7 バネクモとの戦い
俺はゴルフクラブを握りしめながら、目の前に広がる奇妙なバネクモの群れを睨みつけた。
辺りは完全にカオス状態。プレイヤーたちは悲鳴を上げながら右往左往し、手に入れた変な武器を無闇に振り回して抵抗しようとする奴もいるが、まったく効果なしってな。「ぎゃああ!」「たすけてー!」なんて叫び声が飛び交い、鉄と血の匂いが空気を染め始めていた。マジでやばい状況だ。
くそっ!厄介な展開になったな!
反射的に身をひねると、一匹のクモが俺の頬をかすめ飛んでいった。危ねぇ、あと数ミリずれてたら顔面パックンチョだったぜ。背中から冷や汗が噴き出す。
こいつらのモンスター、確か「瘴気の森」ダンジョンでも似たようなのと遭遇したことがある。あそこもマジでキモい虫がウヨウヨしてて、ちょっとでも油断すると即死フラグ立ちまくりだったんだよな。あの時気づいたんだ。こういうジャンプ系モンスターって、飛びかかる直前が一番の弱点なんだよな。
タイミング合わせりゃ楽勝ってことだ…
息を殺して近づいてくるクモを凝視する。八本の足が微かに沈み込み、ジャンプの準備をしているのが見てとれた。地面を蹴った瞬間を狙って、全力でクラブをフルスイング!
カキーン!
鮮やかな音色と共に、クモの頭部が見事に粉砕された。金属の破片が飛び散り、奴はバラバラになって地面に散らばった。「よっしゃあ!」手応えバッチリだ。
次のカモ、かかってこい!
体を素早く回転させながら、次の標的を捕捉。飛びかかってきたクモのちょうどジャンプした瞬間を狙い、クラブをぶち込む。「ドガッ!」という鈍い音と共に、そのクモも木っ端微塵。メカパーツが四方八方に飛び散った。連続キルで俺のテンションも上がってきた。
「みんな、聞いてくれ!」大声で叫ぶ。「ヤツらが飛びかかる瞬間を狙って頭を叩け!焦るな!タイミングさえ合わせれば倒せる!」
俺の指示に、数人のプレイヤーが冷静さを取り戻し始めた。まだぎこちない動きではあるけど、さっきみたいに無意味に逃げ回るよりはマシになってきた。少しずつだが、状況が改善していくのを感じる。
場が少し落ち着いてきたと思った矢先、鋭い「きゃああああーっ!」という悲鳴が空気を切り裂いた。
ん?この声、どっかで聞いたことあるような…?
振り向くと、少し離れた場所で小柄な人影が地面にひざまずいていた。あれは…西原雪?!
彼女はコルセット風のクラシックなミニドレスを着ていて、ゴスロリっぽいけどどこか可愛すぎる印象だった。前にゲームロビーで見かけたピンク色の魔法少女風衣装とはまったく違う雰囲気。でもマジで、何着てても雪ちゃんはやっぱり、めちゃくちゃ可愛いんだけどな!
って、今そんなこと考えてる場合じゃない。彼女は地面にへたり込んで震えており、マシュマロ杖を握りしめていたけど、完全に戦闘能力ゼロという感じ。そして彼女の目の前には、巨大なバネクモがじわじわと近づいていた。
そいつは通常のクモの少なくとも五倍はデカく、横幅は二メートル近くもある。八本の金属バネの足が地面でギシギシと音を立てながら曲がり、一歩一歩が重苦しい威圧感を放っていた。明らかに強敵のオーラを漂わせている。
マジやべぇ、このままじゃ雪ちゃんが…!
俺は即座に駆け出した。大きなクモが彼女に飛びかかろうとした瞬間、渾身の力でクラブを振り下ろし、奴の頭部サイドを強打した。
ドゴォッ!
巨大なクモは痛みで後方に跳びのいたものの、倒れることなく、むしろ更に素早く体勢を立て直した。八本のバネ足がギギギギッと不気味な金属音を立てる。ヤバい、効いてない…!
ちっ、想像以上に硬いな…
突如、大クモが高く跳躍し、驚異的なスピードで俺に襲いかかってきた。咄嗟に横転し、かろうじてナイフのような鋭利な金属の足先を回避。着地するや否や、奴はスパッと向きを変え、再び俺に突進してきた!
おいおい!こいつの動き、マジで速すぎだろ!
もう回避に全集中するしかない。毎回、本当に紙一重で避けているという感覚。足先が服の端をかすめる感触すらはっきりと感じられる。一秒でも反応が遅れれば、串刺しエンドが待っているのは明白だった。
横から二人のプレイヤーが援護攻撃を仕掛けてきたが、彼らが近づく前に、大クモは鮮やかな回転で応戦。一人はバネ足に胸を貫かれ、「ブシャッ」と血飛沫を上げ;もう一人は壁に叩きつけられ、その場で絶命した。
くそっ…
歯を食いしばりながら避け続けつつ、奴の動きのパターンを必死で分析。遠距離ジャンプを仕掛ける直前、わずかに体を沈め、胸部に妙に突き出た金属構造が見える。明らかにコアっぽい何かだ。
間違いなくアレが弱点だ。問題は、胸部がほぼ地面にピッタリくっついていて、正面からの攻撃が極めて困難なこと。さらに、着地するたびに素早く態勢を整え、連続攻撃を繰り出してくるから、隙がまったくない。
このままじゃ埒が明かない…どうするか…
そのとき、大クモが再び飛びかかってきた。俺は後方に転がって回避したが、奴は着地した瞬間に急旋回し、鋭い足先で俺を串刺しにしようと突進!千載一遇のピンチに、俺は地面を強く蹴って横にスライド。かろうじて攻撃をかわした。
そのとき脳内に電光石火の閃き——弱点が胸にあるなら、奴をひっくり返せば丸見えじゃないか!
深呼吸一つ、次の攻撃に全神経を集中。わざとペースを落とし、俺に飛びかかるよう誘い込む。奴が体当たりしようとした決定的瞬間、低く身を屈め、クラブの柄を使って下から思い切り持ち上げた!
ズドン!
大クモはバランスを崩し、ひっくり返って仰向けに! バタバタと手足をじたばたさせて、もがいている。
チャンスは一度きりだ!
動けない隙を逃さず、俺は躊躇なく飛び込み、全力でクラブを高く掲げ、露わになった胸部の金属構造めがけて振り下ろした——
バキィンッ!!
けたたましい爆発音と共に、大クモは完全に崩壊。無数のメカパーツが飛び散り、オイルと血液が混ざった液体が周囲に飛び散った。その光景は、マジで鳥肌モンだった。
周囲のプレイヤーたちはみな動きを止め、俺の方を凝視。「マジかよ、あいつ一人であの化け物を倒しやがった…!」「超ヤベェ…」「どうやったんだあいつ…」と、驚きの声々が聞こえてくる。
「はぁ…なんとか片付いたか…」
荒い息をつきながら、まだ地面にひざまずいている雪ちゃんの方へ向かい、そっと声をかけた。「大丈夫か?雪ちゃん」
彼女は顔を上げ、俺の顔をじっと見つめた後、ほんのさっきまで恐怖に歪んでいた幼い顔を、一気にぱあっと輝かせた。瞳からはボロボロと涙が溢れ出し、唇を震わせながら、彼女は言った。「し、白狼様…本物、ですか…?うぅぅ…あ、ありがとうございますぅ!助けてくれて、本当に…!」
おいおい、なんだこのテンション?!泣きながらも花みたいに笑う姿は確かに可愛いけど、どう反応すればいいのかわからなくなるぜ…
そのとき、彼女は突然地面から飛び上がり、俺に抱きつこうとしてきた。
ヤバい、またしてもおんなじパターンか?!前回もこの手で油断させられて、まんまと甘えん坊モードに移行しやがったからな…二度と鬼の目に遭うわけにはいかねえ!
反射的に身をかわすと、雪ちゃんは空振りして、よろめきながらも何とか立ち直り、「うぅ…白狼様…」と物欲しげな瞳で俺を見つめてきた。その健気な表情に、少し罪悪感が湧いてくる。
はぁ…可愛いは可愛いんだけど、やっぱり警戒は怠れないよな…
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