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絶望したので、38歳で余生を謳歌することにします。   作者: 武田花梨
第六章 絶望から希望へ……

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余生を謳歌できるかどうかはわからなすぎる

   *


 日光にある霧降高原には、天空回廊と呼ばれる1445段の階段がある。空まで続くような、長い長い階段。

 その階段を、わたしは登り続けている。


「夏芽さん! あと1000段ですよ!」


 看板を指さし、亘理さんが元気よく教えてくれる。せんだん……聞いたことのない段数……。


「日頃、階段なんて登らないから厳しいです!」


 山の上だから、都心に比べてかなり寒い。厚手のコートを着て、階段をひたすら登っていく。紅葉した木々も見られるから、飽きることはなかった。


「でも夏芽さん、あの子めちゃくちゃ元気すよ」


 うしろから元気よく階段をかけのぼる未就学児と思われる男の子。わたしを追い越してそのまま階段を登り続けていった。そのうしろを、父親と思われる男性が追いかけていく。その次には、どう見ても70代80代の高齢者軍団が登ってきた。追い越しざまに風を感じるレベルのスピードでさくさくと階段を駆け上がる。


 ……わたしだけ、大げさに騒いでいるみたいじゃないか。


 亘理さんには、行きの車の中で千尋とのことを話した。話題があるおかげで、約2時間のドライブも苦にならなかった。

 それどころか、聞き上手な亘理さんのおかげで、だいぶ楽しかった。

 しかし、1445段を登るとは。確かに、ラフな格好で気軽に登っている人が多い。本格的な登山スタイルの人もいるけれど、その人たちはこのまま登山をするらしい。天空回廊の階段はあくまでもウォーミングアップ。


 休憩をはさみつつ、やっとのことで残り700段。振り返ってみると、だいぶ高いところまで登ってきたみたい。

 青空と、山々だけが風景。壮大な山に囲まれていると……ありきたりだけど、自分の悩みが小さく思える気がした。それに、階段を登っている最中はとにかく余計なことは考えられない。登ることだけに集中している感じがする。


 人々が、山に登る理由がわかった。何事も、やってみるとおもしろい。


「夏芽さん、登山は人生と一緒です。頑張る時は頑張る。休む時は休む。他の人のスピードに驚いて比べることもありますけど、自分のペースで登ればいずれは目的地にたどり着けるんです。……あ、うまいこと言ったな!」


 たはー、と大げさに照れながら、亘理さんはわたしのペースにあわせて登ってくれる。

 今までだったら、くさいこと言ってる、と思って鼻白んでいただろう。でも今はいろいろあって、心にしみてしまう。


「一段一段、確実に登っていけばいつかはゴールにたどり着くんですね」


「そうです。無心になって、目の前の階段だけを登っていけば」


 一段一段、確実に登る。後半になると、傾斜がきつい気がする! これも人生と一緒なの?

 いろいろ考えると疲れるから、階段をのぼることだけに集中する。無心にならざるを得ない。

 そしてようやく、天空回廊のゴールに到着!

 ゴールの場所は、景色がよく見えるよう展望台が設置されていた。

 深呼吸をして呼吸を整え、景色を眺める。高くて恐怖すら感じるけれど、自分が一段一段確実に登ってきたんだと思うと達成感があった。


「どーですか。いいでしょ、山登り」


「いいですね。なんだか、自信が持てる気がします」


「お、いい傾向です!」


 今日も、あいかわらず明るいし、わたしに優しい亘理さん。

 ここ最近、ずっと気になっていたことを聞いてみたくなった。

 勇気がなくて、聞けなかったこと。今なら、この場所なら聞ける気がした。

 どうしてここまで良くしてくれるのか。ずっと、聞いてみたかった。


「亘理さんは……わたしのこと、どう思っていますか?」


 わたしの話に付き合ってくれたり、日光まで連れてきてくれたり。もしかして、わたしのことが好きなんじゃ? って勘違いしてもおかしくないよね。

 千尋には、亘理さんはわたしなんて好きにならないとは言ったけど……でももしかして。だって、そうじゃなかったらこれまでの行動はなんなのって話!

 椎葉さんにフラれたからってすぐ亘理さんっていうのもよくない。でも、せっかく好いてくれるなら。

 あんまり無下にするのもよくないんじゃないかなって。


「俺、夏芽さんのこと……」


 亘理さんは、わたしの顔をじーっと見つめる。


 どきどきと、落ち着いたはずの胸の高鳴りを感じる。


 亘理さんは、ニカっといつもの笑顔を見せた。


「いつもお弁当のおかずをくれる優しい同僚であり、大人のお友だち第一号です!」


 亘理さんの言葉は、そこで終わった。続きはなかった。

 それだけ? という言葉を必死で飲み込む。

 亘理さんの笑顔が、あまりにも純粋で、それ以上のウラなんて一ミリも感じさせなかったから。これ以上聞いたらおかしなことになる!

 またお友だちかー。それだけかー。

 連なる山々を見て、悩みを極小化させよう。……ダメだ、まったく小さくならない。大きいままだ。さっきのは、錯覚でした。

 わたしの混乱をよそに、亘理さんはしょんぼりする。


「お友だち、ダメですか? やっぱ同僚とは友だちにはなれませんか?」


「いいえっ! お友だちですよわたしたちは!」


「よかったー! また、お弁当のおかずくださいね!」


「いえ、そろそろ自分で作りましょう」


「えー、けち!」


「住宅ローンの返済に追われていますので、お友だちのおかずを作る余裕はありません」


 思っていた人生とは、違うことばかり。ほんとうにままならない。

 これから先、余生を謳歌できるかどうかはわからなすぎる。

 でも、人生楽しもうと行動すれば、案外、おもしろいことが起こるんじゃないかって気がしている。

 12年よりも長く、余生を謳歌したい。



終わり


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