女装趣味
男の子は格好良いヒーローに憧れて、女の子は可愛いお姫様に憧れる。変身ベルトは男の子の為に在って、可憐なドレスは女の子の為に在る。
少年にとってもそれは当たり前のことで、だからこそ少年は自らの手でドレスを選び取りました。
だって、女の子よりもぼくの方が似合うもん。
お父さんも、お母さんも、ぼくのこと可愛いって褒めてくれるもん。
だからぼくは、女の子よりも可愛いんだよ?
この世の可愛いは女の子の為に在る。女の子が可愛いのは当たり前。そんな中で男の子である自分が最も可愛かったら、それはきっと、とっても凄いこと。
少年の可愛さへの熱望は、逆境でこそ燃え上がるのでした。
ただ女の子のマネするだけじゃつまらないから、敢えて男の子を強調しちゃったり。
アタシに見惚れる瞳が、男の子だって気づいた瞬間がとっても気持ちいいから。
だからアタシは、男の子のまま可愛い自分が大好きなんだ。
男性として成長してしまう身体も、少年にとっては楽しみでしかありません。身体はどんどん可愛いから遠ざかっていくのに、それでも可愛くなれる自分が愛おしくて堪らないのです。
男の子が可愛い時間は限られているからこそ、その限られた時間を目一杯に楽しもう。
そんな日々も、今日を以てお終いです。可愛いを楽しむ男の子の魔法は解けてしまったのです。
可愛く在りたいという少年の願望は、可愛く在らねばという少女の義務へと変わりました。
可愛い女の子の手はこんなにごつくない――隠さないと。
可愛い女の子のお腹にはくびれが必要――もっと痩せなきゃ。
可愛い女の子の肩はもっと小さいのに――削りたいな。
男の子だからこそ長所に出来た性差は、女の子には短所にしか見えません。女の子として可愛くなる為には、男の子の身体は邪魔なだけです。
そうやって身体の男の子を全部塗り潰して――理想の可愛い女の子で上書きして――それなのに少女の可愛いは誰かの劣化にしか見えません。
可愛くならなきゃいけないのに。自分は女の子だから、可愛くなれるはずなのに。不安と焦燥でボロボロになった顔を誤魔化すように、少女は鏡に向かってニコリと笑いました。
あれ……でもアタシ……どうして可愛くならないといけなかったんだっけ……?
男の子の可愛いは少年だけの物。
願いを奪われた少女は、その喪失にも気づけないまま、可愛いを求め続けるのでした。




