけど?」
「……僕は、男の子だよ」
小陽ははっきりと、えるとミコトのふたりに向けて口にした。ミコトからの視線を真っすぐに受け止めながら、胸を抉られる思いでミコトに女の子を押し付けた。
「ずるいよ、そんなの……どうして、コハル先輩ばっかりっ……ずるい、ずるい……ずるいよぉ!」
項垂れ、膝を着き、伏して、ミコトは慟哭した。小陽と己を比較して、泣きじゃくりながら不平不満を叫んだ。
「不公平だ……こんなの、不公平です! だって、ぼくには何も無いのに……運動もできないし、勉強もできないし、不器用だし……友達だってっ……コハル先輩みたいに、お願いしなくても助けてくれる幼馴染なんて、ぼくには居ないのに……っ。ぼくは、誰にも助けてもらえないのに……お願いしたって、ダメだったのに……。先輩はたくさん持ってるのに、嫌なことだけはぼくに押し付けるなんてっ……ひどいよぉっ……コハル先輩のばかぁっ……ひっ、ひっく……うっ、うぅっ――わああぁぁぁん」
天を仰ぎながら、わんわんとミコトは泣き出した。涙も、感情も、全てをそのままに溢れさせて、ミコトは泣いていた。
何度も大粒の涙が頬を伝い、ぼたぼたと床に零れ落ちる。通り道が跡として残ってしまいそうなほどに、ミコトの頬を涙が流れていく。小陽の脳に響かせるように、心を揺さぶるように、ミコトはぎゃんぎゃんと号泣している。
小陽には何もできなかった。声をかけることも、慰めることも、小陽には許されなかった。
公平ではなかったかもしれない。ミコトの言う通り小陽はずるくて、嘘つきだったかもしれない。それでも、ミコトの言葉は正しくなかった……ミコトに友達が居ないのならば、その傍に寄り添うふたりは何だというのか。
「そんなに泣いてはいけませんよ、ミコトくん。脱水症状で萎れてしまうかもしれません」
「そんなわけないよぉ……それに、勝手に泣いちゃうんだからっ、止めるなんて無理だよぉ……うわあぁぁっ」
「それは困りましたね。泣いたままでは、ヘルメットが汚れてしまいます……あれは防水なのでしょうか?」
「そこはぼくの心配をしてよぉっ、ばかぁっ!」
ミコトの頬にイヨはハンカチを添えた。自分のハンカチが汚れるのも厭わずに、イヨは泣きじゃくるミコトに健気に尽くしていた。
「そんなに泣かなくても大丈夫だよ、ミコト。ミコトの言う通り、ジジは強くないかもだけど……でも、ミコトが欲しいものは全部あげるから」
「ひっ……んっ、くっ……じゃ、じゃあ、ジジくんがぼくの代わりにヘルメット被ってくれる?」
「それはできないけど」
「役立たずー!」
貶されてもジジはミコトの傍を離れなかった。何をするわけでもなかったが、ただミコトに寄り添っていた。
「やだよぉ……あんなの被りたくないぃ……。もう、女の子でいいからぁ……性別なんてどうでもいいもん……でも、怖いのはやだぁ……うええぇぇ」
「ミコトくんは困った甘えん坊さんですね……そんなに怖いのなら、わたくしが手を握っていて差し上げます」
「ジジの時も、ミコトとイヨが手を握ってくれてたから、怖いの耐えられたよ。今度は、ジジがミコトにあげる番」
ミコトの右手をイヨが、左手をジジが両手で包み込んだ。それは勇気づけているようでもあり、逃げられないように拘束しているようにも見えたが……ミコトは前者で捉えているようだった。相変わらず涙こそ流しているものの、ふたりに手を握られて随分と落ち着きを取り戻していた。
ヘルメットを手に持った弥生がミコトの前で片膝を着いた。
「私もあまり気は進みませんが、ルールはルールですからね。宇佐美君だけ特別扱いはできません」
「っ……うぅっ……や、やっぱり、ヤヨイ先輩は鬼です……悪魔だぁ……きちくぅ……――」
そして、ミコトは弥生の手によってヘルメットを被せられた。イヨとジジに手を握られたまま、ミコトは静かに苦悶の声を漏らし始めたのだった。




