自習、女の子に囲まれて
授業とは名ばかりの自習が始まり、小陽たちは昨日と同じく学年ごとに3つの島を作って課題に取り組んでいた。
(なんか……嫌だな……。教室に皆で集まってると、どうしても思い出しちゃう……)
どれだけプリントに集中しようとしても、小陽の頭の中では昨夜の出来事が渦巻くばかりだった。
今夜も小陽たちは女の子を探す話し合いをしなければならず、女の子を押し付け合わなければならない。疑い合って、いがみ合って……それを終わらせる為に睦美は名乗り出たのに、結局はまた繰り返さなければならない。
(自習中も昨日より静かな気がするし……皆もやっぱり意識してるのかな……)
三年生の島からは話し声が全く聞こえてこない。昨日も仲が良い雰囲気ではなかったが、今日は誰も話していない。
一年生の島は今日も仲睦まじい様子だった。しかし周りの雰囲気に圧されているのか、声が昨日よりも密やかだ。
そして小陽を含む二年生たちは、別の理由で静寂に包まれていた。
(睦美……またこっち見てる……)
問題を解きながら悩むように左目を手で覆う睦美。それは睦美が覗き見をする時の仕草であることを小陽は知っていた。左目を隠しながら、長い髪で隠れた右目でこっそりと覗き見しているのだ。ぱっと見では気づけないが、よく見ると髪の隙間から瞳の動きがわかる。
小陽が睦美と話す機会を欲しているように、睦美も小陽を気にしているのは間違いない。しかし授業中にふたりだけで抜け出すわけにもいかず、小陽は気まずい自習の時間を強いられていた。
「ハルハルー? 全然進んでないみたいだけど、どうかしたの? わかんない所あるなら、ムッツリンに訊けば?」
「えっ、あっ、えと……問題が解けなくて困ってるわけじゃなくて、ちょっと気になることがあって……」
「なになに? もしかして恋バナ? 仕方ないなー、アタシが相談に乗ってあげるって……ムッツリンは押しに弱いから、強引に行けば堕ちるよん」
耳打ちをするようなポーズをしながらも、雑談と同じ音量で話す菜々緒。当然睦美の耳にも内容は届いているようで、睦美は不機嫌を露わにした顔で話し始めた。
「菜々緒? 勝手なことを言わないで欲しいかな……ボクはそんな恋多いタイプでは無いかなって」
「えー? でもでも、事実っしょ? ムッツリンってばどう見たって壁ドンとかで簡単にときめいちゃうタイプじゃーん」
「そんなこと無いかな……そういう予想って、大抵は自分の願望が反映されてるだけかなって。壁ドンなんかで簡単に喜んじゃうのは、菜々緒の方なんじゃないかな?」
「ふーん、そこまで言うなら白黒付けちゃう? 何でも有りの愛してるゲーム……アタシに挑んだ男子は数多く居たけど、その悉くを耳まで真っ赤になるほどの返り討ちにしてきたから。ムッツリンも、その一人にしてあげよっか?」
「今は自習中、遊ぶんだったら一人でやって欲しいかな?」
「えー、ムッツリンてば負けるの怖いんだー! 大口叩いておいて、なっさけなーい」
「お生憎様かな……菜々緒と違って、ボクは安い挑発にも飛びつくほど欲求不満じゃないかなって」
「えっ……なに急に下ネタ言ってんの……? ちょっと引くわ……さすがはムッツリンって感じ……」
「ちょっ、ちが! 欲求不満って、性欲に限った言葉じゃないかなって!」
睦美と菜々緒の険悪にも思えるやり取りは、小陽の目からは真逆に映っていた。睦美が遠慮も無く言い返す相手は家族以外ではおらず、幼馴染の小陽にだってああも真っすぐに言葉を吐いたりはしない。睦美がケンカをするということは、それほど心を許しているということではないだろうか。
ふたりの実際の距離も心なしか近いように思え、その疑問は無意識に小陽の口から漏れ出していた。
「なんか、ふたりって仲良いよね。距離も近いみたいだし……」
「そう? 女の子同士ってこんなもんじゃない?」
「ハル君の考えすぎかな? 菜々緒とは同性だから、そう見えるだけじゃないかな?」
小陽の感想を受けても、ふたりは特に距離を改める気も無いようだった。口では互いに反発しながらも、その触れ合っている肩を拒絶することも無くくっつけ合っている。
「そうかも……僕の気のせいだと思う。ごめんね、邪魔して……」
性別について言及するふたりへの言葉が、小陽には見つけられなかった。
結局その後、小陽はもやもやを抱えたままプリントに取り組み続けたのであった――
「ハル君……」
――睦美の何か言いたげな呟きも、聴こえないフリをして。




