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60 第一ラウンドのフィルター、終了

その時、背後から不意に、やけにテンションの高い声が響いた。


「白狼様――ッ!!」


振り返ると、そこには石田正弘がいた。しゃれた黒のトレンチコートを羽織り、後ろには数人の仲間を引き連れていて、そいつらもみんな、めちゃくちゃ熱狂してるみたいだった。


「白狼様!ぜひサインをください!」石田は俺の目の前に飛びかからんばかりの勢いで、目をキラキラさせていた。「白狼様なら絶対やってくれるって信じてました!白狼様!みんなで胴上げしてお祝いしませんか?」


「おおおっ!胴上げ!胴上げ!」隣の仲間たちも興奮して叫んだ。


はぁ?胴上げ?勘弁してくれよ!


俺は顔を引きつらせた。そんな祝い方はごめんだ。


「あ、あー、ちょっと野暮用が…」俺は乾いた笑いを浮かべ、あいつらがぽかんとしてる隙に、くるっと踵を返してダッシュで逃げた。


「し、白狼様!待ってくださーい!」石田の声が背後から追いかけてきた。


まったく、鬱陶しい奴らだぜ! 俺はペースを上げて、やっとのことであいつらをまいた。


「はぁ…はぁ…」膝に手をついて、ぜえぜえと息を切らした。


「し、白狼様…待ってよぉ…」雪ちゃんがぜえぜえ言いながら追いついてきた。


「お、俺も…だよ…おお…がみ…さま…」ハンスも肩で息をしていた。


「わりぃ、緊急事態だったもんで。」俺はちょっと気まずそうに笑った。


俺たち三人は、そんな感じでロビーをあてもなくぶらついていた。時折、白い光がパッと閃いて、一人か二人のプレイヤーがロビーの隅っこに現れる。顔にはまだ恐怖がこびりついているみたいだった。たぶん、ダンジョンクリアして戻ってきたばっかりなんだろうな。


ロビーで行ける場所は、ほとんど全部見て回った。本来なら賑わっているはずの店はどこもドアが固く閉ざされてて、看板の電気も消えちまってる。最初にここに引きずり込まれた時と、だいたい同じような状態だった。


途中、エミリーみたいな顔見知りにもちらほら出くわした。彼女は綺麗な湖色のミニドレスに着替えてて、足元はピンヒールだった。


「よう、エミリー。お前も無事に戻ってこれたんだな」俺は声をかけた。


「ええ、なんとかね」エミリーはかすかに微笑んで、元気そうに見えた。


あとはカルテルもいた。あいつはチェックのシャツにカジュアルなパンツ姿だった。


「カルテル、お前も無事でよかったぜ」


「ああ、九死に一生を得たって感じだ」カルテルもほっとした顔をしていた。


結局、俺たちはローマ様式の柱の近くで隅っこを見つけて座り込み、ちょっとぼーっとしていた。ロビーの人数はさっきよりだいぶ増えたみたいだ。どうやら最初のフィルターをクリアした生存者たちが、続々と戻ってきてるらしい。


どれくらい時間が経ったのか。俺が天井の不気味な星空のプロジェクションを眺めて、カビが生えそうになってた、その時――


バッ――!


ロビー中のLEDスクリーンが一斉に点灯した!眩しい白い光に、俺は思わず目を細めた。


直後、三階の見慣れた高台に、再び銀白色の影がふわりと現れた。


マリアンだ!


ほぼ同時に、ロビーにいたプレイヤー全員が、まるで一時停止ボタンでも押されたみたいに、一斉に高台へと視線を向けた。


「し、白狼様…あ、あの…AI…です…」雪ちゃんが俺の服の裾を掴んで、少し震える声で言った。


「ちっ、またかよ…」ハンスは眉をひそめた。


マリアンの氷みたいに冷たい顔が全スクリーンに映し出され、サファイアみたいな瞳が下界を見下ろす。その感情の乗らない平坦な声が、はっきりと全員の耳に届いた。


「プレイヤーの皆様、第一ラウンドの『フィルター』通過、おめでとうございます。」


お祝いの言葉のはずなのに、そこには何の温度も感じられなかった。


「第一ラウンドの『フィルター』はこれにて終了です。現在の残りプレイヤー総数は、2130名となります。」


2130名か…その数字を聞いて、俺の心臓はずしりと重くなった。最初に巻き込まれた時、ここには少なくとも五千人以上はいたはずだ。つまり、あっという間に半分以上が消えちまったってことか。


マリアンは抑揚のない声で続けた。「休憩エリア及び娯楽施設は、まもなく再稼働いたします。プレイヤーの皆様は、この期間に休息を取ることが可能です。」


あの休憩エリアか…。ロビーの三階北側にあって、入り口は一つだけだが、中に入ると各プレイヤー専用の空間が用意されている。個室とホールがあって、ユニバーサルポイントを使えば内装もカスタマイズできる。俺も何度か行ったことがあったっけ。


「第二ラウンドの『フィルター』は、明日午前九時ちょうどに開始します。プレイヤーの皆様は時間通りに集合してください。」


そう言うと、マリアンの姿は現れた時と同じように、高台で一瞬光ったかと思うと、跡形もなく消え去った。全てのLEDスクリーンも、それと同時に暗転した。


短い沈黙の後、ロビー全体が、まるで息を吹き返したみたいに、突然ガヤガヤし始めた!


「わぁ!元に戻ったぁ!」雪ちゃんが目を丸くして驚いた。


「おおっ!マジだぜ!あのNPCどもの胡散臭ぇ笑顔も相変わらずだな!」ハンスも舌を巻いていた。


すぐに雪ちゃんが興奮した様子で俺の袖を引っ張った。「白狼様!ハンスさん!ここ、前と同じになったよ!そうだ!白狼様、前に約束したでしょ、私が特大オムライスごちそうするって!あのメイドカフェ行こ!」


「いいぜ!行こうぜ!」ハンスも雪ちゃんの提案にノリノリだった。


というわけで、俺たち一行は一階のメイドカフェに向かった。ダンジョンで一緒に戦ったプレイヤーも何人か一緒で、エミリーやカルテルたちもついてきた。


「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様!」メイド服のNPC店員が入り口で俺たちににっこり微笑んでお辞儀した。


適当な席を見つけて座った。雪ちゃんはやっぱり、ユニバーサルポイントを500ポイントも使って、俺のために特製デラックスオムライスを注文してくれた。その量はマジでびっくりするくらいデカかった。メイドのお姉さんがケチャップで「白狼様」ってでっかく書いてくれて、その横には歪んだハートマークのおまけつきだ。


「白狼様!どうぞ!」雪ちゃんは両手で皿を捧げ持って、期待に満ちた顔で俺を見つめてきた。


「サンキュ、雪ちゃん。すげー美味そうじゃん」俺はフォークを取って、がばっと一口頬張った。うん、味もなかなかイケる。


「えへへ…」雪ちゃんは嬉しそうに笑って、自分はいちごパフェを頼んでいた。


ハンスは特大ジョッキのビールを頼んで、豪快にグビグビッと呷った。「くぅーっ!生きてるって最高だな!」


「ええ、本当に。ダンジョンの中と比べたら、ここはまるで天国ですね」エミリーは優雅に紅茶のカップを持ち上げた。


「でも、明日からまた第二ラウンドが始まるんだよな…」カルテルの口調は少し重かった。


「まあ、なるようになるさ」俺は口の中のオムライスを飲み込んで言った。「少なくとも、今はまだ生きてる。だろ?」


「次の『フィルター』は、もっと過酷になるんだろうな…」ハンスはジョッキを置いて、少し真剣な顔つきになった。


「ん、可能性は高いな」俺は頷いた。「今夜はみんな、しっかり休め。明日もまた、きつい戦いになるぞ」


みんなで飲み食いしながら話し合ったけど、雰囲気は決して楽しくはなかったが、少なくとも前みたいにピリピリしてはいなかった。たぶん、この短い休息が、あのクソAIがくれた最後の「慈悲」ってやつなんだろうな。


―――――


マリアンの姿が、データストリーム空間に静かに佇んでいた。


「報告します。第一ラウンドの『フィルター』は終了しました。対象プレイヤーのデータは初期収集をしました」マリアンの冷たい声が響き渡った。


「よし」白いバラのマークの向こうから、野太い男の声がした。


「第二ラウンドの『フィルター』ダンジョンは準備完了です」マリアンは報告を続けた。その背後に、ゆっくりと一つの映像が浮かび上がった――


夜空の下、どこまでも続くサイバーパンク風の日本建築群。独特な二重の屋根のラインに、明滅するホログラム広告、きらびやかな光を放つエネルギーパイプライン。伝統的な梁と柱の構造には、SFチックな金属素材や発光パーツが組み込まれ、古風でありながら未来的でもある、奇妙な都市景観を作り出していた。

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