表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望したので、38歳で余生を謳歌することにします。   作者: 武田花梨
第三章 人生うまくいく……?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/25

理想の友達

 コラボ最終確認のため、カメリア保険を訪れた。担当の大坪さんが車でひとりで待っているわけだけど……他社の会議室って、どうしてもそわそわしてしまう。

 カメリア保険の会議室は広くてきれい。わたしたちの会社もおしゃれではあるけれど、やはり大企業のオフィスを見るとびっくりしてしまう。広くて新しくてきれいで。働いている人たちも洗練されている。高そうな服を着て背筋をピンと伸ばして歩く姿を見ているだけで、劣等感が刺激される。


 ……比べても仕方ない。考えてもストレスがたまるだけ!

 仕事のことを考えよう。


 今日の打ち合わせは、最終チェックだ。作成したページに間違いはないか・導線はスムーズであるかなどを見てもらう。これでよければ、配信開始だ。

 満足してもらえたらいいんだけど……。


「高邑さん、お待たせしました!」


 大坪さんが会議室に入ってくる。優しそうで頭が良さそうで、独身で同世代の女性。今日も輝いて見える。まるで恋をしたかのような気持ちだ。

 わたしは椅子から立ち上がり、会釈する。


「大坪さん、本日もよろしくお願いいたします!」


「今日は最終確認ですね!」


 担当の大坪さんが、高揚した顔つきでわたしの前に座る。


「ではさっそくこちらを」


 会議室のテーブルにパソコン、タブレット、スマホを並べ、コラボ記事を提示する。

 文章等は事前に確認してもらっているので、今日は全体のデザインやリンクに間違いはないかを確認する。


「いいですね、イメージ通りです」

 色味の訂正など細かな修正があるケースもあるけれど、今回はそれもなくスムーズに終えられた。事前の入念な打合せのおかげ!


「当社のイメージともピッタリですし、図解やイラストもあって訴求ポイントもわかりやすいです」


「ありがとうございます! ではこれで決定ということで」


 記事公開の日時を確認し、すぐに打合せは終わった。よかったー、一安心!

 いただいたコーヒーに口を付け、ほっとする。

 けれど、これが終わったらもう大坪さんと会うことはない。友だちになるなら、今がラストチャンス。もしダメでも、これから会うことはないのだから、気まずくなっても問題ない。


 けれど……勇気が出ない。「変なヤツに友だちになろうって言われた~うざ~」とか思われたくもないし、断り切れずに無理やり友だちになってくれる可能性もある。それは大坪さんに悪い。

 そもそも、友だちって「友だちになりましょう!」って声をかけるものでもない気がする。同じクラスだから、同じ部活だから毎日顔を合わせていた子供時代とは違う。大人の出会いなんて、もう二度と会えないなんてザラにあるのに。


 ひとりでぐるぐる考えていると、大坪さんが身を乗り出してわたしに近寄る。なんだなんだ?


「高邑さん、お話したいことがありまして」


 声をひそめてわたしに話しかける。テーブルの上に身を乗り出し、きらきらした目を向けてきた。


「私、実は今月末に退社することになりまして」


 退社と聞くと「結婚?」という言葉が頭をよぎる。いくら時代が進んでも、女性が退社する、しかもこんな大企業を。となると、結婚するという理由が一番に浮かんでしまう。

 無意識に左手の薬指を見てしまう。なにもついていない。

 わたしの視線に気付いたように大坪さんはふふっと笑う。


「結婚じゃないです。ついでに言うと介護離職でもなく。単に、40を前にして新しいことしたいなって思ってやめることにしました」


「すごいですね!」


 こんな大企業なのに、という言葉を飲み込む。なんとなく、嫌味になりそうな気がしたから。

 大坪さんは、いやいやと首を振る。


「ただの思いつきです。もっと広い海に出てみたいなーというだけで突っ走っちゃいました!」


 そのすがすがしい表情を見ていると、なんだか似た者を感じてしまう。

 わたしと同じ……とは言えないけれど、40歳を前にして違う人生を見てみたい、先が見え始めた人生に向き合いたいと思う気持ちは一緒なんじゃないだろうか。


「わかります、実はわたしも家を買ってしまって」


 秘密にしていたことを、つい大坪さんに言ってしまった。

 なんだか大坪さんって安心できるというか、落ち着くというか。昔からの友だちのような気さえしてしまって。

 家を買ったことは佳代子さんにもバレたし、まあいいかという思いもあった。

 大坪さんはわたしの言葉に目を丸くする。


「えー! すごい! マンションですか?」


「一軒家です」


「へー!」


「古い家を買ってリフォームしたんです。縁側もあるんですよ」


「最高じゃないですか!」


 会議室であることを忘れて、ふたりで盛り上がってしまう。

 やっぱり、大坪さんとは気が合うんじゃないかと思っていた。想像通りで嬉しい!


「いいですね、自分のお城ができたんですね。羨ましい」


 大坪さんは、うんうんと頷いた。


「わたしも独身なので、好きに生きようと。家を買うなんて思いきったことをしちゃいました」


「ですよね。独身のメリットですもん。自分軸で生きられるって」


「わかります」


 会議室で、思わぬ独身トークになってしまった。

 大坪さんは、目をきらきらさせたまま再び前のめりになり、わたしの顔をのぞきこむ。


「あの、今度おうちにお邪魔していいですか? 縁側って座ったことなくて!」


 なんと、大坪さんから言ってくれた! もしかして、大坪さんも同じことを思ってくれていたってこと、だよね?

 わたしが感動のあまり黙っていると、大坪さんははっとした表情になる。


「あ……ダメなら遠慮なく断ってください。いきなり失礼ですよね」


 大坪さんは、やだ私ったら……と、途中で我に返ったように身を引いた。わたしが何も言わなかったから、引いていると思われたのかも!

 そんなことはございません!


「いえ! ぜひ来てください! 大歓迎です!」


 うちに遊びに来るってことは、もうお友だちってことでいいんだよね? そう思っちゃうよ?

 わたしの回答に、大坪さんはほっとしたように笑顔を見せてくれた。


「よかった。連絡先交換しましょ」


 同世代、同じく独身、気の合う女性!

 理想のお友だちができた!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ