ジジが女の子
「……なんだか、あんまり変わらないね?」
睦美と菜々緒が組み立てた簡易更衣室から出てきたジジは、自身の装いをくるくると見回しながら淡々と感想を口にした。
ジジの服装は変わらず白いローブ姿だった。大きく外見は変わっていないものの、頭には修道女の被るようなベールが増えており、短パンが膝丈のスカートになっている。
ジジの身代わりを止めることは誰にもできなかった。ジジを止める為の言葉どころか、ジジにかける言葉すら誰も見つけられないまま、ここまで進んでしまった。後はもうジジがヘルメットを被るだけという局面に至っても、口を開ける者はえる以外には誰も居なかった。
「それじゃあ時々くんにも動画をプレゼントするよ! さあさあ、そのヘルメットをどーんと被っちゃってね!」
「……やっぱり、被らないとだめ?」
「だめだめ! 女の子って色々と大変なんだからね? ちゃんと女の子についてお勉強して、素直に生きる準備をしないとだよ」
「うぅ……これだけは少し怖いなぁ……」
両手で抱えたヘルメットに対し、露骨に嫌そうな表情を向けるジジ。そんなジジの元に、一年生たちが駆け寄った。
「ジジくん、こちら椅子です。良ければお座りください」
「じっ、ジジくんっ! ぼくたちが手を握っててあげる……だから、頑張って!!」
「イヨ……ミコト……うん、ありがとう」
椅子に座ったジジの右手をミコトが握り、イヨが優しくジジにヘルメットを被せた後に左手を握る。合宿へと向かうバスからずっと仲睦まじかった一年生たちは、今この瞬間も変わっていない。2人の少年が1人の少年に健気に尽くす様は宗教画のような光景であり、その美しさ故に直視していられない残酷さも滲み出ていた。
「くそっ……」
「おい、てめえ何処行く気だ?」
席を離れようとした桃莉を久野絵が呼び止めた。
「もう今日は終わりだろう? 俺は先に部屋に戻らせてもらう……最後まで見てなきゃならないなんてルールは無いからな」
「ルールはねえかもしれねえけどよ……よりにもよって、てめえが途中で逃げるのは無責任なんじゃねえのか?」
「……何が言いたいんだ、織田。俺だけが悪いって言うのか? そうやってまた人に押し付けて、自分は責任逃れしようってのか?」
「覚悟も無く拳を振るったクセして、被害者面してるやつには言われたくねえなぁ?」
「止めてください、織田君、和泉君。鳳君を止められなかった時点で、私たちは全員が同じ立場です……言い争いなんて、自分の為の気休めにしかなりませんよ」
久野絵と桃莉を窘める弥生の言葉は、小陽の胸にも突き刺さっていた。ジジは去勢済みなのだから、女の子になるのは妥当である。そんな言い訳で自分の心を慰撫しながら、自分が男の子である為に小陽はジジを蹴落としたのだ。
結局、桃莉は洗脳を受けるジジを見捨てて教室を飛び出してしまい、残った生徒たちはジジを見守り続けた。その心が自分に素直になって、女の子としてのジジが顔を出す、その時まで……小陽たちはジジが心を捧げる姿を見ていることしかできなかった。




