烏合の衆に誰がしたのか
ミコトは人差し指を小陽に突きつけると、高らかに堂々と指揮を出し始めた。
「そ、それじゃあみんな、コハル先輩を倒してください! 素直に、全力でコハル先輩を女の子にしてあげてください!」
ミコトの号令を受けた生徒たちは一斉に視線を小陽に向ける。口火を切ったのは桃莉だった。
「って言われてもな……朝比奈ってどうやって女の子にすればいいんだ? 囲んで無理矢理ヘルメット被せちゃだめなんだろ?」
「えるが認めないでしょうし、私としても暴力は賛成できません。餅は餅屋と言いますし、朝比奈君を良く知る者に助言を乞うべきでしょう」
「そうなると、やはりムツミさんになります。ムツミさん、コハルさんの女の子要素について何かご存知でしょうか?」
「ハル君は男の子かなって」
「はーい、ここに裏切り者がいまーす。ミコン総司令、こいつ即刻追放すべきですよー」
「み、みんなふざけないでください! 真面目に考えてください! もっと素直に頑張ってください!」
ミコトの必死の呼びかけも虚しく、仲間たちは黙りこんでしまった。うんうんと唸ってはいるものの、良いアイデアは思いつかないようだ。
頑張れば結果が出るのなら誰だって頑張れる。考えて答えがわかるのなら誰も苦労しない。素直に命令を聞いてしまうという洗脳は、ミコトの大雑把な指示とは相性が良くないようだ。
小陽はコントのようなやり取りを眺めながら、冷静にミコトを攻める手立てを組み立てていた。
(僕はミコトくんのことを全然知らなくて、多分それは僕だけじゃない。イヨくんが反撃できなかったことを考えると、多分誰もミコトくんの中の女の子を知らない。だから、どうやって攻めればいいのか、全然思いつかなかった……だけど――)
この場においては、あるかどうかもわからないミコトの秘密を探る必要なんて無い。勝利条件はえるを納得させること……小陽よりもミコトの方が女の子らしいと、判断させることさえできればいいのだ。
「アタシ良いこと思いついた! ハルハルに女の子になった方が楽しいよって教えてあげればいいんじゃない?」
「コハルさんに女の子の魅力を教えて差し上げるのですね? わたくし、そういうの得意です」
「ふたりとも? ハル君に変なことをするのは、ボクが許さないかな?」
「北風と太陽であれば、太陽の方が好ましいと私も思いますね。ただ、私には女の子の魅力を語る素養が無いのが問題ですが」
「大丈夫、ヤヨイはちゃんと女の子だよ。ジジが認めるから、ヤヨイも自信持っていいよ」
「ジジ、お前何で居るんだ。宇佐美に呼ばれてないだろ、お前は」
「トオリまで酷いこと言う……。でも、ミコトに必要とされなくても、ジジはジジのできることをするから……だから、歌ってくるね」
「今は歌わなくていいよ、ジジくん! ムツミ先輩とナナオ先輩もケンカしないでください! ヤヨイ先輩はさっきから口ばっかだし、トオリ先輩はやる気出してください! イヨくんも、今は頭撫でてくれなくていいから!」
自分勝手で少しも団結する様子の無い仲間たちを、何とかまとめようと奮闘しているミコト。その背中に、小陽は優しく声をかけた。
「ミコトくんは、皆から愛されているんだね。正直、僕もミコトくんのことは全然嫌いじゃないし、こんな状況じゃなければきっと僕もそっち側にいたんだろうな」
「えっ? も、もしかして……こ、コハル先輩、考え直してくれるんですか? ぼ、ぼくは……い、いいですよ? コハル先輩が謝ってくれるのなら、ぼくのこと大好きだって言ってくれるなら……ぜんぜん、来てくれても……いいですよ?」
「そうなの? 今も皆に囲まれているのに、ミコトくんは満足してないんだね?」
「だ、だだ、だって、嫌われてたら、いじめられるかもしれないじゃないですか……。いじめられるのは嫌なんです……コハル先輩にはぼくを嫌いにならないで欲しいんです……好きでいて欲しいんです……。だ、だから……ぼくのこと、大好きって言ってくださいぃ……ヘルメットを、ぼくのために被ってくださいよぉ……」
「うん、やっぱり思った通りだ。好かれても、好かれても……愛されても、愛されても……洗脳で皆を従えているのに、それでもまだ足りないなんて。一人残らず皆に好かれて、愛されて、甘やかされていないと満たされないなんて……ミコトくんって、まるでお姫様みたいだよね」
「そ、そんな、お姫様なんて……恥ずかしいですよ。コハル先輩、いじわる言わないでくださ……い……?」
満更でも無さそうに照れ笑いを浮かべていたミコトの表情が段々だと曇っていく。小陽の意図を理解したのか、その瞳は大きく見開かれていた。




