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3.二度目の裏切り

それは5月の下旬ころ、ちょうど学祭が終わったあたりだったか。


わたしたちは、学食で一緒にご飯を食べながらおしゃべりをしていた。

いつものように修治は、わたしの推しアニメの解説を微笑みながら聞いてくれていたのだが、その時、スーツを着て髪の毛をワックスで横分けに固めたオシャレな男子が修治に近づいて、「よっ!」という感じで軽く挨拶をして、修治と話し始めた。


うわ~!苦手な意識高い系の学生だ~。そう思いながら気配を消していたのだが、その男子はわたしをチラッと見て、修治に耳打ちした。

あまりよく聞こえなかったが『彼女?』という単語だけははっきりと聞き取れた。


やっぱり!そっか~!こんな意識高い系男子にもそう見られるんだ~!しかも修治も否定してなかったし、これはいよいよ来週あたり告白されるのかな~?


しかし、わたしの期待とは逆に、この頃からまた修治との間に距離を感じるようになった。

まず、大学内で修治に声を掛けられることがなくなった。もっとも、この時はあまり心配していなかった。修治からはインターンに行くと聞いていたし、あまり授業でも見なくなったので、忙しいのかなと思ったくらいだ。


ただ、しばらくすると、修治から遊びに行こうと誘われることがなくなったことに気づいた。前は毎週何回もどこかへ出かけていたのに。

また、わたしの方から誘ってみたら、忙しいとか、時間が合わないと言われて断られてしまった。

以前は、毎日LINEメッセージが来ていたのにほとんど来なくなったし、わたしが送ったメッセには既読がつかないことすらあった。


「わたし、何かしちゃったんだろうか・・・?」

突然態度が変わったことに不安が募り、修治と話をしたかったが、そもそも会う機会がない。

話せないと不安はどんどん増幅した。


思い余って、ある夜電話をかけてみた。理由を聞かせてもらって、わたしに悪いところがあったら直そう。それで許してもらえれば・・・。

修治は電話に出てくれた。ただ、周りに人がいるのかヒソヒソ声だった。

そして、わたしが何も言えないうちに、電話の向こうで「修治~。」という不機嫌そうな女性の声がした後、「また後でかけ直す」と言われて電話を切られた。


ああ・・・そういうことか・・・。また期待させられるだけさせられて、梯子を外されたんだ。


わたしは現実に気づき、急に吐き気がこみあげて来た。

「浮気者」

「わたしをもてあそんで!!」

トイレで吐きながらそうつぶやいたが、しっくりこない。


そもそも修治とは付き合ってなかったし、体をもてあそばれたということもない。二股をかけられていた様子もなかった。

むしろ浮気されて捨てられたり、もてあそばれたりしていた方が、修治を一方的に非難できて楽だったかもしれない。

だけど現実には、ただ、わたしが選ばれず、フラれたに過ぎない。


「野良猫に餌をあげるんだったら!最後まで責任をもって面倒を見ろよ~!!」

せいぜい、そう叫ぶしかなかった。


それから、キャンパスで何度か修治を見かけることはあったが、声をかけるどころか、近づくことすらできなかった。

いつも高そうなスーツを着て、しかも同じようにスーツを着た友達と一緒で、すっかりわたしが嫌いな意識高い系学生みたいになっていたし、それ以上に修治が放つ光が、前みたいな淡くて優しい感じじゃなくて、ギラギラとした猛暑の太陽みたいに変わっていたからだ。

わたしは修治を見つけても、目が焼かれないよう、遠くから目を細めるくらいしかできなかった。


もっともわたしの感傷も長くは続かなかった。

夏休みまでは暇だったのでしょっちゅう修治のことを思い出してはため息をついていたが、夏学期のテストの準備もあったし、日常に忙殺されるうちに修治のことを思い出すことは減っていった。

このまま、きっと中学の頃みたいに懐かしい思い出になっていくんだろうな・・・。


春学期のテストが終わり、秋学期が始まり、わたしにも運が向いてきた。

同じクラスの男子と少し仲良くなったのだ。課題のグループが一緒になって会話するようになり、同じアニメが好きだということがわかって盛り上がり、今度一緒に聖地に行く約束もしている。正直言って、彼からは人を惹きつける光は出ていないし、見た目も素朴だけど、誰かさんと違って人畜無害そうだし、結局こういう落ち着いた人と落ち着いた恋愛をした方が幸せなのかもしれない。そう思い始めていた。


「うげっ!!」

その日、課題を片付けるため図書館に来ていたわたしは、ようやく空席を確保した瞬間、向かいに座って机に突っ伏しているのが修治であることに気づいた。なぜかこの日の修治には何の光も見えなかったので、うっかり見落としたのだ。

気まずいけど他に空席も見当たらないし、修治も熟睡してるみたいだし、気づかれないうちにさっさと課題をやってしまうことにした。この後は、例の彼と駅前のスタバで待ち合わせて昨夜放送されたばかりの新作アニメについて語り合う約束もあるしね。


わたしは課題に集中しながらも、あることが気にかかっていた。これまで光が弱くなったり強くなったりする人を見たことあるが、途中からまったく光が見えなくなる人はいなかった・・・。

いや、一人だけいた。おじいちゃんがそうだったけど、その後すぐに亡くなってしまったような・・・。


わたしは心配になって、向かいで突っ伏した修治の顔を観察してみた。あいかわらずまつ毛長いな~、ラクダみたいだな~とかどうでもいいことを思う一方で、目の下のクマにも気づいた。顔色も悪いみたいだし、相当疲れがたまっているのかな?

またさっきから気になっていたのだが、机の上にはいかにも高級そうないかついカバンが置いてある。スマホで調べてみると、本物だったら100万円近くする代物のようだ。


「大丈夫なの・・・?」

思わずそうつぶやいてしまったことが失敗だった。修治が目を覚まし、わたしに気づいたのだ。


「えっ?すみれ?」

『面倒なことになったぞ』と思いながら、とりあえず時間を稼ぐために微笑んでいると、急に修治はすがるような目でわたしを見つめてきた。

「相談に乗ってほしいことがある。コーヒーをおごるから聞いてもらえないか。」

明らかに弱っている修治の、すがるような目をしながらのお願いを振り切れるほど、人の心を捨てきれておらず、学食に場所を移して修治の話を聞くことになった。


★★


学食の席で向かい合いながら、さっきから修治の話を待っているのだが、修治はなかなか切り出さない。修治に買ってもらった缶コーヒーも飲み終わりそうになったころ、ようやく話し始めたのだが、その話は要領を得なかった。

「城内美野里さんって知ってる?有名な若手経営者で注目を集めてるんだけど、実はその人に気に入られてインターンに行ってるんだけど、すごく勉強になってて・・・。」

「へ~!」

「色んな人を紹介してくれて、ほらこないだ名刺交換したこの人なんか、若手注目株の起業家でこの間もテレビのドキュメンタリー番組でとりあげられてて。」

「へ~!」

正直、取り出した名刺よりも、やたら高そうな名刺入れの方が気になる。

「城内さんも目をかけてくれていて、個人的にも色々相談に乗ってくれたりしているんだ。」

「へ~!」

「それで、うん・・・なんか最近、城内さんの期待が重すぎて辛くて・・・。」


なんのこっちゃ?さっきから説明されている内容に辛くなる要素ってあった?ただの自慢話かと思ってた。

あれ?そういえば?


「その城内さんって、もしかして学祭の時にシンポジウムに来てた人?白いスーツ着てた美人の。」

「よく覚えてるね!そう、その人だよ!」


そう言った瞬間、少しだけ修治がギラっと光った気がした。思い出した。修治に頼まれて席を埋めるために出席したシンポジウムで、やたらとギラギラした光を放ってたあの女の人だ。

シンポジウムでは、その女の人の人脈を自慢する話を聞きながら、そんな強い光を放ってたら、夜の街灯に集まる虫みたいにさぞや色んな人が集まってくるんだろうな~、だったら成功しても当たり前だよなって思ってステージから目をそらしていた覚えがある。

「城内さんは学生時代に農業系のベンチャーを起業して、そのままその会社を大きく育て上げる一方で、社会問題にも関心があって最近はフードロス対策とか、こども食堂の支援もしてて・・・。」

修治の城内さんがいかにすごいか語っている様子を見ながら、わたしの中で何かがつながった気がした。

そうか!修治が急にギラギラした光を放つようになったのは、その城内さんの影響なんだ。

城内さんの光を受けてあんなにギラギラし始めちゃったんだ。そういえば山本メグさんの時も同じようにギラギラした光を出し始めたことがあったような・・・。へ~、そんなタイプの人もいるんだな・・・。


「修治は、太陽じゃなくて月だったの?」

「ほえ?」

わたしがぽつりとつぶやいた一言に修治は言葉を止めた。

「あっ、ごめんね。月って太陽の光を反射して輝くでしょ。なんか修治の話を聞いていると月みたいだなってそう思っちゃって・・・。意味わからないよね・・・ごめんね!!」

あわてて補足したが、これでも修治は理解できないだろう。そもそもわたしが他の人の光を見ることができることすら理解してもらえないだろうから・・・。

しかし、わたしの一言をきっかけになぜか修治は考え込んでしまった。わたしは修治の顔をじっと見つめながら思い出していた。いつも優しかった修治の淡い光。二人の時はいつも心地よくわたしを包んでくれた。それが他の人の強い光のせいでかき消されちゃうなんてイヤだ・・・。


「あの・・・。わたしね。修治が放つ光が好きだよ。他の人の光に照らされている時はギラギラしてまぶしすぎるけど、一人でいる時の光は優しくて温かくて、そんな淡い光が好きだから・・・。」

「・・・・あっ、うん。そうか・・・。」


あっ、やばい。修治の光が好きだなんて、どうしてこんな大胆なことを言ってしまったんだろう。

そもそも意味わからんし、修治が好きって意味ととらえられちゃった?修治も引いているし・・・。


「あっごめんね!授業があったから行くね!」

本当は授業なんてなかったけど、凄い空気になっちゃったし、とてもあそこにはいられない。わたしは慌てて逃げ出すしかなかった。


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