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君が女の子  作者: papporopueeee
3日目

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夜中の訪問者

 夜が来て、個室のベッドに寝転がったものの寝付けずに寝返りを繰り返していた小陽。衣擦れの音しかしない静寂の中、無意識に研ぎ澄まされた耳が廊下に響く淑やかな足音を拾い上げた。

 トイレだろうか。隣の扉の開いた音が聴こえなかったから睦美ではないだろう。そんな予測をしていると、足音はぴたりと小陽の部屋の前で止まった。


 偶然立ち止まっただけか、それとも小陽に何か用があるのか。思案に耽りながら耳をそばだてる小陽の脳裏に、ミコトの言葉が過った。


『でっ、でもでも、でもでもでもでもぉ! ナナオ先輩とトオリ先輩はいつの間にか女の子になっちゃってるじゃないですかぁ! 話し合いで決まったわけじゃないのにっ……こ、これって、ぼくの知らない内に、誰かにあのヘルメットを被せられてるってことですよね!? ぼっ、ぼく、こんなですから……一人で居たら、誰かに襲われるんじゃないかって不安でっ』


 まさか、小陽を襲いに来たのだろうか……そんな小陽の予感を裏付けるように扉が開く音が聴こえ、小陽は慌てて上半身を起こした。


「だっ、だれっ!?」


 掛け布団を抱き込むという、何の意味も無い防御行動と共に精一杯の威嚇をする小陽。緊張する小陽とは対照的に、入室者の声音は柔らかく穏やかだった。


「夜分遅くに申し訳ありません。起こしてしまいましたでしょうか?」

「その声……イヨくん? どうしたの? な、何かあった?」

「お恥ずかしながら、一人で眠るのがどうしても怖くて、同室をお願いできないかと参りました。この個室には防犯の設備など無いですから、眠っている内に襲われてしまうのではないかと考えてしまって……わたくしが一方的に恨まれているのは、コハルさんもご存知かと」


 小陽の脳裏に久野絵の姿が浮かんだ。ふたりは初日から仲の悪い様子を見せており、直前の話し合いにおいても険悪な雰囲気だった。

 イヨは上級生である久野絵に対しても臆していないようだったが、寝込みを襲われては敵うはずも無い。夜襲に怯えるのも無理からぬことだろう。


「イヨくんは久野絵くんと仲悪いもんね。でも、僕よりも弥生くんとか桃莉くんを頼った方がいいと思う……正直、僕じゃ守ってあげられる自信が無いよ」

「コハルさんももうお気づきのはずです。あのヘルメットを被った者は、えるさんに迎合してしまうことを……。えるさんの目的はわたくしたちを女の子にすることです。洗脳を受けた彼らに無防備な寝姿を晒すなど、それこそ恐れ知らずの選択ではないでしょうか?」

「それは、そうかもだけど……でも……」


 イヨからの懇願に対し、小陽は即座に首を振ることはできなかった。

 そもそも、小陽目線ではイヨが襲ってこないという保証も無い。イヨの気質は穏やかで丁寧に見えるものの、久野絵に対して退かない気の強さを持ち合わせているのも確かなのだ。

 同情心に漬け込んで襲う心積もりではないか。そんな疑いを捨てられない小陽の心情を察したのか、イヨは弱々しく息を吐いた。


「っ……無理を言って申し訳ありませんでした。全てはわたくしの至らぬ点が招いたこと……急にこんな所に連れて来られて、不安のあまり虚勢を張ってしまったのですが、それが良くありませんでした。コハルさんのおっしゃる通り、守っていただきたいなんて身勝手にも程があります。おやすみなさい、コハルさん……こうして最後にお話ができただけでも、わたくしには十分な施しでした。わたくしが女の子になってしまっても、どうか変わらぬ優しさをいただけますと嬉しいです」


 暗がりの中でもわかるほどに、しゅんと縮こまって踵を返すイヨ。その背中があまりにも小さいものだから、小陽は思わず引き留めてしまった。


「ちょっ、ちょっと待ってイヨくん……いいよ、いっしょに寝よう。久野絵くんが寝込みを襲うなんて僕には思えないけど、イヨくんが不安に思う気持ちもわかるから……その不安を慰めるくらいしかできないけど、僕で良ければ傍に居るよ」

「コハルさん……っ、ありがとうございます。それでは、部屋の隅を拝借させていただきます。明るくなれば勝手に出ていきますのでどうかお構いなく……わたくしは居ないものとしておくつろぎください」

「床で寝るつもりなの? そんなことさせられないよ……一人用のベッドだから狭いけど、いっしょに寝よう?」


 小陽はイヨが入ってこれるように掛け布団をめくった。


「そんな、同衾だなんて……コハルさんは本当によろしいのですか?」

「え? そんなに気にしないといけないことなの? もしかして、イヨくん寝相が悪いとか? 僕もいい方じゃないかもしれないから、そこはお互い我慢することになっちゃうかもだけど……」


 この時の小陽は、まだこの程度だった。小陽とイヨは同性だからと、軽く考えて油断してしまっていた。


「いえ、寝相の話では無いのですが……そこまで仰るなら、ご厚意に甘えさせていただきます。お隣、失礼いたしますね?」

「うん、どうぞ」


 小陽はベッドの左側に体を寄せて、イヨを右側に迎え入れた。一枚の掛け布団をふたりで共有して、一つのベッドの上で足を伸ばし合う。

 狭いベッドの上はやはり狭く、半分のスペースでは寝返り一つで落ちかねない。ふたりの身体は自然と中央へと寄り合って、そして肩が触れた。


 小陽が隣を向けばすぐ近く、鼻先がぶつかりそうな近さで、イヨの顔が月明りに照らされていた。

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