自由時間4:女の子(相対的)
昨日と同じように、弥生と久野絵はふたりで湯舟に浸かっていた。弥生は長い髪を白いタオルで纏め上げており、久野絵はマスクもフードも無い素顔を晒している。互いにそっぽを向いているのも変わらず、その背の間には人一人分の距離が空いていた。
「またこうして織田君と同じ湯に浸かることになるなんて、ままならないものですね。昨日の時点で合宿が終わっていれば、今頃家の湯舟に浸かれていたでしょうに」
「どの口が言ってんだ……てめえは昨日、話し合いでの話題を変えようとしてたじゃねえか。さっさとこの合宿を終わらせたい人間の行動とは思えねえな」
「この合宿を長引かせたく無いと思っているのは本当ですよ。ただ、いがみ合うような話をしたくなかっただけです。織田君に阻まれてしまいましたけれど……しかし、あの場で正しかったのはそちらなのでしょうね。私の選択は先延ばしにして逃げていただけですから」
「この状況で正しいもくそもねえだろ……各々がどうしたいかってだけだ」
「気を遣ってくれているのですか?」
「のぼせたんなら、さっさと風呂から上がれ」
久野絵の言葉に笑みだけを返す弥生。しばらくの間、ふたりは言葉ではなく水音を交わし合っていた。髪先から滴る水滴が鳴らす音。身じろぎで生じた波が身体にぶつかる音。
やがて口を開いたのは久野絵だった。
「さっき、朝比奈に会ったんだけどな。その時に訊かれたよ……お前は敵かってな」
「朝比奈君が? 織田君でもあるまいし、彼がそんなストレートな物言いをするとは思えませんが……しかし、彼からは何か固い決意のようなものを感じるのも確かです。そのような意図の発言をしたと言われても、納得はできてしまいますね。それで、何と返したのですか?」
「わざわざ言うまでも無え。わかりきってんだろ、そんなことは。それより、てめえはどうなんだ? 如月、てめえはオレの敵か?」
「……それは、私が男の子かどうかを訊いている認識で合っていますか?」
「この期に及んで眠てえこと言ってんなよ……朝比奈だって覚悟を決めようとしてんだ。てめえは、オレを女にする気があるのかって訊いてんだよ」
ふたりの間に流れる重く鋭い沈黙。抜き身の刀を互いに突きつけ合っているかのような緊張感の中、唾を呑み込むのも躊躇われる重圧の中、弥生はしばし考えこむように目を伏せて、久野絵の首に添えていた刀を離した。
「私と織田君のどちらかが女の子だと言うのなら……それは私なのでしょうね」
「……そうかよ」
久野絵は立ち上がると、ざぶざぶと音を立てながら浴槽を出た。
「…………」
弥生は何も言わず、自身の身体に何度もぶつかる波を眺めながら、久野絵が出ていく音を聴いていた。




