性別不合
少女が己の性を認識したのは5歳の時でした。
物心がついて、男女の差を理解し始めた頃から、自分の身体に違和感を持つようになったのです。
根拠なんてわかりません。
理由なんて説明できません。
それでも、自分は女の子だという強烈な自己意識だけがありました。
しかし、両親はそんな少女を心配していました。
身体が男の子ならば、心も男の子であった方が生きやすいのは間違いありません。特に、小学校に入学したらイジメという問題が出てきてしまいます。
両親はそれとなく、少女は男の子なのだと諭すことにしました。
スカートもいいけど、ズボンも動きやすくていいと思うな。
遊園地でヒーローショーがあるんだって。
サッカークラブの体験に行ってみよう。
少女の心を傷つけぬように。そんな両親の優しさは、真綿で首を締めるように少女を追い詰めていきました。
あたしが女の子なのっておかしいのかな。
おとうさんとおかあさんは、あたしが女の子なのがいやなのかな。
男の子らしくしないといけないの、いやだな。
やがて、少女は心を閉ざすようになりました。女の子だと主張しても、辛い想いをするだけだと気づいてしまったのです。
少女が女の子として振舞えるのは幼馴染の前でだけ。幼馴染とのおままごとだけが、少女の心を慰めてくれました。
いつか両親にもわかってもらえたらいいな。そんな後ろ向きな希望を心に秘めながら、少女は小学校への入学準備に入ってしまいます。
両親は勘違いしていたのです。少女の隠した本心に気付けず、男の子としての自覚が芽生えたのだと思い込んでしまっていました。
それ故に、少女に注意してしまったのです。
小陽、ランドセルは小学生の間はずっと使う物なんだよ。
6年間はずっとそのランドセルを使わないといけないの。
それなのに、本当にその色でいいの?
そんなことは少女もわかっていました。長い間使う大切な物だからこそ、ランドセルだけは大好きなピンク色が良かったのです。
おねがい、おねがいおねがいおねがい!
黒はいや! 青も、緑も、男の子みたいな色はぜんぶいやなの!
ランドセルだけでいいから、お願いだから、あたしの好きな色にさせて!
うん……仕方ないね。小陽がそこまで言うならいいよ。
それは受容ではなく許容でした。少女は女の子であることを認められたのではなく、男の子であることを諦められてしまいました。
だからその夜――少女は決めました。
あたしじゃなくて、僕。
おままごとよりも、サッカーが好き。
スカートを履きたがるなんて、恥ずかしい。
全てが新しくなったまっさらな朝。生まれたばかりの少年は真っ先に両親に伝えます。
おとうさん、おかあさん、やっぱりランドセルは男の子らしいのが欲しくなっちゃった。




