私が女の子
首に締めていたネクタイは、赤くて大きなリボンに。長い髪も赤いリボンに彩られて一つ結びに。膝よりも長いスカートからは、黒いタイツが顔を見せている。
全生徒の模範だったブレザー姿の男の子は、深窓の令嬢染みたシックなブレザー姿の女の子に変わっていた。
ジジと桃莉が更衣室を片づける中、イヨが弥生に歩み寄った。
「このような言い方が正しいのかはわかりかねますが……お似合いですよ、ヤヨイさん。男の子としての装いも素敵でしたが、今の装いもとても素敵です。特にその髪型……素朴ながらに品が感じられて可憐ですし……わたくしとお揃いですね?」
「そうですね、お揃いです。私はアクセサリを活用できるほどオシャレには精通していないものですから、藤原君がくれたリボンが似合ってくれているのなら一安心です」
うなじ辺りで結んでいるリボンを互いに見せ合うふたり。これから洗脳が施されるとは思えない、平和で穏やかなやり取り。
弥生は笑顔でイヨと話していたかと思えば、睦美からヘルメットを渡されると躊躇無く被ってしまった。逡巡するどころか、むしろそれを望んでいたかのような迷いの無さだった。
心が慣れてきてしまっているのだろうか。弥生が洗脳されているというのに、小陽の心は大して動揺してはいなかった。今日ヘルメットを被るのが自分では無くて良かったと、明日も男の子でいられる安堵の気持ちが心を埋め尽くしていて……それが嫌だった。それを嫌だと思うことで善人振っている自分が、本当に嫌だった。
小陽が葛藤をしている内に、弥生の洗脳が完了したらしい。弥生は自らの手でヘルメットを持つと、長い髪を揺らしながらヘルメットを脱ぎ去った。
ヘルメットを脱いだ弥生は被る前と変わらない様子だった。落ち着いていて、汗の一つもかいていなかった。弥生が余りにも落ち着いているものだから、小陽はつい口にしてしまった。
「ねえ……弥生くんは、女の子なの?」
「はい、そうですよ。私は女の子です」
「そっか……うん、ごめんね。変な質問して……」
小陽はすぐに質問したことを後悔した。弥生にだって、何かしらの事情はあったはずなのだ。平気そうに見えたって、弥生だって男の子で居たかったはずなのだ。そうでなければ、弥生はもっと早くに自己犠牲を選んでいたはずなのだから。
しかし弥生がその内に抱えていた想いも、悩みも、洗脳によって搔き消されてしまった。弥生は女の子になってしまって、小陽は弥生を見捨てて今日も助かった。
(でも、だって……僕は男の子なんだから……仕方無いよ……)
他にどうしようも無かった。自分にできることなんて無かった。胸の内で言い訳を繰り返しながら、女の子になった生徒たちが睦まじく話す様子を、小陽はただ眺めていた。




