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プロローグ. 切なる祈り


 細長の窓から差し込む朝日が、白い女神像を静謐に照らしていた。

 女神はうっすらと笑みを浮かべ、足下にひざまずく一人の聖女を見守っている。


「神よ……」


 聖女アリシアは胸元で手を組み合わせ、その手に額をゆっくりと沈ませた。静かな祈りは朝の光に清然と溶け、小鳥のわずかな囀りだけが時の流れを知らせている。


「万象を導き満たす慈愛の女神、唯なる輝きのエリュステーラよ……」


 その祈りの主は瞑目したまま、小さな唇で願いを呟く。


「どうかこの身より、あなたの加護をお取り上げください」


 それはアリシアが聖女として迎えられたときから毎日繰り返してきた祈りだった。

 アリシアに親はいない。幼い頃から聖堂で下働きをし、いずれは街に働きに出るつもりだった。唯一の楽しみは同室のミレーヌとお互いの推しについて夜通し語り合うこと、そんな平凡な少女だった。

 しかし一年前、前触れもなく聖女の力が顕現した。日ごとに聖女の力は強まり、アリシアは正式に聖女として迎えられ、待遇も良くなった。個室を与えられ、給金も上がり、学びの機会にも恵まれた。


 それでも。


 返したい。神の加護を。

 アリシアは組んだ両手に力を込めた。

 聖女の力に目覚めてからというもの、女神の加護はアリシアを護り続けている。呪いや毒といったものはもちろん、病魔までをもきれいさっぱり祓っている。

 加護の力は絶大だ。

 けれど。


「もう一年も推しの顔を拝めてないぃ……」


 アリシアはがくりと膝をついて頭を垂れた。

 神の加護は、推しと対面したときの尊さによる激しい動悸や情緒の乱れすら"心身を害するもの"と見なしてしまう。推しを見ようとしても、その顔面が眩く輝いて何も見えない。まるで神が宿ったかのような尊さで。いや推しは尊い。尊いんだけども!!


 神の慈悲は、あまりにも容赦がなかった。

 胸が高鳴り息が詰まるのはご褒美なのですと何度訴えたことだろう。けれど、推しの輝きが弱まることはなかった。どころか、最近では後ろ姿までぼんやり霞んでしまう。

 涼やかな眉、柔和な目元、知性を隠しきれない横顔。本来ならば推しを拝むたびに生き返る思いがするだろう。

 なのに。

 ありがたいのか、ありがたくないのか分からぬ加護が、"健やかにあれ"とすべて隠してしまうのだ。


 拳を固く握りしめて、アリシアは天を仰いだ。

(頼むから……)

 声なき魂の叫びが、聖堂全体に広がってゆく。 


(推しの顔面を、思う存分愛でさせてくれーーー!!)


 



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