ボクが女の子
仕切り役である弥生も、誰にでも噛みついていた久野絵も、挑発的なイヨも。誰もが口を開けない中、睦美に問いかけられたのは小陽だけだった。
「ど、どういうこと? 睦美、何を言ってるの? 睦美は、ちゃんと男の子でしょ?」
「うん、それはそう……だけど、ボクは男の子にそこまで強いこだわりは無いかな。久野絵さんの言うように、いつまでもこんな所に閉じ込められたくないって気持ちもあるし……何より、皆で喧嘩する方が嫌かなって。だから、女の子が一人見つかればそれで解決するって言うなら、別にそれがボクでも構わないよ」
「で、でも……睦美は男の子だよ! そんな、消去法みたいに女の子になるのはおかしいよ!」
「私もそう思いますよ、北条君。身代わりという考え方は良くありません。確かにいつまでも此処に居るわけにもいきませんが、事を急く必要もありません。皆も落ち着いて話し合いましょう」
小陽に同調して睦美をなだめる弥生。そこに割り込んできたのはジジだった。
「身代わり……だったら、ジジでもいいよ? ジジも男の子にこだわり無いし……ムツミ、代わろうか?」
「ええ!? ジジくんまで何言ってるの!?」
「ミコト、声おっきぃ……」
ジジの参戦によって再び混沌へと戻りかけた場は、久野絵によって抑えられた。
「いいじゃねえか、話が早くて。勝手にさせとけよ朝比奈、如月。本人が良いって言ってるんだ、止める理由もねえだろ?」
「わたくしもクノエさんに同意致します。自己犠牲は好ましくありませんが、これがおふたりなりの告白という可能性もあるのではないでしょうか。わたくしはその意思を尊重したく思います」
「所詮は心の性別の話だしな……男が女を演じるのも、その逆も別に珍しい話じゃないし。そこまで重く考える必要も無いだろ」
「アタシもトーパイセンと同感かなー。ムッツリンもジっちゃんも素材としては悪く無いし、むしろこれを機に化けちゃうかもだしー……お化粧デビューしちゃおうぜ!」
「い、いいのかなぁ……なんだかふたりに悪いような……。で、でも、ぼくは女の子なんて嫌だし、恥ずかしいし……仕方ないのかなぁ……」
自分が女の子じゃなければ後はどうでもいいという者も居れば、女の子として学校生活を送ることを重く捉えていない者も居る。小陽と弥生を除く全員が、睦美とジジのどちらかを女の子として差し出すことに同意していた。
「皆、落ち着いてください。これは繊細な問題ですから、こんな多数決のような決め方は良くありません。今日の所は一度お開きにして、冷静になってから再度話し合うべきです」
「黙ってろよ如月。てめえだって、多数決で生徒会長になったんじゃねえのか? 立候補して、票を集めて、それで選ばれたんだろうが。北条と鳳がしてんのも同じことだ。てめえがとやかく言うことじゃねえはずだぜ」
「っ……それは……しかし……」
久野絵の主張に弥生は反論できないらしい。悔しそうに顔を歪ませたものの、その口は押し黙ってしまった。
民主主義的多数決において小陽と弥生は敗者であり、それを覆すだけの武器も無い。せめて睦美ではなくジジが、と小陽は一瞬だけ考えてしまったが、それもあえなく打ち砕かれた。
「ジジちゃん、今回はボクに譲ってくれないかな? 自分から言い出した手前、ここで後輩に譲っちゃったらちょっとカッコ悪いかなって……いいかな?」
「……うん、ムツミがそうしたいなら良いよ」
此れを以て議論は終結し、結論は固く結ばれた。9人の男子生徒の中に紛れ込んでいた女子は北条睦美。本人からの自白と、過半数である6名の肯定に依って、その確かさは証された。
「睦美……」
「ごめんね、ハル君。でも、そんなに悲しそうな顔はしないで欲しいかな……性別なんて関係なく、ボクはボクでしょ?」
「それは、そうだけど……」
その目が、その声が、その気まずそうな仕草が、全てを物語っていた。本人は口にはしなかったが、小陽には嫌という程伝わって来た。
睦美は小陽を庇ったのだ。万が一にも小陽が女の子にならないように、その身を捧げたのだ。
それがわかっているのに何も言えない自分が嫌だった。ジジのように代わりを申し出ることもできない自分が嫌だった。
(だって……だって、僕は……男の子だから……)
男の子である小陽には、睦美の代わりに女の子になることはできなかった。




