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絶望したので、38歳で余生を謳歌することにします。   作者: 武田花梨
第一章 絶望の38歳

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4/25

全部が嫌になって

   *


 だめだ。

 カメリア保険との打合せ。担当者は同世代の女性である大坪優莉花(おおつぼゆりか)さんなんだけど……今日は「友だちになれないだろうか?」という下心で見てしまい、うまく会話ができなかった。

 だって大坪さん、落ち着いていて優しそう。

 縁側でお茶を飲んだら穏やかな時間を過ごせそう。

 ちょっとだけ染められた髪はパーマでふわっとなっていてかわいらしい。

 メガネも似合っていて、知的な印象。メガネ=知的って言うのも短絡的だけど……。

 きっといい人なんだろうな。友だちになったら、楽しいんじゃないかな。

 そんなことばかり考えてしまう。欲にまみれている。そんな自分が怖い。がっつきすぎ。

 ぼーっとしていたら「高邑さん、どこかお加減でも悪いのですか?」なんて言われて……。


「あ、いえ。すみません」


「季節の変わり目で、なんだか心身の調子を崩しがちですよね」


 ふふふ、と気遣うように大坪さんが言ってくれた。気遣いもできる素敵な人だな……。

 災害級と呼ばれる酷暑を経て、ようやく秋を感じられるようになってきた。


「ほんとに。風邪ひかないようにしなくちゃですね」


 すぐにフォローできる人って、素敵だよね。わたしは咄嗟に口に出せないから、尊敬すらしてしまう。


「ねーほんと。わたしは一人暮らしなので、体調を崩すと大変なんですよね」


 わたしの自虐めいた言葉に、大坪さんは目を見開く。


「私も一人暮らしです。自由でいいですけど、やっぱり病気になると心細くなりますもんね」


 独身ほぼ確定! これは話が合うのではないだろうか!?

 上がるテンションを抑えるよう、出していただいたホットコーヒーに口を付ける。すっかり冷めていたけど、今の状態ではありがたかった。


「元気な時はひとりでも平気なんですけどね」


 なるべくこの雑談を続けたい! わたしは必死で話を繋げようとする。


「ほんと。近くに友だちでも住んでたらお互い頼りあえばいいかなって思うんですけど、なかなかこの年でそういう人はね……」


「みんな、自分の人生で忙しいですもんね」


 子どものいる人が、独身女の世話なんてしている場合ではない。だからこそ独身同士で助け合わなくちゃとも思う。

 でも……取引先の人と友だちになるのは現実的ではないよね。しかも大坪さんは、こんな大手企業の正社員。わたしみたいに派遣社員をしつつどうにか小さな会社の正社員にもぐりこんだ人とは釣り合いがとれないよ。

 これ以上、会話が弾むことはなく、時間を見て打ち合わせはお開きとなった。いきなり意気投合して友だちになれる、なんてそううまくはいかないよね。




 カメリア保険での打ち合せを終えて帰路につく。まだ空は明るい。

 わたしたちの運営するウェブメディア「まねきおかネコ」とカメリア保険のコラボ企画は、『保険の見直し』がテーマ。保険料が高い・保障内容を変更したい・子どもが生まれたから新しい保険に入りたいといった悩みを解消しつつ、カメリア保険のサイトへ誘導。保険契約してもらうことが目標だ。

 保険契約の件数によって、当社へのインセンティブが決まる。わたしが先頭にたって、このコラボ企画を成功させなくてはならない!

 わかりやすい図解を作ってくれる外注のデザイナーさんに依頼して、文章を書いてくれるライターさんにも声かけて……記事の構成案も作っておかなくちゃ。

 ページのアクセス数を増やして契約までしてもらうには、わかりやすく・華やかに・コストをかけてしっかり作らないと、目標達成は難しい。検索結果で一位になるためには、しっかりとした正しい情報と、読者がほしい情報を過不足なく載せることが重要だから。


 とにもかくにも、頑張ろう!


 友だち探しはとりあえず置いておいて、ちゃんとしよう。会社の利益にかかわるということは、わたしの給与にもかかわる。

 今後の生活のためにも、お金は大事!

 今日は早く家に帰れるし、作り置きでもしようと思ってスーパーに寄って帰宅した。住宅ローン返済のためにも、お金は節約しておきたい。

 私は利息の負担を極力減らすため、45歳で完済できるよう7年の住宅ローンで購入できる物件を探した。いくら激安中古物件をたっぷりの頭金で購入したとはいえ、7年での返済はきつい。貯金する余裕などなくなってしまった。

 余生を謳歌すると言いつつ、働いて節約して。人生って、いつ終わるかわからないのにずーっと地味な生活の繰り返しなんだな。


 めんどくさくても、行きつけのスーパーのポイントカードは必ず作る。安い食材のためにはスーパーをハシゴする。でも、しんどい時はネットスーパーも使うしお惣菜も買う。外食は月2回まで。宅配は使わない。お弁当も飲み物も会社に持参。クレジットカードは使わない。コード決済は都度入金して使う。スマホは月3000円ちょっとでギガ使い放題のキャリアを選び、テザリングで家中にWi-Fiを張り巡らせている。


 これがわたしの節約術。


 すごく地味で、それでいて効果てきめん。

 これからも、地味に、着実に節約しつつ、できる限り豊かな生活を送る。そこに友だちがいたら、もっと楽しいと思う。

 だから、どうにかして友だちを作りたい!

 わたしは決意を新たにしつつ、作り置きの準備を始める。


 ワイヤレスイヤホンを耳に入れてポッドキャストを聞きながら、料理を開始。50代女性が2人で他愛ない話をしている声が耳に届く。

 ブロッコリーとにんじんのサラダ。レンコンチーズベーコン。小松菜のゴマツナ和え。

 3品作っただけで疲れてしまった。でもまだ、メインを作っていない。がんばろう!

 鶏もも肉に下味をつけている間、レンジで作れる煮込みハンバーグを準備。レンジ調理中に、鶏もも肉に衣をつけてフライパンであげ焼きにする。油を消費せずにからあげを作るにはあげ焼きが一番!

 たくさん作ったと思っていても、夕飯とお弁当で食べてしまうと、あっという間になくなる量だ。週の半ばにこれだけ作っても、また週末に作らないと。亘理さんみたいに大食らいだと、作り置きなんて不可能なんじゃないだろうか?


 リビングから届く冷房の空気だけじゃ、キッチンの暑さは解消できない。大汗をかきながらようやく料理時間を終える。シンクの中には汚れたボウルや鍋が積まれているけれど見てみぬふりをして、保存容器に詰められたできたての料理を見て自己満足に浸る。

 今日の夕飯用にサラダと煮込みハンバーグを皿にとって、ようやく夕食。


 ポッドキャスト番組が終わったタイミングでテレビをつける。リアルタイムで見たいものはやっていなさそうなので、TVerを見ることに。先週見逃したドラマ、配信終了までに見ておかなくちゃ。

 自分の作ったものを、自分の好きなドラマを見ながら食べる。煮込みハンバーグの味付けも自分好み。自分のためだけの時間はすごく充実している。


 わたしの余生は、ずっとこれでいい。


 ……とは思うけれど、千尋がカナダに行ったきりになって、お父さんが亡くなったら……。こんな悠長なこと言えるんだろうか。お姉ちゃんはいるけど、結婚を機に夫の親と同居するため九州に移住して以来、ほとんど会っていない。


 女の人生って、なんだろう。なんでみんな、バラバラになってしまうんだろう。


 はぁ、というため息に栓をするように、ブロッコリーを口に入れた。

 佳代子さんみたいに「孤独死ドンとこい!」と思うには、まだ人生経験が足りない気がする。

 いくら高齢者見守りサービスがあっても、寂しさまでは埋めてくれないじゃないか。

 ……だめだ、考えすぎてドラマが頭に入らない!

 食事を終え、わたしはドラマを一時停止してスマホを手に取る。


【友だち 作り方 大人】


 検索してみると、さまざまな情報サイトが検索結果に現れる。とりあえず、検索結果一位のページを見る。月間のアクセス数はどれくらいだろう、とつい考えてしまいつつ、目次に目をやる。


『趣味のサークルに参加しよう・行きつけのお店を作ろう・同性を探せるマッチングアプリを作ろう・ボランティアしてみよう……』


 他のページの目次も見てみたけれど、だいたい書いてあることは一緒。

 私は記事の文章を読まず、タブを閉じた。目次を読めば中身は必要ない。

 趣味のサークルか。サークルに参加するほどの趣味、あるかな……。友だちが欲しいという下心でボランティアに参加するのって、ヘンじゃない? これじゃあ本当のモブキャラ探しになってしまう。

 というか……。


「これって婚活と一緒じゃん!」


 一応、これまでの人生で婚活に励んだ時期もあった。

 結婚することを目的に興味のない話を興味のない人とするのが苦痛だった。お互い、自分に適した人かどうかを査定しあうこともとにかく苦手で、わたしは婚活をやめた。それこそ、結婚しているという肩書のためのモブキャラ探しだった。


 いい企業に勤めてるから相手にされない、自分より学歴の低い人とは話が合わない、見た目が好みじゃない、いちいち嫌なことを言う……。人ってこんなに合わないもんなんだと思うと、絶望感が日に日に増していくだけだった。

 それなのに、また同じことを繰り返すの?


「あーもう、全部いやになったー!」


 わたしはスマホを操作し、ふたたびポッドキャストを起動する。食器洗いをしながらお笑い芸人のトークを聴こう……。

 家を買ったら、わたしの苦悩は少しは楽になるかと思った。夢をひとつ叶えたのだから。

 でも……。

 のんきに余生を謳歌するつもりでがんばっているけれど、かえって悩みが深くなったような気がしないでもない。


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