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だから貴方じゃないんだってば

作者: ミソラ

 今日も今日とて柱の陰から彼の方をじっと見守る。


 テラス側にいる私の対面の壁側、にこやかに談笑しているのは憧れの公子さま。シャンデリアの光が反射してきらめくハニーブロンドの髪の毛に、優しげに細められるエメラルドの瞳。立ち姿も美しく、輝く姿に目が潰れそう。

 けれど、ダンスを楽しむ方々が度々遮ってくださるおかげでなんとか目は潰れずに済んでいる。


 ちらちらとフルートグラスぐらいの大きさにしか見えないけれど、それでも充分。同じ空間の中にいてその姿を見ることができる。それだけで胸はときめくし幸福感に満たされる。


 ブライアン・クレイグ公爵子息さま。お父上は王弟であり、王家に連なる一族として外交を担っていらっしゃる。ブライアンさまご本人もお父上の後を継ぐべく学問に励み、最近では立派にお仕事をなさっておられる。つい最近、外交から帰国なされたばかり。

 だから本当に、ほんっとーっに! 久しぶりにお姿を見ることができているのだ。

 ああ、素敵。前よりさらに大人っぽくなられて。眼福、眼福。


 そうやって柱の陰で集中している私の目の前を一人の男性が横切り、はっと私の顔を見た。

 邪魔。公子さまが見えない。


「やあ、アナベル。そんなに見つめられると穴が空きそうだよ」

「ごきげんよう、アロイス侯爵子息さま」

 邪魔。

 

 ああっ、公子さまが移動する。女性の手を取って踊り始めるようだ。あれは当代きっての才女と名高いセシリアさま。濃い銀色の髪の毛の麗しいセシリアさまのなんとお似合いなことが! まさにこの夜会の主役!といった感じ。

 私は毛先だけ巻いた栗色(ブルネット)の自分の髪の毛を見る。

 うん、地味。瞳もなんとなく薄い青で、この夜会でも埋没してしまうほど、地味な容姿。

 そりゃ、元婚約者もあっさりと条件がいい方に乗り換えるわ。


 私は「はあっ」と息をはいて、改めて目の前のジュスト・アロイスを見た。

 でかっ。

 こんなに大きかったっけ? しばらく見ない間にさらに大きくなった気がする。成長期はとっくに終わっているはずだけど、筋肉?

 燃えるような赤毛と深い紅茶色の瞳のジュストは、私より頭一つと半背が高いし肩幅も広い。顔つきも男らしく、すらりと優美な公子さまとは対極の存在感。

 

「今のため息はなんだよ?」

「なんでもないです……」

「……ふうん。ランディは?」

「お兄さまなら先ほど財務部の方たちに引っ張っていかれましたわ」

「へえ。夜会だってのに不粋だな。それでアナベルは一人で柱の陰か」

「好きでいるのでいいのです」


 ふん、私にも仲間はいる。ほら、あちらの花瓶の陰、カーテンの陰。それからあちらにもそちらにも。『クレイグ公子さまをそっと見守る会』のメンバーが。

 集団で見つめるのはご迷惑であろうと散って見守っている同志の方々。後で集まってきゃっきゃと話し合うのがまた楽しいのだ。


「暇だろ、踊ってやる」

「はい?」

「さっき俺のことをじっと見ていたじゃないか」

 貴方じゃないってば。光り輝く公子さまだってば。人違いだってば。

 けれど、ここで貴公子に恥をかかせるわけにもいかず、その手に自らの手を重ねる。


「なんだ、その顔は」

「別に、でございます」

 ジュストが微妙な顔をして私を見下ろす。

「じゃあ誰を見ていたと言うんだ?」

 ドキッとする。顔が赤くなるのがわかる。

「……誰だよ?」

「メ……メ……メープル様ですわ!」

「は……? 誰?」

 上から紅茶色の瞳でぐっと見下ろされる。観念してふっと目を逸らした。

 

「……ブライアン・クレイグ様です……」

「ブライアンがなんでメープルになるんだ?」

 ハニーブロンド→ハチミツ→甘い→シロップ→メープルである。これは『クレイグ公子さまをそっと見守る会』内だけで通じる暗号のようなものだ。


「わからん」とジュストが呆れたように呟く。わかってもらえなくてもけっこう。


「それより、なぜジュストさまがメープルさまの名前を呼び捨てになさっているんですか?」

「そりゃ同い年だしチューター(家庭教師)が同じ人だからだよ。たまに一緒に研究してたしな」

「ジュストさまは軍属では……?」

「兵隊っつっても脳筋ばかりじゃないんだよ。普通に事務処理とか、外国との折衝には語学力もそれなりの知識も必要。それに作戦を立てる参謀とかいろいろあるだろ? 軍は外交とも密接に関わっているから、意思の疎通がしやすいように、あえてブライアンと同じチューターを選んだって親父が言っていた」

「なるほど」


 う、羨ましい! そんな繋がり方があるとは!


「ついでに軍は予算も膨大だから財務部とも関係を良くしておかないとならない。そのためにはランディとも仲良くしなきゃならないんだ」

「へぇ、でもお兄さまは出世するか分かりませんよ? お父さまと同じで……ほら、ちょっと……」

「いやいや、仕事の面ではなかなか。だからさっきも財務部に連れていかれたんだろう」

 うーん、ミスでも見つかって連れていかれたのかと思っていた。


「……で、アナベルはメープル(・・・・)のことが好きなのか?」

「す……す……好きって、そんな、まさか、恐れ多い、私なんかが……っ」

「挙動不審」

 むきっ。


「……好きというか、憧れです。お姿を見ているだけで幸せになれるというか。あちらは私のことなどご存じないでしょうし……」


 元婚約者と婚約解消したのは三か月前。伯爵の爵位を持つとはいえ、財務部文官として仕事をしている宮廷貴族の父と兄。それに不満を抱いていたのであろう元婚約者は、婚約を解消した後、商会を経営している子爵家のご令嬢と婚約をした。

 利益のある方に動くのはよくあることだし別に好きではなかったけれど、やはりショックでしばらく落ち込んだ。

 

 でも、それでも前を向けたのは公子さまの存在だった。

 そのお姿を見れば胸は高鳴り、悲しいことは忘れられた。


 はうっ。今この瞬間、見られないのが寂しい!

 

「……。紹介、してやろうか?」


 え? えええっ?


 ***


 夜会が終わった次の日、早速ジュスト・アロイスから『一週間後にうちに来い』との連絡があった。

 え、もう話をつけたの? 早くない? 心の準備というものが……っ!


 そうだ、お兄さまも誘おう。


「仕事で無理」

「そんなこと言わずに、お兄さまぁ」


 *


「なにウロウロしてんだよ。腹を空かせたクマか?」

「誰がクマよ!?」

「こえぇ」


 だってじっとしてられないじゃない。憧れのメープルさまと会うのよ。私という存在を認識してもらうのよ。じっとしてられますか?


「約束の時間の二時間前に来たと思えばずっとウロウロ。よく疲れないな」

 疲れた方がいいかもしれないもの。元気だったら暴走しちゃう。でもまだ元気だわ。まだもう二時間ウロウロできる自信がある。

 と、思ったらブライアン・クレイグ公爵子息さまが到着したとの知らせが届いた。


 *


「やあこんにちは、アナベル・ボートン伯爵令嬢」

 ほ、本物だわ! こんな至近距離に本物のブライアン・クレイグ公爵子息さまがっ! まぶしっ!

 今まで遠くからしか見たことがなかったけれど、近くで見るとやはり男性。すらりとしながらも肩幅は広くて背が高く、お顔が小さい。

 立ち姿は優美で、人を惹きつける美しい笑顔と仕草。そして声は心地よいテノール。

 

 こんなに完璧な方をなぜ作ったのかと神に問いたい。

 

「どうした? 口をカパカパして。池の魚みたいだな」


 ジュスト! さっきはクマで今度は魚って! 貴族令嬢に向かって! 公子さまの前で! だから貴方には未だに婚約者もいないのよぉ!

 

 ぎっとジュストを睨んだあと、顔に笑顔を乗せて公子さまに向ける。うわぁ、そのきょとん顔。浄化されます。


 あれ?


 でも、なんだろう? すごい満足感。というか達成感。


 こうやって公子さまの瞳が私を見ているというのに現実感がなくて、改めて別世界の方なんだなあと実感する。

 そうか。そうだわ。私みたいなちんちくりんは横にいることはできない。遠くから見てときめくぐらいがちょうどいいのだ。


 そう、私にとってブライアン・クレイグさまは永遠の王子さま。


 そう思うと落ち着いてきて、公子さまにきちんと挨拶をしようと笑顔を作ると、公子さまもにっこり笑った。

 うぉっ!

 目が! 目があぁっ!

 

 彼が笑うと周囲の明度が上がる。わあ、いい天気。


 公子さまをまっすぐ見ないように視線を横にしながら、お茶の準備が整った四阿へと移動した。

 

「アナベル嬢、可憐なあなたにブルースターがよくお似合いだ。私の好きな花の一つなんですよ」

 アロイス侯爵邸の庭に設られたお茶会の場は、ふんわりとした青のブルースターとかすみ草、そして白のミニバラで飾られている。公子さまは長いまつ毛を伏せて指先でテーブルに飾られたブルースターの花をするりと撫でた。えろい。

 

 金色の攻撃にぷしゅう〜と顔から湯気が出そうになっていると、後ろから追撃が来た。


「お前はメープルらしいぞ。アナベルはメープルが好きらしい」


 ジュストぉ! 貴方っ、なにをっ!?


「メープル? なんだか耳馴染みがあるな」

 も、もしや廊下の隅っこで『見守る会』の皆さまときゃっきゃしている所を見られたのでは? いや、そんなまさか。


「メープルとはお前のことじゃないのか? ジュスト。ほら、お前の髪の毛も瞳も紅葉したメープルみたいな色だから」


 は? え?

 

 ジュストが「違うけど? でも確かに?」とか首を捻っている。

 違う、貴方じゃない……!


 公子さまはさらに爆弾を落とす。

「ジュストもね、ブルースターの花が好きなんだよ。いつもブルースターのような瞳を持つ令嬢の話を聞かされているんだ」

「はあ」

「そのご令嬢が婚約された時にはひどく落ち込んで、解消した時には分かりやすく舞い上がっていたよ」

 そうなんですね、といった感じでこくこく頷くと、公子さまは少し目を見開いて笑みを深める。

「それでね、そのご令嬢を自宅に招くために私を利用したりするんだよ。涙ぐましいと思わないかい?」

「ブライアン!?」


 じわじわと状況を理解する。


 え? えええっ?


 愕然としている私を見て、公子さまは吹き出した。うん、尊い。けど待って。ちょっと待って。


「なにこれ? もしかして本当に周りがお膳立てしないと駄目な感じ?」


 違う! 公子さまは笑ってるけどなにか勘違いしていらっしゃる。

 ジュストの方を見ると真っ赤になっている。髪の毛と相まって本当にメープル(楓の葉)のようだ。

 つられて私も赤くなる。


 ほんと、なにこれ?


 *


「気づいてなかったのはお前ぐらいじゃねぇか?」

 その夜、私は我が家の居間で両方の拳をぷるぷるさせている。

 

 私より少し明るい色をした長めの髪を無造作に一つに結び、組んだ足の上に本を乗せた兄が呆れたように言う。大変お行儀が悪い。

 

「けど、アナベルが婚約解消したのはたった三か月前で割と落ち込んでいただろ。それにその後はブライアンの追っかけしていたし、ジュストは脈なしかと思って話さなかったんだ」

「うう」

「けど、ブライアンには感謝しているんだ。お前が元気になったのはブライアンのおかげだからな。……で、お前はブライアンとジュスト、どっちがいいんだ?」

「どっちって、そんなおこがましいこと……。というか、お兄さまも公子さまのことを呼び捨てにしているの?」

「外交部も軍部と並んで金食い虫だからな。あいつらは俺に頭を下げる立場だ」

 

 公爵家と侯爵家の令息に対してこの言いよう。

 お兄さまは父に似て粗暴である。母に似て細身で、なかなか見た目もいいと思うのだが(友人が『ランディさまって知的ね』と言っていた。はあ?)お口も態度も大変悪い。幼い頃はいつもジュストと殴り合いの喧嘩をしていた。母は真っ青になって父は爆笑していた。

 これで机に向かって一日中数字を見ているとか信じられない。


「仕事で繋がりがあったのね。知らなかった……」

「お前は親父と俺の仕事に興味なさすぎなんだよ。ま、お前の元婚約者もなあ。表面しか見られねえ奴は別れて正解」

「え?」

「いや。……で? どっち?」


 忘れてなかったかー。私は俯いて指先をいじいじしてから口を開く。

「ブライアンさまは憧れなの。見ているだけで幸せになれるから。……たしかにお姿を見たらときめくけど、恋とか愛とかじゃないの」

 それは今日よく分かった。憧れは憧れのままで。才色兼備のセシリアさまと並んでる姿なんかを見て『ふわわあぁ』と拝むのが理想だな、と。


 そして、実際に話してみるとあけすけに物を言う方だということも分かった。……意外だった。

 ジュストは……。


「ジュストさまは、お兄さまの(喧嘩)友達という認識しかなくて。幼い頃から知っていて気のおけない方ではあるけれど……」


 なんか、たくさん意地悪されたしなあ。恋愛対象かと聞かれれば……。


「アナベル、赤くなってる」

「うぇ!?」

 だって初めての経験だから! 誰かに想いを向けられているというのが。でも『気づいてなかったのが私だけ』ということは……?

 

「俺が言うのもなんだが、ジュストはいい男だぞ。ガキの頃のことは置いておいて、今はもう立派な二十二才の大人だ。お前に対する気持ちがでかい男を選んだ方が、お前は幸せになれる」

「……お兄さまが恋愛上級者みたいなことを言ってる」

「上級者だが?」


 お腹が膨らんできた義姉の幸せそうな顔を思い浮かべる。


 ……ソウデスネ。


 *


 数日経って。

 私はブライアンさまと兄から焚き付けられたジュストから猛烈なアピールを受けることになる。

 真っ赤になりながら手を伸ばしてくる彼に、私は意識しまくることになるのだ。


 ***


[お兄さまと愉快な仲間たち]


 我がボートン伯爵家は、歴史は古いが数ある伯爵家の中でも中間の位置にある平凡な家門である。約百二十年前、国が封建制度から中央集権に変わった時に国土の再編が行われ、北の山岳地帯から宮廷貴族に組み込まれた。

 代々、我が一族は山岳気質のせいか短気ですぐに腕力に頼るところがある。が、なぜか数字にも強く財務官僚として王宮に勤めている。綿密な計算をしなければ冬が越せなかった名残だろうか。


 だがしかし、財務部に必要なのは腕っぷしである。

 日々、予算増額を迫る各部門や王族を水際で堰き止める精神力と、徹夜をものともしない体力が必要だからだ。

 そして今は父は財務大臣補佐官、俺は各部門からの書類を精査し、予算編成のための叩き台を作る仕事をしている。


 その中で出会ったのがブライアン・クレイグ公爵子息。

 次男ではあるが、約束された地位と煌びやかな容姿で社交界の人気者の貴公子である。


 *


「でね。今度、隣国の王弟殿下が我が国に訪問されるんだけど歓迎晩餐会でこのぐらい予算を増やしてほしいんだ」

「これまでの二倍じゃないですか。なぜ必要なのか説明を」

「もちろん、この交渉が重大だからだよ。それにこの王弟殿下というのが美食家でね、我が国としても良い顔をしたいじゃないか」

「では、代わりに蝋燭を間引けばよいかと」

「あっははは、薄暗い晩餐会ってどうなの?」


 やたらと綺麗な顔で、あっけらかんとはっきり物を言う。見た目の印象とは違って話しやすい。何度か会ううちに意気投合した俺たちは、仕事以外でも交流するようになった。


 *


 そして今からほんの三か月前、妹のアナベルが婚約解消した。相手は家督を継ぐことのない伯爵家の三男だったから、どちらにも旨味のない婚約ではあった。この時代、乳幼児の生存率は低い。ただ本家のため、子孫繁栄と本家に忠実な人材を作ることを目指すような婚約だった。

 だから不満だったのだろう。相手は商会を経営し、豊かな資産を持つ子爵家の娘と婚約するため、あっさりと妹との婚約を解消したのだ。


(王宮もその商会から消耗品を購入していたが、入札制にして締め出してやった。予算も絞れて一石二鳥である。はっはっはっ)


 幸いなのは妹がそれほど落ち込んでなかったことだ。その理由がブライアンにあった。

 どうやら『クレイグ公子さまをそっと見守る会』という謎のグループに入り、ブライアンの追っかけをしているらしい。

 色んな意味で、爆笑である。


 そして、アナベルの婚約解消を知って鼻歌でも歌い出しそうな男が一人。

 ジュスト・アロイス侯爵子息。俺たちの幼馴染だ。

 アロイス家は代々軍部に所属する家系で、ジュストの親父さんと俺の親父は拳で語り合う間柄。そこに爵位の違いもない。ただ腕自慢をして酒を酌み交わして笑うだけ。

 そんな二人を父親に持ったジュストと俺も幼い頃からよく取っ組み合いをしていた。


 アナベルは最初「やめてよぉ」と泣いていたが、そのうち慣れて横でケーキを食べるぐらいになっていた。

 そしてアナベルが楽しみに最後に残してあったイチゴを横から食べるのがジュストだ。

 怒り狂ったアナベルとジュストの追いかけっこが始まる。

 ジュスト、楽しそうだなあと思いながらゆっくり食べるケーキは美味かった。


 *


 アナベルが十六になり婚約が決まった時、ジュストはわかりやすくどんよりしていた。

 その頃にはジュストとチューターが一緒で友人だったというブライアンを含めて三人で遊ぶ仲になっていた。

 

「ねえ、ランディ。ジュストはどうしたんだ?」

「……さあねえ。ほっとけばいいんじゃないか?」

「そうか。あ、フルハウス!」

「げ、俺はツーペア。ジュストは? はは、バラバラ」


 実は昔、ジュストの親父さんとうちの親父の間では、こんな会話がされていた。

『アナベルちゃん、可愛いなー。うちの嫁に貰おうかなー』

『侯爵家には無理だろう。あの子は野山を駆け回るのが好きなタイプだからな』

『ジュストもそうだぞ』

『夫婦二人で駆け回ってどうする』

『たしかにー』

 親父たちが赤ら顔で『わっはわっは』と酒を酌み交わしていたのを、ジュストは知らない。


 その二年後、アナベルの婚約が解消になった時、ジュストはご機嫌になりポーカーもやたらと強くなる。

 

「ねー、ジュストはどうしたんだ?」

「いいことがあったんだろ」


 気づいていた。アナベルの婚約がジュストに影響を与えていたことを。本人はわかっているかどうかわからんが。けれど、このままではまたすぐにアナベルの相手は決まってしまうぞ。今年十八のアナベルはすぐにでも嫁に行ける年齢だ。

 

 さりげなく、俺と妻の馴れ初めを聞かせる。

『それでな、喜んでもらえるようなプレゼントを考えに考えて、ぐいぐい行ったわけだ。まずはこっちを見てもらわないことには始まらないからな』


 *


 ある昼下がり、ブライアンと財務部で打ち合わせをして昼食をともにした。


「ランディはもうすぐ結婚一周年だっけ? 結婚てどう?」

「うちは仲良いぞ。あと四か月で子どもが生まれる。ブライアンは?」

「さりげなく惚気るねぇ。私はセシリアと結婚するかなあ」

「なんで今まで婚約してなかったんだ? 公爵家なら早く決まりそうだけど」

「兄上のお相手選びが難航したんだよ。ぐちゃぐちゃと要望が多くてさ。水面下でセシリア側と話をしていたけど、兄上より先に結婚するわけにはいかないだろ。それに私はランディみたいに跡取りじゃないし外交であちこち飛び回ってるし。色々あって延び延びになった感じかな」

「お前の兄は才色兼備のセシリア嬢はダメだったのか?」

「セシリアが、私がいいと言ったんだ」

「お前も惚気てるじゃねぇか」

「ジュストも決まってないだろ。やっぱり条件が厳しいとか?」

「……言ったら協力するか?」

「えっ、面白そう。なにをすればいい?」


 *


 そんな中、ジュストがアナベルにブライアンを紹介するという流れになった。まさかそれ(・・)がプレゼントか? と思うが都合はいい。


「この前の夜会さ、ランディが言っていたとおりアナベル嬢が一人になったらすぐにジュストが近づいて行ったよ。それで、すごく浮かれた顔して君の妹にダンスを申し込んでいた。あんな顔、見たことがない。聞いていたとおりだったね」

 ブライアンは楽しそうだ。


「それで夜会終わりに、今度は悲壮な顔をしたジュストから『アナベル嬢を紹介する』って言われたんだ。あいつ、面白いね。まあ、任せておいてよ、ランディ」


 *


 それから色々あって、明日はアナベルとジュストの婚約式だ。


【終わり】

アナベルは、父と兄のことを「粗暴」と言っていますが、本人もなかなかです。

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>それから色々あって、明日はアナベルとジュストの婚約式だ ナレ死の如きあっさりなイロイロですわねえ。
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