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絶望したので、38歳で余生を謳歌することにします。   作者: 武田花梨
第三章 人生うまくいく……?

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人生が楽しい……そんなはずは

   *


 会社に戻ると午後の業務が始まっていて、オフィスは静かだった。


「ただいま戻りました~……」


 軽い会釈でわたしを出迎える同僚の中、自分のデスクに座る。仕事中の亘理さんも、会釈するのみだった。普段は学生気分が抜けない雰囲気だけど、仕事中の横顔は案外真面目で凛々しい。

 営業職をメインにしている亘理さんは、今回のカメリア保険とのコラボ企画ももぎ取ってきた。広告を出稿してくれる企業も見つけてきてくれる。

 やっぱり、持ち前の明るさって武器だよな~と感心してしまう。わたしにはない魅力だ。気が合わないとは思いつつ、いろんな人がいるから会社が回っていくんだなとしみじみ実感した。

 大坪さんと仲良くなったから? 最近仕事が楽しいから? 今日のわたしは人の良いところを見つけられている気がする。


 もしかして、わたしは性格が悪いんじゃなくて、自分の人生がうまくいってなくて人を妬んでいただけなのかな。本当のわたしは、こういう人間だったのかも。


「……どうしたんですか夏芽さん」


 亘理さんがちらりとこちらを見て、指で鼻の下をこする。昭和っぽいしぐさ。


「あ、ごめんなさいじろじろ見て」


 時計を見ると……あ、もうすぐ会議の時間。


「会議の時間ですねーって言おうとして」


「……あ、そうですね」


 どこかつまらなそうに、亘理さんはパソコンを閉じる。いったいなにを期待されていたんだろうか?

 マイボトルの水(自宅の水道水に氷を入れたもの)をぐいと飲んで、息を整えた。そして、ノートパソコンとスマホを準備して、会議室に向かう。会議室といってもカメリア保険のような大きなところではなく、オフィスの一角に作られたスペースだ。佳代子さんの趣味でテーブルにぬいぐるみが飾られている。犬なのかクマなのか微妙な、白いモフモフしたかわいいヤツは社員の癒しだ。


 キレイで大きいオフィスもいいけど……わたしにはこっちのほうが合っている気がする。

 徐々に社員が集まってきた。今日会議に参加するのは計5人で、亘理さんも含まれる。

 最後に佳代子さんがやってきて、会議が始まる。


「高邑さん、カメリア保険どうなりました?」


 佳代子さんは、まずわたしに進捗の確認をする。


「最終確認していただき、無事確定しました。みなさん、ありがとうございました」


 記事制作は、わたしだけの力ではない。外注のライターさんデザイナーさんはもちろん、営業の亘理さんをはじめ、さまざまな社員の力で成り立っている。


「そう、じゃあ記事公開の日を待つだけね。みなさんお疲れ様でした」


 佳代子さんは、そこでひとつ区切ってから、集まった社員の顔を眺めた。


「それじゃあ、本格的にアプリのプロジェクトに入ってもらおうかと思います」


「え、アプリ?」


 わたし以外の社員は、ざわざわとする。


「新しいサービスとして、アプリをリリースすることになりました」


 アプリの内容について詳しく解説していく。そして、わたしが中心になってプロジェクトを進めることも周知された。


「ここからは高邑さんにも話していない内容なんだけど」


 佳代子さんは、手元のタブレットを操作してわたしたちに見せる。


「ウチの会社、アプリ開発ができるエンジニアがいないじゃない? 今回業務提携という形で、アプリ開発に携わってもらう人がいるの」


 見せられたタブレットには、雑誌のインタビュー記事が映し出されていた。写真もある。講演会をしているのか、青いスーツを着てマイクを持った男性が載せられてる。

 記事のタイトルには【アプリの新時代 ―椎葉亮(しんばりょう)に聞く―】とあった。有名な人らしい。


 エンジニアというには、俳優のような容姿。細身のスーツが似合っていて、ぱっと見ではドラマのワンシーンのような雰囲気すらある。


 ぼそりと、亘理さんが「いけすかない男すね……」とぼやいた気がした。声が小さくてよく聞こえなかったけれど……苦手なタイプなのかな?


「この椎葉さんて方に、アプリ制作を?」


「そう。基本的には出社ではなく椎葉さんのオフィスで作業してもらいます。進捗によってはこちらから椎葉さんのオフィスに出向いて打合せ、というスタイルです。忙しい方なので」


「なるほど」


「高邑さんにはこまめに椎葉さんのオフィスに出向いてもらうことになるけど、よろしくお願いしますね」


「はい」


 やる気はあるけれど……でも、こんな大がかりなプロジェクトを自分がとりまとめることができるのか、不安が大きい。入社二年目でいまだに一番の下っ端だし、同期もいない。


「あまりひとりで抱え込まないで、他の社員にも頼るようにね。亘理さんなんてヒマそうだからこき使わなくちゃ」


 ね、と佳代子さんが笑ってくれた。その言葉に肩の力が抜けた気がする。

 そうだよね、わたしひとりでどうにかしようという時点でおこがましいよね。ちゃんと周りに相談して、スムーズにプロジェクトが進むようにしよう!


「夏芽さん! お任せください! その椎葉ってヤツのオフィスにもお供しますから!」


「大丈夫だよ、ひとりで。て、椎葉ってやつ、って言い方やめてくださいよ」


「いいや! 行きます! 椎葉ってヤツのオフィスに!」


 ずいぶんと亘理さんもやる気だ。わたしとしては助かるけど……。ずいぶん敵対視しているなぁ。ああいうタイプの男性が苦手なのかな?


 ちらりと佳代子さんを見る。苦笑いをしながら「自分の業務に支障がでないように」とだけ言った。

 新しいプロジェクト、という言葉にわくわくする!

 最近、楽しみなことが増えて、人生すごく楽しい!

 ……そんなはず、ある?

 このわたしに?


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