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後編

よし、竿用意だね。私と佐藤はリール竿。高田は手竿だった。


「いくでっ、『影丸(かげまる)』!」


竿に名前がある高田。


「これは小学生の頃の竿です。改めて背がロクに伸びなかったのが軽くショックですね···」


やる前からヘコみ気味だけど、目が光に弱いみたいでサングラスしてるから顔はスナイパー風になってる小柄な佐藤。


「リール壊れたら自分で直す自信ないから気を付けよ···」


おっかなびっくりにリールを竿に取り付けるあたし。現地に来ると家で確認した時よりスルスルと、リールもライン(糸)もルアーも手際よく付けられた。

手と五感と脳ミソが釣りを覚えてたみたい。テンション上がった!


3人とも竿は仕上がったっ。私はルアー釣り、佐藤はフライ釣り。高田は浮き釣りだ。


狙う位置は、あたしは大岩の陰。佐藤はカケアガリ(岸に向かって浅くなってる所)。高田はトロ場(川の中程の緩やかになってる所)。素人判断だけど、それぞれ釣り法やリーチに合わせた場所だね。


それでは、足場をちゃんと確認して···怪我しないよう、振りのイメトレをして、いざ!


「ほっ」


ビュッ、空を切るあたしのスピナー(羽根付き疑似餌)! ほんとバス釣り向きなんだけどね、仙人っぽいお爺さん釣り師はいても、ここはわりと穴場! イケるはずっ。


岩陰の少し上流の水面に落とし、少し蛇行して掻くように引いて、岩陰のポイントに通して、フワっと力を抜き、抜いて、抜いて、抜いで抜いて抜いて抜いて抜いて····


スピナー君は下流に流れていった。


「掛からんのか〜い」


回収回収。とラインを引いてたらグンっ! 誰か手で引いた? てくらい強く引かれたっっ、と思ったらズン! と重しが掛かったっ。からのなんかジタバタしてる。


「うおおっ?」


絶対魚じゃないヤツ。


グイグイとリールを巻いて引き上げると、


「はい、川海老」


自分用の小さい水と氷入れたクーラーボックスに入れてられないから取らないと、


「君、臭いのとジタバタするんだよねっ」


これに関しては子供じゃなくなってるから明らかに小学生時代より不器用に川海老をルアーから離して、川に戻した。


「グッドラック。よし」


川で手を洗い、ウェットティッシュで手を拭く。


気を取り直し、それから7回アタックして···川海老3尾釣り上げた! なに? ここ川海老の繁殖地なの??


「ふぅ〜〜っ」


まぁちょっと手足の筋を伸ばそう。めちゃ喉乾いてたから、お茶を飲み塩入りタブレットも1つポリポリ噛み、佐藤と高田の様子も確認してみる。


佐藤は小さな身体で指揮者のようにフライ竿を操り、カケアガリの水面をドライフライ(浮く疑似餌)でシューっと引いてくと···


パシャッ食い付いたっ。引く佐藤、水飛沫を上げながら逃げる魚。巻いたり泳がせたりしながらより浅い域に誘い込む佐藤! 悪い女だよっ。


引く引く逃げる逃げる巻く巻く足掻く足掻く···


「行ったれっっ」


見てる方が燃える! 佐藤はっ、釣り上げたぁっ。遠目だけど、鰭が長い。オイカワじゃない?


佐藤はサングラス越しに笑って獲物を入れた網を掲げて見せてきた。まさに川辺の小さきスナイパー! やるねっ。


取り敢えずスマホのカメラズームで連射しといたわ。


う~む、高田はどうだ?!


「···高田?!」


静止! あの恵体でっ、遥か先のトロ場に垂らした糸と浮きをキープする『完璧な姿勢』をしている。


見たことない『求道者の顔』をしているっ! 麦わら帽子に蜻蛉が止まっても微動だにしないっ。


ギリシャの彫像のようだ!! 高校の指定体操服でここまでルネッサンス的な肉体美を体現できる女学生がいただろうか?! いやいないっ。


「···」


うん。高田は浮き釣りだからそんなすぐ動かないね。取り敢えず、『現代のダビデ像』こと我が友高田の静止ポーズをスマホで激写しておいた。


「自分の釣りに戻ろ」


ただちょっと角度変えてみよっかな? あたしの技量だと同じ場所から違う感じで投げ込むと腰いわすか川に落っこちそうなんだよねっ。


慎重に位置を取る。ぬかるんだ岩とか藻が付いた岩とか危ないから気を付ける。


決めた。最初は上手くスピナーがポイントを通らないと思ってたけど、想像より流れが内に来てるからここからでも通せそう。


頼んだぞ? ビュッ。1回目、岩に当たって失敗。2回目、岩に引っ掛かって失敗。ここ岩に当たるなぁ。


「えー??」


あたしが困惑してると、


「川ばっかし見てないで岩の高さや風を見ないとよ」


いきなり近くで言われてギョッとすると、さっきまで対岸にいると思ってた玄人っぽいお爺さん?! いつの間にか岸に上がって、あたしの斜め後ろで甘そうな缶コーヒーを飲んでた。


「スピナーの羽根、風を受けるからよ。飛ぶんだよ、それ」


お爺さんはそう言ってニッと笑って、スロープの方に歩いてく。


「やってみます! あざッスっ」


「おう」


お爺さんに一礼し、スピナーの形状や濡れ具合を見て、あたしはロッドを構え直した。


風を感じる。川上から川下に風が通ってた···そう、水と一緒だ。風も大岩に当たって跳ねてる!


「なるほどっ、ごめんね。スピナー。上手く飛ばしてあげられなくて」


風、水流、岩、落としたいポイント、ロッドの流さ、あたしのスピナー。


主観はスピナーだ! 行けっ。


ビュッ。飛ぶスピナー。大岩の所でフワっと風に乗り、狙った位置の落ちる。流れに合わせ蛇行。行ったことのないポイントに高さにスピナーが潜ってゆくっっ。


どこだどこだ? あたしが来たぞ? 来い来い···


ガッ! 掛かったっ。


「んーっっ」


結構大きいぞっ?! 最初は怒ってるっ。縄張り荒らしの鈴木スピナーくん!!


すぐに戸惑い。ん? 餌? いやっコイツ敵だ! と認識っっ。必死で逃げる恐怖。疲労。そして···絶望。


戦いは、非情なんだよ。親友の彼氏を好きになった女みたいなもんよ。


「ほいっ」


いっちょう上がり! あたしは網でおっきいヘラブナを確保した。ヤッホー。撮っちゃお。


こんな調子で頑張ったけど、結局虫除けスプレーの効果が切れだす昼前当たりで釣りを終了するまでに、アタシはヘラブナ1尾に雑魚5尾。

佐藤はオイカワ7尾に雑魚2尾。高田はマブナ3尾にナマズ1尾に雑魚1尾。といった成果だった。


「思ったより凄い釣れたよね?」


「雑魚とナマズは逃がそ。ナマズ、確かすぐ傷むねん」


「事前に調べてみた例の食堂、電話してみましょうか? せっかくですし」


「ホントに〜?」


私達は釣った魚を捌いてくれるという、近くの食堂に電話してみることにした。一見さんお断りかも···


_____



恐る恐る店に入ってみると、


「うわっ? 釣り師の高校生女子だよっ」


「あんた、なんとかハラスメントになるよ? はい、いらっしゃい。大きい子いるね〜」


店の御主人と女将さんらしい2人が迎えてくれた。


「180センチあります! よろしゅうお願いします」


「あれま〜」


「ヘラブナ、オイカワ、マブナです。あと着替えたいのですが」


「捌きは任せてくれ! 着替えは奥の座敷空いてるぜぃっ」


「メニューにかき氷があるじゃないですかっ?! コレ食べたいっっ」


「ああ、デザートね! あとで選んでねっ」


「靴と靴下の替えはあるのかい?」


「「「ありまーす!」」」


あたし達は手を洗わしてもらってからドヤドヤと座敷をお借りして、着替えさせてもらい、ボディシートで拭きまくり、ミント系スプレーをお互い掛けまくって軽く騒ぎ、座敷から出てきてかき氷の種類を選んで、トイレ行ったりソフトドリンク頼んだり、今日の写真を見てまたワイワイしてたんだけど、


「お待ち〜!」


「『ヘラブナの酒蒸し豆腐団子の麻婆』に『下焼きマブナの圧力カレー煮込み』、オイカワはシンプルに『唐揚げね』」


「「「おーっ!!」」」


写真を撮って、「頂きます!」と実食に掛かるあたし達っ。


「丁寧に下処理されたヘラブナがふわふわ豆腐と合わさり、爽やか辛い和風麻婆餡に絡んで御飯に合う!」


「圧力鍋でマブナの骨までトロトロやっ、スパイスも本格的! 御飯に合うわ〜」


「淡白なオイカワにニンニクと生姜、梅と昆布もですか? 香ります。効いてますね。御飯に合います」


「凄い品評してくるよこの子達?!」


「御飯好きなんだなっ」


高田がいるのと腹ペコだったこともあり、あたし達はモリモリ食べて完食し、テザートの桃缶ミント(鈴木)、小豆抹茶(佐藤)、西瓜練乳(高田)も綺麗に完食!


「「「御馳走様でした!!」」」


手間掛かったのに料金もファミレスくらいでリーズナブルだった。クーラーボックス洗ってくれたし、感謝っ!


「いや〜、涼しさに関しては最後のかき氷が全部持ってったけど! 満足感あったね。ロッドを振る勢い、ハマりそうっ」


「ですね。子供の頃の曖昧な記憶と繋がった気がして、なんだか安心しました」


「釣りっ! 秋になったらまた行こか?!」


「「いーねー!!」」


「よっしゃっ、影丸磨いとこ!」


まだ昼過ぎなのがちょっと信じられないけど入道雲が湧き立つ炎天下の中、日傘と麦わら帽子の荷物多めのあたし達は国道の歩道をF駅へと盛り上がりながら帰って行った。

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